ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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 今回は試合から外れて、今は登場していない人達の様子をお送りします。


 


第99話~他の人達の様子です!~

 此処は、大洗女子学園の学園艦。

 巨大な船の上に広がる大きな町にある、とある解体所の隣にある家には4人の男女が集まって、リビングに置かれてあるテレビにかじりついていた。

 

「大洗チーム、あの黒森峰相手によぉやるなぁ~。一応大洗って、今年度から戦車道復活させたって言う、所謂初心者の集まりみたいなモンやろ?」

 

 その4人の中で最も小柄で、丸い眼鏡をかけた男――沖海 祐介――はそう言った。

 

「そうじゃな。何せ今回の試合の相手校である黒森峰は、あの西住流とか言う流派の後継者で、国際強化選手に選ばれたとか言われてる、えっと………………」

「西住まほちゃん、でしょ?」

 

 肝心の名前を思い出せずに唸った50代の男性――山岡 次郎――に、祐介の妹である神子が言葉を付け足す。

 

「そうそう、その子じゃ!それで、その子が隊長をしとる上に、去年の試合で負けるまでは9連勝しとった名門校じゃ。そんな学校を相手にして、あんなにも戦えるとはなぁ~」

 

 そう言って、次郎は腕を組んでウンウンと頷いた。

 

「それに何回戦かは忘れたが、綾ちゃんが通ってる知波単学園の戦車を速攻で片付けちまったって言われてるからなぁ………………何でも、メンバーの殆んどが黒森峰の戦車に突撃を仕掛けようとしたものの、遠距離射撃で返り討ちにされたって、この前綾ちゃんから連絡があったぜ」

 

 頭に白いタオルを巻き付けた、筋骨隆々とした男――穂積 輝夫――は、テーブルに置かれたお椀から煎餅を取り出し、バリバリと頬張りながら言った。

 

「綾ちゃんの戦車って、確か五式中戦車やったよな?綾ちゃんはどうなったんや?まさか、他の子等と同じように、突撃仕掛けようとしたんか?」

 

 祐介がそう訊ねると、輝夫は首を横に振った。

 

「いいや?綾ちゃんの五式戦車の乗員は、知波単戦車道のやり方から綾ちゃんなりのやり方に染まった精鋭揃いで、確かパンターとラングを2輌ずつ、計4輌撃破したらしいぜ?」

「流石、紅夜君達が未だ現役の頃、練習に参加してただけの事はるわね。もう、綾ちゃんが隊長をやった方が良さそうね………………」

 

 知波単の呆気ないやられ方にしては、大きな戦果を挙げた綾の功績に、神子は苦笑を浮かべながらそう呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久し振りに、大洗の試合を見るなぁ………………」

 

 場所を移して、此処は拓海の家。彼もまた、お茶を啜りながら決勝戦の生中継を見ていた。

 テレビの画面には、隊列を組んで市街地を突き進み、大洗チームを探している黒森峰と、大洗チームの隊列からレッド・フラッグの面々が離れていく様子が映し出されていた。

 

「ほぉ、紅夜君達のチームが本隊から離れていく………何か、物凄い事をやろうとしているように見えるなぁ………………」

 

 そう言って、拓海はもう一口、お茶を啜る。

 

「こんな感じで予想を立てられると言う事は、ワシも未だ、戦車道の腕は鈍ってないって事じゃな………………お?」

 

 昔の余韻に浸っていると、突然画面が切り替わり、観客席の様子が映し出された。

 

『おおーっと!?レッド・フラッグの3輌が、大洗チーム本隊から離れていきます!』

『彼等の戦力は非常に高いのですが、それが居なくなるとなれば、大洗チーム本隊で戦力になるのは、Ⅳ号とポルシェティーガー……に、なるのでしょうね。この行動が、後に吉と出るのか凶と出るのか………………』

 

 画面に映る実況席では、香住とカレンがそんな会話を交わしていた。

 

「ほう、こんな試合では実況も出るのか。ワシ等の頃は、そんなの全く無かったのになぁ………………ん?」

 

 そこで、拓海の目に1つの人影が留まった。

 幼げな少女と、その少女の母親らしき女性の隣に座っている、黒髪に蒼い瞳を持つ青年。

 

「あの帽子にパンツァージャケット………………間違いない、蓮斗じゃ!彼奴、幽霊にでもなってこの世に甦ったのか!?」

 

 拓海はそう言いながら、棚に置かれてある写真立てを手に取り、画面に映る蓮斗と見比べる。

 

「おぉ、やっぱり蓮斗じゃ………ったく、死んだ時と変わっとらんなぁ………今となっては、あの顔も、あのパンツァージャケットも、あの帽子も懐かしい………………」

 

 そして、両目からポロポロと涙を溢した。

 

「全く………………甦ったなら甦ったって、ちゃんと言いに来やがれ。この鈍感自己中なアホ野郎」

 

 若い頃の口調に戻りながら蓮斗を罵るが、その表情には、喜びの感情が溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミカ~、大洗と黒森峰の試合、結構終盤にまで来てるよ~?」

 

 またまた場所を移し、此処は継続高校の学園艦。

 フィンランドの町をイメージしたのか、その学園艦の上には緑が広がっており、一部は完全な森林地帯になっていた。

 そんな場所で、スマホ片手に木に凭れ掛かっていた、金髪で小柄な少女――アキ――は、木の根本に敷かれたブルーシートに腰掛け、フィンランドの民族楽器――カンテレ――を弾いているミカに声をかけた。

 

「………………」

 

 だが、一応聞いては居るのだろうが、ミカは目を瞑ってカンテレを弾いたままだった。

 

「………………?ミカ、大洗の試合ってどうでも良いのかな?この前大洗の喫茶店で助けてくれた人も参加してるのに」

「いや、そりゃ無いと思うよ?」

 

 そう呟いたアキの元に、スカートの下にジャージのズボンを履いている、赤茶色の髪を両サイドでアップさせている少女、ミッコが近づいてきた。

 

「よぉーく見てみ?ミカの表情を」

「んー?」

 

 ミッコに言われ、アキはカンテレを弾いているミカの表情を見たが、何処にも違和感は無かった。

 

「何時ものミカじゃない?カンテレ弾いてる時って、大体あんな感じでしょ?」

「いやいや、一見そう見えても、実は違うんだなぁ~。コレが」

 

 後頭部で腕を組んで木に凭れながら、ミッコはそう言った。

 

「ホラ、ミカの表情を見てみなよ。何時もカンテレを弾いてる時よりかは、若干顔が赤い………………きっと、2人を助けたって言う人の事を想ってるんだろうよ。勿論、LOVEの方向でね♪」

 

 そう言いながら、ミッコは組んだばかりの腕を解いて、両手でハートマークを作ってみせた。

 

「ミカが恋かぁ~、何か見た目からして想像つかないなぁ………………」

「失礼だな、私だって恋ぐらいはするさ。それに、見た目から分からない事なんて、幾らでもあるんだ。見た目だけで彼是決めるのは、愚かな事だと思うよ」

 

 何時の間に弾き終えたのか、ミカはチラリとアキの方を向く。

 

「あ~あ、アキったらやっちゃった~」

「え?これ私が悪い流れ?」

 

 からかうように言いながら、ミッコはミカの隣に腰掛けた。

 

「それでミカ、その人とはどんな出会いをしたの~?この際だから秘密にしないで言っちゃえよ~。聞いてるのはウチ等だけだしさ~」

「………………まぁ、良いよ。こうやって話してみるのも、また一興だ」

 

 そう言って、ミカはその時の出来事について話した。

 

 乱入してきた武装グループに人質として囚われた時に、紅夜と蓮斗が大暴れして、忽ち武装グループを壊滅させてしまった事や、その際に、自分に声を掛けてくれた事。また、警察署で一夜を明かした時の事を………………

 

 

「……月明かりに照らされてる彼は、輝いているように見えたよ。月の光も関係無く、彼自身がね…………一瞬翻った緑色の髪も、あのルビーのように赤い瞳も……宝石のようにね…………」

 

 それにと付け加え、ミカは適当に、カンテレの音を鳴らした。

 

「彼は、不思議な人だよ」

「………………?」

「不思議な人………って言うと?」

 

 ミカの言葉に、2人は首を傾げる。

 

「何故だろうね……戦車道をしていると、大概の人は、籠に囚われた小鳥のようなのに………………彼は違って見える。何にも囚われない、自由気ままな猫のようだよ。近づくと逃げる、拘束を嫌う猫のようにね」

 

 そう言って、ミカはクスリと微笑んだ。

 

「そんな一面を持ちつつも優しい彼に………私は、惹かれてしまったんだろうね………」「「………………」」

 

 頬を染めて言うミカを、2人はただ、黙って見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして最後に、此処は知波単学園の学園艦。

 その学生寮の一室でテレビを見ているのは、長門 綾。紅夜の実の妹だ。

 

「大洗、マウス戦で一気に戦力を削がれちゃった上に、兄様達が本隊から離れちゃったけど、大丈夫なのかしらね………………まぁ、突撃しようとして、私の五式以外が遠距離射撃でフルボッコされた此方が言うのもアレだけど」

 

 綾はそう言いながら、当時の事を思い出す。

 未だ隊長が絹代ではなかった頃、知波単学園は万歳突撃の戦法で全国大会4位にまで上り詰めた事があり、それ以来はずっと万歳突撃を行い続けていたのだ。

 それで当時の隊長は、当然ながら万歳突撃を敢行。そして、その指示を受けた他の戦車は全速力で黒森峰の戦車に襲い掛かったものの、ドイツ戦車の中でも非常に強力な戦車軍団を率いる彼女等を前にして、フラッグ車と彼女の五式戦車を除く殆んどの車両が一撃ノックアウトされたのだ。

 そして、どうせやられるなら最後の悪足掻きにと、柄にもなく自棄を起こした綾の指示により、彼女が駆る五式戦車が大暴れし、パンターとラングを2輌ずつ、計4輌撃破する事に成功するものの、結局フラッグ車が撃破されて敗北すると言う結果を辿ったのだ。

 

「まぁ、あんな事があってから、今の隊長に代わった訳だけど………………大洗との練習試合で思ったけど、結構突撃しまくってたわよね。特に、最後で兄様と大河さん達が乱入してきてからは」

 

 綾はそう呟き、土壇場で乱入してきて大暴れした紅夜達を思い出す。

 台風の如く暴れ回り、時には他の戦車に体当たりを仕掛けて弾き飛ばすなどと言う肉弾戦的な戦法すらも使ってくる彼等を前にして、自分達はあっさりと負けた。

 

「そして、此方の隊長と大洗の隊長との一騎討ちを経て、結局私達が負けたのよね」

 

 そう呟きながら、綾は画面に視線を戻した。

 

「頑張りなさいよ?これで負けたりしたら、許さないんだからね………………大洗の人達。そして………………兄様」

 

 そう言って、綾は画面に映る大洗チームを見守るのであった。


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