ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第15章~RED FLAGの付喪神、全員集合の巻!~
第123話~船旅の後、新たな付喪神です!~


「大洗の学園艦か………久し振りだなぁ………」

 

 連絡船に乗り入れた紅夜は、中の駐車スペースを徐行しながらそう呟いた。

 

「そうだね。ご主人様が入院したのが1週間で、免許を取るのにかかったのが丁度2週間。計3週間だもの。皆心配してると思うよ?」

 

 サイドカーのシートに座る黒姫がヘルメットを両手で押し上げながら言った。

 

「ははっ、そりゃ嬉しいな。俺なんて何処でも生きていけるような奴だから、誰かに心配なんて、されねぇモンだと思ってたよ」

「でも、お母様にはあれだけ抱き締められてたじゃない。普通、彼処までしないよ?」

 

 黒姫がそう言うと、紅夜は苦笑を浮かべた。

 

「まぁ家のお袋、未だ完全に子供離れ出来てないからなぁ」

「“子供離れ”?“親離れ”じゃなくて?」

「ああ、“子供離れ”だ」

 

 聞き返してくる黒姫に、紅夜は頷いた。

 

「親父からは、『少し甘すぎる』って言われてたらしいぜ」

「私が言って良い事かは分からないけど………………激甘だよ、あれは」

 

 そんな会話を交わしていると、2人は誘導係の男性に会う。

 彼の指示に従い、紅夜はバイクの駐輪スペースに陸王を停めた。

 

「さて黒姫。今は午後6時で、大洗の学園艦に着くまで後5時間あるが………………どうする?」

「私は部屋に行きたいな。ご主人様と寝たい」

 

 黒姫がそう答えると、紅夜はガクリとずっこけそうになった。

 

「寝るってお前…………まぁ、一応休憩するための部屋があるにはあるんだが…………」

「じゃあ行こうよ!ホラ、早く!」

 

 サイドカーから降り、黒姫は紅夜の右腕を抱いて引っ張る。

 

「分かった分かった。キー抜くからちょっと待ってろ」

 

 紅夜はそう言って、前輪付近の鍵穴に差し込まれていたキーを抜いてズボンのポケットに入れると、黒姫に引っ張られて中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「此処が個室か~、何かホテルみたいだね~」

 

 受付で部屋の鍵を受け取り、2人は係員によって案内された個室へと足を踏み入れた。

 

「ホテルみたいって…………お前、ホテル行った事なんて無かったよな?」

 

 その問いに、黒姫は頷く。

 

「うん、無いよ?でも、ホテルの部屋もこんな感じなんでしょ?シャワー室があったり、テレビやベッドがあったり」

「まぁ、合ってはいるんだけどな」

 

 紅夜がそう言うのを他所に、黒姫は靴を脱いでベッドに飛び込んだ。

 

「フッカフカ~♪」

 

 黒姫はそう言って、気持ち良さそうな表情を浮かべながら何度も寝返りを打つ。

 紅夜はそれを見て微笑し、荷物を置いて椅子に腰かける。

 

「ふぅ~……落ち着くなぁ………」

 

 部屋を見渡しながら、紅夜はそう呟く。

 

「そう言えば、この船ってレストランとかは無いの?」

「あのなぁ黒姫。これはあくまでも連絡船で、豪華客船とかじゃねぇんだ。一応売店はあるだろうが、流石にレストランはねぇわ」

 

 レストランは無いのかと言い出した黒姫に紅夜が言うと、黒姫は残念そうな表情を浮かべる。

 

「そんな面すんなよ黒姫。帰ったら美味い飯作ってやるから」

「ホント!?」

 

 突然起き上がり、目を輝かせながら聞いてくる黒姫に驚きながらも、紅夜は頷いた。

 

「ああ、ホントだ。だからもう少し我慢しろよ?」

「うん!」

 

 元気良く返事をする黒姫に、紅夜は幼い頃の自分を重ねる。

 

「(俺もガキの頃は、こんなにも無邪気だったのかねぇ………その辺、親父やお袋に聞いときゃ良かった)」

 

 内心でそう呟きながら、紅夜はスマホを取り出して時間を見る。

 

「(未だ6時半か、大して時間経ってねぇな)……ふわぁ…………」

「ご主人様、眠いの?」

 

 ベッドの布団に潜っていた黒姫が、ひょっこり顔を出して言う。

 

「ああ、少しな…どうせだから少しだけ寝ようかな」

 

 紅夜はそう答えると、テーブルに突っ伏して寝ようとするが、ベッドから出てきた黒姫が阻んだ。

 

「そんな寝方じゃ駄目だよ。ホラ、此方来て。一緒に寝よ?」

 

 そう言って、黒姫は紅夜を立たせてベッドに連れていくと、そのまま押し倒した。

 

「うおっと!?………ちょい黒姫、急に押し倒すのはねぇだろ……ってオイ!?」

 

 紅夜が言い終わるのも聞かず、黒姫もベッドに倒れ込み、紅夜を抱き締める。

 

「お、おい黒姫…………」

「良いから良いから」

 

 そう言いながら、黒姫は掛け布団を自分達にかぶせ、再び紅夜を抱き締め、自分の胸に顔を埋める。

 

「このまま、学園艦に着くまで………寝よ?」

「………………分かった」

 

 時間になるまで解放される気配が感じられない紅夜はそう言って、ゆっくり目を瞑ると、やがて寝息を立て始めた。

 それを見た黒姫は、幸せそうな表情を浮かべながら紅夜の頭を撫でる。

 

「(スヤスヤ寝てるご主人様……可愛い………試合の時は凄くカッコいいのに、寝る時はこんなに可愛くなるなんて…)……んうっ」

 

 撫でられているのが気持ち良かったのか、紅夜は黒姫の胸に顔をすり付ける。

 それを感じた黒姫は、頬を赤く染めた。

 

「(今の私、凄く幸せだよ……ご主人様に、甘えられてる………大好きなご主人様を、こんな近くで、独り占めしてる…)」

 

 紅夜への愛しさを募らせ、さらに強く抱き締める黒姫。

 真っ赤に染まった頬は、だらしなく弛んでいた。

 

「んっ…ふわぁ~………」

 

 幸せそうに寝ている紅夜をみていたからか、黒姫にも睡魔の誘いが訪れる。

 

「未だ時間はあるだろうから、私も寝ようかな………おやすみ、ご主人様………愛してるよ」

 

 小さくそう言って、黒姫も微睡みに身を任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《皆様、間も無く大洗女子学園学園艦に連絡致します。お降りの方は、お忘れ物のこざいませんよう、お気をつけください。繰り返します。間も無く………………》

 

 

「んっ…んん~~っ!………もう直ぐ着くんだ~」

 

 艦内アナウンスで目が覚めた黒姫は、起き上がって伸びをすると、ベッドから降りて、未だに寝ている紅夜を揺する。

 

「起きて、ご主人様。もう直ぐ着くよ」

 

 そう言いながら揺すると、紅夜の両目がゆっくり開かれる。

 

「ん~?もう直ぐ着くってぇ~?」

 

 未だ完全には起きていないため、紅夜は若干寝ぼけながら言う。

 

「そうだよ。だから早く行こうよ…………ホラ、早く起きるの!

  

 そう言って、黒姫は掛け布団を剥ぎ取り、紅夜を起こす。

 

「おいお~い、寝起きの人間に向かってそれはねぇだろ~」

 

 そう言いながら、紅夜はゆっくり向きを変えてベッドから降りると、寝惚け眼な目を擦りながら部屋を見渡して忘れ物の有無を確認すると、サブバッグを持ってドアへと歩き出し、黒姫と共に部屋から出て駐車場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、それでは行くか!」

「うん!」

 

 移動中に目が覚めた紅夜は、陸王のエンジンをかけてそう言い、黒姫も返事を返した。

 

 続々と駐車場から出ていく車の列に並び、ゆっくり進んでいく。

 そして遂に、紅夜が操縦する陸王は、初めて大洗学園艦の地を踏み締めた。

 

「よぉ~し!帰ってきたぜ~!」

 

 紅夜はそう言いながら、陸王のアクセルを吹かす。陸王のマフラーは大きく振動し、白煙が噴き出される。

 

「ご主人様、喜ぶのも良いけど早く家に行こうよ。お腹空いちゃった」

「はいはい、分かってるって」

 

 腹を擦って空腹を訴える黒姫にそう返して、紅夜は3週間ぶりの我が家を目指して陸王を走らせた。

 

 

 

 

 

 

「………………あれ?何かおかしくね?」

 

 家に到着し、空いているスペースに陸王を停めた紅夜は家を見てそう言った。

 

「そう?何もおかしい所なんか無いと思うんだけど」

「いやいや、何言ってんだよ黒姫。リビングに明かりが点いてる時点でおかしいと気づけよ」

 

 家にパンターとイージーエイトの付喪神が居る事を全く知らない紅夜は、黒姫にそうツッコミを入れる。

 恐る恐る家に近づいてドアノブに触れると、一応鍵はかかっていた。

 

「………鍵かかってる。もしかして、輝夫のオッチャン辺りが遊びに来たのかな?でも、オッチャン等に家の鍵なんて渡したっけ?」

 

 紅夜はそう呟きながら、サブバッグから家の鍵を取り出して鍵穴に差し込み、ドアのロックを解除して家に入る。

 

「(取り敢えず、もしリビングに居るのが泥棒とかだったら、ソッコーでぶちのめして家から叩き出せるようにしておくか)」

 

 最悪の場合を考えた紅夜は、玄関で靴を脱ぐと、戸棚から除雪用で使っていた金属製の大型シャベルを持ち出し、肩に担いだ。

 そのまま忍び足でリビングのドアに近づくと、中の者に気づかれないよう、ゆっくりとドアを開けた。

 

「あら、お帰りなさい」

「………………は?」 

 

 リビングに入ると、軍服らしき服に身を包んだ金髪碧眼の女性が紅夜に気づき、声をかけてきた。

 訳が分からず、紅夜はその場で立ち尽くす。

 

「ただいま、レッド2。ご主人様が帰ってきたよ~」

「そんなの見れば分かるわよ、レッド1」

 

 後からリビングに入ってきた黒姫は、その女性と普通に話をしている。

 

「ちょ、ちょっと待て黒姫。その娘と知り合い?」

「そうだよ?」

 

 紅夜の問いに、黒姫は平然と答える。

 

「………………もしかしてレッド1、コマンダーに私達の事話してないわね?」

「ゴメン、忘れてた」

 

 ペロリと舌を出して言う黒姫に、レッド2は額に手を当てて盛大に溜め息をついた。

 

「おっ、遂に帰ってきたんだなぁ。待ちくたびれて寝るところだったぜ」

 

 今度は後ろから声をかけられ、紅夜はその方へと振り向く。

 其所には赤い眼帯を着けているレッド3が立っていた。

 

「………取り敢えず、お前等………………誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“パンターとイージーエイトの付喪神”?」

 

 あれから少し経ち、撃退用に持ってきたシャベルを玄関の戸棚にしまって、黒姫含む3人と向き合って床に座った紅夜は、黒姫に2人の紹介をされていた。

 

「そう。因みにこの2人も、6年前からご主人様達の事見てたんだよ?」

「マジっすか………………つーか黒姫、なんで早く言ってくれなかったんだよ?」

「ゴメンね。ご主人様を驚かせたかったの」

 

 ジト目で見ながら言う紅夜に、黒姫はそう返した。

 

「成る程ね、まぁ良いけどさ………………ん?そういやお前等、何かレッド2とかレッド3とか言ってたな…………もしかして2人……ちゃんとした名前ねぇの?」

 

 紅夜がそう訊ねると、レッド2とレッド3は頷いた。

 

「私達付喪神の存在に気づいたのは貴方が初めてだったからね。自分で名前つけるのも微妙な気分だったから、こうやって呼び合ってたの」

「へぇ~……」

 

 相槌を打つ紅夜に、黒姫が提案した。

 

「ねぇ、ご主人様。どうせだから、この2人にも名前付けてあげてよ。私に“黒姫”って名前を付けてくれた時みたいに」

「おっ、そりゃ良いな!是非とも頼むぜ!」 

 

 黒姫の提案に、レッド3はかなり乗り気だ。レッド2も、名前を付けてほしそうな目を向けている。

 

「別に良いけど………俺で良いのか?自分等で決めたいとかは………?」

 

 紅夜はそう訊ねるが、2人は首を横に振った。

 

「そっか……分かった。それじゃあ少し考えさせてくれ。また降りてくるから」

 

 紅夜はそう言って、サブバッグを持ってリビングから出ていくと、自室に戻ってクローゼットに着替えをしまい、ベッドに腰かけて考え始めた。

 

「(それにしても、まさか此処でレッド・フラッグの戦車の付喪神が全員集まるとは思わなかったな……黒姫の時は何と無く思い付いたのを彼奴が気に入ったから良かったけど、2人がどんな反応するか分からんからなぁ。命名ってのは難しいモンだなぁ…………)」

 

 そうしていると、不意にレッド2の服装が思い浮かんだ。

 

「(そういやレッド2が着てた軍服みてぇなの、ドイツの軍服っぽかったな。なら、ドイツ人らしい名前付けたら喜んでくれるかな…レッド3は……シャーマンの付喪神なのにアメリカっぽくない。どうすりゃ良いんだよ…………)」

 

 紅夜は2人の名前に頭を悩ませた。

 時にはスマホを取り出して、彼女等の名前の参考になりそうなものを調べたりした。

 

 それを紙に書き留めていると、1人分の名前にノート1ページ分を使用していた。

 

「えーっと、レッド2のが“レーヴェ”、“ビスマルク”、“エリカ”“ユリア”………………って、ドイツの軍服みてぇなの着てたからか、殆んどドイツ人の名前になっちまった。日本人らしい名前なんて殆んどねぇじゃん」

 

 そう呟くと、今度は隣のページ、レッド3の名前候補が書かれてあるページへと視線を移した。

 

「えー、“七花(しちか)”、“シャーリー”、“アメリア”、“メイフィス”、“レイナ”………………服装が服装だからか、レッド2よりかは日本人っぽい名前が多いな。つーか一向に決まらねぇ………………ぬぉ~、どうすりゃ良いんだよ~!!」

 

 紅夜はそう言いながら、頭を抱える。

 黒姫の場合は、咄嗟に出た名前を黒姫が気に入ったためにあっさり決まったが、今は咄嗟の一言を出すような場面ではなく、真剣に考えなければならないのだ。

 

「こんなに悩んだの、レッド・フラッグでの小編成チームの名前考えた時以来だぜ」

 

 そう呟き、再びノートに目を向けようとすると、不意にドアがノックされた。

 

「ん?」

「ご主人様、私だけど入っても良い?」

 

 ドアをノックしたのは黒姫だった。

 

「おう、別に良いぞ」

 

 ドアに向かって言うと、黒姫達3人が入ってきた。

 

「どうかしたのか?皆して部屋に来るなんて」

「ご主人様、2人の名前を考えに行ってからは全然降りてこなかったでしょ?だから、様子を見に来たの」

 

 黒姫はそう答えると、ベッドに置かれていたノートを拾い上げる。

 2人もノートを覗き込み、自分の名前のために丸々1ページ使用されているのを見て目を見開いた。

 

「いやぁ~、その………悪いんだけど、未だ考え付いてないんだわ。中々良さそうな名前が決まらなくてさ」

 

 紅夜はばつが悪そうに言うが、当の2人は、ひたすらノートに書かれた自分の名前の候補に目を通していた。

 

 すると、レッド2が紅夜の方を向いて言った。

 

「ねぇ、コマンダー。赤ペンとか持ってる?」

「赤ペン?あるけど………………ホラ」

 

 紅夜は机に向かうと、筆箱から赤ボールペンを取り出して投げ渡す。

 レッド2は見事に受け取ると、何やらノートに丸をつけ、ボールペンを渡されたレッド3も、同様に丸をつける。

 

 そして、呆然と様子を見ている紅夜の前に、そのノートを見せた。

 

「私は、この名前が良いわ」

「俺はこれだな」

 

 そう言って、2人は先程渡されたボールペンで丸をつけた名前を指差した。

 

 レッド2は“ユリア”、レッド3は“七花”だった。

 

「…………本当に、それで良いんだな?」

 

 紅夜がそう訊ねると、2人は同時に頷いた。

 

「そうか………ならレッド2。今日からお前はユリアで、レッド3は七花だ。改めて、宜しくな」

 

「「ええ(おう)!」」

 

 こうして、2人の名前がめでたく決まり、黒姫とも、互いに名前を呼び合う事になった。

 

 

 

 

 その後、紅夜の事を“ご主人様”と呼ぶ黒姫と、“コマンダー”と呼ぶユリアに対して、七花が紅夜をどう呼べば良いのかと言い出し、自分の呼び方に大して拘りを持っていない紅夜は、『好きなように呼べば良い』と言ったため、『どのように呼ぶかが決まるまでは、“紅夜”と呼ぶ』と言う事で話をつけた。

 

 

 

 その後、ユリアと七花は綾の部屋に行き、紅夜は黒姫と共に眠りについた。


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