ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第113話~お姉さんと妹分が来た6日目、前編です!~

 紅夜の入院生活も、早いもので6日目となった。

 何時もと何ら変わらない朝を迎えた紅夜は、病室を自室と勘違いする程に寛いでいた。

 

「う~ん!………………あー、良く寝た」

 

 ベッドの上にて起き上がり、思い切り伸びをしながら、紅夜はそう呟いた。

 

「今日で6日目か~、早かったような、短かったような………………」

 

 そう呟きながら、紅夜はベッドから立ち上がり、棚に置かれているテレビの電源を入れる。

 パチッと小さな音が鳴り、真っ黒だった画面が、ニュースキャスターとスタジオを映し出す。

 

「この番組、昨日も見たよな………………チャンネルそのままにしてたんだろうな」

 

 そう呟きながら、紅夜はベッドに腰掛け、その番組を見ていた。

 そして7時になると、再びベッドから立ち上がり、電源を消すと、食堂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、部屋に戻ってきたは良いが、この後どうするか」

 

 朝食を終えた後、久し振りに話し掛けてきた元樹に連れられて検査室に行き、検査を終えてから病室に戻ってきた紅夜は、ベッドに腰かけてそう呟いた。

 

「静馬や親父達、蓮斗やダージリンさんにケイさん、それからアンチョビさんと、クラーラさんとノンナさんが来てくれたんだっけな」

 

 そう呟きながら、紅夜は窓から外を見る。

 今日は晴れており、外で遊ぶにはうってつけの天気と言えた。

 

「外の天気はああだが、俺、この辺の地理とか全く知らねぇしなぁ……………聖グロリアーナと練習試合やった日、武部さんにこの辺りの事とか聞いときゃ良かったなぁ」

 

 紅夜は溜め息をつき、そのまま仰向けに倒れ込む。

 白い枕は、勢い良く落ちてきた紅夜の後頭部に押され、ボフンと音を立てる。

 

「暇だなぁ~………………」

 

 そう呟きながら、紅夜は気分を紛らせようと、ベッドで何度も寝返りを打つが気分は晴れないままだ。

 

「………………良し、退院して学園艦に帰ったら、戦車を思いっきり乗り回そう。いや、どうせだから、退院して直ぐにアンツィオチームと試合でもするか………いや、流石にそれは無理があるか」

 

 呑気に呟きながら、テレビをつけて午後の番組を見ようとした時、何時ものように、ドアをノックする音が聞こえてきた。

 

「ほーい、どうぞ~」

 

 閉められたドアに向かって、紅夜はそう返事をする。

 ドアがゆっくりと開き、其所から1人の女性が入ってきた。

 水色のワンピースを着ており、腰まで伸びた茶髪を持つ女性――沖海 神子――だった。

 

「こんにちは。久し振りね、紅夜君。神子お姉さんがお見舞いに来たわよ」

「おろ?神子姉じゃねえか」

 

 神子が来たのが意外だったのか、紅夜は驚いたような表情を浮かべた。

 

「あれ?そういや学園艦から此処に来る連絡船って、未だ無かったんじゃねぇの?静馬が大洗の学園艦に帰る際に、そんな事言ってたような気がすんだけど」

「ええ。此処に来る連絡船は、未だ無いわよ?明日……紅夜君が退院する日の夕方に来るわ」

「マジでか………………ん?ちょっと待て。じゃあどうやって来たんだ?まさか、艦載ヘリでも飛ばしてもらったのか?」

 

 紅夜がそう訊ねると、神子は首を横に振り、苦笑を浮かべながら言った。

 

「流石に、一個人の都合で艦載ヘリを飛ばしてもらう訳にはいかないわ」

「そっか。まぁ言われてみりゃそうだよな………………じゃあ、どうやって?」

 

 そう訊ねると、神子はベッドに手をつき、紅夜の耳元で言った………………

 

「………………泳いで来たのよ」

「嘘つけ」

 

………………が、あっさりと嘘を言ったのがバレた。それもそうだ。

 何せ神子には、遠泳の経験は無い。

 それに、学園艦から海に飛び込んだとしても、右も左も分からない状況ではどうしようもならず、そのまま引き揚げられるがオチである。

 

「フフッ♪冗談よ、冗談」

 

 そう言って、神子は言葉を続けた。

 

「実はね………………丁度静馬ちゃんが学園艦に帰る日、その時の連絡船に乗っていたのよ」

「………………マジで?」

「ええ。大阪の両親に、『久々に顔を見せろ』って言われていたの」

「へぇ~………じゃあ沖兄も?」

 

 紅夜がそう訊ねると、神子は頷いた。

 

「ええ。でも兄さんは、未だ大阪に居るわ。色々と回らなきゃいけないみたい」

「成る程な…………んで、神子姉が見舞いに来てくれたと」

「そう言う事になるわね」

 

 そう言うと、神子は壁とベッドの間に置かれている折り畳み式の椅子を引っ張り出し、ベッドの前で立てると、そのまま腰掛けた。

 

「それで、調子はどうなの?もう明日には退院なんだから、結構良くなっているんじゃないかしら?」

 

 そう聞いてくる神子に、紅夜は頷いた。

 

「ああ。入院1日目はかなり酷かったけど、今では平気だよ」

 

 そう言って紅夜は、今朝の朝食後の検査の事を話した。

 検査室にて、一度包帯を取り、肌の様子を見られたのだが、もう痣らしきものは残っておらず、レントゲンでの検査もしたが、完全に治っていたのだ。

 一応退院は出来るが、念のためと、退院する日は変わらなかった。

 

「………………と言う訳なんだよ」

「そう。じゃあ明日、迎えに来てあげるわ。学園艦に戻ったら、先ずは戦車道チームの皆に顔を見せないとね。皆、心配してるわよ?黒姫ちゃんなんて、特にね。連絡船に乗る前に会ったんだけど、私が本土に行くって言ったら追い縋ってきて、『私もつれていって!ご主人様に会わせて!』なんて言い出したんだもの」

「おお、マジでか…………」

 

 そう言って、紅夜は苦笑を浮かべた。

 

「まぁ、それから女の子2人に、家に連れ戻されたらしいけどね」

「女の子?なんでそんな曖昧な言葉使うんだよ?レッド・フラッグの女子陣の誰かじゃねぇの?」

「いいえ、少なくとも見覚えが無い女の子だったわよ?もしかしたら、パンターやイージーエイトの付喪神なんじゃない?フフッ♪紅夜君ったら、ホントにモテるのね♪普通の女の子にも、戦車にも」

「あははは、冗談は止してくれよ神子姉」

 

 苦笑を浮かべながら言う紅夜に、神子は微笑ましそうな眼差しを向けた。

 だが、その優しげな微笑みは、突然、妖艶なものに変わった。

 

「まぁ、それもそうだけど…………紅夜君……」

 

 頬を上気させた神子は、色気を含ませた声で言いながら、椅子から立ち上がり、ベッドに手をついた。

 

「え、何?ど、どったの神子姉?」

 

 急に態度を変え、誘惑するように迫ってくる神子に、紅夜はたじたじになりながら問い掛ける。

 

「ねぇ、紅夜君………久し振りに………『アレ』、してみない………?」

「ん?『アレ』?何だっけ?」

 

 神子が言う『アレ』の意味が分からないのか、紅夜は首を傾げる。

 

「あら、忘れちゃったの?昔、泊まりに来た時には毎朝してたのに………」

 

 神子は残念そうな表情を浮かべて言うものの、当の紅夜にはその記憶が無いらしく、ただ首を横に振るばかりだ。

 

「いやいや、マジで知らねぇって!何故か寝る時は何時も神子姉の部屋だったけど、特に何もされてな………………ん?」

 

 其処で何か引っ掛かるものがあるのか、紅夜の口が一瞬止まった。

 

「そう言えば、朝起きたら何故か、耳がベトベトに濡れてたような…………………いや、気のせいかな」

「いいえ。合ってるわよ、紅夜君」

 

 思い出した事を気のせいとして処理しようとした紅夜だが、神子が気のせいではないと言い張る。

 

「だって私………………紅夜君が寝てる内に、耳を舐めてたんだもの♪」

「ブフゥゥウウウッ!!?」

 

 そんなカミングアウトに、紅夜は盛大に噴き出した。

 

「うぉいっ!アンタ何してくれてんだよ!?あ、そういや思い出したが、ありゃ気のせいじゃねぇ!何かベトベトになってるって思ったけど、アレってアンタの仕業だったのかよ!?」

「ええ、そうよ。何か問題が?」

「問題大有りだっての!ありまくりで何から言えば良いのか分からんわ!」

 

 紅夜は、此処が病院であると言う事もすっかり忘れ、声を張り上げた。

 

「まぁまぁ紅夜君、黙ってたのは謝るから………それに、耳を舐めてた時の紅夜君、結構気持ち良さそうだったのよ………?」

 

 神子がそう言うと、紅夜はハイライトを失った目をして、頭を抱えてベッドに蹲った。

 

「その時の俺に、昔お袋に教わった《マスタースパーク》か、親父の《ビックバン・アタック》撃ち込んでやりてぇ……………!これで俺が変態キャラだって誤った認識が広がったら、マジでどうすんだよぉ………………!俺、一生外を歩けねぇよぉ……下手すりゃ自殺するかも」

「その時は私の家にいらっしゃい?ずぅ~っと愛してあげるから…………」

「もうヤだこの人」

 

 紅夜がそう言っている間にも、神子は迫ってくる。

 靴を脱いでベッドに上がり、紅夜の顔を上げさせると、その膝に左手をつき、右手で紅夜の左の髪をサラッと持ち上げる。

 

「相変わらず、可愛いわね…………病院だから、あまり大きな音は立てられないけど、少しだけなら、ね………?」

 

 そう言って、露になった紅夜の耳に唇を近づけようとした、その時だった。

 

 

 ドアをノックする音が聞こえてきたのだ。

 

「…………無粋な来客ね」

「そう言うなよ神子姉(助かった~、マジ助かった~)…………どうぞ~」

 

 口ではそう言いながら、本心では安堵の溜め息をつきながら、紅夜は入室を許した。

 ドアがゆっくりと開き、其所からボコのぬいぐるみを抱えた、髪をサイドアップにした小柄な少女――島田 愛里寿――が、ひょっこりと顔を出した。

 

「お兄ちゃん、お見舞いに来たよ……?」

 

 そう言いながら病室へ入ってくる愛里寿だが、神子が紅夜に迫っているのを見て動きを止める。

 

「おっ、愛里寿ちゃんじゃねぇか。見舞いに来てくれたのか?」

 

 そう言って、軽く右手を上げて会釈する紅夜だが、愛里寿からの返事は返されなかった。

 

「………………」

 

 暫く呆然としている愛里寿だが、やがて、紅夜と神子を交互に見て、不機嫌そうに頬を膨らませながら言った。

 

「お兄ちゃん……その女の人…………誰なの………………?」

「ちょい待とうか愛里寿ちゃん、何故に不機嫌なんだ?」

 

 紅夜はそう言うが、愛里寿はただ、不機嫌そうにしながら近づいてくる。そしてベッドの前で立ち止まり、紅夜に顔を近づけた。

 

「その女の人…………誰……?」

 

 まるで浮気現場に遭遇した妻のように言う愛里寿。

 紅夜は訳が分からぬまま、取り敢えず紹介する事にした。

 

「この人は沖海神子。俺のチームが現役だった頃、整備をしてくれた人なんだよ」

「はじめまして。えっと……愛里寿ちゃん、だったわよね?紅夜君が言ったように、私は沖海神子。レッド・フラッグ整備班のメンバーの1人よ。よろしくね」

 

 神子はそう言いながら、一旦紅夜から離れる。

 

「………島田…………愛里寿」

 

 神子が紅夜から離れたことに内心で安堵の溜め息をつきながらも、今度は人見知りな性格により、かなり小声での自己紹介となった。 

 そして愛里寿は、ぽてぽてと足音を立てながら紅夜に近づくと、そのまま抱きつく。

 

「………………?」

「ああ、ゴメンな神子姉。この子、かなりの人見知りなんだよ。最早コミュ症の域で」

 

 いきなりの愛里寿の行動についていけずに首を傾げている神子に、紅夜が冗談めかしてそう言うと、愛里寿は紅夜の服の袖を引っ張った。

 紅夜が目を向けると、愛里寿が不満げに頬を膨らませていた。

 

「私、コミュ症じゃないもん…………」

「あー、はいはい。悪かったって」

 

 適当な謝罪を入れながら、愛里寿の頭を優しく撫でる紅夜。

 

「んっ………………うぅ~」

 

 紅夜に撫でられ、気持ち良さそうに目を細める愛里寿だが、この場に居るのは自分と紅夜だけではない。(愛里寿からすれば)他人が居るのだ。それに気づいたら、流石に平常心を保ってはいられないだろう。

 それによる恥ずかしさを紛らせようとしたのか、先程よりも強く抱きついて顔を埋める。

 

「あらあら。照れ隠しに抱きつくなんて、可愛いわね………………」

 

 神子は頬に手を置き、微笑ましそうな眼差しを向けた。

 

「でも、こんな幼い子に対してやる事ではないけど…………」

 

 そう言いかけると、神子は愛里寿の反対側から紅夜を抱き締め、その豊満な胸に紅夜の腕を挟み込んだ。

 

「私だって、負けないんだから」

「………ッ!」

 

 宣戦布告とも呼べる神子の言葉に、愛里寿はハッとして顔を離すと、そのまま神子の方へと向ける。

 視線が合った瞬間、2人の間で火花が散った。

 

「いや、何の話?」

 

 間に挟まれている紅夜は、訳が分からず戸惑うだけだった。

 其処へ、ノックの音と共にドアが開き、元樹が入ってきた。

 

「失礼するよ、紅夜君。そろそろお昼ご飯の時間だから……って…………おやおや、邪魔しちゃったかな?」

「いえ、取り敢えずこの2人を何とかしてください」

 

 からかうようにして言う元樹に、紅夜は助けを求めた。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、抱きつく2人を離す事に成功したのは、それから約20分後の事である。




 おーい皆、ダイナマイトは持ったか?

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