ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

124 / 161
第119話~鉄の竜騎兵、覚醒の咆哮です!~

「んぅ~~!…………あー、良く寝た」

 

 午前6時、自然に目が覚めた紅夜は、寝転がったまま伸びをした。

 カーテンの隙間からは朝の日差しが差し込んでおり、小鳥の囀ずりさえ聞こえてくる。

 起きるにはうってつけのシチュエーションだった。

 

「さてと、起きますかね」

 

 紅夜はそう呟きながら、未だ眠気が残っているためか、上手く開かない目を擦りながら起き上がろうとする。

 その時だった。

 

「んぅ……あぁっ」

「………………ん?」

 

 自分の真横から、妙に艶がかかった声が聞こえてくる。

 声が聞こえた方へと顔を向けると、其所には自分を抱き枕にして寝ている黒姫の姿があった。

 

「(黒姫…………俺が寝てる間に抱きついてきたのか)」

 

 そう予想を立てた紅夜は、黒姫を起こさないように注意しつつ、布団から抜け出そうとするのだが………………

 

「んぅ……ご主人……さまぁ……行っちゃ…やだぁ………」

 

 まるで、寝ていながらも紅夜の行動を感じ取っているかのように、黒姫が回している腕に力を入れて、一層強く抱きついてくる。

 それによって、服の上からでも分かる豊満な胸が紅夜の脇腹に押し付けられ、卑猥にひしゃげる。

 

「(黒姫の奴、寝てるとは言え無防備すぎやしねぇか?これが俺だったから良かったが、他の男だったら間違いなく襲われてるぞ)」

 

 内心でそう呟きながら、紅夜は黒姫を起こさないように注意しつつ拘束を解き、ゆっくり起き上がると、横向きで眠る黒姫を仰向けに寝かせ、そのまま部屋から出て1階のリビングへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、こうちゃん。おはよう」

 

 リビングに着くと、既に起きていた幽香が朝食を作っていた。

 

「おはよう、お袋」

 

 紅夜はそう返すと、椅子に腰掛けた。

 

「昨日は良く眠れた?」

「ああ。今までベッドだったのから布団に変わったけど、案外直ぐに眠れたよ」

 

 朝食を乗せたお盆をテーブルに置き、其処から紅夜の前に並べながら聞いてくる幽香に、紅夜はそう答える。

 

「いただきます」

 

 そう言うと、紅夜は朝食を食べ始めた。

 

「………………うん。久々だからか、一層美味く感じるよ」

「そう?それは良かったわ」

 

 幽香は嬉しそうに言うと、台所に戻ろうとするが、紅夜の一緒に居る筈の人物が居ない事に気づき、不思議そうに言った。

 

「こうちゃん、黒姫ちゃんは?昨日一緒に寝たんでしょ?」

「ああ、黒姫なら未だ寝てるよ。俺が先に起きたんだけど、何かスッゲー気持ち良さそうに寝てたから、そのまま置いてきた」

 

 そう答え、紅夜はおかずの味噌汁を啜る。

 

「そうなの………………でもこうちゃん、黒姫ちゃんに抱きつかれてたんでしょ?良く抜け出せたわね?」

「ああ、別にあのくらい大したモンじゃなかったから、直ぐに抜け出せたよ………………てかお袋、なんで抱きつかれてたの知ってんだよ?」

「え!?……そ、それは…………その……」

「………………?」

 

 『昨日、2人が一緒に寝てるのを覗いてました』なんて言える筈が無く、幽香は返答に困った。

 

「そ、それよりこうちゃん、この後はどうするの?何処か出掛ける?」

「いや、誤魔化すなよお袋………………どうせ、昨日か朝のどっちかで覗いてたんだろ?」

「ギクッ」

 

 話題を摩り替えて誤魔化そうとしたものの、どうやら既にバレていたらしく、あっさりと図星を突かれる。

 

「うぅ~、分かってるのに聞くのは酷くない~?」

 

 不満げに頬を膨らませながら紅夜を睨む幽香。だが、その両目に小さく涙が浮かんでいるために恐さなど皆無で、寧ろ可愛く見える程だった。

 

「ゴメンゴメン。だってお袋、こう言う時の反応がスゲー面白いから、つい」

「『つい』じゃないわよ、もうっ」

 

 笑いながら言われた幽香はプイとそっぽを向き、台所に戻っていった。

 

「おいおい紅夜、あんまり幽香を苛めてやんなよ」

 

 そう言いながらリビングに入ってきたのは豪希だった。

 

「はよーっす親父。今日は何時もより寝坊助なんだな」

「ああ、今日は仕事が休みだからな」

 

 そう言うと、豪希は紅夜と向かい合う席に座る。

 

「あら。おはよう、アナタ」

 

 豪希がリビングに入ってきたのに気づいた幽香が、台所から出てきて豪希に近づく。

 

「ああ、おはよう幽香。今日も今日とて美人だな」

「フフッ、ありがと♪」

 

 そう言いながら、豪希の頬にキスをする幽香。

 

「待っててね?今から朝御飯作るから」

 

 そう言うと、幽香は再び台所に戻っていった。

 

「やれやれ、この激甘ペアレントは………見た目の割には歳いってんだから、少しは自重してくれねぇかな……」

「それは無理な注文だな」

「そうよ?愛しい人とは、何時までもラブラブで居たいもの♪」

「はいはい、そうですか………………ご馳走さま」

 

 何時もの事であるためか、紅夜は諦めたように言うと、空になった食器を纏めて流し台に持っていく。

 

「あら、偉いわねこうちゃん。ちゃんと自分で持ってくるなんて」

「あのなぁ………子供扱いしないでくれよ…………」

 

 紅夜の頭を撫でながら言う幽香に、紅夜は溜め息混じりにそう言うと、食器洗いを再開しようとする幽香の手を制して言った。

 

「それとお袋。食器洗いは俺がやっとくから、親父とイチャついてなよ」

「あら、そう?じゃあお言葉に甘えさせてもらうわね」

 

 そう言うと、幽香はタオルで手を拭いて台所から出ると、豪希の隣に座って料理を食べさせ始めた。

 

「………やれやれ………」

 

 口ではそう言いながらも笑みを浮かべながら、紅夜は食器洗いを再開しようとしたが、其処でドタドタと騒々しい音が聞こえてきた。

 

「(この音………………彼奴だな)」

 

 紅夜がそう思った瞬間、リビングのドアが勢い良く開け放たれ、黒姫が飛び込んできた。

 

「ご主人様!なんで起こしてくれなかったのよぉ!?」

 

 台所に立つ紅夜の姿を視界に捉えるや否や、真っ先に向かってきて問い詰める黒姫。

 

「い、いやぁ~、お前がスゲー気持ち良さそうに寝てるから、邪魔するのも悪いかと思ってな」

「嘘仰有い!学園艦に居る時は普通に起こしてきたのに!」

「………………」

「目を逸らさない!」

 

 台所で漫才を繰り広げる2人を、豪希と幽香は微笑ましそうに眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから暫くして食器洗いを終えた紅夜は、家に置いていた普段着に着替えていた。

 黒姫は普段通り、白い装束のような服を着ている。

 

「さて、それじゃあ彼奴に会いに行きますかね」

 

 半袖の黒いシャツにジャーマングレーの長ズボンを履いた紅夜は1階に降りると、そのまま家を出る。

 それに続いて、黒姫も出てきた。

 

「ご主人様、髪結んでないけど良いの?」

 

 黒姫はそう言って、ロングストレートになっている紅夜の緑髪を指差した。

 

 知っての通り、紅夜の髪は男性にしては非常に長く、普段は結んでポニーテールにしている。

 だが今日は結んでいないため、腰まで伸びる緑髪全部が風に靡いていた。

 

「あー、良いの良いの。家の直ぐ前だし、問題無いって」

 

 紅夜はそう言うと、車の隣に置かれている“モノ”にかけられている大きめのシートを取る。

 すると、其所から深緑の車体を持つ1台のバイクが姿を現した。

 

 

 

 

 

――九七式側車付自動二輪車――

 

 昭和12年、大日本帝国陸軍で正式採用されたサイドカー付き軍用バイクである。

 アメリカのハーレーダビッドソン社製品のライセンス生産品であったオートバイ――『陸王』――に改良が加えられたものだ。

 不整地走行性能を向上させるため、オートバイ本体のみならず、側車の車輪も駆動すると言う二輪駆動式サイドカーと言う変わったスタイルを持ち、側車を外して、オートバイ単体としても使用出来ると言う、柔軟な運用が可能なバイクである。

 

「久し振りに見るなぁ~、コイツの姿は」

 

 紅夜はそう言いながら、陸王の周囲を歩き回る。

 深緑の車体にサイドカー、ハンドシフトのレバー。そして、フロントフェンダーの真上に取り付けられた、覆い付きの前照灯………………

 

「どうだ?久々に見る相棒の姿は?」

 

 最後に見た時と何ら変わらない姿を眺めていると、豪希と幽香が家から出てきた。

 

「ああ、昔見た時と全く変わってねぇよ」

「そりゃそうだ。何たってお前が来ねぇ間、コイツのメンテナンスは俺がやってたんだからな。感謝しろよ?」

 

 そう言いながら、豪希は陸王に近づいてくる。

 

「それじゃあ、早速エンジン始動させてみろ。ペットコックを開けたりするのはやっといたから、そのままエンジンかけても良いぜ」

「あいよ。サンキューな親父」

 

 そう言って、紅夜は陸王のシートに跨がる。

 キーを差し込んで回し、次にタンク中央部にあるメインスイッチを入れる。

 スピードメーターの数値が僅かに光り、それに感動していると、豪希が肩を叩いた。

 

「ん?どったの?」

 

 紅夜が訊ねると、豪希は右手の人指し指を立てて言った。

 

「良いか?キックは1発だ。それだけで良い」

「ああ、分かった」

 

 そう返すと、紅夜は車体右にあるペダルを蹴り、下へと押し込む。

 その瞬間、陸王のサイドバルブエンジンが唸りを上げる。

 

「スゲー!ホントに1発でかかった!」

 

 子供のように叫びながら、紅夜はアクセルスロットルのグリップを回して吹かす。

 

「さぁ、紅夜。久々にコイツのエンジン音を聞いて感動するのも良いが、先ずは…………」

「ああ、分かってるよ親父」

 

 そう言うと、紅夜は少しの間を空けて言った。

 

「大型二輪免許、ぜってぇ取ってみせるぜ!」

「その意気だ。じゃあ早速教習所に行くか!」

「おー!」

 

 紅夜はそう言うと、陸王のエンジンを切って家に飛び込むと、階段をかけ上がって自室に入り、何時のポニーテールに髪を結ぶと、その間に用意されていた車に飛び乗った。

 

「それじゃあ幽香、ちょっくら行ってくる!」

 

 運転席の窓を開けて言うと、豪希はアクセルを踏み込んで家を飛び出していった。

 

「「………………」」

 

 その様子を、幽香と黒姫は唖然として見送った後、家に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、教習所に着いた2人だが、紅夜の本人確認のための書類の用意を忘れ、一旦家に戻る羽目になったのは余談である。




 紅夜君の新たな相棒――陸王――の姿は、《ザ・コクピット》の《鉄の竜騎兵》での陸王(古代一等兵による修理終了後の姿)と考えてください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。