市街地で現れたマウスは、その圧倒的な火力でカモさんチームのルノーを一撃で撃破し、反撃しようとしたカバさんチームのⅢ突の砲撃をあっさりと弾き、逆に撃破してしまい、一気に2輌の戦車を撃破され、戦力が大幅に削がれてしまった大洗チーム。
Ⅲ号戦車の撃破には成功したものの、どれだけ攻撃しても平然とした顔で迫ってくるマウスに成す術も無くなったと思われた時、沙織がふと呟いた言葉――『戦車が乗っかりそうな戦車』――で名案が浮かんだみほの作戦により、何と、カメさんチームのヘッツァーをマウスに突撃させて車体の下にめり込ませ、その上をアヒルさんチームの八九式が踏み越えてマウスの砲塔の動きを封じ、紅夜達ライトニングが後ろから砲撃を仕掛ける事によって撃破すると言う、何とも無茶な作戦が実行される。
作戦は成功し、一行はマウス撃破を達成するのであった。
「うおー、スゲー!」
「あんなやり方見た事ねぇぞ!」
「あのデカブツを撃破しやがった!スゲーぜ大洗!」
観客席では、マウスを撃破する様子がモニター全面に映し出され、それを見た観客からの拍手喝采が上がっていた。
「凄いわね。まさか、あんなやり方でマウスを撃破するなんて………………」
千代もこれには驚いたのか、口許を押さえて目を見開いている。
まさか、戦車を下敷きにして、さらにそれを足蹴にして車体に別の戦車を乗せて動きを完全に封じ、その隙に撃破に持ち込むとは思わなかったのだろう。
「あんな作戦を考えた隊長も凄いけど………………やっぱり、お兄ちゃんの戦車が一番凄い。あんな挙動、そう簡単には出来ない」
愛里寿は、大洗の作戦よりも、紅夜のチームの操縦技術に驚いていた。
「確かにな………ティーガーよりも操縦性は悪いって言われてるIS-2で、あんな挙動を見せてくれるとは………………もしかして、何時ぞやの水着売り場での黒髪の奴かな?まぁ、あのIS-2の操縦手がソイツであろうがなかろうが………………紅夜(彼奴)が率いるチームは超強ぇーってこったな」
愛里寿の呟きを聞いた蓮斗はそう言いながら、アウトレットの水着売り場で紅夜と初めて会った日、化粧室から戻る最中の達哉と擦れ違ったのを思い出した。
「(それにしても、あのIS-2………何処と無く俺のティーガーに似ているなぁ………普通なら出来ないような挙動をあっさりとやってのける上に、プラウダとの試合で見せた、あの火柱。タダモンじゃねえな………………)」
「………………?お爺ちゃん、どうしたの?」
何も言わなくなった蓮斗を不思議に思ったのか、愛里寿が蓮斗のパンツァージャケットの袖を引きながら訊ねた。
「あーいや、何でもない。ただ、紅夜のチームは凄く強いって思っただけさ」
そう言うと、蓮斗はモニターに視線を戻した。
「凄いですよダージリン様!マウスを仕留めました!」
此処は、観客席から少し離れた場所にある丘陵エリア。
其所に陣取ったダージリンとオレンジペコは、大洗チームがマウスを撃破する様子を見て興奮していた。
「ええ。流石にあんなやり方はやった事が無いわ………………機会があったら、私達もマークⅥでやってみようかしらね?」
興奮して叫ぶオレンジペコとは対照的に、ダージリンは落ち着いているような様子を見せているものの、マグカップを置いた事によって空いた右手は固く握られ、彼女も先程の光景に興奮しているのが窺えた。
「凄い。あのマウスを撃破するなんて………………!」
別のエリアで観戦しているサンダースでは、アズサがそう呟いていた。
「恐らく、あの作戦を考えたのはみほね………………excitingよ!それに紅夜の戦車も、中々にcrazyな動きを見せてくれるじゃない!やっぱり、レッド・フラッグが加わった大洗の試合は、見てて退屈しないわね!」
ポップコーンを口に放り込みながら、ケイはそう言った。
「………………ハラショーの一言に尽きるわね、アレ」
プラウダでも、あの光景には驚きを隠せずにいた。
流石に、戦車を下敷きにするなんて作戦、誰も考え付かないだろう。
ノンナに肩車されているカチューシャは、淡々と呟いた。
「そんな………………マウスが、やられた!?」
その頃、市街地へ踏み込もうとしている黒森峰本隊には、マウスの車長から、撃破されたとの報告を受けていた。
「嘘だろ……どうやって撃破したと言うんだ…………!?」
通信を受け、驚きのあまりに大声を上げるエリカの言葉を聞いた要は、有り得ないと言わんばかりの表情を浮かべる。
あの怪物を如何にして撃破したのか………………そんな疑問が、彼女の頭の中で駆け巡っていた。
「くっ………………これはのんびりしていられないわね。全車、速度を上げて!市街地へ急ぐわよ!」
エリカが叫ぶと、黒森峰の戦車隊は加速して、市街地へと急行した。
「………やっぱり、もう来てる」
土手を上がった所から黒森峰の様子を見ていた梓は、双眼鏡から目を離して呟くと、他のチームへと通信を入れた。
「此方ウサギさんチーム。黒森峰の本隊を発見しました。恐らく、後3分程で市街地に到着します!」
『マジかよ、はぇーな黒森峰………………否、あのネズミ野郎ブッ飛ばすのに、かなり手間取っちまっただけか………』
アズサからの通信を聞いた紅夜からは、苦笑混じりのコメントが返される。
「でも、未だ一応時間はあります。全車、次の作戦に移ってください!」
『はい!』
『ほーい』
『Yes,ma'am』
みほからの指示に、他のチームから次々と返事が返される。
未だにマウスの下敷きになっているカメさんチームのヘッツァーも、ゆっくりと後退してマウスの下から出ると、着地の衝撃でドスンと大きな音を立てるマウスを他所に、みほ達に続こうとしたのだが………………
――――ッ!!
エンジン部分から、何かが派手に壊れたような大きな音を立てながら、ヘッツァーは速度を落としていく。
そして、バキッと一際大きな音を立て、ヘッツァーは完全に動きを止めてしまう。エンジンからは黒煙が上がり、遂には行動不能を示す白旗が飛び出す。
「ッ!?おい隊長、ヘッツァーが………………ッ!」
『ッ!?』
紅夜が言うと、みほは後ろを振り返り、もう動かなくなったヘッツァーを視界に捉える。
他のチームも、黒煙を上げるヘッツァーを視界に捉え、続々と停車して車外に顔を出す。
「ふぅ………良く此処まで頑張ってくれたな………………」
先に車外に顔を出した桃が、その上面装甲を撫でながらそう呟いた。
「うん。やれる事は、もう十分にやったね」
「私達の役目も、これで終わりだな」
その後、柚子と杏も出てきてそう言った。
「ええ………………西住隊長!」
柚子と杏の呟きにそう返し、桃はⅣ号から降りたみほに声をかけた。
「すみません………………」
「謝る事なんて無いよ!」
「そうそう、良い作戦だったよ!」
申し訳なさそうに言うみほを、柚子と杏が励ます。
「後はお前の頑張り次第だ、頼んだぞ!」
「………………はい!」
最後に言った桃に、みほはそう返してⅣ号に乗り込み、前進の指示を出す。
「さて………………それじゃあ俺等も行くとしようか」
他の戦車が続々と動き出すのを見て、紅夜もIS-2を発進させようとするが――――
「紅夜君!」
――――其処で、杏に呼び止められた。
「おう、どうした?」
呼び止められた紅夜は、達哉に未だIS-2を発進させないように指示を出し、そのまま振り向いた。
杏は、暫く躊躇うような仕草を見せるものの、やがて決心したのか、大声で言った。
「西住ちゃん達の事、お願いね!」
「………………」
そう言われ、紅夜は少し唖然としたような表情を浮かべていたが、やがて、不敵な笑みを浮かべた。
「分かってるよ、絶対に優勝しようぜ!」
「ッ!」
そう言って微笑みかけると、杏の顔が赤くなるのを無視して、紅夜はIS-2を発進させる。
少しで遅れたため、達哉は速度を上げて本隊を追い掛け、何とか合流を果たした。
みほは、その場に大洗チームの残りの戦車全てが居るのを確認すると、全車両に通信を入れた。
「此方は7輌で、相手の戦車は14輌。戦力の差が2倍もありますが、フラッグ車は両チームでも1輌しか居ません。敵の狙いは間違いなく、私達あんこうチームです」
みほの言葉に、メンバーの間で緊張が走る。
自分達の戦車が撃破されても試合は続くが、フラッグ車であるⅣ号が撃破されれば、試合は終わってしまうのだ。そうともなれば、嫌でも緊張すると言うものだ。
「相手は大軍で攻めてきますので、先ずは敵戦力の分散に努めてください」
『了解です!さぁ、敵を挑発しまくるよ!』
『『『おー!』』』
無線機から、アヒルさんチームのメンバーからの返事が聞こえる。
「それと敵を分散する際は、火力と防護力が高いヤークトティーガーやエレファントに十分注意してください」
『了解です!それと隊長、最後尾は任せてもらえますか?必ず撃破してみせます!』
「分かりました、お願いします!」
梓にそう返すと、今度はレオポンチームに向けて言った。
「あんこうは敵フラッグ車との1対1の状況を窺います。その際には、レオポンさんの協力が不可欠です!」
『了解』
『あいよ、任せといて隊長!』
『うひょー、燃えるねぇ~!』
レオポンからの返事を聞いたみほは、最後にレッド・フラッグの面々に言った。
「レッド・フラッグの皆さんは、独立行動を許可します。その場の状況に応じて、此方の戦車の援護を。そして可能なら、レオポンチームの援護をお願いします!」
『『『Yes,ma'am!』』』
IS-2車長である紅夜、パンターA型車長の静馬、そして、シャーマン・イージーエイト車長の大河からの返事を得る。
「それで、これより最後の作戦――《ふらふら作戦》――を開始します!」
『『『『『『はい!』』』』』』』
みほが言うと、他のチームのメンバー全員からの返事が返される。
こうして、この全国大会決勝戦は、決着に向けて動き出すのであった。