ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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 無視されて怒るのは分かるが、怒りまくるあまりに相手を泣かせるのは止めましょう。



第126話~怒りすぎには要注意です!~

「「「それじゃあ、これから宜しく!ご主人様(コマンダー)(紅夜)!」」」

「お~、此方こそ宜しくな~」

 

 夕方、1人疲れきったような表情を浮かべている紅夜と、彼とは裏腹に、交流会で騒いだ後とは思えない程に元気な3人が、紅夜の家に帰ってきた。

 その3人とは勿論、黒姫、ユリア、七花である。

 

「それにしても、まさかレッド・フラッグの全戦車の付喪神が俺の家に住む事になるとは、誰が予想しただろうか………………」

 

 そう言いながら、紅夜は駐輪スペースに押してきた陸王を停めた。

 

 あの交流会の後、新たに加わったユリアと七花が住む場所についての話になったのだが、レッド・フラッグのメンバー全員の推薦に加え、ユリアと七花も希望したために、彼女等2人も、紅夜の家に住む事になったのだ。

 

「こりゃ、飯代とか色々大変だろうな………沖兄みたいに、どっかでアルバイトでもしようかな………」

 

 ドアの鍵を開けながら、紅夜はそう呟いた。

 そして家に入ると、黒姫とユリア、そして七花は、寝床の相談のために2階に上がり、紅夜はリビングのソファーにどっかりと腰掛けた。

 

「あ、そういや最近話題になってる不良集団の話は………ん?」

 

 テレビをつけようとした時、テーブルに置いたスマホが着信を知らせ、紅夜はスマホを手に取る。

 

「ん~?一体誰から………親父か。はい?」

『よぉ、紅夜。俺だよ、豪希』

 

 電話を掛けてきたのは、父親の豪希だった。

 

『大体1日ぶりだが、元気にしてるか?』

「お陰さまでな」

 

 そんな話をしていると、2階から喧騒が響いてきた。

 

「だから!ご主人様と一緒に寝るのは私だって言ってるでしょ!?」

「何言ってるのよ!?コマンダーの専用車だからってイイ気になってんじゃないわよ黒姫!」

「おいおい、お前等落ち着けって。まぁ、この際だから俺が紅夜と寝れば万事解決な訳で…「「独眼気取りの中二病は黙ってろ!」」…んだとコラァ!やるってのかテメェ等!」

「「上等!」」

 

「………………」

『………………』

 

 2階から響いてくる喧騒に、紅夜と豪希の間で暫しの沈黙が流れた。

 

『紅夜、取り敢えず何があったのか話してみろ』

「ああ、それがな………………」

 

 それから紅夜は、黒姫の他に、ユリアや七花と言った付喪神が存在しており、その2人も、自分の家で暮らす事になったと言う事を伝えた。

 

 

「………………と言う訳なのさ」

『成る程、ソイツは大変だな………しかし、それじゃあ生活費とかが苦しくなるだろ?なんなら仕送り増やそうか?』

 

 そう言われ、紅夜の目は見開かれた。

 豪希の言う通り、今後の生活面での事を考えれば、その申し出は受けた方が良いだろう。だが、そう思う一方で、親に迷惑をかけたくないと言う思いもあった。

 そして暫く考えた後、紅夜は首を横に振って言った。

 

「いや、スッゲーありがたいけど、今は止めとくよ。未だ食材とかにも余裕はあるし、また輝夫のオッチャンに頼んで、仕事につれていってもらうさ」

『そうか………………分かった、それなら頑張れ。生活がマジで苦しくなったら言えよ?その時は多めに送ってやる』

「おう、ありがとな」

 

 豪希からの励ましに、紅夜はそう答えた。

 そうして話している内に時間は流れ、7時になろうとしていた。

 

「おっ、もう20分も話し込んでたのか………………それじゃ親父、そろそろ晩飯の用意するから切るわ。お袋にもよろしく伝えといてくれ」

『あいよ、任せとけ………………ところで紅夜』

「ん?どったの?」

 

 突然、先程までの陽気な雰囲気を引っ込め、真面目な声色で話す豪希に、紅夜は首を傾げた。

 

『最近、あちこちの学園艦で不良集団の被害が相次いでるらしいんだが、ソッチはどうだ?何か変わった事はあったか?』

「変わった事………………んにゃ、特に何も無いぜ?」

『そっか………………まぁ、それなら良かったよ。万が一ってのもあるからな』

 

 安堵の溜め息をつきながら、豪希はそう言った。

 

「此方は良いんだが、綾の方はどうなんだ?」

『ああ、それなら心配要らねえってさ。お前に電話する前に聞いてみたんだが、今のところ知波単では、それっぽい被害も無いらしい。現段階では、黒森峰とプラウダ、それから聖グロリアーナって所が被害を受けてるらしい』

 

 それを聞いた紅夜は、やっぱりと言わんばかりの表情で溜め息をついた。

 新聞やニュースで目にしているため、大して驚きもしなかった。

 

「あ~、やっぱその辺がやられてんのか………………」

『何だ、知ってたのか?』

 

 豪希の質問に、紅夜はテレビをつけながら頷いた。

 

「ああ。入院してる時に、テレビで見たからな。それに、今は丁度、それについてのニュースやってるよ。黒森峰で2人逮捕されたってさ」

『おっ、そりゃ良かったな』

「だが、全員捕まえた訳じゃねぇから、今後とも捜査をしていくってよ」

『まあ妥当だな………………そうだ、この際だから紅夜、レッド・フラッグの男子共で不良共を潰しに行ってみたらどうだ?ある意味、治安維持のアルバイトだ。謝礼金的なのが舞い込んでくるかもよ?』

「そりゃ良いが、なるべくそう言うアルバイトはやりたくねぇな。俺、不良じゃねぇし」

 

 紅夜がそう言うと、スマホの向こうで豪希の笑い声が聞こえてきた。

 

『おまっ、蓮斗と一緒になってテロリストを完膚なきまでにぶちのめした奴が言う台詞かそれは?』

「(なんで親父がその事知ってんだ?……まぁ兎に角)…………それはそれ、これはこれ」

 

 紅夜はそう言って、豪希からの質問をはぐらかした。

 

『ああ、そうかよ………まぁ、取り敢えず頑張れよ』

「おう」

 

 そうして、20分以上にも及ぶ通話は終わった。

 紅夜は通話終了のボタンをタップして電源を切ると、テーブルにスマホを置いて天井を仰いだ。

 

「さて、さっきまで騒いでやがった馬鹿共が静かだが、何してんだろうな」

 

 紅夜はそう呟きながら、2階へと上がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

「「「じゃんけんポン!あいこでしょ!あいこでしょ!!」」」

「………………何じゃこりゃ?」

 

 綾の部屋では、3人の付喪神によるじゃんけん大会が開かれていた。

 おまけに天井には、何時の間に作られていたのか、《長門紅夜と一緒に寝る付喪神を決めるためのじゃんけん大会》と書かれた横断幕が提げられている。

 横断幕を見た時、付喪神達のネーミングセンスの無さに溜め息をついた紅夜は悪くない筈だ。

 

「「「あいこでしょ!あいこでしょ!!あいこでしょ!!!」」」

「………………」

 

 紅夜が入ってきたのにも気づかず、あいこが続くじゃんけんをひたすらに続けている付喪神3人組。

 

「お~い、そろそろ飯の準備するから手伝ってくれ~」

 

 紅夜はそう言うが、じゃんけんに夢中になっている3人の耳には届かない。ただひたすらにじゃんけんを続けている。

 

「お~い、飯だぞ~」

 

 もう一度呼び掛けるものの、如何せん反応が無い。

 

「お~い、今日はユリアと七花の歓迎って事でのステーキなんだけど~………………」

 

 自分を取り合っていると言うのは男冥利に尽きると言うものだが、だからと言って、夕飯なのに放置する訳にはいかない。

 そのため、もう一度呼び掛けるものの、反応は同じ、全く反応しない。完全無視である。

 

「はぁ…………もう良いよ。知らねぇからな」

 

 暫く3人の様子を見ていた紅夜だが、やがて諦めたのか、その後は何も言わずに1階に降りていった。

 

 

 

 

「さて、もうこの際だから彼奴等の飯は抜きで良いか。食う気無さそうだし、食材に余裕が出るし」

 

 台所にて、エプロンを着けながら容赦無い一言を呟くと、紅夜は夕飯を自分の分だけ作ろうとしていた。

 調理中の匂いが上に行かないよう、リビングのドアは閉め、換気扇も回していた。

 

「やれやれ、せっかく今日は、ユリアと七花の歓迎会がてらに、お高い肉でステーキにしようとしてたのに、勿体ねぇなホントに」

 

 そう呟き、紅夜は冷蔵庫から高級牛肉を取り出して開封し、コンロに火をつける。 

 リビングのドアの方を向いても、誰かが降りてくるような気配は一向に感じない。

 

「もう良いよ、俺1人で楽しむから。今日はテメェ等飯抜きだぜ」

 

 吐き捨てるように呟くと、紅夜は夕食を作り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「か~んせいっ」

 

 テーブルに料理を乗せた皿を置いて言う紅夜の前には、見るからに食欲を掻き立ててくるステーキがあった。

 もんもんと立ち上る湯気が、そのステーキの匂いを運ぶ。

 紅夜は、何れ降りてくるであろう3人への嫌がらせにと、リビングのドアを少しだけ開くと、食卓の方へと向かった。

 

「こりゃ良い匂いだ。それでは……と」

 

 ステーキの匂いを嗅いだ紅夜はそう言いながら、椅子に腰掛け、ナイフとフォークを持つ。

 

「では、いっただっきま~す」

 

 そうして、紅夜はステーキを切り分け、口に運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「あいこでしょ!あいこでしょ!!あいこでしょ!!!」」」

 

 一方その頃、未だにじゃんけんを続けてる付喪神3人組の勝負にも、決着が着こうとしていた。

 

「「「あい…こで…しょ!!」」」

 

 同時に繰り出される、3人の手。

 黒姫はグー、残りの2人はチョキだった。勝者は黒姫だった。

 

「やった!遂にやったわ!黒姫ちゃん大勝利!」

「くっ!此処でパーを出していれば、またあいこに持ち込めたのに………ッ!」

「くっそ~、負けたか~」

 

 両手の拳を天井に突き上げて喜ぶ黒姫の両サイドでは、敗者2人が残念そうにしていた。

 

「まぁ、何はともあれ勝負は着いたんだし、1階に降りよう。ご主人様が待ってるし」

「ええ、そうね」

「腹減った~。今日のご飯は何かな~♪」

 

 そう言いながら綾の部屋を出た3人は、1階へと降りていった。

 

「ん?何か凄く良い匂いがするわね」

 

 若干の隙間が空いているリビングのドアの前で、ユリアはそう言った。

 

「ん?…………あ、ホントだ。何の匂いかな?」

 

 七花がドアを開けてリビングに入ると、其所には既にステーキの大半を食べ終え、一切れ程度しか残していない紅夜の姿があった。

 

「ん?……よぉ、遅かったなお前等」

 

 3人の視線に気づいた紅夜は、ナイフを置いて右手を軽く上げて会釈した。

 

「え、ええ。ちょっとゴタゴタがあって」

「ふーん?“ゴタゴタ”ねぇ…………」

 

 どうでも良さそうに言うと、紅夜はコップに淹れていたお茶を一口、口に含んだ。

 

「んくっ………ぷはっ」

 

 飲み口を口から離した紅夜は、非常に満足そうな笑みを浮かべていた。

 

「え~っと……ご主人様…………?」

「ん?どったよ黒姫?」

 

 黒姫がおずおずと話し掛けると、紅夜は視線を黒姫に向ける。

 

「えっと、その……私達の……ご飯は…………?」

「………………」

 

 黒姫が紅夜の分の夕飯しか乗っていないテーブルを見ながら言うと、紅夜は最後の一切れを口に運び、目を瞑って味わう。そして、それを飲み込むと、全身からドス黒いオーラを放ち、それによって鮮やかな緑髪を漆黒に染め、“絶対零度の冷たさを秘めた両目”を開いて言った。

 

『…………………あると思ってんのか?』

「「「ッ!?」」」

 

 その一言に、付喪神3人組は凍りついた。其所に居るのは、何時も優しい笑みを浮かべた主ではなく、激怒状態の主だった。

 

『俺は飯の用意をするから手伝えと、お前等を呼びに行った…………だがお前等は、じゃんけんに夢中になって俺の呼び掛けを3回中3回全部無視しやがった……何やら、“誰が俺と一緒に寝るかを決めるじゃんけん大会”とやらを開催してたそうだな…あれ、1階まで思いっきり聞こえてたぞ。まぁ、そうやって取り合ってくれるってのは男冥利に尽きるってモンだが、飯となれば話は別だ。それに、その決着は飯の後でも出来たんだからな』

 

 『だが』と付け加え、紅夜は止めを刺した。

 

『お前等は俺が3回呼び掛けても全部無視してじゃんけん大会に没頭した。これでも俺は、お前等に十分聞こえる声で言ったつもりだ。なのに全く反応せず、ただひたすらにじゃんけんをしていた………………つまりそれは、『私達はじゃんけんに夢中なので夕食要りません』と言ってるのと同じだ………つー訳で、今晩お前等は飯抜きだ。つーか、お前等全員綾の部屋で寝ろ』

 

 紅夜はそう吐き捨てると、駄々漏れにしていた黒いオーラをしまって後片付けを始める。

 

「ッ!そ、そんな………………」

 

 先程までのルンルン気分は何処へやら、ユリアはヘナヘナと座り込む。

 

「ご、ご主人様…………」

 

 黒姫が力なく声を出すものの、紅夜の足は止まらない。

 せっかく一緒に寝られると思ったのに、拒絶されるばかりか夕飯まで抜かれると言う始末。

 だが、それは自分達の自業自得であるために言い訳も出来ない。

 

「………うっ……グスッ…」

 

 慕う主に拒絶された悲しみか、黒姫の両目から涙が溢れ始める。

 そして、フラフラした足取りで、食器を洗い始めた紅夜の元へと歩き出した。

 

「く、黒姫………?」

  

 何時もの勢いもなりを潜めた七花が、そんな黒姫の後ろ姿を見ながら言う。

 

「………………」

 

 何も言わぬまま皿洗いをしている紅夜の背後に着くと、そのまま力任せに抱きついた。

 

「うおっと!?」

 

 不意打ちとばかりに抱きつかれ、紅夜はよろけて皿を落としそうになる。

 

「おい!危ねぇだろ……う……が…………?」

「……うぅっ……グスッ……ふぇぇ」

「(…………え?えええええええっ!!?)」

 

 まさか本気で泣くとは思わなかったのか、紅夜は驚愕に目を見開く。

 

「ごっ、ごめんなしゃい……えぐっえぐっ……!……みじゅでないでぇ………」

 

 黒姫、完全に大泣き状態である。

 

「…………はぁ」

 

 紅夜は溜め息をつくと、黒姫の腕を優しく解いて食卓へと連れていき、椅子を引いて座らせる。

 床に座り込んでいる2人も同様に、椅子に座らせた。

 

「………3人分作るから……ちょっと時間かかるぞ」

 

 それだけ言って、紅夜は冷蔵庫から例の高級肉を取り出して3人に見せた。

 

「…悪かったよ……怒りすぎた…」

 

 そう言うと、紅夜は3人分のステーキを作り始める。

 3つのコンロをフルに使い、3人分のステーキを1度に纏めて作ると、それを食卓へと持っていき、3人の前に置いた。

 

「ほら、食えよ」

 

 その言葉に、3人は紅夜の方へと視線を向ける。

 紅夜はばつが悪そうに頬を掻きながら笑みを浮かべていた。

 その表情に、怒りの色は全く無かった。

 

「「「ッ!い、いただきます!」」」

 

 そうして、3人はステーキにがっついた。

 

「……改めて、長門家にようこそ。レッド・フラッグの付喪神達………」

 

 3人に聞こえないように呟いた紅夜は、そのまま自分の食器洗いに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女等の夕食後、風呂を終えてから寝ようとしたのだが、怒りすぎたあまりに黒姫を泣かせ、ユリアや七花を怯えさせた責任を取ると言う事で、今晩は4人一緒に綾の部屋で寝る事になり、その際、黒姫が何時も以上に甘えてきたのは余談である。




豪希&蓮斗&作者「紅夜ァ!!テメェ女の子泣かせやがって!お仕置きだごるぁあ!!」
紅夜「す、すんませんでしたァァァァアアアアアッ!!」

 こんなやり取りもあったのさ。

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