ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第124話~顔を出しに行きます!~

 紅夜が大洗学園艦に帰ってきてから、一夜が明けた。

 紅夜の部屋には、カーテンの隙間を通ってきた日光が差し込む。

 

「う~ん……ふわぁ~…………」

 

 それに刺激されて目が覚めた紅夜は、欠伸しながら伸びをする。 

 

「えへへ~、ご主人様ぁ~……」

 

 その隣では、紅夜に抱きついて眠る黒姫が、頬をだらしなく弛ませて寝言を言っていた。

 黒姫を起こさないように注意しつつベッドから降りた紅夜は、1階のリビングへと向かった。

 

「Guten tag,Commander(おはよう、コマンダー).」

「ああ、ユリア。おはよう」

 

 リビングに着くと、既にユリアが居て朝食を作っていた。

 

「ユリアって、結構早起きなんだな」

 

 紅夜がそう言いながら椅子に腰掛けると、ユリアは朝食を作る手を一旦止めてから言った。

 

「ええ。コマンダーが居ない間、私達3人が交代で朝御飯作ってたから、その癖で」

「へぇ~、それはそれは……ん?」

 

 ユリアが言った事に不明点があったのか、紅夜は首を傾げた。

 

「“俺が居ない間”?いや、ちょっと待て。そういや俺が帰ってきた時には既にお前等が居たんだが、何時から俺の家に住んでたんだ?」

「3週間前よ?」

 

 朝食を作る手を再び動かしながら、ユリアはそう答えた。

 

「3週間前って………お前等、俺の入院生活初日からこの家に居たのか。それは知らなかったな」

 

 紅夜はそう言って、再び欠伸を1つ。

 

「それもそうだけどコマンダー、七花達を起こしてきてくれる?もう直ぐ出きるから」

「あいよ、行ってくる」

 

 そう言うと、紅夜はリビングから出て階段を上がり、先ずは七花が寝ている綾の部屋に入った。

 部屋は常夜灯のままで暗かったが、廊下の明かりで部屋が照らされ、寝息を立てている七花の姿を見つけるのは簡単な事だった。 

 

「それにしても七花…………普通に寝てるなぁ」

 

 紅夜の視線の先には、掛け布団をすっぽりかぶって寝ている七花の姿があった。

 男勝りな口調と性格を持つ彼女の様子から、てっきり布団を蹴っ飛ばして寝ているのではないかと思っていた紅夜は、彼女の寝相があまりにも良かったために拍子抜けしていた。

 

「こうやってスヤスヤ寝てるのを見ると、起こすのを躊躇っちまうんだが………仕方ねぇ、起こすか」

 

 そう呟き、紅夜は部屋のカーテンを思い切り開く。

 

「七花、起きろ~。朝だぞ~」

「んぅ……後、10分…………」

 

 アニメでもありがちな台詞を呟きながら、七花は窓から差し込んでくる日光を見ないよう、窓とは反対側を向く。

 

「10分も10秒も駄ァ~目。ホラ、さっさと起きろ。でねぇと朝飯食えねぇぞ」

「起きる」

 

 “朝飯”と言う単語に反応して、七花は掛け布団を蹴っ飛ばして勢い良く起き上がった。

 

「おはよう、紅夜。今日は良い天気だな!」

「………………ああ、おはよう」

「良し!そんじゃあ早く飯食いに行こうぜ!」

 

 そう言うと、七花は部屋を飛び出してリビングへと降りていった。

 

「………………彼奴のやる気スイッチは“飯”だな」

 

 紅夜はそう呟き、七花を追ってリビングへと向かい、朝食を摂った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、私達は先に行くね」

 

 朝食後、皿を洗っている紅夜に黒姫が言った。

 

「ん?もう行くのか?未だ7時半だぜ?」

「それもそうだけど、ユリアと七花の事もあるから………ね?」

 

 黒姫にそう言われ、紅夜は成る程とばかりに相槌を打った。

 

 現在、ユリアと七花の存在を知っているのは紅夜と黒姫しか居ない。そのため、大洗チームやレッドフラッグのメンバーへのサプライズにしたいと言う、黒姫の意思なのだ。

 

「りょーかい、俺も後から行くよ」

「うん」

「それじゃあ、お先にね、コマンダー」

「バイクで事故るなよ~?」

「んな事しねぇよ」

 

 そう軽口を言い合いながら、紅夜は一旦皿洗いの手を止め、3人が家を出ていくのを見送り、皿洗いを再開。粗方洗っていたのもあってか、ほんの2分程度で終わらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………これで良しっと」

 

 皿洗いを終え、何時ものパンツァージャケットに着替えた紅夜は、洗面所で髪の手入れを済ませる。

 腰まで伸びた髪を、普段のポニーテールに纏め、洗面所を後にする。

 

「8時15分……まぁ、何時も通りの時間帯だな」

 

 そう呟きながら、紅夜は玄関に来て靴を履くと、下駄箱の上に置いてある陸王のキーを手に取って家を出る。

 鍵を閉めてヘルメットをかぶり、キーを差し込んで陸王に跨がる。

 メインスイッチを入れ、フットクラッチを蹴ると、1発でエンジンがかかる。

 

「さてと……それじゃあ、久し振りの大洗女子学園に、顔を出しに行きますか!」

 

 そうしてアクセルを捻り、陸王を発進させた紅夜は、3週間ぶりの大洗女子学園を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、大洗女子学園のグラウンドでは、未だ集合時間ではないのにメンバー全員が集まっていた。

 

「紅夜の奴、マジでバイクの免許取ったんだな~。俺等のチームで初めてじゃね?運転免許取った奴って」

「確かにそうだな……まぁ、かくいう達哉も、その気になれば免許取りに行けるんだぜ?大型二輪も、車も」

 

 達哉の言葉に、翔はそう返す。

 

「そうだなぁ……夏休み辺りにでも、車の免許取りに行こうかな」

「それは良いと思うが……金あるのか?」

「…………」

 

 勘助にそう聞かれ、達哉は目を逸らした。講習を受けられる程、資金に余裕は無いのである。

 

「それ言うなら翔、なんで俺等は学園艦で独り暮らし出来てんだって話になるぜ?そう現実的な事は言いっこ無しにしようや」

「そ、そうだな………………」

 

 丁度やって来た大河にそう言われ、翔は苦笑しながら頷いた。

 

「祖父さんって、一応バイクは持ってたんだよな?車種何だっけ?」

「陸王よ。未だ私達が陸に住んでた時は、よく見せてもらっていたじゃない」

 

 紅夜が持っていたバイクの車種を大河が訊ねると、それに深雪が答える。

 

「それもそうだけど……彼奴帰ってきたら取り敢えずブッ殺す事にするわ…………」

「いきなり何言ってんだ静馬!?」

 

 何時の間にか隣に居た静馬が物騒極まりない事を言い出し、大河が盛大にツッコミを入れる。

 

「フフフ……彼奴、この私に散々寂しい思いさせといて、自分は呑気にバイクの免許取ってたなんて…………ぜってぇ許さねぇ」

「ヤベェ、マジギレしてる」

「と言うか、静馬が乱暴な言葉遣いになるなんて余程の事が無い限りは………………」

 

 背後から阿修羅すら見えるようなオーラを放つ静馬に、大河と深雪は怯む。

 

「時にお二方、ちょっとちょっと」

 

 すると、2人の後ろに回り込んでいた雅が話しかけてきた。

 

「どうかしたの?」

「いやね?静馬って、紅夜が入院してから2日間本土に居たでしょ?」

「ああ、それから学校があるからとかで帰ってきたよな」

 

 雅の言葉に、大河が頷く。

 

「それでね?紅夜の様子を聞きに、静馬の家に行ったのよ。そしたら静馬、部屋のベッドで…………」

 

 ニヤニヤしながら言う雅の言葉は、此処で途絶えた。

 何故なら………………

 

「雅………紅夜を殺る前に貴女から殺った方が良さそうね」

「(あ、オワタ)」

 

 何時の間にか背後に回り込んでいた静馬に、頭を鷲掴みにされていたからだ。

 

「さぁ、ちょっと格納庫で☆O☆HA☆NA☆SHI☆しましょうね~」

「ちょっ!?大河、深雪!助けて!」

「「知りません」」

「この薄情者共ォォォォオオオオオオッ!!」

 

 雅はそう叫びながら、格納庫の方へと連れていかれた。

 

 その後、雅は『話せば分かる』と訴えたものの、聞き入れられずにお仕置きされたとか違うとか………………

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅夜君、今日で戻ってくるんだよね。長かったね~」

「ええ。本来なら1週間で帰ってくるのに、さらに2週間も帰ってこないと聞いた時は、何があったのかと思いました」

 

 雅が静馬にお仕置きをされている頃、あんこうチームではそのような会話が交わされていた。

 

「2週間余分にかかった理由がバイクの免許を取るためとは、これ如何に………………」

 

 相変わらず眠たげな麻子が、そう呟いた。

 

「…………」

 

 嬉しそうに話していた沙織と華の傍らでは、みほが複雑そうな表情で立っていた。

 

「みぽりん、どうしたの?紅夜君が帰ってくるのに、嬉しくないの?」

「そんな事無いよ、嬉しいよ?嬉しいんだけど………」

 

 沙織の質問を真っ向から否定すると、みほは再び複雑そうな表情で俯いた。

 

「こんなにも長い間、紅夜君に会わなかった事なんて、今までに無かったから、ちょっと………………」

「それ、分かりますよ西住殿。ちょっと気まずいですよね~。でも、長門殿の事ですから、普段通りに話せば、直ぐに気まずさなんて無くなりますよ!」

 

 優花里がそう言って、みほを励ました。

 

「ありがとう、優花里さん」

 

 みほはそう言って、裏口や校門の方を見たが、未だ、紅夜がやって来る気配は無かった。

 

「……………」

 

 決勝後の一件から紅夜を意識している杏も、若干落ち着きが無かった。

 お気に入りの干し芋を頬張りながら、校門の方向や裏門を交互に見ている。

 

「会長、落ち着いてください。彼奴は必ず来ますから」

「そうですよ、会長!」

 

 それを見た桃と柚子が、杏を元気付けた。

 

 その時、校門の方から野太いマフラーサウンドが響き、メンバーの視線が校門の方へと向けられる。

 視線の先からは、深緑の車体を持つ側車付きバイクが姿を現した。

 

「しょく~~ん!久し振りだな~~!!」

 

 そのバイクには、ヘルメットを取った紅夜が乗っていた。

 マフラーサウンドを上回る声でそう言いながら、紅夜が乗る陸王が近づいてくる。

 そして、メンバーの前でバイクは停車し、紅夜はバイクから降りるとエンジンを切る。 

 

「よぉ、紅夜!3週間ぶりだな!」

「おう、達哉」

 

 真っ先に達哉が紅夜に近寄り、再会を喜ぶ。

 それに続いて、他のレッド・フラッグの面々が駆け寄っていった。

 

 

 

 

 

 

「あれ?そういや静馬と雅は?もしかして欠席か?」

 

 少し経って、静馬と雅が居ない事に気づいた紅夜は、辺りを見回しながら訊ねる。

 

「ああ、静馬ならさっき、雅を連れて格納庫に…「此処に居るわよ、紅夜」…って、何時の間に!?」

 

 先程の出来事について話そうとした大河だが、その後ろに静馬が居た事に驚き、飛び退いた。

 

「久し振りね、紅夜」

「ああ、静馬。久し振り。入院生活の初日辺りじゃ世話になったな」

「気にしないで。初日ぐらい付き添ってあげた方が良いと思ってやっただけだから」

 

 先程までドス黒いオーラを放っていたのが信じられない程に優しげな笑顔で言う静馬に、紅夜は微笑んだ。

 

「そう言ってくれると、此方としても気が楽だぜ………そういや、雅は?」

「格納庫よ。ちょっと立ち話をしたからね、疲れて休んでるんじゃない?」

「へぇ~」

 

 そんな返事を返すと、静馬は1歩近づいてきた。 

 

「それよりも紅夜、貴方にも少し話があるんだけど、良いかしら?」

「ん?別に良いけど………………何の話だ?」

「此処だと周りに聞かれてしまうから、格納庫に行きましょう」

「雅が居るじゃねぇか」

「出てもらえば良い話よ………………ホラ、行きましょう?」

「はいはい」

 

 そうして、紅夜は先に陸王のキーを抜いてポケットに入れ、静馬に続いて格納庫に入っていき、少ししてから雅が出てきて、格納庫の扉がゆっくりと閉められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私に散ッ々寂しい思いさせといて、バイクの免許取ってたですってぇ!?ふざけてんじゃないわよ!この馬鹿ァァァァァアアアアアアアッ!!!」

「すッ………スンマセンでしたァァァァアアアアアアアッ!!!」

 

 その後、格納庫の中から、そんな声が聞こえたとか違うとか………………


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