ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第109話~長門一家大集合の3日目、前編です!~

 大洗港にて、紅夜にとっての《羞恥の公開処刑》から一晩明けた3日目。目が覚めた紅夜は、掛け布団をかぶったまま天井を見上げていた。

 

「あ………もう、朝か………」

 

 そう呟きながら、紅夜は起き上がる。

 

「何か、昨日は色々とスゲー事があったんだけど…………あれ?なんでだ?何があったのか全く思い出せねぇ………………」

 

 そう呟き、紅夜は昨日の出来事について思いだそうと唸る。

 

「ウーン………………あ、そういや静馬が、今日から学校だから昨日の内に帰る事になったんだけど渋って、それが矢鱈としつこくて、何とか帰らせる事は出来たんだが、その際に何かおねだりされて………………あれ?何おねだりされたんだっけ?」

 

 紅夜は、さらに頭を捻って唸るものの、如何せん思い出せない。

 どうやら、昨日発狂しすぎたのが原因か、静馬にキスを要求された時からの記憶が、綺麗サッパリ消えているようだ。

 

「………………まぁ、良いや。取り敢えず飯食おう。昨日は晩飯食った記憶も無いからな。多分食ってねぇや」

 

 其処からは、どれだけ思いだそうとしても何1つとして思い出せなかった紅夜は、一旦考えるのを止め、朝食を摂るために食堂へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ。病院食にもボチボチ慣れてきたな」

 

 そう呟きながら、紅夜は自室に戻ってきた。ベッドに腰かけると、改めて部屋を見渡す。

 

「そういや病室って、何も無くて暇なだけだと思ってたが、意外にもテレビとかあるんだな」

 

 今更な事を呟きながら、紅夜はテレビのスイッチを入れる。

 

 その小さな画面には、戦車道の話題がデカデカと映し出されていた。

 次々と変わっている場面の中には、紅夜を乗せたIS-2が、エリカ達の戦車相手に大立ち回りしている場面も映し出されていた。

 当然ながら、砲撃を受けて吹き飛ばされた建物の瓦礫などが地上に降り注ぎ、その中をIS-2が突っ切って、紅夜に瓦礫が当たる場面も映っており、キャスターがその場面について、色々とコメントしている。

 中でも、最後に要のティーガーⅡを撃破した際、砲塔リングに攻撃を受けたIS-2がコントロールを失い、紅夜がキューポラから上半身を乗り出した状態なのにも関わらず、建物に突っ込んでいく場面には、キャスターも目を覆っていた。

 

「あー、見る人側からすれば、あれは刺激が強すぎたか………………まぁ、反省も後悔もしてないがな」

 

 そう呟き、紅夜はテレビの電源を切って寝転がろうした―――――

 

「よぉ、紅夜。元気にしてたか?」

「お見舞いに来たわよ、こうちゃん♪」

 

――――のだが、病室に入ってきた2つの声に、紅夜は動きを止める。

 声の主へと顔を向けると、外見が八雲蓮斗そのものである男性と、緑色の髪をショートヘアにした、赤い瞳を持つ女性が入ってきた。

 

 男性の名は長門 豪希(ながと ごうき)で、女性は長門 幽香(ながと ゆうか)。紅夜の両親である。

 

「親父にお袋、来てくれたんだな」

 

 寝転がろうとしていた体を起こし、紅夜は2人に声をかける。

 

「当然でしょう?可愛い息子が入院してるんだから…………ホントは一昨日に来ようとしたのよ?でも、時間が無くて………………ゴメンね?」

「あー、そういや静馬がそんな事言ってたな………………別に良いよ、お袋。それに、一昨日来なくたって、今日来てくれたじゃねえか。それがスッゲー嬉しいよ」

 

 申し訳なさそうに言う幽香に、紅夜は微笑みながらそう返した。

 

「やれやれ、紅夜のママっ子は直らねぇな~」

「ママっ子言うな」

 

 微笑ましそうな笑みを浮かべながらもからかうように言う豪希に、紅夜はそう言い返す。

 

「じゃあマザコン?」

「テメェぶっ殺すぞクソ親父」

「じょ、冗談だよ」

 

 ドス黒い笑みを浮かべながら拳を向ける紅夜に、豪希は冷や汗を流しながら苦笑する。

 それを見ている幽香が微笑ましそうにしているのを見る限り、これが長門家での風景なのだろう。

 

「ん?そういや、綾は未だ来てねぇのか?」

「え?綾も来るのか?」

 

 病室を見回しながら言う豪希に、紅夜はそう聞き返す。

 

「ええ。一昨日家に帰る最中に、私が連絡したのよ。丁度、今日は休みらしいから来るそうよ」

「今日って平日だよな?」

「細けぇ事ァ良いんだよ」

 

 そんな話をしていると、病室のドアが突然開かれ、綾が現れた。

 息を切らしているのを見る限り、病室まで階段を駆け上がって来たのだろう。

 そして、床に落としていた視線を上げると、驚いたような表情で此方を見ている紅夜の姿があった。

 

「ッ!兄様!」

 

 慕う兄の元気そうな姿を見られたのが嬉しかったのか、綾は駆け出すと、ベッドに座る紅夜に飛び付いた。

 

 だが、普段よりも運動能力が低下している紅夜に、いきなりの突進を受け止められる筈が無く………………

 

「ウボォエ!?」

 

 突進をモロに受けて背中を打ち付け、失神するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こうちゃん、大丈夫?」

「おぉ、何とか大丈夫だよ、お袋………………うえっぷ」

 

 衝撃を強く受けた腹を擦りながら聞いてくる幽香に、紅夜は顔を青くして答えた。

 

「うぅ……ごめんなさい、兄様…………」

「別に良いって。そんなに落ち込むなよ、綾」

 

 シュンと擬音語が付かんばかりに落ち込む綾の頭を撫でながら、紅夜は優しく言った。

 

「やれやれ、綾の突撃癖は何とかならんのかねぇ?」

「まぁまぁアナタ。綾はそれだけ、こうちゃんの事が心配だったのよ」

「お、お母さん!」

 

 幽香は溜め息混じりに言う豪希をたしなめ、その際の言葉に、綾は顔を真っ赤にして声を上げる。

 

「それはそれとして………………こうちゃん、何時になったら退院するの?」

「あ~っと………………今日を除いて4日後だな」

 

 退院出来る日を聞いてくる幽香に、紅夜は右手の指を曲げて日数を数えて答えると、今度は溜め息をついた。

 

「やれやれ、漸く半分辺りにまで差し掛かったよ。この3日間、ロクに戦車乗ったり暴れたりしてないんだよなぁ~。もう俺等の戦車も修理を終えて返された頃だろうから、早く乗りたいってのに」

 

 そう言う紅夜を、幽香は微笑ましそうに見て言った。

 

「こうちゃんは本当に、戦車が好きなのね。それに、戦車と深い関わりを持って………その辺りは誰かさんと一緒なのだけど……………」

 

 そう言うと、幽香は視線を豪希に向けた。

 

「ん?」

 

 視線を向けられた豪希が不思議そうに首を傾げているのを他所に、幽香は再び、視線を紅夜の方へと戻した。

 

「なんでこうちゃんには、運命の相手が現れないのかしらねぇ?」

「………………?どう言う事だよ?」

 

 からかうように言う幽香に、紅夜はそう聞き返した。

 

「あら、言ってなかったかしら?私と豪希が出会ったのは、戦車道がきっかけだったのよ」

「………………え、そうなの?」

 

 綾が聞くと、幽香は頷く。

 

「豪希は学生の頃、整備科の生徒でね。私が所属していた戦車道チーム専属の整備士をしてくれていたのよ」

 

 そう言いながら、幽香はベッドと壁の間に置かれていた折り畳み式の椅子を引っ張り出すと、椅子を広げて腰掛け、話を続けた。

 

「そんなある日、私は彼が戦車の整備をしながら呟いていたのを聞いたのよ。『俺も戦車に乗ってみたい』ってね」

「あ~。そういや、そんな事も言ってたなぁ……懐かしいなぁ…………」

 

 紅夜と綾が意外そうに目を見開いているのを他所に、豪希は目を瞑って腕を組み、ウンウンと頷きながら当時を懐かしむ。

 

「だからね。日頃整備をしてくれているお礼に、1度だけ、彼を戦車に乗せたのよ。その時の豪希は、とても楽しそうだったわ。まぁ、当時の風潮は、今とよく似たものだったから、男で戦車になんて、中々乗れなかったものね」

「マジでか………………」  

 

 幽香から当時の状況を聞いた紅夜は、それからも続く話を聞きながら、自分が戦車道同好会チームを立ち上げた当時の事を思い出した。

 今でこそ、それなりに応援の声が上がっているが、チーム発足当初の周囲の反応は、親や輝夫達整備班のメンバーを除いて、良いものとは言えなかった。

 大抵マイナスな言葉をぶつけられ、試合で負ければ笑われるような状態だった。

 

「まぁ結局、豪希に非難の声が上がらなかったのだけど………………あれは、本当に良かったわね」

「ああ。何せ他の奴等が、それを黙っててくれたからな。今でも感謝してるぜ」

 

 もう1脚の折り畳み式の椅子を引っ張り出して幽香の隣に座り、互いに凭れ合う2人を見て、紅夜は当時の事を思い出している内に、何時の間にか話が終わっている事を悟った。

 

「(はぁ………途中の話聞き逃しちまった…………残念だなぁ………………)………………って、病院でイチャつくなや、このバカップルが!」

 

 何時の間にか抱き合っている両親を視界に捉えた紅夜は、何処からとも無く取り出したハリセンで両親(バカップル)を叩くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで紅夜、退院してからの話だが」

 

 それから暫く経ち、昼になった。

 食堂で家族揃っての昼食を摂っていると、不意に豪希が話を切り出した。

 

「んー?」

 

 昼食に出されたビーフシチューを口に含みながら、紅夜は豪希を見た。

 

「お前、一旦家に帰ってこい。ちょっとばかり、やってもらわなきゃならん事がある」

 

 豪希にそう言われた紅夜は首を傾げ、ビーフシチューを飲み込むと、それについての質問を投げ掛けた。

 

「?俺がやらなきゃ駄目なのか?」

「ああ」

 

 その質問には、即答で肯定の返事が返される。

 

「因みに、俺がやらなきゃならん事ってのは?」

「それはな……………」

「………………」

「「………………」」

 

 豪希が答えようとしたところで口を閉じたため、長門家の間に緊張した空気が流れる。

 やがて、その空気は彼等の周囲に居る患者や、その家族にも移る。

 食堂の空気全体が重くなったところで、豪希は漸く口を開いた。

 

「大型二輪免許を取ってもらう!」

「散ッッッ々引き伸ばしといて出た答えがそれかよッ!!?」

 

 豪希の答えに、紅夜からのキレの良いツッコミが入ったのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………と言う訳でだ。ぶっちゃけ、陸王邪魔なんだよ。変にデカいから場所取るし」

「邪魔って………………もう少しオブラートにだなn……「兎に角、退院したらさっさと大型二輪免許取って、学園艦に持ってってもらう!おk?」…………い、Yes,sir.」

「よろしい」

 

 満足げに頷いて、豪希は昼食を続ける。

 

 紅夜と綾は顔を見合わせると、何ら変わらない父親の姿にやれやれと苦笑を浮かべつつ、昼食を続けるのであった。




 さて、此処で紅夜の両親が登場しました。

 紅夜ママの容姿は、知ってる人は知ってる、あの………………USCです

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