「さあ!第63回戦車道全国大会も、いよいよ大詰めとなってまいりました!!大洗チームフラッグ車のⅣ号と、黒森峰チームフラッグ車のティーガーによる一騎討ちです!」
実況席にて、香住がマイク片手に興奮して叫ぶ。
彼女等含む観客達の前に聳え立つ巨大なモニターには、西住姉妹による壮絶な一騎討ちが繰り広げられていた。
建物の敷地内を全速力で逃げ回るみほのⅣ号を、まほのティーガーが追い回している。
元々の用途が主力で、機動力のあるⅣ号はティーガーを引き離し、上手い具合にティーガーと擦れ違う形に持ち込んでは攻撃を仕掛けるものの、黒森峰チームの隊長車であるまほのティーガーの操縦手は、紙一重のところで攻撃を避ける。
建物を挟んだ道路を並走し、隙間を見ては攻撃、隙間を見ては攻撃を繰り返す。
「両者共に譲らず、どちらかの砲弾が命中するような雰囲気は全く見られない!ですが、あんなにも撃ち合っていれば、何時当たってもおかしくない!正に、手に汗握る壮絶な姉妹バトルです!!」
マイクが置かれていたテーブルから、そのままテーブルごと前のめりに倒れる程の勢いで身を乗り出し、香住は叫ぶ。
モニターに映し出される一騎討ちの光景に、観客は言葉を失っていた。
「おーおー、派手に撃ち合ってやがるなぁ」
その光景を見ていた蓮斗は、勝負の行方や如何にと緊迫した雰囲気の中で、のほほんとした様子で呟いた。
「貴方、結構平然としていられるのね?他の観客はあんな状態なのに」
「まぁな。あんなにもハラハラする試合は、現役時代に何度も経験してきたからな。今となっては、懐かしい光景だぜ。まるで、昔の俺等を見てるような気分だ」
そう言って、蓮斗は目を瞑って当時の事を思い出す。
《白虎隊(ホワイトタイガー)》を発足させて初の試合。
その試合の終盤、残った戦車が、フラッグ車である蓮斗のティーガーと、相手チームのフラッグ車の2輌のみとなった時が、彼の脳裏に鮮明に甦る。
56トンと言う巨体を揺さぶりながら走り回るティーガーと、それを追ってくる相手チームのフラッグ車。
後ろから撃たれると言う状況に堪えかねた蓮斗は、操縦手である拓海にティーガーを反転させて相手チームのフラッグ車に向かわせる。
700馬力のマイバッハエンジンの咆哮を響かせながら相手チームのフラッグ車に襲い掛かるティーガーは、その戦車の右履帯を粉々に吹き飛ばす。
そのまま一旦通り過ぎ、再び反転して襲い掛かり、照準を相手に合わせる。
だが、その時には相手の戦車の砲塔が蓮斗のティーガーへと向けられており、両者同時に撃ったのだ………………
「(まぁ、ダメージが蓄積してたのもあって、あの試合じゃ結局、俺等が負けちまった訳だが……勝ち負けよりも、あのハラハラする感覚が最高に気持ち良かったな………今になっても、忘れられねぇや)」
「………………?お爺ちゃん、どうしたの?」
何も言わず、ただ目を瞑っているだけの蓮斗を不思議に思った愛里寿が話し掛けてきた事により、蓮斗の意識が現実世界に戻ってくる。
「あーいや、何でもねぇよ愛里寿ちゃん。ちょっと昔の事を思い出してただけさ」
蓮斗はそう言って、モニターへと視線を移すのであった。
その頃、要率いる軍団とのタンクチェイスを繰り広げているアヒルさんチームだが、そろそろ限界が近づいてきていた。
たとえ相手に当てても撃破には至らないと分かっていたため、ただの挑発として使っていた砲弾が残り少なくなってきたのだ。
「くっ!砲弾が少ない………………こうなったら兎に角挑発だ!連続アターック!」
典子の指示で、あけびが大急ぎで砲塔を進行方向に向け、さらに砲塔後部にある機銃を乱射する。
だが、当の軍団は紙鉄砲とばかりに何とも無い顔で向かってくる。
「(八九式からの砲撃が緩くなってきている……それに、無駄だと分かっている筈なのに機銃を使ってくるなんて…………もしや、砲弾が少なくなってきたのか………?)」
先程までは数秒に1回のペースで飛んできた砲弾が飛んでこなくなり、代わりに小さな機銃弾ばかりが飛んでくる状況に、車内のペリスコープから様子を見ていた要は、そんな予想を立てる。
「(なら、今こそ相手を仕留める時だ!)」
そう思った要は、他の戦車に通信を入れる。
「全車、発砲を許可する!相手に逃げられる前に撃破せよ!」
『『『『了解!』』』』
要の指示に、他の戦車の車長からの返事が返されるや否や、八九式目掛けて集中砲火を浴びせる。
「ッ!集中砲火だ、撃ち返せ!」
「はい!」
あけびは、再び砲塔を後方に向けて発砲するものの、やはり強固な装甲に弾かれる。
「くそーッ!」
「もっと火力があれば…………ッ!」
典子とあけびがそう言った、次の瞬間!
「撃てぇーッ!」
要の乗るティーガーⅡから放たれた88㎜砲弾が、八九式のエンジングリルに直撃!
至近距離での直撃を受けた八九式は、エンジンから黒煙を上げ、地面に車体のあちこちを派手にぶつけながら吹っ飛ばされると、そのまま車体の右側面を地面に擦りながら滑り、電柱に激突して動きを止める。
「うぅ………………此処までか」
《大洗女子学園、八九式中戦車。行動不能!》
典子がそう呟いたのと同時に、八九式の行動不能を知らせるアナウンスが鳴り響いた。
「八九式を撃破だ!全車、0017地点へ急行!副隊長達を援護するぞ!」
『『『『はい!』』』』
吹っ飛ばされた八九式には目もくれず、要達は速度を上げてエリカ達の援護に向かった。
「うぅ~、相手も中々やるなぁ………………」
その頃、エリカ達の足止めをしているレオポンチームにも、そろそろ限界が近づいてきていた。
次第に当たり始める砲撃により、左履帯の転輪が粉々に吹き飛ばされ、砲弾を弾いた際の傷や地面に着弾した際の煤で、ジャーマングレーの装甲が黒っぽく汚れる。
レオポンチームのエンブレムも、傷で消えかかっており、エンジン部分からも火が出ている。
そんなレオポンチームに、エリカ達の容赦無い砲撃が雨霰と降り注ぐ。撃破されずに残っているラングやパンター、ヤークトパンター、そしてエリカの乗るティーガーⅡの主砲が次々に火を噴き、ポルシェティーガーにぶち当たっていく。
そして、最後に1発撃った直後、砲塔の装甲に何発もの砲弾が直撃し、遂には爆発を起こして黒煙を上げる。
その後、行動不能を示す白旗が飛び出した。
《大洗女子学園、ポルシェティーガー。行動不能!》
「マジかよ、とうとうレオポンチームがやられたぞ」
レオポンチームの行動不能を知らせるアナウンスを聞いた、スモーキーの大河がそう言う。
「決着が着くまでは持たなかったみたいだが、何輌かは撃破しただろうし、あんな角度で道を塞いだんだ。回収車が来るか、無理矢理退かすかしねぇと、黒森峰の連中は中には入れねぇだろうな」
「まあ、道を塞いでいる態勢が体勢だからな。こっからは見えねえが、無理矢理車体を捩じ込んでしまえば、一応は通れる程度の隙間………………なのか?」
それに続いて、煌牙と新羅が言った。
「まぁ、黒森峰の戦車って矢鱈と図体デカいのが多いからな、多分通れねぇだろ………さて祖父さん、そろそろ動き出す準備をしようぜ」
「………………」
大河はそう言うが、紅夜からの返答は無く、キューポラから上半身を乗り出した状態で辛そうに突っ伏していた。
「………………?祖父さん?」
「………?あ、ああ………大河か…………どうした……?」
もう一度呼び掛けると、漸く反応した。
振り返った紅夜の表情は、非常に辛そうなものとなっていた。
「おいおい祖父さん、『どうした?』は此方の台詞だよ。マジで大丈夫かお前?スッゲー辛そうな表情してるぞ」
「いや……大丈夫、だ……それに……後少しすりゃ……本調子に、戻れるからよォ………」
紅夜がそう言うと、その体を蒼白いスパークがバチバチと迸った。
「ちょ、おい祖父さん!今お前の体がスパークってやがったぞ!バチバチって!お前、実は機械人間だったとかじゃねぇよな!!?」
「アホ、言ってんじゃねぇよ………俺は……純粋な…人間だっての」
辛そうにしながらも、紅夜は冗談目かしたようにして言った。
『大河、ちょっと良いかしら?』
すると、静馬からの通信が入ってきた。
「おー、静馬。どったの?」
『ちょっと話があるから、通信が入ったままにしておいて。あ、紅夜は休んでなさい』
『そうするよ……すまねぇな、静馬…………』
そう言って、紅夜は通信を切って再び突っ伏してしまった。
「んで?話ってのは?」
『言わずとも、紅夜の事よ。彼を心配してるようだけど、それは必要無いわ』
静馬の言葉に、大河は首を傾げる。
「心配する必要は無いってのか?あんなにも辛そうなのに?」
尤もな質問だが、その質問には苦笑が返された。
『確かに辛そうだけど、合図があれば一気に回復するわ。だってあれ、ただ『早く戦いたい、暴れたい』と言う気持ちを抑えてるだけだもの………………言うなれば、大好物の餌を前にして『待て』と言われた猛犬みたいなものとでも言っておきましょうか』
「マジかよ、そりゃねぇわ祖父さん………俺の心配返せよ………」
『フフッ♪まぁ、仕方無いでしょう?紅夜の血の気盛んなのは今に始まったものではないのだから』
「だな」
紅夜が辛そうにしていた理由に拍子抜けしながら、大河はヤレヤレと言わんばかりに首を横に振るのであった。
「突撃!中央広場へ急げ!」
その頃、ポルシェティーガーを撃破したエリカ達一行は、そのまま中央広場へ行こうとしていた。
だが、その中央広場への入り口は、たった今撃破されたポルシェティーガーが塞いでいる場所の1つしか無いのだ。
『副隊長!ポルシェティーガーが邪魔で通れません!』
「あーもう!回収車、急いで!」
「「ゆっくりで良いよ~」」
もう少しのところで先に進めないと言うもどかしさから声を荒げるエリカの声が聞こえていたのか、ナカジマとホシノが声をハモらせて言った。
「くっ!こうしている間にも、隊長が………………」
前に進みたくとも進めないと言うもどかしい状況に苛立っていると、八九式を撃破した要達が合流した。
「すまない、副隊長。遅くなってしまったかな?」
「いいえ、早いも遅いも無いわ。隊長と合流したくても、この状態では無理だもの」
そう言って溜め息をつくエリカを他所に、要は当たりを見回した。
「(ラングとパンターの2輌が撃破されたか………………となると、エレファントとヤークトティーガーは撃破され、其処にラングとパンターが加わる訳だから、現段階で動けるのは、隊長を除いて9輌と言う事か………だが、戦力が揃ってもこの状態では……ん?そう言えば…………)」
何かを思い出したような表情を浮かべ、要はエリカに声をかけた。
「副隊長、レッド・フラッグについてはどうなのですか?市街地へ来てからと言うもの、彼等の姿を全く見ていませんが………」
「ッ!?言われてみれば………!」
要の言葉に、エリカは目を見開く。
「いやぁ~、漸く気づいたみたいだねぇ、黒森峰のお二方」
「「ッ!?」」
その声に振り向くと、撃破されたポルシェティーガーのキューポラから上半身を乗り出したナカジマが居た。
「君が、そのポルシェティーガーの車長のようだね………中々手こずらせてくれるじゃないか」
「お褒めに預かり、光栄ってね」
不敵に微笑みながら言う要に、ナカジマは呑気な表情を浮かべながら言った。
「さて、せっかくだから何か話をしようと思ったんだけど、残念ながら、そうしてる時間が無いんだよね~。もう爆発寸前だからさ」
「?一体、何の話を………」
「それは始まってからのお楽しみさ」
そう言って、ナカジマはタコホーンに指を添えて通信を入れた。
「ああ、長門君?うん、私。ナカジマ………って、メッチャ辛そうじゃん、大丈夫?………そう?なら良かったよ………………うん、舞台は整ったから、後は好き放題に暴れちゃって良いよ~」
そうして、紅夜との通信が切れる。
このやり取りから、紅夜達レッド・フラッグが何処かに隠れている事に気づいたエリカ達一行だが、それに気づいた頃には、もう遅かった。
「………………?な、何?地震?」
突然、地面が小刻みに揺れ始めたのだ。
突然の出来事でパニックに陥る黒森峰チームだが、レオポンチームからは、そんな様子が全く見られない。
そんな揺れが少し続き、そして揺れが治まった時だった。
『ガァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアッ!!!!』
『『『『『『『『ッ!!?』』』』』』』』
突然、地獄の底から鳴り響くような大声が響き渡る。
その声がした方へと振り向くと、向かって右の方で蒼い炎が上がっており、其処から建物に亀裂が入っていた。
「な………………何なんだ、あれは………………ッ!?」
比較的距離はありながらも、何メートルの高さにも噴き上がる蒼い炎を視界に捉え、要はそう呟くのであった。
建物の影に隠れた3輌の戦車。
その内の1輌、ジャーマングレーの車体を持ち、砲身に白いペンキで《Lightning》と書かれ、車体側面に装甲スカートを取り付けられた戦車――IS-2スターリン重戦車――のキューポラから上半身を乗り出した1人の青年――長門 紅夜――は、その鮮やかな緑髪を蒼く染め上げた長髪を、噴き上がるオーラに靡かせ、閉じていた両目を見開く。
左目は元の赤なのに対し、蒼く変色した右目に闘志の炎を燃やして声を上げた。
『………………All tanks,let's move out(全車、出撃)!!』
結構無理矢理になったが、後悔はしていない!
と言うわけで、次辺りでVS黒森峰は終わるかなぁ?
覚醒した赤旗の戦車乗りの暴れッぷりにご期待ください!
それと、近い内にレイガン(パンターA型)とスモーキー(シャーマン・イージーエイト)の擬人化もしようと思ってますのでご期待ください。
紅夜「それは良いんだけど………………取りあえず作者、先ずは春休みの宿題しろ。それから実力テストの勉強しろ」
………………すんません