ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第110話~長門家大集合の3日目、後編です!~

「はぁ?『東京に帰ろう』?」

 

 昼食を終え、病室に戻ってきた長門家一行。

 其所で紅夜は、豪希に東京の自宅へ戻ってみないかと誘われていた。

 

「ああ、そうだ。お前、大洗の学園艦に移り住んでから、全く東京に帰ってきてないだろう?良い機会だし、1回ぐらいは里帰りしてみたらどうだ?」

「そうね。久し振りに、家族全員、実家で過ごしたいわ」

「私も賛成よ、兄様」

 

 豪希の提案に、幽香や綾も乗り気のようだ。

 

「う~ん………………」

 

 だが、その中でも唯一、紅夜はイマイチな反応を見せていた。

 そして少し考えた後、結論を出した。

 

「俺も出来ればやりたいが、流石に無理だ。外出許可は貰えても、此処から東京じゃあ、往復するだけで結構時間掛かるだろ。車にしても電車にしても」

 

 その言葉に、他の3人は残念そうな表情を浮かべる。

 

 紅夜も、出来る事なら里帰りしたいだろうが、往復の時間を考えれば、最悪の場合、ただ行き帰りだけで里帰りが終わってしまう可能性も捨てきれないのだ。

 

「ふむ、そう言われてみりゃ、確かにその通りか………………」

「残念ね…………」

「うん……」

 

 そうして、紅夜の病室の雰囲気が少し暗くなる。

 紅夜は、自分で雰囲気を悪くしてしまった事に焦り、何とか打開案を模索するものの、何も思い浮かばず、ただ俯くしかなかった。

 

 そして、豪希が紅夜達の里帰りを延期しようと提案しようとした、そんな時だった。

 

「え~っと、此処が紅夜の病室で合ってんのかな?」

「「「「?」」」」」

 

 突然、病室のドアが開き、其所から1人の青年が、ひょっこりと顔を出した。

 黒髪をポニーテールに纏め、蒼い瞳を持ち、それ以外では紅夜や豪希と同じ容姿をしている。

 パンツァージャケットに身を包み、白虎が描かれた帽子をかぶった青年――八雲 蓮斗――だった。

 

「ご、豪希が2人!?」

 

 蓮斗の姿を視界に捉えた幽香は、驚愕に目を見開く。

 豪希は何も言わなかったが、それでもかなり驚いていた。

 

「紅夜の次は、また他の奴と間違えられるか………………んで、豪希ってのは、其所の俺と同じ髪の奴の事か?」

「そうだが、初対面の相手に『奴』呼ばわりされたくないんだけとねぇ…………」

 

 蓮斗の問いには豪希が答え、皮肉っぽく言いながら立ち上がる。

 

「おっと、そりゃすまなかったな」

 

 蓮斗はそう言うと、何やら袋を持って病室に入ってきた。

 

「よぉ、紅夜。優勝おめでとう」

「ああ。サンキューな、蓮斗」

 

 右手を軽く上げて会釈する蓮斗に、紅夜も同様に会釈して返す。

 

「にしても紅夜。お前あんな目に遭ったってのに、よくそうやっていられるよな。骨とかイカれたりしなかったのか?」

「ああ、殆んど異常は見られなかったってさ。一番悪くても、骨の一部にヒビ入った程度らしい」

「マジかよ………………お前ホントにとんでもない体してんだな」

 

 そう言うと、蓮斗は持っていた袋を手渡した。

 

「これ、差し入れみてぇなモンだ。時間あったら食いな」

「お、マジで?サンキュー」

 

 袋を受け取った紅夜は、その袋の中に幾つかの菓子が入っているのを見て表情を明るくした。

 

「いやいや。決勝戦で良い試合を見せてもらった礼みてぇなモンだ、気にすんな」

 

 そう言うと、蓮斗は言葉を続けた

 

「そういやお前等、何かお困りのようだな。里帰りしようにも時間が無いとか」

「まぁな」

 

 蓮斗が言うと、紅夜は残念そうな表情を浮かべながら頷く。

 それを見た蓮斗は、頬を緩ませて言うのであった

 

「なら、良い方法があるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、蓮斗よ。どう言うつもりなんだ?」

 

 外出許可を得て病院から出てきた長門家一行だが、その方法を言わない蓮斗に紅夜は訊ねる。

 

「まぁまぁ、そう焦りなさんな。ちょっとついてきてくれりゃ良いんだから」

 

 そう言って歩みを続ける蓮斗に、長門家一家はついていく。

 そのまま歩き続けること20分。一行は前と両サイドをコンクリートの壁に囲まれた行き止まりに来ていた。

 

「さて、此処なら誰も来ねぇだろうな」

 

 そう言うと、蓮斗は豪希の方を向いて言った。

 

「豪希君よ、お前さんの家が何処にあんのか教えてくれねぇか?」

「ん?別に良いが」

 

 そう言うと、豪希はスマホを取り出して『Google map』のアプリを開くと、自分達の実家の場所を表示し、蓮斗に見せる。

 

「ふむ、其所か………なら、彼処に転移してからってヤツだな………………サンキューな豪希君。もう十分だ」

「おう………………つーか、流石に『君』付けは止めてくれねぇか?」

「そうか?じゃあ呼び捨てにさせてもらうぜ」

「………………おう」

 

 一瞬、『何故そうなる』と言いたくなった豪希だが、蓮斗の背後から感じる、ただならぬオーラを感じ取り、その言葉を引っ込めて頷いた。

 

「それで蓮斗よ。どうやって行くってんだ?」

「おいおい紅夜、お前なら分かるだろ?1回経験してんだから」

 

 蓮斗にそう言われた紅夜は、プラウダ戦の後日、遊びに来た蓮斗に連れ出され、陸の大洗市のアウトレットモールに行った時の事を思い出した。

 

「まさか蓮斗………………『アレ』をやるってのか?」

「そりゃ勿論な………………さぁ、皆。俺に掴まりな」

 

 蓮斗がそう言うと、紅夜は彼の隣に立って肩を持つ。

 他の3人も、そんな2人に戸惑いながら蓮斗の肩や背中に触れた。

 

「さてと………………それじゃ行くぜ!瞬間移動!」

 

 そして、5人を白い光が包み、彼等が居た行き止まりは、再び無人に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、着いたぜ」

 

 蓮斗にそう言われ、長門家一家は閉じていた目を開ける。

 彼等の視界に広がったのは、先程居た場所とはあまり変わらない行き止まりだった。

 

「……?蓮斗、場所が同じに見えるんだが?」

 

 そう訊ねる紅夜に、蓮斗は首を横に振って言った。

 

「確かにパッと見はそうだが、道に出れば分かるって」

 

 そう言って、蓮斗は行き止まりを逆送して道路を目指す。

 紅夜達も後に続き、大して歩くこと無く道路に出てきた。

 

「あ、此処って!」

 

 道に出ると、綾はその辺りを見渡して声を上げる。それを見た蓮斗は、得意気な表情を浮かべた。

 

「どうやら、其所の嬢ちゃんは分かったらしいな………………そう。お前等の家の直ぐ傍の路地裏だったんだよ」

「私達の家も見えるわ………………それにしても、凄いわね。瞬間移動なんて、アニメでしか出来ないものだって思ってたのに…………」

 

 自分達の家を視界に入れた幽香は、目を見開きながら言った。豪希も口をあんぐりと開けて驚いている。

 

「まぁ、世の中広いって言うか………………普通なら出来ねぇような事を成し遂げてしまう馬鹿が居たりするんだよ」

 

 蓮斗はそう言うと、紅夜達に背を向けて歩き出そうとするが、不意に立ち止まって振り返った。

 

「紅夜。お前病室には何時に帰る予定だ?」

「ん?そうだなぁ………………7時ぐらいじゃね?病院の夕飯の時間も、その辺りだし」 

「りょーかい。そんじゃあ、その辺りの時間に家の外に出ときな。拾いに来てやるよ」

 

 蓮斗はそう言って、再び歩き出した。

 

 彼等は、呆然としながら蓮斗が見えなくなるまで見送ると、そのまま彼等の実家へと足を踏み入れた。

 

 長門紅夜は、約3年ぶりの里帰りを果たしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~、久し振りの我が家だ~」

 

 リビングにやって来た紅夜は、ソファーにどっかりと腰掛けて言った。

 

「兄様、3年間も実家に帰らなかったものね。お正月とかにはお母さん、凄く寂しがってたのよ?」

「そーそー。今年の1月なんざ、『こうちゃん今年も来てくれなかった~』とか言いながら泣きついてきたんだからな」

「あ、アナタ!それに綾も、それは言わないでってアレ程言ったのに!」

 

 幽香は顔を真っ赤にしながら声を張り上げた。

 

「あー、えっと、その………………ゴメン、お袋」

 

 それを見た紅夜は、シュンとした雰囲気を出しながら謝る。

 それを見た幽香は、反射的に紅夜を抱き締め、その豊満な胸に彼の顔を埋めていた。

 

「こうちゃん、やっぱり可愛い~♪」

「むがんぷっ!?」

 

 紅夜は抜け出そうとするものの、矢鱈と力の強い幽香から抜け出す事は叶わなかった。

 

「それに、普段は優しくてカッコいいし………綾はしっかりしてて美人だし………流石、豪希と私の子供達~♪」

「きゃっ!?」

 

 幽香はそう言いながら、傍に居た綾も抱き締めた。

 

「やれやれ、俺が心配すべきだったのは、親離れではなくて子離れの方だったか………………まぁ、幽香は昔っからああだったし、紅夜や綾が一人暮らしするのにもグズってやがったからなぁ」

 

 数年前までは、この4人で食事を摂っていた食卓の椅子に座り、冷蔵庫から取り出した缶ビールを口に含みながら、豪希は当時の事を懐かしんでいた。

 

「コイツ等も、ホントにデッカくなったんだなぁ」

 

 染々と呟きながら、豪希はもう一口、ビールを口に含んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからは、家族団欒の時間だった。

 久し振りに長門一家全員が揃った事に大喜びの幽香が菓子を作り始め、それを他の3人が手伝う。

 そして、出来上がった菓子がテーブルに並び、使った道具などの片付けを終え、4人揃って食卓を囲む。

 他にも、テレビをつけ、タイミング良く放送されていたお笑い番組を見て全員が笑う。

 3年間見られなかった光景に、幽香は大層喜んでいたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、もう行くよ」

 

 午後7時頃、迎えに来た蓮斗の隣に立ち、紅夜は3人に言った。

 

「もう少し、ゆっくりしていけば良いのに」

「そうしたいけど、時間が時間なんだよ、お袋。まぁ、退院したら直ぐに来るから」

 

 寂しそうに言う幽香に、紅夜は苦笑を浮かべながら言った。

 

「『直ぐに来る』っつっても紅夜。お前、今って金持ってんのか?」

「………………」

 

 

 視線を反らした紅夜に、豪希はやれやれと言わんばかりに溜め息をついた。

 

「て言うか兄様。病室には静馬に持ってきてもらったリュックあるじゃない。あの中に財布入れてないの?」

「………レッド・フラッグの帽子と、タコホーン&ヘッドフォンの通信機セットしか入れてませ~ん………………」

「じゃあ、財布はこうちゃんの家にあるのね?」

「そう………」

「紅夜………………せめて財布ぐらいは常時持っとけや、このアホ」

「グハッ!」

 

 豪希の止めと言わんばかりの一言を喰らい、紅夜はノックアウトした。

 

「やれやれ………………まぁ良い。お前が退院する日は分かってんだ、その日は車で迎えに行ってやるよ」

「アザッス!」

「復活早いなお前!?」

 

 一瞬で撃沈状態から復活した紅夜に、豪希は堪らずツッコミを入れ、全員で笑った。

 

「紅夜、そろそろ時間だ」

「あいよ、蓮斗………………そんじゃあ親父、お袋、綾。また今度な」

「ええ。こうちゃんも、もう少しの入院生活、頑張るのよ?」

「またね、兄様」

「たまには連絡寄越せよ?」

「分かってるって………………んじゃ!」

 

 紅夜はそう言うと、蓮斗と共に歩き出し、先程出てきた路地へと消えていった。

 

「………………さて、そんじゃあ今日はすき焼きにでもするか!」

「うわっ、お父さんったら、兄様が居ない時を狙ってやったわね?」

「あらあら」

 

 そう言い合いながら、3人は家の中に入るのだが………………

 

「ああっ!?そういや思い出したが、病院に俺等の車置きっぱなしじゃねーか!」

「「はっ!?」」

 

 自分達が乗ってきた車を置き去りにしたままだと言う事を思い出した一行だが、それに気づいていた蓮斗が、彼等の車を持ち上げた状態で、瞬間移動で家の前の駐車場に現れたのは、それから間も無くの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、紅夜は………………

 

「(親父等、今頃『病院に車忘れた!』とか言って大慌てしてるだろうなぁ………………)」

 

 食堂にて、出された夕飯のハンバーグを口に運びながら、そんな事を考えていたと言う。


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