ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第112話~伊露来日の5日目です!~

 朝6時30分、カーテンに覆われなかった僅かな隙間から射し込んでくる日光が、未だに寝息を立てている紅夜の顔に当たり、紅夜は大きな欠伸と共に目覚める。

 寝惚け眼な目を擦り、モゾモゾとベッドから起き上がると傍らの棚に置かれている電波時計を視界に入れる。

 

「今日で、入院生活5日目か………………」

 

 電波時計に表示されている日にちを見て、紅夜は呟いた。

 

「住み慣れたこの部屋とも、そろそろお別れの日が近づいてきたんだな」

 

 部屋を見渡しながら再び呟き、掛け布団を畳む。

 そして、ベッドから降りてスリッパを履き、思い切り伸びをする。

 それからベッドに身を乗せ、カーテンを開く。

 未だ7時にもなっていないのに、外はかなり明るかった。夏が近づいてきているのである。

 

「夏、か…………プールとか海とか行きたいな………………」

 

 そう呟きながら、棚に置かれているテレビの電源を入れ、その日の天気などの情報を得て時間を潰す。

 

「そういや、静馬にLINEするって言っときながら全くやってなかったな。退院してからグズられてもアレだし………………しゃーねぇ、やっとくか」

 

 そう言うと、紅夜は充電器に差していたスマホを充電器から抜き、電源を入れる。

 LINEのアプリを開くと、『静馬』と書かれているアイコンをタッチし、メッセージ画面を開いた。

 

「無難に『おはよう』的なメッセージでも送れば良いか」

 

 そう呟きながら、紅夜は文字のアイコンをタッチしてメッセージを送り始めた。

 

『よぉ、静馬。俺が入院してから5日経ったが、そっちはどうだ?因みに此方は普通だ。病院では、休日と何ら変わらない生活を送ってるよ。後2日もすれば退院出来るから、変な心配はしなくて良いって、他の連中にも伝えといてくれ   PS.もうそろそろテストの時期だと思うが、頑張れよ』

 

 そうして、メッセージを送信する。直ぐに既読が付かないのを見る限り、恐らく支度中か登校中でスマホを見れないのだろう。

 

 紅夜はスマホの電源を切る際、既に7時になっている事に気づき、朝食を摂るためにベッドから立ち上がり、何時ものように、食堂へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー疲れた………………まさか、昨日の事が病院の患者中に広がってるとは思わなかったぜ。皆一斉に此方向いてきやがった………俺が飯食ってる間、ずっと見てきやがって………」

 

 病室に戻ってきた紅夜は、疲れきった声で溜め息をつき、ベッドに倒れ込むと、そのまま寝返りを打って仰向けになった。

 

 あれから、食堂へと向かった紅夜は、到着して中に足を踏み入れた途端、既に食堂に来ており、朝食を摂っていた他の患者からの視線を一斉に浴びたのだ。理由は言うまでもなく、昨日、ダージリンとケイに食べさせられていた事についてである。

 そのため紅夜は、朝食を摂っている間ずっと、彼等からの視線を浴び続けたのだ。

 

「お陰で全く飯の味楽しめなかったしなぁ………クソッ、人の妬みってのは恐ろしいモンだな」

 

 愚痴を溢すように言うと、両手を後頭部で組んで枕代わりにする。

 

 今の紅夜には、『今日も誰かが見舞いに来てくれるのか、また、来るとしたら誰が来るのか』などと考える余裕は無くなっていた。

 

「もう良いや、昼間で寝てやろうかな」

 

 そう呟き、そのまま両目を閉じようとした時、ドアがノックされた。

 

「はーい?」

 

 食堂での疲れもあって、かなり気だるげな声で返事を返す。

 

「ああ、紅夜か?私だ、アンチョビだ。見舞いに来たのだが……今、大丈夫か?」

 

 ドアをノックしたのは、アンツィオ高校の『安斎 千代美』こと、アンチョビだった。

 紅夜は起き上がり、そのままベッドに腰かけると、返事を返した。

 

「ああ、良いぜ」

「じゃあ、お邪魔するぞ」

 

 紅夜の返答を受け、ドアが開かれ、アンチョビが入ってきた。

 

「久し振りだな、紅夜。元気にしていたか?」

 

 病室に入ってきたアンチョビは、右手を軽く上げて会釈しながら近づいてくる。

 

「ああ、お陰様でな…………しっかし、サンキューな。態々見舞いに来てくれて」

「い、いや。私は当たり前の事をしただけだ」

 

 礼を言われる事に慣れていないのか、アンチョビは少し顔を赤くしながら言った。

 

「そ、そう言えば紅夜。さっきは矢鱈と怠そうな返事だったが、具合でも悪いのか?」

「いや、実はな?」

 

 そう言って、紅夜は先程、食堂に行った時の事について話した。

 

 

 

 

 

 

「………………と言う訳なんだよ」

「それはそれは、お疲れさまだな」

 

 話すにつれて、表情に映る疲れの色が濃くなってくる紅夜に、アンチョビは苦笑を浮かべながら言った。

 

「それもそうだが、怪我の方は大丈夫なのか?かなり酷かったらしいが」

「まぁな。怪我した日はスゲー事になってたよ。顔の半分が血で赤く染まった上に、腕とか痣だらけだったからな………………まぁ、今となっては平気かな。俺としては退院しても良いと思うんだが、後2日間は此処に居なけりゃならんのさ………………って、アンチョビさんよ。『らしい』って何だよ『らしい』って?」

「えっ?………………ハッ!?」

 

 紅夜にそう言われ、アンチョビはしくじったと言わんばかりの表情を浮かべ、両手で口を覆った。

 

「アンチョビさん。お前もしかして、試合に来てないのか?」

「あっ、いや!その………………」

 

 怪訝そうな表情を浮かべた紅夜に訊ねられ、アンチョビは狼狽えた。 

 

 そう。勘の良い方はお気づきだろうが、アンチョビ率いるアンツィオ高校戦車道チームの生徒達は、決勝戦の会場に来たは良いものの、肝心の試合を見ていないのだ。

 その理由は、会場に一番乗りした時、あまりにも来るのが早すぎたために、時間を潰すために軽く宴会を開いたのだが、その際に全員疲れて眠ってしまい、そのまま寝過ごしてしまったからだ。

 その日の夕方、丁度みほ達が優勝旗を受け取ったところで目が覚めた彼女等は、試合会場に一番乗りしたのに肝心の試合を見れず、そのまま肩を落として帰ったと言うのは、彼女等としても記憶に新しい。

 

 

 

「………と言う訳なんだ。ゴメン、紅夜………………」

 

 それから少しして、隠そうとしても無駄だと思ったアンチョビは、事の一切を打ち明け、すまなさそうに頭を下げた。

 

「あーいや。別に良いんだけどさ」

 

 紅夜はそう言うと、顔を背けて肩を震わせた。

 

――怒らせた――

 

 そんな予想が、アンチョビの脳裏に浮かぶ。それもそうだ。

 

 何か重要な用事で行く事が出来なかったなら未だしも、『試合会場に一番乗りして、暇潰しに宴会したら疲れて眠ってしまい、そのまま寝過ごしたから見れなかった』なんて言われれば、怒るのも当然だ。

 

 両目を瞑り、何時紅夜が怒っても良いようにと構えていたが、一向に怒号は発せられない。

 

「ぷっ………………ククッ」

 

 それどころか、笑いすら聞こえていた。

 

「こ……紅夜…………?」

 

 おずおず声をかけると、必死に笑いを堪えている紅夜が振り返った。

 

「いや、すまねぇ……まさか、そんな理由だったとは、思わなくてさ…………ちょ、ヤベェ。マジ笑える」

「………………え?」

 

 怒るどころか笑っている紅夜に、アンチョビは間の抜けた声を漏らした。

 

「お、怒らないのか?」

「怒る?なんで?」

 

 アンチョビの問いに、紅夜は首を傾げる。

 

「いや、だって!別に大した用事も無くて、お前達が試合してる最中、私達はグーグー寝てたんだぞ!?」

「いや、別に構わねぇよ」

 

 アンチョビはそう言うが、紅夜は一向に怒らなかった。

 

「試合中に寝てたとは言え、会場に一番乗りするぐらい、大洗の事を気にかけてくれてたんだろ?なら良いよ………………って、隊長でもない俺が勝手に言えるようなモンでもねぇがな」

 

 そう言うと、紅夜は快活に笑った。

 

「………フフッ…………変な奴だな、お前は」

「よく言われるよ」

 

 目尻に浮かんだ涙を拭いながら言うアンチョビに、紅夜は笑みを浮かべながら返す。

 そうして、2人は楽しそうに笑うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、私はそろそろ」

 

 11時となり、アンチョビは椅子から立ち上がった。

 

「おっ、もう帰るのか?」

「ああ。昼御飯を持ってきてないからな」

 

 そう言って、アンチョビはドアの前までやって来るが、不意に立ち止まると、紅夜の方へと振り返った。

 

「なぁ、紅夜」

「ん?」

 

 声をかけられ、紅夜はベッドに腰かけたまま返事を返す。

 

「今度、ウチと練習試合をしてくれるか?お前のチームと、戦ってみたいんだ」

「えっ………?」

 

 いきなりの練習試合の申し込みに、紅夜は間の抜けた声を出した。

 

「私のチームは、他の学校と比べたら弱………じゃなくて、ちょっと劣ってはいるが、それでも引退する前に、1回ぐらいは、と思ってな………………駄目か?」

 

 そう言って、アンチョビは不安そうな目を向ける。

 

「駄目な訳ねぇだろ。寧ろ大歓迎だぜ」

 

 そう言って立ち上がった紅夜は、子供のように無邪気な笑みを浮かべていた。

 

「それになアンチョビさん、お前のチームが強かろうが弱かろうが関係ねぇんだよ。大事なのは『チームが強いか弱いか』じゃなくて、『試合をする事』なんだ。チームの強さなんて気にせず、何時もの調子で挑んできてくれよな!」

 

 そう言って、紅夜は微笑みかけた。

 アンチョビは一瞬、顔を赤くするものの、直ぐに表情を戻した。

 

「ああ、そうだな!」

 

 すっかり調子を取り戻したアンチョビは、元気付けられた事の礼を言うと、上機嫌のまま病院を後にした。

 

「さて、久々に試合が出来るんだ、後で皆に連絡しとかねぇとな」

 

 建物からでて、そのまま駐車場を突っ切って去っていくアンチョビを病室の窓から見送った紅夜は、嬉しそうに呟いた。

 

 そして、スマホを取り出して電源を入れると、時間は既に、12時になっていた。

 

「おっ、もう昼飯の時間か………………んじゃ、連絡するのは、また後にするか」

 

 そう呟き、紅夜は食堂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、今日も今日とて美味かったな」

 

 昼食を終え、病室に戻ってきた紅夜は、朝とは違って満足そうな笑みを浮かべていた。

 朝食の時のような視線を浴びず、昼食に専念する事が出来たからだ。

 

 上機嫌でテレビの電源を入れるとベッドに腰掛け、丁度良く放送されていた喜劇番組を見始める。

 この5日間で、現在世話になっている病室にもすっかり慣れ、今では最早、自室のように寛いでいた。

 

「いやぁ~、何か此処が俺の部屋のように思えてくるなぁ~」

 

 小さなテレビ画面に映る喜劇の舞台では、とある老人が場を掻き乱して、観客を笑わせている。

 もう、この喜劇番組を見ているだけで時間が潰れるのではないかと思い始めた時、再び、病室のドアをノックする者が現れた。

 

「ん?アンチョビさんが忘れ物でもしたのかな………………まあ良いや、どうぞ~」

 

 適当な予想を立て、紅夜は入室を許す。

 ドアがゆっくりと開き、其所から2人の少女が現れた。

 両者共に背はスラリと高く、1人は黒髪で、何処と無くクールな雰囲気を出しており、もう1人は、金髪に蒼い瞳を持つ少女……………プラウダ高校の、ノンナとクラーラだった。

 

「おっ、お前等だったのか。久し振りだな」

「ええ。お久し振りです、紅夜さん」

「Очень рад вас снова видеть.」

 

右手を軽く上げて会釈する紅夜に、ノンナは嬉しそうに返す。

 続くクラーラも微笑みながら挨拶をするが、ロシア語で話すために、紅夜にはまるで理解出来なかった。

 

「………………なぁ、ノンナさん。クラーラさんは何て言ったんだ?」

「私と同じく、『お久し振りです』と言ったのですよ」

 

 首を傾げながら訊ねる紅夜に、ノンナはそう答えた。

 

「Поскольку Клара,он не может понять руссий язык,разговор на японском языке(クラーラ、彼はロシア語を理解出来ないから日本語で話しなさい).」

「Да(はい).」

 

 ノンナが日本語で話すように促すと、クラーラは短く返事を返し、咳払いを1つすると、再び口を開いた。

 

「改めて、お久し振りです。紅夜さん」

「お、おう。久し振りだな」

 

 いきなりロシア語から日本語に切り替わった事に驚きながら、紅夜は返事を返した。

 

「それにしてもクラーラさん、今更だが、ちゃんと日本語話せたんだな」 

「ええ。ロシアでも勉強していたので」

 

 クラーラが流暢に日本語を話せる事に、今更ながらのコメントを呟く紅夜に、クラーラはそう返した。

 

「それもそうですが…………紅夜さん、お怪我の方はどうですか?」

「あー、やっぱソッチにも、その情報行ってたのか」

「はい。そもそも、エキシビジョンで見ていましたから」

「ああ、確かにそうだな」

 

 そう言うと、紅夜は言葉を続けた。

 

「怪我の方は、俺としてはもう何ともないよ。早く退院したいところだ」

「そうですか、それは何よりです」

 

 紅夜からの返答に、ノンナは嬉しそうに言った。

 

「もしかしてお前等、そのために来てくれたのか?」

「ええ。先日カチューシャが、『紅夜のお見舞いに行ってあげなさい』って………………」

「マジで?カチューシャさんがそんな事言うなんて、想像つかねぇなぁ~」

 

 紅夜がそう言うと、2人は苦笑を浮かべた。

 

「お気持ちは分かりますが、それを本人の前で言わないようにお願いしますね?」

「ああ、そうだな………………それよか、すまねぇな。態々見舞いに来てもらって」

 

 紅夜はすまなさそうに言うが、2人は首を横に振った。

 

「いえいえ。私達は昔、貴方に助けていただいた身なのです。これぐらいの恩返しぐらいはしないと」

 

 クラーラがそう言うと、紅夜は苦笑を浮かべながら言った。

 

「もしかして、未だあの時の事気にしてたのか?別に忘れちまっても良かったのに」

「そういう訳にはいきません。もし、あの場に貴方が来てくれなかったら、私もクラーラも、今頃は………………」

「あー、もう良いって。分かったから落ち着け、震えてるぞ」

 

 最悪の状況を思い浮かべて体を震わせるノンナに、紅夜は優しく言った。

 

「すみません。中々忘れられないもので」

「まぁ、ありゃ放っといたら大変だったからな。下手すりゃ人生も滅茶苦茶になっちまうんだし、その時の印象だって、強く残るだろうしな」

 

 そう言い終えると、紅夜は2人の表情が暗くなっていくのを見る。

 

「(ヤベッ、何とか話題を変えねぇと)」

 

 そう思い、紅夜は世間話を持ちかける事にした。

 

「そ、それよかお二方。どうだった?俺等の決勝戦は」

 

 そう言われた2人は、顔を紅夜へと向けて言った。

 

「ええ。最後であんなにも暴れるとは、驚きました」

「カチューシャも驚いてましたよ?『3倍もの数の戦車を相手にして全滅させるなんて、やっぱりレッド・フラッグって、滅茶苦茶な連中ね』……と」

「う~ん、それは褒められてるんだか、貶されてるんだか……………」

 

 カチューシャの意図が読めず、紅夜は苦笑を浮かべた。

 

「あれでも、かなり褒めている方だと思いますよ?」

「そうである事を祈るよ」

 

 そう話していると、何時の間にか喜劇番組は終わっていた。

 

「にしても、もう直ぐ夏だなぁ。プールとか行きたいぜ」

「「ッ!」」

 

 紅夜がそう呟くと、2人はピクリと反応した。

 

「あの、紅夜さん……」

「ん?どったの?」

 

 其処で、クラーラがおずおずと話し掛け、紅夜はクラーラの方へと視線を向けた。

 

「そ、その………もし良かったら、今度……私達3人で、プールにでも行きませんか……?」

「おおっ、そりゃ良い考えだな………………だが、俺が一緒に行っても良いのか?邪魔じゃね?」

「どうしてですか?」

 

 表情を曇らせる紅夜に、クラーラは疑問を投げ掛けた。

 

「いやいや、女子2人の中に男子1人だぜ?場違いっつーか、何つーか…………」

 

 そう呟きながら言葉を模索する紅夜を見て、2人は微笑ましそうな表情を浮かべた。

 

「それなら問題ありませんので、気にしないでください」

「その自信の根拠は何処から……………ふわぁ~あ」

 

 微笑みながら返事を返してくるクラーラに、紅夜はそうツッコミを入れるが、突然睡魔に襲われ、欠伸が出る。

 

「眠いのですか?」

「あーいや、大丈夫だ」

 

 口ではそう言うものの、目はトロリと垂れ下がってきており、眠くなっているのが丸分かりだった。

 

「無理をしないで。眠いなら、そのまま眠ってください」

 

 そう言うと、ノンナは紅夜に近づき、両肩を優しく持ってベッドに寝かせると、掛け布団をかぶせる。

 

「悪いな、態々見舞いに来てくれたってのに」

「いえ。私達がいきなり来たのですから、お気になさらず」

 

 ノンナはそう言うと、無理に開けようとされている紅夜の目を優しく閉じさせると、その頭を優しく撫でる。

 

「……すぱ……しぃーば…」

 

 それだけでノンナの意図を察した紅夜は、唯一使えるロシア語で、途切れ途切れになりながら礼を言うと、そのまま寝息を立てた。

 

 

 

「………………眠ってしまいましたね」

「ええ」

 

 ベッドに近づき、スヤスヤと寝息を立てる紅夜の寝顔を覗きながら言うクラーラに、ノンナはそう返す。

 

「こんなにも可愛らしい寝顔で眠る人が、試合となれば別人に変貌して暴れ回る………たとえ、自分の身が傷つこうと、戦う事を止めないなんて………惚れ直してしまいましたよ」

 

 頬を染めながら言うクラーラは、無意識の内に、紅夜の額に唇を近づけていたのに気づき、慌てて離れる。

 それを見ていたノンナはクスクスと微笑み、クラーラに声をかけた。

 

「彼が眠っている今なら、キスぐらいしても良いと思いますよ?」

「え?で、ですが………」

 

 クラーラは、そう言いながら恥ずかしがる。

 だが、紅夜の額に顔を向けては逸らしてを繰り返している辺り、心の底ではキスしたがっているのが丸分かりだった。

 

「貴女がしないなら、私が」

「ッ!だ、駄目ですッ」

 

 からかうようにして、ノンナが紅夜の額に唇を近づけようとすると、クラーラはその間に割り込んで、紅夜の額にキスをした。

 

「フフッ♪最初からこうすれば良かったんですよ」

「~~~~ッ!?」

 

 ノンナにそう言われ、クラーラは顔を真っ赤に染め上げた。

 

「でも、私だって………んぅ」

 

 そんなクラーラを他所に、ノンナも紅夜の額にキスをした。

 

「私だって、彼が好きなんですから………………簡単には渡しません。彼のチームの副隊長にも、他のチームの人にも。そして………………貴女にも」

「ええ………………挑むところです」

 

 そう言い合うと、2人は再び、紅夜の方へと向き直る。

 

「「紅夜さん………………Ятебя люблю(愛してます).」」

 

 2人同時に言うと、今度は両方の頬にキスを贈り、2人は顔を赤くしたまま、病室を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、紅夜の退院を待っているレッド・フラッグのメンバーは………………

 

 

「最近、俺等の出番少なくね?」

「確かになぁ~」

「仕方無いんじゃない?」

 

 非常にメタい会話を交わしていた。


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