ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

110 / 161
 試合終盤で大怪我を負う紅夜君。その安否や如何に!?


 ………………え?ツッコミ所が多すぎる?HAHAHA、ナンノコトカナァー?(すっとぼけ)


第105話~決着です!~

 そのアナウンスが響き渡ったのは、ホンの少し前の事。

 丁度、残された紅夜達ライトニングが、2輌のティーガーⅡを相手に暴れ回っていた時の事だ。

 

 まほの乗るティーガーⅠとの壮絶なタンクチェイスは、両チームが最初に対峙した広場に出てきた事で終わる。

 広場の中央に置かれている銅像を挟むようにして、両チームの戦車が睨み合う。

 この広場に出る前に、みほはティーガーⅠを撃破するにあたっての作戦を、乗員に知らせていたのだ。

 彼女等を囲む建物の向こうからは、怪物のようなISー2のエンジン音や砲撃音が響き、砲弾が命中した建物がガラガラと崩れる音が聞こえてくる。

 

 その最中、一際大きな音と共に、建物の壁が爆(は)ぜた。

 

「「!?」」

 

 その轟音に、姉妹は揃って音の主を見る。

 彼女等の視線の先で立ち上る砂埃が晴れると、両サイドの装甲スカートが外れ、それまでの激しい戦車戦で、砲塔や車体のあちこちが傷だらけになり、その壁を突き破ったからであろう、砲塔上部に瓦礫を被ったISー2が現れた。

 その次の瞬間には、行動不能を示す白旗が飛び出し、それを知らせるアナウンスが響き渡る。

 

「そんな……紅夜君…………ッ!」

 

 みほは、姿を見せないISー2の車長の名を呟く。

 すると、その声に返事をするかのように、瓦礫が押し退けられ、紅夜が姿を現す。

 気だるげな溜め息をつきながら突っ伏す紅夜だが、その際に此方を見るみほを視界に捉えると、半分を血で染めた顔で微笑み、親指を立ててみせた。 

 

 それは、『後は任せた』と言う、彼なりのメッセージだった。 

 

 みほは頷き、前方に居る姉を見据えた。

 

「この一撃は、皆の思いを込めた一撃………………ッ!」

 

 スコープを覗いた華が、そう呟く。

 

「前進!」

 

 そして、みほの指示と共に、操縦手の麻子はⅣ号を急発進させ、銅像の周囲を走らせる。

 そう。彼女等はグロリアーナとの試合で、ダージリンのチャーチルを仕留めようとした時と同じやり方で決着を着けようとしているのだ。

 

 みほの考えている事を察したのか、まほはティーガーⅠの操縦手に指示を出し、背後を取らせないように超信地旋回させる。

 

「グロリアーナとの試合では失敗したけど、今度は必ず………………ッ!」

 

 超信旋回によって、88砲の砲口を此方へと向けるティーガーⅠを睨みながら、みほはそう呟く。

 そして、麻子の操作でⅣ号が横滑りを始めた時………………

 

「撃て!」

 

 その指示を受け、華は75㎜砲弾をティーガーの車体前部の左側に叩き込む。

 

「撃て!」 

 

 それに続いてまほも指示を出し、放たれた88㎜砲弾は、残されていた砲塔左側のシュルツェンを吹き飛ばす。

 そして、横滑りしたままティーガーの背後を取ろうとするⅣ号の履帯と地面との接地部からは火花が飛び散り、挙げ句には右の履帯が千切れ飛び、案内輪も幾つか外れて飛んでいく。

 超信地旋回では追い付かないと悟ったまほは、今度は砲手に指示を出して砲塔を後ろへと回させる。

 そして、Ⅳ号がティーガーの背後を取り、エンジングリルに砲口を突き付け、まほのティーガーが、Ⅳ号の車体前部の装甲へ砲口を突き付けた直後、両者共に発砲。爆発音が響き渡ると共に、辺りを黒煙が包み込む。

 そして、その黒煙が晴れようとしている中、ジリジリと、何かが焼けるような焼けるような音が聞こえ始める。

 黒煙が完全に晴れると、被弾部から発火しているⅣ号とティーガーの姿が鮮明に映る。

 結果を見る勇気が無いのか、みほがキューポラに顔の半分を引っ込めている中、対照的に上半身を乗り出しているまほは、暫くの沈黙の後、その目を閉じた。

 みほが車外に身を乗り出すと、ティーガーの車体後部から白旗が出ているのが見えた。

 

《黒森峰女学園フラッグ車、行動不能。よって………………大洗女子学園の勝利!》

 

 そして、彼女等の勝利を知らせるアナウンスが響き渡り、信じられないと言わんばかりの表情を浮かべながら、あんこうチームの乗員がハッチを開け、車外へと顔を出し、白旗が出ているティーガーを視界に捉え、自分達が勝ったと言う状況を飲み込んだ。

 

「凄い………………凄いよ、みぽりん!勝ったよ私達!」

 

 そして、感極まった沙織がみほへと抱きついたが、当の本人は、未だ唖然としている。

 

「か、勝ったの…………?」

「ええ!勝ったんですよ、西住殿!」

「そうですよ、みほさん!」

「ん…………勝った」

 

 そんなみほに、優花里、華、麻子が順に声を掛け、段々と、みほの表情に喜びの色が浮かび上がる。

 

『よぉ、隊長………俺だ………』

 

 其処へ、紅夜からの通信が入ってくる。

 

「ッ!紅夜君!」

 

 みほは声を張り上げ、先程壁を突き破って出てきたISー2の方へと向き直る。

 その視線の先には、先程まで外していた通信機セットを再び身につけた紅夜が、タコホーンに指を当てながら此方を見て微笑んでいるのが見えた。

 

「やったよ、紅夜君!勝ったよ!」

『おう、やったな………やってくれると、思ってたぜ………』

「………………?紅夜君、どうしたの?辛そうだよ?」

 

 興奮して言うみほだが、返される返答が喘ぎ喘ぎなのを疑問に思い、安否を訊ねる。

 

『さぁ、どうだろうなァ………………取り敢えず、生きてるとだけ……言っとくぜ』

「え?ちょ、ちょっと紅夜君!?」

 

 それだけ言って通信を切る紅夜に、みほは何度も呼び掛けるが、返事が返されない。

 

「みほさん、どうしました?」

 

 そんなみほを不思議に思った華が訊ねるが、その質問には、取り敢えず『何でもない』とだけ答え、やって来た回収車に引っ張られるⅣ号の車内で、互いの健闘を労うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、撃破された他のチームメンバーは、初めの待機場所に居た。全員、今回の優勝に、興奮の色を隠せない様子である。

 それもそうだ。何せ彼女等は、去年まで戦車とは全く無縁な生活を送ってきた、所謂素人集団。

 そんな寄せ集めの自分達が全国大会に出場し、戦力が相手より遥かに少ないと言う大きなハンデを抱えながらも数々の強豪校を打ち破り、最終的には優勝の座にまで上り詰めたのだ。これで興奮しない方がおかしいと言うものであろう。

 

 そんな彼女等の元へ、Ⅳ号を引っ張ってくる回収車が姿を現す。

 

「あ!帰ってきた!」

 

 それにいち早く気づいた典子が走り出し、他のメンバーもその後に続き、回収車の停車と共に動きを止めるⅣ号の周りに集まってくる。

 みほ達はⅣ号から降りると、夕日の光を受ける彼女等の愛車を眺める。

 

「この戦車でティーガーを………………」

「ええ」

「お疲れさまでした」

 

 Ⅳ号戦車でティーガーを撃破した事をしみじみと思い出す優花里に華が相槌を打つと、沙織がⅣ号へと労いの言葉を投げ掛ける。

 

「西住!」

 

 すると、背後から桃の厳格な声が掛けられる。

 振り向くと、微笑みながら見ている杏と、最早本気で泣き出す一歩手前状態な柚子、そして、何とか感情が爆発するのを堪えている桃が立っていた。

 

「西住………この度のお前達の活躍においては、何て言えば良いのか分からん………でも、本当に………本当に………あ、ありが………………うわぁぁぁあああああっ!!!」

 

 だが、結局は堪えきれず、桃は火がついたように泣き出す。

 

「もぉ~、桃ちゃんってば、泣きすぎだよぉ…」

 

 柚子は涙を浮かべながらも、大泣きする桃の目から溢れ出る涙をハンカチで拭った。

 其処へ、それまで何も言わなかった杏が、ゆっくりと歩み寄ってくる。

 

「西住ちゃん………これで学校、廃校にならずに済むよ………」

「はい」

 

 そう言う杏に、みほは返事を返す。

 

「私達の学校、守れたよ!」

「………………はい!」

 

 続けて投げ掛けられる言葉に、みほは、より一層大きな声での返事を返す。

 その次の瞬間には、杏は小柄な体を力の限り跳び跳ねさせ、みほへと抱きついた。

 

「ありがとね……本当に……ッ!」

「いえ…………私の方こそ、ありがとうございました」

 

 礼を言ってくる杏にそう言って、みほは抱き返す。

 

「ん?そう言えば、ジェノサイド達は何処だ?」

 

 そんな中、紅夜達が居ない事に気づいたエルヴィンが言い、他のメンバーもそれを思い出す。

 

 メンバーが辺りを見回し始めると、もう1台の回収車に引っ張られてきたISー2が、彼女等の前に停まる。

 

 そして、先にレイガンやスモーキーのメンバーがISー2へと近づき、それに続いて、みほ達もISー2を囲むが、そこで彼女等は、損傷が激しいISー2の姿を目の当たりした。

 履帯を守っていた装甲スカートは両方共外れており、それらをつけていた部分には、千切れ飛んだ際の傷がついていた。

 さらに砲塔周囲や砲身、そして車体にも、瓦礫の雨の中を突っ切ったり、建物の壁を突き破ったり、はたまた敵戦車に体当たりを仕掛けた際の傷が刻み込まれていた。

 チームのエンブレムである、風に靡く赤い旗が描かれたフェンダーも、綺麗に外れてしまっており、砲身に白いペンキで書かれている《Lightning》の文字も、傷であちこち消えかけていた。

 

『『『『『『『『『『………………』』』』』』』』』』

 

 一同は、そんなボロボロになったISー2を前に言葉を失いながらも、紅夜達が出てくるのを待った。

 だが、キューポラは閉められており、中からライトニングの乗員が出てくる気配も感じられない。

 

 何かあったのではないかと、一同に不安が走った時、キューポラが開き、蒼い髪がひょっこりと顔を出す。

 次に、横顔を隠すように腕も出てきて、天板に乗せられる。

 そして遂に、紅夜が顔を出し、メンバーは安堵の溜め息をつく。

 

「こ、紅夜!?」

『『『『『『『『『ッ!!?』』』』』』』』』

 

 だが、その横顔を見た静馬が悲鳴に近い声を上げた事により、メンバーの表情は安堵から疑問へと代わり、次の瞬間には驚愕に染まる。

 何故なら、その横顔の、本来なら肌色である筈の部分が赤く染まっているからだ。 

 それも、夕日で赤くなっているのではなく、『血』で赤くなっているときものだから尚更だ。

 

「………………」

 

 紅夜は何も言わないまま、他のメンバーの方へと振り向く。

 顔の左半分が血で赤く染まり、左目も閉じられている状態で、彼は微笑み掛ける。

 そして、辛そうに唸りながら車外へと身を出して降りようとするが、上手く力が入らず、そのまま落ちて地面に叩きつけられる。

 

「イテッ!?」

「ッ!紅夜!」

 

 それを見た静馬は、呻きながら地面を這いずってISー2の履帯部分に凭れ掛かり、痛々しい姿を晒している、幼馴染みであり、想い人である紅夜の元へと駆け寄る。

 

「大丈夫なの!?そんなに酷い怪我をして!」

 

 そして大声で呼び掛け、紅夜の安否を確かめようとするが、当の本人は、辛うじて開いている右目を閉じようとしていた。

 先程まで蒼く染まっていた髪も、今ではもう、元の緑髪に戻っており、右目も蒼から赤に戻っていた。

 

「紅夜!?ねぇ、返事してよ!紅夜!」

 

 これだけの怪我を負えば、死んでもおかしくはない。そう思い、彼が死ぬかもしれないと言う恐怖に駆られた静馬は、その声に涙声を含ませながら彼の名を叫び、揺さぶる。

 そして、漸く状況を理解した他のメンバーも不安げな表情を浮かべ始めた時………………

 

「おい、揺さぶんじゃねぇよ静馬………クソ痛ェじゃねえかよ………………」

 

 苦しそうにしながら、紅夜がゆっくりと右目を開ける。

 

「紅夜!紅夜ぁ!」

 

 彼が死んでいなかった事を喜び、静馬は紅夜をキツく抱き締め、泣き出す。

 

「良かった………………本当に良かった!貴方が、死ぬかと思ったじゃないの!馬鹿!馬鹿ぁ!」

「ハハッ、馬鹿ほざきやがれ…………俺が、死ぬ訳ねぇだろうがよ………………」

 

 そう言って微笑むと、紅夜は尚も泣き叫ぶ静馬を抱き返すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても…………ホントにズタボロだな、祖父さん」

 

 救護テントにて、ベッドに寝かされている、頭や腕に包帯を巻かれている紅夜に近づき、買ってきたのであろうスポーツドリンクのペットボトルを渡すと、大河は言った。

 

 あの後、静馬が泣き止むのと同時に、達哉が呼んだ救護班の係員が2名、担架を持って駆けつけ、紅夜は救護テントへと搬送された。

 本人は強がって、『自分で立てる』と言い張るものの、メンバー一同から怒られ、そのまま連れていかれ、今に至るのだ。

 

「ああ………………今思えば、まさにその通りだぜ」

 

 渡されたスポーツドリンクのペットボトルの蓋を開けながら、紅夜はそう返し、一口、口に含む。

 

「それで、どうだ?表彰式には出れそうか?」

「当たり前だろ?寧ろ、脱走してでも表彰式には出るぞ」

 

 そう返す紅夜に、大河は溜め息をついて言った。

 

「そんな事したらお前、静馬や西住さん達にドヤされるぞ。黒姫もスッゲー心配してたからな」

「それは恐いな」

 

 そう言って紅夜は笑い、大河もつられて笑った。

 その後、表彰式の時間となり、救護班の係員に一言掛けると、紅夜は大河の肩を借り、表彰式の舞台へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな中で視点を移し、此処は、とある山奥にある洞窟。

 その奥底に佇んでいる1輌の戦車――ティーガーⅠ――の砲塔に、1人の女性が腰かけていた。

 雪女を思わせるように白く、腹に紫色の帯が巻かれた装束に身を包み、その服と同じ白髪を持つ美女だった。

 彼女は目を閉じたまま、ただティーガーの砲塔に腰かけたままだったが、やがて、ゆっくりと目を開く。

 

「今日は、非常に懐かしい気分を味わいましたね………………」

 

 そう言って、彼女はティーガーの砲塔を撫でる。

 

「あの時のが『彼』の気配なのか、それとも別人の気配なのかは分からないけど………気持ちを昂らせる、あの感覚は………………今でも、忘れられない」

 

 そう呟くと、その女性はティーガーから飛び降り、洞窟の出口へと歩き出す。

 

「貴方がこの世を去って、もう半世紀以上の年月が経っています。もう、貴方はこの世には居ない、筈なのに………………私は、貴方の気配を、感じています」

 

 そう呟きながら、彼女は歩みを進める。

 そして外に出ると、夕日が彼女を照らし、フワリと吹く一陣の風が、彼女の長い白髪を、装束のスカートをはためかせる。

 そんな風を感じながら、彼女は再び呟いた。

 

「貴方は未だ、其所に居ますか?………………

 

 

 

 

 

 

………………蓮斗」




 次で全国大会編は最後です(予定では)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。