ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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 これで、紅夜君の入院生活編は最終回です!


第117話~退院の7日目、後編です!~

 紅夜の入院生活も、早いもので7日目………………即ち最終日を迎えた。

 後は迎えが来るのを待つだけとなった時に、遊びに来たと言うミカが昼食後に帰宅し、蓮斗と残りの時間を過ごそうとした紅夜の元へやって来たのは、何と黒姫だった。

 彼女がやって来た事に紅夜が驚いている傍らでは、蓮斗と雪姫が、実に半世紀以上ぶりの再会を果たしていたのだった。

 

 

 

 

「黒姫じゃねぇか。なんで此処に?」

 

 まさか黒姫が来るとは思わなかったのか、紅夜は目を見開いて訊ねる。

 

「なんでって………もう、決まってるでしょ?お迎えに来たのよ♪」

 

 黒姫はそう答えると、紅夜の右腕に抱きつき、自身の豊満な胸を押し付ける。

 

「ホラ、ご主人様。早く学園艦に帰ろうよ、皆待ってるよ?」

 

 黒姫はそう言って、紅夜の腕を引っ張る。

 暫く呆然としていた紅夜だが、漸く現在の状況を飲み込めたのか、ハッとして黒姫の方を向いた。

 

「あー、悪いが黒姫、俺は未だ退院は出来ねぇんだ。退院するのは夕方の予定だからな」

「え~?でもご主人様、もう腕とか大丈夫なんでしょ~?だったら早く帰ろうよ~」

 

 抱きついている紅夜の腕をブンブンと振りながら、黒姫はそう言った。さながら玩具を欲しがっている子供である。

 

「お前の気持ちは分かるが、病院の方から言われてるんだ。それに俺は………………ん?」

 

 退院しても、今度は免許を取らなければならないため、未だ学園艦には帰れないと言う事を伝えようとした紅夜だが、先程から静かな蓮斗が気になり、そちらへと視線を向ける。

 

 

 

 

 紅夜の視線の先では、蓮斗と雪姫が対峙していた。

 両者共に、驚愕のあまりに目を見開いている。

 それもそうだ。何せ彼等は、蓮斗が死んでから半世紀以上会っていないのだ。おまけに、普通死んだなら、もうこの世に現れる事は無い筈なのだが、蓮斗はこの世に存在している。

幽霊のように見えないのではなく、普通の人間としての肉体を持って………………

 

「れ……蓮斗…………なのですか…………?」

 

 目の前に居るかつての主の姿を視界に捉えた雪姫が、恐る恐る訊ねる。

 

「あ、ああ………………俺だよ、雪姫。《白虎隊(ホワイトタイガー)》隊長――八雲 蓮斗――だ」

「ッ!」

 

 雪姫の問いに、蓮斗は頷く。すると、雪姫の目がさらに見開かれたと思ったら、今度は両目に大粒の涙を浮かべ、その表情も、段々と歪んでいった。

 

「蓮斗…………蓮斗ぉ!!」

 

 慕う主の名を呼びながら駆け出した雪姫は、蓮斗の胸に飛び込んだ。

 

「うわっと!?」

 

 突然の突進に驚きながらも、蓮斗は雪姫を受け止めた。

 その胸板に顔を当てた雪姫は、顔を僅かに上へと向け、涙で視界が霞みながらも、自分が抱きついている青年の顔を見つめる。

 そして、それが自分の慕う主であると確認すると、その場の状況になど構う事無く、再び胸板に顔を埋めて泣き始める。

 

「良かった………………本当に、良かった!また………また会えた!蓮斗!蓮斗ぉ!」

 

 半世紀以上ぶりの再会を果たした嬉しさに、蓮斗の胸に顔を埋めて泣きじゃくる雪姫。

 もう離さないと言わんばかりに、彼の背中に回した両腕に力を入れて、彼の体を自分の方へと引き寄せ、顔を彼の胸に擦り付ける。

 

「雪姫……お前、なんで此処に…………?」

 

 自分の胸に顔を埋め、再会の嬉しさに泣きじゃくる雪姫を抱き止めながら、蓮斗はそんな声を上げた。

 

「れ、蓮斗……その人と知り合いか?」

 

 唖然とした表情を浮かべながら、紅夜がそう訊ねた。

 

「ああ。お前には、何れ言おうと思ってたんだがな…………」

 

 そう言葉を切り出すと、蓮斗は続けた。

 

「……コイツは、俺が現役時代に乗ってたティーガーの付喪神なんだよ。雪姫ってんだ」

 

 抱きつき、泣きじゃくる雪姫の頭を優しく撫でながらそう言うと、蓮斗は辺りを見回しながら言った。

 

「それもそうだが、何時までも此処で屯してる訳にゃいかねぇ。他の奴等に見られちまうかもしれんからな………………良し、また彼処に行こうぜ。ホラ、来いよ」

 

 蓮斗はそう言って、紅夜と黒姫に向かって手招きする。

 訳が分からず首を傾げている黒姫を他所に、その手招きの意味を悟った紅夜は、黒姫を連れて蓮斗に近づくと、右手で蓮斗の肩に触れ、左手で黒姫を抱き寄せる。

 

「きゃっ!?」

 

 突然抱き寄せられた黒姫は顔を真っ赤にするが、紅夜は気にせず、蓮斗に視線を向ける。

 それに蓮斗は頷き、瞬間移動で病院の裏へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほい、到着」

 

 病院の裏に転移してきた蓮斗がそう言うと、紅夜は彼の肩から手を離す。

 

「ふぅ…………あ、黒姫。悪かったな、いきなり抱き寄せて」

 

 そう言うと、紅夜は黒姫の腰に回した左腕を離そうとするが、黒姫は腕を抑え、動かせないようにする。

 

「………黒姫?」

 

 その行動の意図が分からず、紅夜は問い掛ける。

 

「も、もう少しだけ………このままで、居させて………………」

 

 顔を真っ赤にした黒姫が、紅夜の肩に頭を預けながら言う。

 

「そ、それと………………」

「ん?」

 

 さらに言葉を続けようとする黒姫に、紅夜は目線を向けた。

 

「出来るなら……もっと、強く抱いてほしいの………」

「あいよ」

 

 紅夜は適当な調子で答え、腰に回した左腕に力を入れ、黒姫の体を、自分の体の方へと強く寄せる。

 

「ああっ………」

 

 強く抱き寄せられた黒姫は、艶を含んだ溜め息を漏らす。

 そして、顔を真っ赤にしたまま、表情を緩ませた。

 

「ははっ、ラブラブだねぇお二方」

 

 それを見た蓮斗が笑いながら言う。

 

「さて、それもそうだが………………」

 

 そう言うと、未だ自分の胸に抱きついている雪姫へと視線を向ける。

 

「雪姫、俺との再会を喜んでくれるのは嬉しいが、そろそろ離れろ」

「嫌です。もう離れません」

「お前なぁ………………」

 

 即答で拒否され、蓮斗は苦笑を浮かべる。

 

「すまねぇな紅夜。コイツと再会出来たから、紹介してやろうと思ってたんだが…………」

「気にすんなよ蓮斗。お前と再会出来たのが余程嬉しいんだろうさ、今は甘えさせてやれ」

 

 すまなさそうに謝る蓮斗に、紅夜は笑って言った。

 

 

 

 

 

 

 

 そうしている内に時間は流れ、空が赤らんできた。いよいよ、紅夜が退院する時がやって来たのである。

 談笑している4人の元へ、1人の白衣を着て眼鏡をかけた男性が走ってきた。

 

「おーい、紅夜く~ん!」

「あ、扇先生」

 

 元樹である。

 駆け寄ってきた元樹は、それまでずっと走っていたのか、暫く肩で息をする。

 そして呼吸が落ち着くと、改めて紅夜の方へと向き直った。

 

「いやぁ~、君が中々病室に帰ってこないから、何処行ったのかと思ったよ~。まぁ、見つかったから良しとしようか」

 

 どうやら、ずっと紅夜を探していたらしい。

 それを聞いた紅夜は、すまなさそうな表情を浮かべた。

 

「心配かけてすいません、扇先生」

「いやいや、気にしないで。さっきも言ったけど、見つかったんだから良しとしようじゃないか………………そんな事より!」

 

 そう言うと、元樹は両腕を思い切り広げて言った。

 

「おめでとう、紅夜君!今この時をもって、君は晴れて退院だ!1週間お疲れ様!」

「おーっ、とうとうこの時が来たんだな!待ちくたびれたぜ!」

 

 元樹から告げられた退院の時に、紅夜は嬉しそうに言う。

 

「君の両親が迎えに来てるよ。さぁ行こう」

「はい!」

 

 そうして歩き出した一行だが、其処で元樹が、黒姫と雪姫の存在に気づいた。

 

「おや?その2人は、君のお見舞いに来た人かい?」

 

 そう訊ねる元樹に、紅夜は頷いて言った。

 

「ええ。まぁ、それはコイツだけですよ。そっちの人は、ただついてきただけのようです」

 

 紅夜はそう言いながら、黒姫と雪姫を順に見る。

 雪姫は、幸せそうな表情で蓮斗の右腕に抱きついており、黒姫も幸せそうに、紅夜の左腕に抱きついている。

 

「それにしても僕、最後まで紅夜君のハーレムぶりを見せられて1週間を終えたなぁ~。何故か知らないけど、君のお見舞いに来た人は、皆して僕に、『紅夜君の部屋は何処ですか?』って聞いてくるんだよ?毎回毎回、教えるの大変だったよ」

「それはそれは………………扇先生もお疲れ様でした」

 

 心底疲れたと言わんばかりの表情を浮かべながら言う元樹に、紅夜は苦笑を浮かべながらそう言った。

 そして駐車場に出てくると、其所には1台の5人乗りの乗用車のドアに凭れ掛かっている豪希と、此方に向かって、嬉しそうに手を振りながら走ってくる幽香の姿があった。

 

「こうちゃ~ん!退院おめでとう~!」

「うわっぷっ!?」

 

 駆け寄ってきた幽香に抱き寄せられた紅夜は、彼女の豊満な胸に顔を埋められる。

 

「んふふ~♪1週間の入院生活、お疲れ様~」

 

 そう言いながら、幽香は抱き寄せた紅夜の頭をくしゃくしゃと撫で回す。

 

「やれやれ………………幽香。気持ちは分かるが、人前でそれは流石に止めといた方が……って、蓮斗?」

「おっ、豪希じゃねぇか」

 

 人前でも気にせず、息子を抱き締める幽香を見かねたのか、苦笑しながら向かってきた豪希は、蓮斗に気づく。

 蓮斗も豪希に気づき、軽く手を上げて会釈した。

 

「お前………なんで此処に?」

「なァに、ただ暇だったから遊びに来ただけさ。まぁ、そろそろ帰るんだがな」

 

 不思議そうに聞いてくる豪希に、蓮斗はそう答えた。

 

「まぁ、何だ。退院おめでとう、紅夜」

「おう、サンキューな蓮斗」

 

 今更ながらに紅夜の退院を祝う蓮斗に、紅夜は軽く笑って礼を言った。

 

「んじゃ、俺達はこの辺で………行くぞ、雪姫」

「はい!」

 

 そうして歩き出した2人だが、突然雪姫が踵を返して紅夜の元へと歩み寄り、その顔をまじまじと眺めた。

 

「ん?どったの?」

「………………」

 

 首を傾げながら訊ねる紅夜だが、雪姫からの返答は無い。

 暫く無言で紅夜の顔を見つめていた雪姫だったが、やがて口を開いた。

 

「成る程。1週間前に私が感じた気配は、貴方の気配だったのですね。これは興味深い」

 

 そう言って微笑むと、雪姫は言葉を続けた。

 

「失礼ですが、お名前を伺っても?」

「え?………ああ、長門紅夜だ」

 

 いきなり名を聞かれた事に戸惑いながらも、紅夜は自らの名を名乗った。

 

「紅夜殿、ですね………うん、覚えました」

 

 そう言うと、雪姫は1歩下がる。

 

「申し遅れましたが、私の名は雪姫。《白虎隊(ホワイトタイガー)》においての隊長車――ティーガーⅠ――の付喪神をしている者です。以後、お見知り置きを」

 

 そう言って、紫色で短めのスカートの裾を軽く摘まんで会釈すると、そのまま踵を返し、前方で待っている蓮斗の元へと歩き出す雪姫だが、ふと立ち止まり、紅夜の方を振り向いて言った。

 

「何時の日か、貴殿方と再びお会いし、貴方のチームと戦える日が来る事を、楽しみにしています」

 

 そうして、今度こそ歩き出した雪姫は蓮斗に追い付き、そのまま彼の瞬間移動で、蓮斗と共に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、お世話になりました、扇先生」

「ああ。今度は入院とは違う形で会いたいものだね」

 

 それから少し経って、紅夜が退院する準備が整い、見送りのために残っていた元樹に挨拶した紅夜は、黒姫を伴って豪希達が居る車の元へとやって来た。

 

「先生に挨拶は済ませたの?」

「ああ、勿論だよお袋」

 

 そう答えると、今度は豪希が話し掛けてきた。

 

「紅夜、取り敢えず明日は、家でゆっくり休め。教習所に行くのは、明後日からでも良いだろう」

「そうするよ、親父」

 

 そうして、紅夜は車に乗り込もうとするのだが、其処で幽香が待ったをかけた。

 

「ちょっと待って、こうちゃん。聞きたい事があるんだけど」

「ん?何?」

 

 ドアに手をかけたまま、紅夜は聞き返す。

 幽香は紅夜の傍に居る黒姫へと目を向けて訊ねた。

 

「こうちゃんと一緒に居るその子………………誰なの?」

「………………あっ!!」

 

 彼女の紹介を忘れていた紅夜は、2人に黒姫の事を話すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「“戦車の付喪神”!?」」

「そう。俺がレッド・フラッグの戦車を見つけた時からずっと宿ってたみたいなんだよ」

 

 あれから少し経った。

 付喪神と言う存在が実在すると言う事に驚愕の声を上げる2人に、紅夜は説明した。

 

「はじめまして、お父様、お母様。黒姫と申します。日頃からご主人様………もとい、紅夜様にはお世話になっております」

 

 そう言って、黒姫は丁寧に一礼した。

 

「あらあら、立派なお嬢さんね」

「ああ、全くだ。こんなにも立派なお嬢さんが紅夜の嫁さんになってくれりゃあ、我が長門家も安泰だな」

「そんな、お父様ったら話が早すぎますわ。お嫁さんだなんて…………」

 

 そう言いながら、黒姫は顔を真っ赤に染め、頬に両手を当てて体をくねらせる。

 

「おい、紅夜。こんなにも良い子を捕まえたんだ、悲しませたら《DEAD BLAST(デッド・ブラスト)》喰らわすからな?」

「恐ェよ!つーか止めて!デッド・ブラスト喰らった俺間違いなく死ぬから!」

「そうか………………なら《宿命の砲火》で済ませてやるか」

「相変わらず容赦ねぇなオイ!」

 

 そんな会話を交わし、4人は車に乗り込むと、元樹に別れの挨拶をして東京の家へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから暫くして、神子が紅夜を迎えに来たのだが、既に東京へ帰ったと元樹に知らされ、泣く泣く学園艦へ向かう連絡船の乗り場へと向かったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

「(あ、神子姉にこの事言うの忘れてた………………まぁ、良いか)」

 

 最後で適当な紅夜である。









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