ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第106話~全国大会、終了です!~

 黒森峰女学園と大洗女子学園による、第63回戦車道全国大会は、大洗女子学園の勝利に終わった。

 メンバーが優勝の喜びを噛み締めている中、重症レベルの怪我を負った紅夜がISー2の中から現れる。

 メンバー全員が彼の安否を心配するものの、彼は意識を持っており、当然死ぬ事も無かった。

 運ばれた救護テントにて大河と少しの会話を交わし、表彰式の舞台へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 表彰台の舞台裏に着くと、既に他のメンバーが集まっていた。

 紅夜を見たメンバーは、彼が救護テントから脱走してきたのかと問い詰めるものの、係員からの許可を得ている事を知らされ、安堵の溜め息をついた。

 

 

 

「表彰台かぁ~、随分久し振りだなぁ~」

 

 パイプ椅子に座らされた紅夜は、腕を組んでウンウンと頷きながら言った。

 

「ええ。確か最後に表彰台に上がったのは、決勝でマジノチームとぶつかった同好会の大会だったから………………」

「ざっと1年ぶりね」

 

 紅夜が勝手に動かないように、寄り添うようにしてもう1脚のパイプ椅子に座っている静馬と、その前に立っている雅が言う。

 

「1年か………………もう、そんなに経ったんだな」

 

 しみじみと昔を思い出すように言いながら、紅夜は夕焼けに赤く染まった空を仰ごうとするが、その際、みほがまほと話をしているのが見えた。

 そして2人が握手を交わすと、今度は要が近づいてくるが、前のような敵意は感じられなかった。

 要は深々頭を下げ、みほはそれを見て慌てている。恐らく、ルクレールでの事を謝っているのだろう。

 そんな光景を見て、紅夜は満足そうに微笑んだ。

 

「西住さん、お姉さんや謙譲って奴と和解出来たんだな………ルクレールの時からは考えられん光景だぜ」

 

 そして紅夜は、挨拶を終えて歩いてくるみほに声を掛けた。

 

「よぉ、西住さん。姉さん達とは仲直り出来たのか?」

「うん!」

 

 その問いに、みほは自信を持った表情で頷く。そしてあんこうチームのメンバーの元へと向かおうとしたが、何かを思い出したのか、紅夜の前に立つと、スカートのポケットから、折り畳まれた1枚の紙切れを取り出し、紅夜に差し出した。

 

「これ、かなり前に出された宿題だよ」

 

 そう言うみほから紙切れを受けとると、紅夜は折り畳まれた紙を広げる。

 広げられたその紙には、『皆で勝利を取りに行きます!』と書かれていた。

 

「成る程……これが、お前の戦車道だな……?」

 

 そう訊ねると、みほは大きく頷く。

 それを見た紅夜はフッと微笑み、その紙をまた折り畳むと、みほに返した。

 

「お前の戦車道、見せてもらったぜ………………合格」

 

 その言葉に、みほは目を輝かせる。

 

「……………ッ!うん!」

 

 そして、今度こそあんこうチームのメンバーの元へと走っていった。

 

「紅夜、さっきのって何なの?」

「あれか?あれはな………………」

 

 不思議そうに聞いてくる雅にそう言いかけ、紅夜は楽しそうに話すみほ達の方を見て言った。

 

「俺が出した宿題だよ。『西住さんなりの戦車道を見つけろ』ってな」

「へぇ~」

 

 そんな話をしていると、係の1人が走ってきて、彼等は表彰台の舞台へと上げられた。

 

 

 

 

 

 

 

「これが、貴女達の優勝旗です」

 

 舞台の上にて、みほは1人の女性から優勝旗を渡される。

 意外にも重いのか、若干よろけながらも紅夜に近づいてくる。

 

「おめでとう、西住さん………………さぁ、その優勝旗を思いっきり掲げな」

  

 紅夜はそう言うが、みほは首を横に振り、紅夜に旗を近づけた。

 

「紅夜君も、持つんだよ?」

「え?なんで?」

 

 突然、自分と優勝旗を持てと言われた紅夜は、間の抜けた声を出す。

 

「なんでも何も………………ね?」

 

 有無を言わさないような雰囲気に圧され、紅夜の断ろうと言う意思は一瞬にして折れる。

 

「そっか………………んじゃ、ありがたく」

 

 そう言うと、紅夜は優勝旗の上半分を持ち、みほと共に掲げる。

 

《優勝、大洗女子学園!!》

『『『『『『『『『『『ワァァァァァァァアアアアアアアアアッ!!!!』』』』』』』』』』』

 

 アナウンスが流れると共に、観客からの歓声がドッ!と沸き上がる。

 試合の土壇場で本気を出した紅夜の雄叫びに匹敵する程の歓声を受け、表彰台に立つ、大洗女子学園戦車道チームのメンバー32人と、その所属チームとされた戦車道同好会チーム《RED FLAG》のメンバー14人。計46人の少年少女達は、自分達が優勝したと言う喜びを噛み締め、歓声を浴びていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな場所から離れた場所にある丘陵では、1人の女性が立っていた。

 黒いスーツに身を包み、茶髪を腰まで伸ばし、みほやまほと何処と無く似た顔つきをしている女性だ。

 彼女の名は西住 しほ。みほとまほの母親である。

 

「………………」

 

 彼女は、何も言わぬまま歓声が上がる表彰台を見つめていたが、やがて小さく溜め息をつくと、微笑みながら拍手を送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ………こんな気分を味わったの、久し振りだなぁ………」

 

 その頃、試合開始前の大洗チームの待機場所には、今日の試合で戦った戦車が集められていた。

 車体のあちこちがボロボロになったISー2の車内では、黒姫が車長席に座り、試合を戦い抜いた事への達成感に浸っていた。

 本来なら、彼女も表彰台に立つ予定だったのだが、そもそも彼女は人間ではなく、戦車の付喪神。よって、選手として数えられていないため、あの場に立つ訳にはいかず、留守番する事になったのだ。

 

「まぁ、いっか。家でご主人様に、一杯褒めてもらえば良いんだし」

 

 そう呟くと、黒姫は車内に置きっぱなしになった紅夜の無線機セットを手に取ると、耳にヘッドフォンを、首にタコホーンをつけると、タコホーンを指で押して通信を入れた。

 

「此方、レッド1《Lightning》。レッド2、レッド3。聞こえますか?」

『此方、レッド2《Ray Gun》。ええ、良く聞こえてるわよレッド1』

『レッド3《Smokey》。此方もちゃんと聞こえるぜ』

 

 黒姫が身につけているヘッドフォンから、勝ち気な女性の声と、ボーイッシュな女性の声が聞こえてくる。

 返事を返した声の主もまた、黒姫と同じように、戦車の付喪神だ。

 

「2人共、今日はお疲れさま」

『ええ。レッド1こそお疲れさま。土壇場で思いっきり暴れ回ったわね』

『良いよなぁレッド1は。あんなに暴れられてよぉ………俺だってあんな感じで、戦場を暴れてみたいぜ』

『現役時代はよく暴れてたじゃない』

『それとこれとは別なんだよ、レッド2』

 

 そう言い合う2人の声を聞きながら、黒姫は笑った。

 実は彼女等は、試合が終わって、メンバーが自分達から離れた間を狙って互いを労い合っていたのだ。それも、今日が初めてではなく、現役時代からずっとである。

 

『それにしても、最後で隊長が大怪我したのには驚いたわね。あんな事は今まで無かったから焦っちゃったわ』

『まぁ彼奴、試合となれば無茶しまくってナンボな奴だもんなぁ~。俺は好きだぜ?ああいう危なっかしいのは』

 

 そう言うレッド3に、黒姫は目を細めながら問いかけた。

 

「レッド3。それは『貴女と性格が似ている者』として好きなの?それとも『1人の男』として好きなの?」

『両方だ』

 

 黒姫の問いに、レッド3から即答で返事が返される。

 

『良い機会だからレッド1、隊長を俺にくれよ。こんな口調だが、カラダはちゃんとした“女”なんだ。夜のお相手ぐらいは出来るぜ?一晩中ずっと、な♪』

「黙ってなさいよ!この独眼気取りの厨二痴女!!ご主人様は私だけのご主人様なんだから!」

『それは聞き捨てならないわね、レッド1。今でこそ私の車長(コマンダー)は静馬だけど、その昔のコマンダーは紅夜だったのよ?レッド3も例外ではなくね………なら、独占する権利は無いんじゃないかしら?』

『そーだそーだ!』

「ぐぬぬ………………」

 

 レッド2からの思わぬ援護射撃に、黒姫は悔しそうに唸る。

 

 その後も『紅夜は誰のものなのか?』の話し合いは続いたものの決着は着かず、そうしている内に表彰式を終えたメンバーが戻ってきたため、その話し合いは次の機会に持ち越しとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 表彰式を終え、待機場所に戻ってきたメンバーは皆、今日の試合での健闘を労い合っていた。

 紅夜はISー2のエンジン部分に座り、夕日を眺めている。

 

 すると、其処へ杏が歩み寄ってきた。

 

「紅夜君、ちょっと良いかな?」

 

 そう声を掛けられ、紅夜は目を向けぬまま頷く。

 杏はISー2のエンジングリルに手をつくと、履帯や、無事だった後部のフェンダーを梯子代わりによじ登り、紅夜の隣に腰掛けた。

 

「「………………」」

 

 そんな両者の間に、少しの沈黙が流れるが、その沈黙は、杏が声を発した事で破られる。

 

「ありがとね、紅夜君………私達のために、こんなに傷だらけになっても、戦ってくれて」

 

 そう言って、杏は紅夜に寄りかかる。

 身長的にも座高的にも高さが足りないため、紅夜の肩に頭を預けるつもりが、腕に頭を預ける結果となるが、彼女は全く気にしなかった。

 杏は膝の上に置かれた両手を動かし、紅夜の右腕を取る。

 パンツァージャケットの袖から覗く右手には、白い包帯が巻き付けられ、チラリと見えた右腕にも、包帯が巻き付けられているのが見えた。

 直接瓦礫が当たった訳ではないが、痣だらけになった状態で放置する訳にはいかないと言う、救護係の係員の配慮だった。

 

「こんなに傷だらけになっても、君は、最後まで戦ってくれたね………………ありがとう」

「別に、礼を言われる程のモンじゃねぇよ。俺がやりたくてやっただけなんだからよ」

 

 紅夜はそう言うが、杏は首を横に振る。

 

「それでもだよ」

 

 そう言うと、杏は右腕を紅夜の腹に、左腕を背中に回して抱き締めた。

 

「本来、私等と君等の関係は、『同じ学園艦に住んでいて、メンバーの女性陣が同じ学校に通ってるだけ』な関係。でも、大洗廃校の話が舞い込んできて、それで君等と接触した」

「………………」

 

 紅夜は何も言わず、次の言葉を待った。

 

「最初は思いっきり断られちゃったけど、それで諦める訳にはいかなかった………………西住ちゃんを無理矢理な形で戦車道に引き込んだけど、それでも、より多くの戦力が必要だったからね」

「そういやプラウダの時も、それっぽい話をしたな……………」

 

 紅夜がそう言うと、杏は当時の事を思い出して苦笑を浮かべた。

 

「覚えてたんだね………」

「まぁな」

 

 淡々と返した紅夜は、視線で話の続きを促した。

 

「それから、教官の提案で一緒に試合して、私等がボロ負けしちゃって、その次の日君等が、自動車部が修理したイージーエイトを取りに来た時に、私は君を引き留めて、戦車道をやってほしいと頼んだ」

「ああ」

「今思えば、身勝手にも程があるよね。『私等が勝ったら大洗の戦車道チームに加わってもらう~』とか言っときながら負けたのに、やってほしいって頼むなんてさ」

 

 自嘲するように、杏は笑った。

 

「だが、そうしなきゃならん程追い込まれてたんだろ?なら仕方ねぇさ」

「…………君は、本当に優しいんだね………………そう言うの、私は結構好きだよ」

「そりゃどうもな」

 

 適当に返事を返すと、紅夜は後ろを向いた。

 

 その視線の先では、みどり子が麻子に抱きつかれてワタワタしていたり、アヒルさんチームのメンバーが、来年も戦車道をやる決心を固めつつも、雅に『バレー部復活はどうした』とツッコミを入れられていたり、カバさんチームの歴女4人が勝鬨の声を上げていた。

 

「波乱に満ちた全国大会だが、最終的には皆の笑顔が咲いた………………って感じかな」

「………………そうだね」

 

 そんな言葉を交わすと、紅夜は先に降りる。そして、ライトニングの面々の元へ行こうとしたが、杏が呼び止める。

 

「どうしたよ、角谷さん?」

 

 そう訊ねられ、杏は言いにくそうにしながらも話を切り出した。

 

「えっと、その……今までの事で、お礼がしたいんだ………………ちょっと、屈んでくれる?それと、目は瞑っといてね?」

「……?まぁ、別に良いけどさ」

 

 杏が言う『お礼』がどのようなものなのか皆目検討もつかずに首を傾げながら、紅夜は杏に言われた通り、目を瞑って屈む。

 すると、彼の両方の頬に小さな手が添えられ、顔の直ぐ前に何かが近づいてくるような気配を感じる。

 

「んっ………」

「ッ!?」

 

 突然、唇にしっとりとした柔らかい何かが押し付けられ、何と無く覚えのある感覚に目を開けると、其処には、紅夜の唇にキスをしている杏の顔があった。

 

 長いようで短いようなキスを終え、杏の顔が離れる。

 その顔は笑っていたが、夕日のせいか、それとも恥ずかしさからか、赤くなっていた。

 

「これがお礼だよ、紅夜君♪」

 

 そう言うと、杏は桃や柚子の元へと小走りで向かっていった。

 

「………何か訳分からんが………ま、いっか」

 

 本来なら赤面ものである状況も、彼はそんな言葉で纏めてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「(あー、未だドキドキしてるよ………………)」

 

 自分のチームメイトにして、親友である2人の元へと歩きながら、杏は赤く染まった頬に手を添える。

 その頬は熱くなっているが、不快ではなく、寧ろ心地好かった。

 

「(どうやら私も、君に堕とされちゃったみたいだよ、紅夜君………………私にこんな感情を抱かせた責任、取ってもらうからね?)」

 

 内心でそう呟いた杏は、ライトニングの面々と談笑している紅夜の方を見やり、その背中に向かって小さく微笑むと、踵を返して桃達の元へと向かうのであった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日、自動車部のメンバーや、紅夜以外のレッド・フラッグのメンバーの徹夜での作業の末、自走出来る程度にまで直された11輌の戦車が、大洗の町にある、とある駅で降ろされる。

 駅から出てきたメンバーは、自分達が帰ってきた事を実感する。

 

「さて………………では隊長、何か言え」

「ええっ!?」

 

 いきなりの桃の無茶ぶりに、みほは戸惑う。

 そして、紅夜に視線で助けを求めると、彼は何も言わぬまま微笑んだ。

『何時ものようにやれ』と言う意思表示だった。

 

 それに頷くと、みほは右腕を空高く突き上げて声を上げた。

 

「Panzer vor!!」

『『『『『『『『『『オオーーーーーッ!!!』』』』』』』』』』

 

 その後、戦車に乗り込んだ一行は、大洗の町や、学園艦の町の住人からの歓声を受けながら、彼女等の居場所である、大洗女子学園学園艦へと戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが………………

 

「あのぉー、これは一体どう言う状況ッスかね?」

  

 学園艦に着くと、待機していた救急隊員に捕まった紅夜が救急車に乗せられようとしていた。

 

「いやぁ~、言い忘れてたんだけど………………紅夜君、試合でスッゴい怪我したのに抜け出したでしょ?だから、下手すりゃ悪化してるかもしれないから、一旦病院に行って、1週間ぐらい入院した方が良いって言われてさぁ~」

「そんな話聞いてねぇぞ!?」

「今言っただろうが………………」

 

 盛大なツッコミを入れる紅夜に、桃が返す。

 

「そんな訳で、ちゃんとお見舞い行くから、取り敢えず行ってらっしゃい♪」

 

 そうして、紅夜は有無を言わさず救急車に乗せられると、そのまま病院へと連れていかれるのであった。

 

 

「ぎゃああああああああああっ!!!少し良い話で終われば良かったのにッ!なんッッッでこうなるんだぁぁぁぁぁぁぁあああああああああっ!!!!」

 

 サイレンを鳴らしながら走り去っていく救急車からは、そんな叫び声が響いてくるのであった。

 

 

 

 

 

 何とも言えない、終わり方である。




 (祝)!アニメ本編完結!

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