ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

140 / 161
第135話~Midnight Talking 雪姫さんの思出話、後編です!~

 さて、それでは話の続きを始めましょうか………………

 

 

 

 

 

「…い……きろ~……だぞ~………」

「んっ……うぅ………ん?」

 

 目の前が真っ暗闇な中で、誰かが呼び掛けてきているような気がした私は、うっすらと目を開けました。

 

「おっ、やっと起きたか。随分長い間気を失ってたな」

 

 目を開けると、其所には私の顔を覗き込む蓮斗の顔が映っていました。

 

「…あの……此処は……?」

「ん?俺等の出発点。アンタが元々居た所だぜ?」

 

 蓮斗にそう言われ、私は起き上がって辺りを見回しました。

 彼の言う通り、私は山の頂上に居り、その直ぐ傍にはティーガーの姿もありました。

 それから聞いた話によると、彼は私が気を失った後、一先ずティーガーを頂上に移動させ、車長席で気絶している私を車外に運び出し、そのまま私が目覚めるまで、ずっと看ていてくれたのだと言います。

 

「えっと、その………あ、ありがとうございます………」

「別に良いって…………にしても、無茶ぶりされた俺がケロっとしてて、無茶ぶりしてきた本人が気絶するってどうなんだと思うがな」

「ッ!」

 

 そう言われた私の顔が赤くなるのを余所に、蓮斗は笑っていました。

 

「でも、まぁ…………」

 

 そう言いかけて、蓮斗はティーガーの方を向きました。

 

「……?どうしました?」

「あー、いや。戦車傷つけずに戻ってこれて良かったなぁ~って思っただけだよ。何せこのティーガー、アンタのだからな」

 

 そう言うと、今度は蓮斗が寝転びました。芝生で寝転んでいるからか、気持ち良さそうな表情を浮かべていました。

 そんな彼を見ながら、私は、ある疑問を投げ掛けたのです。

 

「あの……1つ、聞きたい事があるのですが」

「ん?何だ?」

 

 そう言って顔を向けてきた蓮斗に、私は訊ねました。

 

「貴方はティーガーを………いいえ、戦車を動かすのは初めてだと言いましたよね?」

「ああ」

「ならば何故、あんなにも上手く操縦出来たのですか?あのカーブと言い、気絶した私を乗せたまま、此処まで運転してきた時と言い……」

 

 そう訊ねると、蓮斗は目をクルリと回しました。私の質問への返答を模索しているのでしょう。

 

「『何故上手く操縦出来たのか』、ねぇ……」

 

 蓮斗はそう言いかけて少し悩むような声を出すと、それっきり黙ってしまいました。

 それから暫くの間、私と蓮斗の間で沈黙が流れましたが、やがて、蓮斗が口を開きました。

 

「まぁ、興味本意で買った戦車の操縦マニュアルがあってな。それを覚えてたんだよ」

「ですが、操縦マニュアルを読んだからって、あの速度でカーブをクリアするのは、それなりの技術が求められます。マニュアルを読んだだけでは、到底走破出来るようなものではありませんが」

 

 彼の返答に納得出来なかった私は、尚も問い掛けます。

 

「ふーむ…結構深入りしてくるなぁ、アンタは」

 

 その後、少しの間を空けて、蓮斗は口を開きました。

 

「正直な話、俺にも分からねぇ。だが、強いて言えば…………」

 

 そう言うと、蓮斗はティーガーへと視線を向けました。

 

「俺のしょうもない操縦ミスで、戦車を傷つける訳にはいかなかったから……かな?」

「ッ!?」

 

 その返答に、私は柄にもなく目を見開いてしまいました。こんな答え、恐らく私の元の乗員達からも聞けなかったでしょう。

 彼の返答に驚く私を余所に、彼は続けます。

 

「俺はさ……戦車道の世界において、戦車ってのは相棒だと思うんだよ。乗員達と共に困難を乗り越えて、勝利に向かって突き進んでくれる、かけがえの無い相棒だと、な。だから、そんな存在をロクに扱えないなんて、情けないって言うか、何と言うか……兎に角そんな気分だったんだよ。それに……」

 

 そう言いかけると、蓮斗は立ち上がってティーガーの傍に立ち、フェンダーを撫でながら言いました。

 

「コイツはティーガーだ。恐らく、戦車の中で最も有名なのは何だと聞かれたら、間違いなくコイツが選ばれると思う。そんな奴に、あの程度のカーブを曲がり損ねて傷をつけちゃ申し訳ねぇからな」

 

 蓮斗の言葉を聞いた私は、彼を見下していた自分を恥じました。

 彼は何の考えも無く戦車に乗ったのではない。こんなにも、戦車の事を考えてくれている。

 そんな彼を下に見て、無理難題を押し付けるなんて………そう思うと、彼への申し訳無さが沸き上がり、同時に、彼にならティーガーを………そして、この身を任せられるのではないかと思うようになったのです。

 

「……あ、そろそろ帰らねぇと」

 

 不意に蓮斗が呟くと、私は反射的に空を見上げます。

 夕焼けで、空は赤く染まっていました。

 

「んじゃ、俺は帰るよ。操縦させてくれて、ありがとな」

 

 そう言うと、蓮斗は歩き出して私の横を通り過ぎ、山を降りようとします。

 

「…ッ……ぁ……」

 

 私は小さく声を出しますが、彼には聞こえず、遠ざかっていくばかりです。

 稜線の向こうへ行くにつれて、彼の体は下半身から消えていきます。

 

 段々見えなくなっていく彼の後ろ姿を眺めていると、ある感情が沸き起こりました。

 

――……行かないで………もっと、一緒に居て……――

 

 そんな感情が、胸の中で渦を巻きます。

 あの時に彼は言いました。『1度だけで良い』と……………

 なら、それが達成された今、もう、彼が此処に来る事は無いでしょう。

 私は、それが怖くなりました。

 

――せっかく、私の事を理解してくれる人に会えたのに………この身を、任せられるような人に会えたのに…………もう、会えないの…………?――

 

 そう思うと、私の脳裏に、独りで生活していた頃の光景が浮かびました。

 誰も話し相手が居ない。ただ、呆然とティーガーの砲塔に腰掛けて、空を眺めているだけの私が………………

 そんな退屈で、寂しい生活が戻ってくるなんて、嫌だ………………

 

「………ま……待って!」

 

 だから私は、遠ざかっていく彼に呼び掛け、そのまま走り出しました。

 斜面をかけ降りて、彼に追い付きます。

 

「ん?どうした?」

 

 それに気づいた彼は、振り返って聞いてきました。

 

 斜面をかけ降りてきた私は、少しの間肩で息をしていましたが、やがて呼吸が落ち着くと、彼に言ったのです。

 

「また……来てくれますか……?」

 

 そう訊ねると、蓮斗は一瞬目を丸くしましたが、直ぐに、その間の抜けたような表情は笑顔に変わりました。

 

「おう。アンタが来て良いってんなら、何度でも来るぜ!」

 

 そう言って、蓮斗は今度こそ、斜面を降りていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 それからと言うもの、蓮斗は天候が不安定にならない限り、私の元に来ました。

 ただ一緒にティーガーを乗り回すだけでなく、山を2人で歩き回ったり、1度山を降りて、町に出る事もありました。

 

 そんなある日、2人でティーガーの砲塔に腰掛けていた時、蓮斗がこう言い出したのです。

 

「そういや、俺等知り合ってから結構経つのに、未だ互いの名前知らなかったよな」

 

 蓮斗がそう言うと、私は焦りました。

 何せその頃の私は、ただ『ティーガーの付喪神』であるだけの存在。故に、誰かに名乗るような名前なんて、持っていなかったのです。

 そんな私を余所に、彼は名乗ります。

 

「俺は八雲蓮斗、戦車好きな中1だ。アンタは?」

「………」

 

 そう聞いてくる蓮斗に、私はどうやって答えたものかと、頭を悩ませていました。そもそも名前が無い私には、彼の質問に答えようがありません。

 だから私は、正直に言う事にしたのです。

 

「私には、名乗るような名前はありません」

「……はい?」

 

 私が答えると、間の抜けたリアクションが返ってきました。

 首を傾げる彼に、私は自身の正体を明かしたのです。

 “自分は普通の人間ではなく、ティーガーの付喪神である”と言う事実を………………

 

「…………」

 

 それを聞いた蓮斗は、黙って私を見ていました。

 一向に口を開かず、ただ目を丸くしてパチパチと瞬きするのを見る限り、未だ私が言った事をいまいち飲み込めていなかったのでしょう。

 そして私は、彼が私の言葉を理解した時、彼に気味悪がられる覚悟をしました。

 ですが、彼から返された反応は………………

 

「名前ねぇのか………良し、なら俺が名前考えてやるよ!」

「……え?」

 

 こんな反応でした。

 気味悪がられると思ってたら、彼は私を気味悪がる事無く、それどころか名前を考えてやるとまで言い出す始末。

 とんだ変わり者に出会ってしまったと、私はつくづく思いました。

 呆然とする私の隣で、彼はティーガーと私を交互に見やり、口を開きました。

 

「良し、決まった!アンタの名前は、雪姫だ!」

 

 そう言って無邪気な笑みを向けてくる蓮斗に流されるまま、私に“雪姫”と言う名が付けられたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………まぁ、そう言う事もあって、あれから蓮斗はティーガーの車長になり、彼は学校の同級生を次々連れてきて、他の戦車も揃い、白虎隊は発足した。これが、白虎隊の始まりと、私と蓮斗との出会いです………って」

「「「………………」」」

 

 話を終えた雪姫だが、既に他の3人は眠りについていた。

 

「やれやれ、人に話せと言っておきながら寝てしまうとは……失礼な方々ですね」

 

 溜め息混じりに言いながら、雪姫は目を閉じて寝転がる。

 

「(朱雀も、青龍も、玄武も陰陽も………今、何処で何をしているのでしょう………)」

 

 実に半世紀以上離れ離れになっている仲間を想いながら、雪姫は寝息を立てるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 彼女等の再会、そして大きな戦いが、遠くない未来に訪れる事など、この場に居る者全員には、知る由も無いだろう。




 さて、次回は漸く、エンカイ・ウォー編に入ります。


 それもそうだがテスト習慣に部活って………………どうかしてるぜ

 紅夜「それよか少しはクオリティー上げろやボケ!」

 すんませんでした(´;ω;`)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。