放課後、突然校内に鳴り響いた放送に呼び出された静馬達は、全く覚えのない、自分達が呼び出される理由に首を傾げながら、生徒会室の前に来ていた。
7人を代表するかのように、静馬が生徒会室のドアを叩く。
「どうぞ~」
ドアの向こうから、何とも間延びした返事が返される。
「失礼します」
そう言って、静馬はドアを開けて中に入り、それに続いて、残りの6人も中に入っていった。
「いやあ、急に呼び出したりしてゴメンね~。さあさあ、そんなトコで突っ立ってないで、座りなよ」
「は、はあ…………」
ペースの掴めない杏に戸惑いながら、7人はソファーに腰を下ろした。
「そんで7人は、学校生活楽しんでる?何か不自由とかはない?」
「え?」
静馬は、突然聞かれたことに戸惑いを見せた。
「あの……………いきなり何を……………?」
「あー、いやね?生徒会長として、一応その辺りの事については聞いておいた方が良いと思ってね~。それで、どうかな?」
そう言われ、静馬達は互いに顔を見合わせる。
「まあ、私は別に不自由とかは……………」
「私も、特に無いわね」
「「「「同じく」」」」」
静馬と深雪が言うと、残った5人も声を揃えて言う。
だが、少しの間を空けて雅が口を開いた。
「まあ強いて言えば、いきなり放送で呼び出すのはちょっと勘弁してほしいね…………あのオリエンテーションの時だってそうでしたし……………まあ、私達を呼び出した放送は兎も角、オリエンテーションをするなら予め、教師に連絡ぐらいはさせてほしいのですが……………」
「んー、それを言われるとツラいねぇ~。まあ、アレは急を要する事だったってことで、ここは1つ、多目に見てよ」
そう言う杏に、7人は取り敢えず、許すことにした。
「それで角谷先輩、どうして私達を呼び出したのですか?」
そして、深雪が本題に入るよう、杏に促すかのように言う。
「あー、それなんだけどね……………河嶋、例のアレ持ってきて」
「はい」
そうして、桃が机の引き出しから7枚のプリントを取り出すと、ソファーの前に置かれてあるテーブルの上に並べた。
「これは、この前提出した、選択科目のプリント、ですよね……………?これがどうかしたのですか?」
「またまた~、そんな事言っちゃってるけど、もう大体の察しはついてるんじゃないの~?」
そう陽気に言いながら、杏は静馬のプリントを手に取り、表側を7人に見せるようにして持つと、静馬が丸をつけた華道の欄に、指で『❌』を描き、代わりに戦車道の欄に、指で『○』を描いて言った。
「単刀直入に言うよ……………君達には、戦車道の方に入ってもらいたいんだ」
『『『お断りします』』』
「なっ!?お前達、会長の頼みを断ると……………ッ!」
「河嶋、良いから」
杏が言い終えるや否や、7人全員が声を揃えて拒否の言葉をぶつけた。
それを見た桃が何かを言おうとしていたが、杏がそれを遮るかのように声を出した。
「いやぁ、ゴメンね~。河嶋はちょっと気が短いんだ……………まぁそれにしても、まさか一斉に拒否られるとは思わなかったよ……………因みに聞くけど、何故断るんだい?オリエンテーションの時に言った通り、戦車道で優秀な成績を収めたら、スッゴい特典貰えちゃうんだよ~?それに、200日間連続で遅刻しても全部パーにしてもらえるし、単位は普通授業の3倍貰えるし、極め付きには学食の食券100枚も貰えるんだよ~?断るような要素なんて、無いと思うんだけどなぁ~」
おちゃらけた調子で言いつつも、静馬達が戦車道へ変えるようにしようとする杏に怪訝そうな表情を浮かべた静馬が口を開いた。
「私たちに言わせてもらえば、その特典が逆に怪しいんです。何故そこまでしてでも、戦車道に人員を欲するのですか?いくら力を入れるように言われたとしても、あれだけの特典を用意する必要なんて、無いと思うのですが?」
そう反駁するかのように静馬が言うと、杏は暫くの沈黙の後に口を開いた。
「まあ、アレだね……………上の事情ってことで、取り敢えずここは、納得してもらえないかな?」
「……………良いでしょう。ですが、一応私達を戦車道に引き込もうとする理由だけでも教えてください。でないと、いくら生徒会長が相手でも、私達はこれ以上は付き合うだけ無駄だと判断し、即刻帰らせていただきます」
そう静馬が言うと、杏は答えた。
「ウチの学校が戦車道を復活させたってのは、もうこの学校では誰もが知ってる事だよね?」
「ええ」
「でも、この学校での戦車道は大昔に廃止されたから、当然今の生徒の中での戦車道経験者なんて、普通なら居る訳がない」
だけどと付け加え、杏は言葉を続けた。
「そんな時、黒森峰から西住ちゃんが転校してきた。それでまあ、かなり無理矢理になっちゃったけど、戦車道に履修してもらった」
「それは知っています。私達が聞きたいのは西住みほさんの事ではなくてですね………ッ!」
「深雪、落ち着きなさい……………それで、どうだと言うのですか?」
声を荒げる深雪を落ち着かせ、静馬は続けるように促した。
すると杏は、机の上に置いてある1冊の雑誌を持ってくると、とあるページを開いて7人に見せた。
「これ見てよ」
「……………ッ!?こ、これは!?」
ページの写真を見た静馬は驚愕に目を見開き、他の6人も、信じられないとばかりに表情を驚愕に染める。
「これ見るまでは気づかなかったよ。君達があの有名なチーム、《RED FLAG》のメンバーだったなんてねぇ……………」
「………それが、どうしたと言うのですか?まさか、これをバラされたくなければ戦車道をやれとか、そんな子供染みた事を言い出すおつもりですか?」
そう言って静馬が睨むと、心外だと言わんばかりの表情を浮かべ、杏は両手を胸の前に出して振り、否定の意思を見せる。
「まさか、そんな事しないよ。だけど、君達が戦車道経験者だということで、戦車道に来てほしいってのはあるんだけどね…………一応今のところ、戦車道取ってる中での経験者は西住ちゃん1人しか居ないからさ。頼まれてくれると、ありがたいんだけどねぇ……………」
「そう言われましても困ります」
杏は言うが、静馬達は全く、意見を曲げようとしない。
「そもそも、私達の中に《RED FLAG》のリーダーは居ませんよ」
「え?」
「何?」
「ど、どういう事なの?」
生徒会メンバー3人同時に聞かれ、静馬は一瞬戸惑うも、話を始めた。
「我々レッド・フラッグのリーダーは、その雑誌に載ってるIS-2の直ぐ側に居る、緑髪の男です」
「あー、確かそうだったね……………それで、その子の名前は?」
「長門紅夜です。それで、私はその副隊長。よって最終的決定権は私ではなく、紅夜にあります。ですが、彼含むメンバーは、もう表舞台で戦う気はありません」
「うーん、そう来ましたか………………」
そうして、杏は顔を俯け、暫く考えるような仕草を見せていたが、次の瞬間には、何かを思い付いたらしく顔を上げて言った。
「じゃあさ、私達が、その紅夜君って子を説得して、彼が許可を出してくれたら、君達は戦車道を選んでくれる?なんなら、チーム全員来ても良いよ?いや、寧ろ来てほしい」
そう杏が言うと、6人は静馬の方を向く。
「ねえ静馬、どうする?」
「どうせ紅夜は拒否りそうだし……………やらせても良いと思うわよ?」
「まあ、私と千早は、そもそもスモーキーチームの男子が居なければ、ただ戦車を動かすだけしか出来ないし」
6人はそう言う。
それを聞いた静馬は、やがてゆっくりと頷いた。
「…………分かりました、それで構いません」
「じゃあ2日後の夕方、教官連れてソッチ行くね」
「場所は分かりますか?」
「まあ大丈夫でしょ、何とかなるさ」
そうして話し合いは終わり、静馬達は生徒会室を出て、家路についていた。
「ああは言ったものの、どうする静馬?」
「まあ決めているとは言え、実を言えば私、一応表舞台に出ても良いと考えそうになるんだけどね…………」
「まあ、気持ちは分かるよ深雪、私もそうだもの」
そう言う他のメンバーの意見を聞きつつ、静馬はどうするかを考えた。
「取り敢えず、紅夜には連絡を入れておきましょう。急に来られたら焦るだろうし、一応その日は、男子陣全員に集まってもらわないとだし」
そうして静馬はスマホを取り出し、ラインで紅夜にメッセージを送った。
「お?静馬からラインが来た……………って、マジかよ……………恐れていた事態が遂にマジになっちまったぞ。つーか、自棄にタイミング早いな、どっから情報が漏れた?」
「ん?どうしたよ紅夜?」
「何かあったか?」
そのメッセージは、ライトニングのメンバーで集まって遊び、その帰りにレストランに立ち寄っていた紅夜のスマホに届いていた。
苦虫を噛み潰したかのような表情で呟く紅夜に、達也が聞いた。
「実は、レッド・フラッグの事が大洗女子学園の生徒会にバレて、今日、生徒会メンバーからの接触があったらしい。静馬達女子陣に、『戦車道取ってくれ』って、態々校内放送で生徒会室に呼び出されてそう言われたんだとさ」
『『…………………マジで?』』
紅夜が言うと、達哉達3人が声を揃えて言う。
「ああ、大マジだ。んで2日後、生徒会の連中が俺等を勧誘しに来るらしいとさ。なんでも、俺が許可したら、静馬達は戦車道を選ぶとか何とかで」
「マジかよ、とうとうその時が来ちまったのか」
「つーか、今時の風潮の中で、よくまあ俺等纏めて引き込もうとか思えたよな、大洗女子学園の生徒会の連中も」
「まあレイガンだけなら未だしも、スモーキーとなれば大河とかが居なけりゃ始まらんもんな」
紅夜の言葉に、達哉、翔、そして勘助が神妙な表情で言った。
「取り敢えず、2日後だ。その日男子全員集まれるようにしておこう」
『『Yes,sir』』
紅夜が言うと、残りの3人が声を揃えて言った。
「俺は静馬に返事返しとくから、翔はスモーキーの男子陣に、2日後必ず集まるようにと、ラインでメッセージ送っといてくれ」
「オーライ、任せときなリーダー」
そうして、ライトニングの男子陣も動き出した。
『『(それにしても、スゲー事が起こったモンだよな~)』』
夕食を食べながらも、彼等は同じ事を考えているのであった。