ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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 戦いにすらならない戦い(白目)


第132話~殺戮嵐(ジェノサイド)の蹂躙です!~

「あれから、暫く経ったわね…………」

 

 此処は、聖グロリアーナ女学院の校舎内にある一室。

 丸いテーブルを囲むように3脚の椅子が配置され、壁にはティーカップなどが入った戸棚が置かれている。

 その部屋の大きな窓の傍に立つダージリンは、窓に軽く手をついてそう呟いた。

 

 窓の外では、何時もと何ら変わらない夜の町並みが広がっている。

 明かりがついている家、ついていない家、街灯や店の明かり、夜空に輝く星屑の数々……

 それらは、今のダージリンの心境に構う事無く何時も通りの光を放っている。

 

「………………」

 

 ダージリンは、暫くその場に立ち尽くしていたが、やがて踵を返してドアの方へ歩くと、スイッチを押して部屋の明かりを消し、出ていった。

 

「………つくづく、情けない隊長ですわね、私は………」

 

 階段を降りながら、ダージリンは自嘲気味に笑みを浮かべてそう呟いた。

 

「親友(アッサム)が誘拐され、それを知った教官を保健室まで運んでからは、私もショックを受けて練習に身が入らず、ただ保健室で座っていただけ……それでいて、無関係な紅夜さんに助けを求めるなんて………」

 

 そう呟くダージリンの両目からは涙が浮かび、それは流星のように、彼女の頬を伝って床へと落ちた。

 親友を誘拐され、ショックのあまりに何も出来ず、終いには無関係な人物に頼らなければならないと言う自分自身への惨めさや情けなさが、未だ18歳程度の彼女の心を苛んだ。

 今まで、このような事件とは無縁な生活を送ってきただけあって、今回の事件は衝撃が大きすぎると言ったものだろう。

 

 降りていくに連れて、普段自分の隣に居てくれた親友の姿が思い浮かぶ。

 涙を拭い、ボヤけてくる視界を何とか鮮明な状態に保ちながら、ダージリンは靴箱へとやって来る。

 靴を履き替えて外に出ると、グラウンドにやって来た。

 広大なグラウンドに、ダージリンはただ1人、ポツンと立ち尽くす。

 

 其処へ、つぅっと撫でるように吹いた一陣の風が、彼女の金髪を揺らし、スカートをはためかせる。

 月明かりに照らされながら立ち、目を閉じて、胸の前で手を組んで祈るダージリンの姿は、状況によっては美しい光景ではあるだろうが、今はそんな悠長な事を言っている場合ではなかった。

 

「アッサム………………」

 

 不意に、目を開けたダージリンが親友の名を呟くと、自分の背後に人の気配を感じた。

 

「ッ!だ、誰………え?」

 

 勢い良く振り向いたダージリンだが、其処で目に飛び込んできた光景に目を丸くした。

 

 何故なら其所には………………

 

 

 

「よぉ、聖グロの嬢ちゃん。連れてきたぞ」

「………」

 

………………蓮斗とアッサムの姿があったからだ。

 微笑みながら右手を軽く上げて会釈する蓮斗の隣では、アッサムが気まずそうに立っている。

 まぁ、無理もない。何せ、誘拐されてから数時間、地獄のような時間を味わってきたのに、それが呆気なく終わり、我が家同然の場所へとすんなり帰ってきたのだ。

 無傷で帰れるに越した事はないが、こうも呆気なく帰れると、反応に困ると言うものだろう。

 

「あ……アッサム…………」

 

 紅夜のパンツァージャケットを羽織っているのを除けば、何処にも変わりの無いアッサムの姿を視界に捉えたダージリンは、ヨロヨロと歩き出してアッサムに近づいていく。

 

「ダージリン様………」

 

 対するアッサムも、ゆっくりと、ダージリンの元へと歩き出した。

 そして、どちらともなく走り出すと、そのまま抱擁を交わし、泣き出した。

 

「……まぁ、これで事件の1つは解決だな」

 

 そんな2人を見ながら、蓮斗はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから暫く経ち、ダージリンとアッサムは泣き止んだ。

 

「お、お恥ずかしいところを…………」

「良いって良いって。寧ろ、あの場面で泣かねぇ方がおかしいってモンだからな」

 

 顔を赤くしながら頭を下げるダージリンに、蓮斗は軽く笑い、胸の前で手をヒラヒラと振りながらそう言った。

 

「まぁ取り敢えず、紅夜の救出が間に合って良かったな。紅夜のジャケット着てたから、結構危なかったんだろ?」

 

 蓮斗がそう訊ねると、アッサムは頷き、当時の光景を思い出して震えながらも、男達に何をされそうになったのかを説明した。

 それを聞いたダージリンの表情は、恐らくダージリン自身も初めてと言える程に険しくなっていた。

 

「そんな酷い事をするとは……何て卑劣な輩なのですか………ッ!」

 

 そう呟いたダージリンは、両手に握り拳を作って怒りに震わせ、歯軋りすらしていた。

 

「そんな連中が、この学園艦に居るなんて………………許せませんわ!」

 

 そう叫び、ダージリンは両手を振り上げ、間を置かずに振り下ろした。親友を傷物にされそうになった事への、やり場の無い怒りが、其所にあった。

 

「………そう言えば、紅夜さんはどちらに?」

 

 其処で、紅夜が居ない事に気づいたダージリンは、蓮斗に訊ねた。

 

「ああ、彼奴なら誘拐犯共の根城に残ってるよ。俺に其所の嬢ちゃん預けてな」

「ッ!?」

 

 そう聞かされたダージリンは、驚愕に目を見開いた。

 

「そんな…………まさか紅夜さんは、あの誘拐グループを1人で殲滅しようとしているのですか!?」

「まぁ、そう言う事になるな………………でも、彼奴の事だから何の心配も要らねぇよ」

 

 蓮斗は軽い調子で答えるが、ダージリンからすればトンでもない事だった。

 

「(紅夜さん……どうか、ご無事で…………)」

「………………」

 

 ダージリンとアッサムは、胸の前で手を組んで、紅夜の無事を祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所を移して、此処は昇降用ドック付近にある建物の前。

 其所では、紅蓮のオーラを纏った紅夜と不良集団が対峙していた。

 紅夜が纏う紅蓮のオーラは、彼の足元から炎の如く噴き上がり、紅蓮に染まった髪を靡かせている。

 

『……………』

 

 今のところ、紅夜は目を瞑った状態で何も動きを見せず、ただ其所に立っているだけ。

 それを好機と見るかは人其々なのだが………………

 

「へっ!何かオーラみてぇなの纏ったかと思えば、何もしねぇってのかよ?だったら、さっさとテメェをぶちのめして、逃げやがった女を捕まえて犯してやるぜ!」

 

 紅夜が何の動きも見せない事を好機と思ったのか、不良グループの1人が駆け出し、紅夜に殴り掛かった。

 

『…………』

 

 だが、そんな状況でも、紅夜はただ、目を瞑って立っているだけ。

 そうしている内に、男が紅夜を殴れる射程内に入り、右手を思い切り振りかぶる。

 

「その粋がった顔をボッコボコにしてやるよ!」

 

 そう言って、男は紅夜目掛けて拳を突き出した。

 そして、その拳が紅夜の顔に当たる寸前で………………

 

『………………フンッ』

「なっ!?」

 

………………紅夜は、その男の視界から消えた。

 紅夜が突然姿を消した事に驚き、あちこちを見回す男。

 

「クソッ!あのガキ何処行きやがった!?」

『此処に居るだろうが』

 

 すると、男の背後から声が聞こえる。

 視線を後方に向けると、其所には自分と背中合わせになる形で立っている紅夜の姿があった。

 

「ッ!?て、テメェ何時の間n……『五月蝿ぇ、ギャーギャー喚いてんじゃねぇよ』…がっ!?」

 

 何時の間にか、紅夜が背後に居た事に驚く男だが、紅夜は振り向き様にアッパーを喰らわせ、男を殴り飛ばした。

 数メートル程の高さまで飛ばされた男は地面に叩きつけられ、顎を押さえてもがく。

 紅夜はそれを見ると、どうでも良さそうに鼻を鳴らした。

 

『さて、お前等……………』

『『『『『ッ!?』』』』』

 

 不意に声を発した紅夜に、残った不良グループの面々が視線を向ける。

 

『お前等、自分がやろうとしていた事が何れだけ卑劣な事か分かってんのか?大体、たった1人のか弱い女の子を集団で拉致って、そっから性的暴行を加えようとするなんて、正気の沙汰を疑うぜ………お前等には最早、男として生きる価値もねぇな』

 

 そう言うと、紅夜はずっと閉じていた量目を見開いた。

 ルビーのように赤い瞳が、月明かりを反射して怪しく光る。

 宝石のように光り、プラウダ高校との試合では、ノンナやクラーラを魅了したその目は、不良グループの面々に恐怖を植え付けた。

 

『さぁて……処刑の時間だ…………覚悟は出来てんだろうなぁ!』

 

 紅夜はそう言うと、姿勢を少し低くしたかと思われた瞬間、地を蹴って駆け出した。

 勢い良く駆け出した瞬間に足がめり込んだのか、アスファルトの一部が軽く砕けている。

 

『先ずは………テメェだ!』

 

 紅夜は左端に居た男を標的に定め、一気に詰め寄る。

 

「ッ!?こ、このクソガキ!」

 

 男は瞬時に振り上げた拳を紅夜に叩きつけようとするが、紅夜は体を左にずらして避け、その拳を掴むと、それを地面目掛けて勢い良く引っ張った。

 

「うぉっ!?」

 

 自分の勢いを利用され、男は呆気なく地面に倒れるが、幸い、両手を先に地面につけてために、顔面が地面に直撃するのは避けられた。

 だが、それだけで終わる訳が無い。

 

『これで終わると思ってんじゃねぇぞッ!』

 

 地面に手をつき、四つん這いになっている男の隣に現れた紅夜は、爪先で男の腹を蹴り上げたのだ。

 

「ぐぼぉっ!?」

 

 蹴られた男は軽く浮き上がり、その一瞬の隙を見逃さず、紅夜は回し蹴りを喰らわせて蹴り飛ばし、その先に居たもう1人の男にぶつける。

 

 蹴り飛ばされた男は、ぶつけられた男と重なりあって倒れ、気絶する。

 

「クソッ!こんなガキ風情に………………おい、集団で掛かれ!タコ殴りにしてやれ!」

 

 リーダー格の男が言うと、未だ倒れずに残っていた男達が紅夜目掛けて襲い掛かってくる。

 

 だが、それでみすみすやられる紅夜ではなく、紅蓮のオーラを纏ったまま、男達の方へと突っ込んでいく。

 姿勢を低くして空気抵抗を減らし、速度が上がっていく中で、右手に握り拳を作って腰に構え、タイミングを窺う。

 そして、真っ正面から向かってくる2人の男の間に体が入る瞬間、右手を引いて、瞬時に突き出した。

 

「~~~~~~ッ!?」

 

 真っ正面から向かっていく際の勢いを利用した攻撃に、男は声になら無い悲鳴を上げ、腹を押さえて倒れた。

 

「ッ!?しまった、後ろだ!」

 

 それに気づいた男が急停止して向きを変え、再び紅夜に襲い掛かろうとするものの、彼等の攻撃パターンを読みきったのか、今度は横から回り込むようにして向かっていき、右端に居た男を次の標的にする。

 弓矢の如く後ろに引いた右手の拳を、男の喉仏に叩き込んだ。

 

「ぐぇええっ!」 

 

 潰されたカエルのような声を上げながら仰け反った男だが、紅夜はその男の背後に回り込み、その背中に開かれた右手を添え、軽く押して向きを変えると、向かってくる残りの男達の方へと押し飛ばした。

 ボーリングの如く残りの男達を弾き飛ばし、リーダー格の男と紅夜を除いた全員が地面に倒れ伏す。

 そんな中でも、比較的ダメージが少なかった男が2、3人程立ち上がろうとしていたが、紅夜に首筋を殴り付けられて気絶する。

 

「う、嘘だろ……?たった1人の……それも、女みてぇなガキに、この俺等が…………ヒィッ!?」

『……ッ!』

 

 自分以外の面々が地面に倒れ府す状況に、リーダー格の男は震え上がるが、紅夜に鋭い視線を向けられ、あたかも蛇に睨まれた蛙の如く動けなくなる。

 

『………………』

 

 そうして、紅夜はゆっくりと、その男に歩み寄っていった。

 

「ま、待て!分かった、俺が悪かった!もうしないから許してくれ!」

『………………』

 

 男は情けなく言いながら後退りを始めるが、足がもつれて尻餅をつく。

 

『“もうしないから許してくれ”?それで許されると思ってんのかテメェ?』

 

 歩み寄りながら、紅夜は男の謝罪を容赦なく切り捨てる。

 

『テメェがやろうとしてたのはな、下手すりゃ1人の女の子の命すら消えちまうかもしれねぇ程のモンなんだよ。それを、そんな安っぽい謝罪で許してもらおうとは、呆れるのを通り越して尊敬するね。ある意味スゲェよ、テメェは』

 

 そう言いながら歩み寄る紅夜と、そんな紅夜から距離を取ろうと後ずさる男。

 そんなおいかけっこの末、男は、彼が根城とした廃墟の壁に背をついた。

 

『どうやら、おいかけっこも此処で終わりのようだな』

 

 紅夜はそう言って、左手で男の胸倉を掴み上げた。

 

『未だ18程度の女の子の心に、消えない傷を植え付けときながら殺されずに済んだ事に、平伏して感謝するが良い』

 

 そう言って、紅夜は男の額を勢い良く殴り付ける。

 その直後にコンクリートの壁に後頭部をぶつけた男は、ズルズルと地面に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、聖グロリアーナ学園艦におけるアッサム誘拐事件は、慈悲なき殺戮嵐(ジェノサイド)によって幕を下ろした。




 何とか投稿出来た。
 クオリティーが低くなってる事については………………本当に申し訳ありません。


 もっと蹂躙劇を見せろと言う方は、ノンナとクラーラ救出編までお待ちください。




紅夜「作者、今回の話のクオリティー低すぎるから、後で裏に来いや」


………………皆さん、私の墓のお供えには板チョコ置いてくださいね(泣き顔)

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