強力な戦車を差し向け、圧倒的な火力と練度で大洗を追い詰めようとしてくる黒森峰を、様々な作戦を駆使して切り抜けた大洗チーム。
途中、川を渡っている最中に、ウサギさんチームのM3がエンストすると言う事態に見舞われるものの、前に進む事より仲間を救う事を取ったみほと、それを見た沙織からの要請で加勢した紅夜の活躍により、ウサギさんチームの救出に成功すると共に、M3のエンジンが蘇り、再び走れるようになる。
そして、決戦の場となる市街地へとやって来た一行が出会ったのは、黒森峰のⅢ号戦車だった。
火力や防護力は大したものではなくても、その機動力を危険視して撃破しようと追うが、其処で今度は、史上最大の戦車――Ⅷ号戦車マウス――が現れる。
マウスは、その圧倒的な火力でカモさんチームのルノーを一撃で撃破し、反撃しようとしたカバさんチームのⅢ突の砲撃をあっさりと弾き、反撃して横倒しにしてしまう。
一気に2輌の戦車を撃破される大洗チームだが、そうしている間にも、黒森峰の本隊が市街地へ向けて進撃してくる。
追い詰められつつある大洗チームは、この後どう出るのか………………?
「何なのよアレは!?あんな図体しておきながら、何がマウスよ!?」
引っくり返されたルノーの中で、みどり子が叫ぶ。
「残念です」
「無念です」
みどり子に続き、ゴモヨとパゾ美もそう呟く。
「こうなったら………………冷泉さん、後は頼んだわよ!遅刻取り消しの約束は、ちゃんと守るから!」
みどり子はタコホーンで麻子にそう叫び、それを聞いた麻子は目を輝かせた。
「マウス持ってるとか………黒森峰マジパネェって、つくづく思うぜ…………」
操縦席の小さな窓から、マウスの巨体を眺めている達哉はそう呟いた。
その後、みほの指示で一行は後退を始め、マウスから距離を取る。
それを追おうとするマウスだが、巨体から生み出される188トンと言う車重から速度は遅く、忽ち差を付けられる。
「うっへぇ~。火力と装甲はチートなのに、足はスゲートロいのなぁ」
パンターを後退させながら、雅が呟く。
「まぁ、重量が188トンもあるんだもの。これじゃあ、ライトニングお得意の体当たりは効かないし、IS-2の122㎜砲も弾かれるでしょうし……」
「パンターの75㎜砲やイージーエイトの76,2㎜砲も、当然ながら効かないわよね」
キューポラから外を見ている静馬が呟くと、砲手用のスコープを覗いている和美が言葉を付け加えた。
「マウスかぁ~。見るのは随分と久し振りだな」
観客席では、蓮斗がモニターに映し出されるマウスを見て言った。
「お爺ちゃん、前にもマウスを見た事があるの?」
愛里寿が訊ねると、蓮斗は頷いた。
「あるも何も、マウスは俺が、最後に戦った戦車だからなぁ」
「………………それは、どういう意味なの?」
そう訊ねる千代に、蓮斗は少しの間を空けてから答えた。
「言葉通りと意味だよ、お袋さん。俺は、マウスとやり合ってる時に死んだのさ………彼奴の砲撃を喰らって、吹っ飛ばされて崖から落ちたティーガーから投げ出されてな」
その言葉は、2人に重くのし掛かった。
自分達は、蓮斗の古傷を抉ってしまったのではないかと思ったのか、とでも思ったのか、2人は表情を曇らせた。
「だがまぁ、そんな事がありつつも、俺はこうやって、この世に留まってる………………不思議なモンだぜ」
そんな2人の状態を知らずに喋っていた蓮斗だが、2人の表情が曇っているのを見ると、首を傾げた。
「………………?どったよ2人共?」
「いえ………………もしかしたら、嫌な事を思い出させてしまったんじゃないかと思ったのよ」
千代が答えると、蓮斗は苦笑を浮かべた。
「まぁ、死ぬ原因となったヤツが現れて喜ぶ馬鹿は居ねぇだろうが、あのマウスが俺を殺したヤツだと言う証拠はねぇんだし、何だかんだありながらも、俺はこうやって、この世に留まってんだ。それで良いんだよ………………まぁ、白虎隊が解散しちまったのが悔いだがな」
そう言って、蓮斗はモニターに視線を戻すが、試合の様子は見ず、そのまま目を瞑った。
「(挨拶無しでのお別れから半世紀以上経つが………………お前は今、何処に居るんだ?………………雪姫(ゆきひめ)」
心の中でそう呟く蓮斗の脳裏には、腰まで伸びた、雪のように真っ白な髪を持ち、黒姫のように、巫女の装束のような衣装に身を包んだ女性の姿が映っていた。
その頃大洗チームでは、どうにかしてマウスを叩こうと、メンバーは躍起になっていた。
相手より機動力が高いのを駆使して逃げ回りつつ、隙が出来れば攻撃を仕掛ける。
先程から、その繰り返しとなっていた。
「何をしてるんだ、早く叩き潰せ!図体だけがデカいウスノロだぞ!」
ヘッツァーの75㎜砲弾を装填しながら、桃が叫んだ。
「無闇に車体を狙っても意味はありません、砲身を狙ってください!」
みほがそんな指示を出している最中、マウスの後ろではⅢ号戦車が挑発するように蛇行運転をしていた。
「お前達の火力でマウスの装甲が抜けるものか~、あっはっはっはっ………………」
Ⅲ号戦車の車長が高笑いするものの、静馬の指示を受けた和美によって、パンターの75㎜砲弾を砲身に叩き込まれ、その50㎜砲が使用不能となり、さらに有効弾と判断され、そのまま撃破を示す白旗が飛び出す。
「フンッ、何時までも調子に乗ってんじゃないわよ。足の速さだけが自慢の雑魚野郎」
双眼鏡で、Ⅲ号戦車の撃破を確認した静馬が口汚く罵る。
「此方も攻撃したいなぁ~」
「翔、気持ちは分かるが堪えろ。撃ちまくるチャンスは、後でちゃんと来るからよ」
「それに期待するしか無さそうだな」
IS-2の車内でそんな会話が交わされている最中でも、マウスから放たれた砲弾がⅣ号の直ぐ前に着弾し、一行は再び後退する。
「市街地で決着をつけるには、やっぱりマウスと戦うしかない。放っておいたら、本隊が合流してからが怖い」
「ええ。ですが、やはりマウスは凄いですね。前も後ろも全く抜けません」
立ちはだかる強敵に表情を歪めながら呟くみほに、優花里がそう言った。
「幾ら何でも大きすぎ………………これじゃあ戦車が乗っかりそうな戦車だよ!」
『戦車ブック』と書かれたノートを開いていた沙織が、あまりのマウスの大きさにそう叫ぶ。
『それは違ぇねぇな。何せマウスは、『史上最大の超重戦車』とか言われる代物だし。あのデカさだ、小さい戦車1輌乗っけても、平気なツラして走り回るだろうよ………………この際、おちょくって注意を向けてる内に、ヘッツァーか八九式をマウスの上に乗っけてみたら面白そうじゃね?どうよ隊長さん?』
沙織の言葉にコメントし、紅夜はみほに提案する。
「確かに、その作戦は使えそう………………ありがとう沙織さん、紅夜君!」
『良いって良いって、礼には及ばねえよ。後それから、あのネズミ野郎をぶっ潰すのは俺等にやらせてくれよな!』
「………………?」
みほが礼を言うと、笑いながら言う紅夜とは対照的に、沙織は何故礼を言われたのか分からないとばかりに首を傾げた。
「アヒルさんとカメさん、これから無茶な事を言いますが、指示通りに動いてください」
『了解しました!』
『何でもするよ~!』
みほがそう言うと、典子と杏から迷いの無い返事が返される。
「少々危険を伴いますが、それでも良いですか?」
『今更何を言う!?良いから早く内容を言うんだ!』
桃からの檄が飛び、みほは意を決したような表情で作戦を伝えた。
「大洗の連中、何処に行ったんだ?」
マンションに挟まれた狭い道路を移動しているマウスの車内では、車長がそう呟いていた。
先程までなら、死角になる場所から一斉攻撃を仕掛けてくるものだが、今はそれが無い。
それどころか、自分達の向かう先に居る気配も感じない。
何処かに隠れてやり過ごそうとしているのか、それとも不意打ちを仕掛けるつもりなのかと、様々な仮説が思い浮かんでは消えていく。
そうしている内に、マウスは大きな交差点に差し掛かると、一旦停車する。
「未だ見つからないか………………まぁ流石に、こんな開けた場所に連中が居る訳が………………あった」
ペリスコープから周囲を見渡していたマウスの車長は、自分達の左側の装甲に向いている大洗チームの戦車を見つけた。
「交差点を左折しろ!大洗の全戦車を発見した、さっさと叩き潰すぞ!」
「了解!」
操縦手はマウスを左折させて大洗の戦車と対峙させると、そのまま前進させる。
それと同時に大洗の全戦車も動き出すのだが、その中でも、ヘッツァーが先陣を切るような速さで突っ込んできていた。
「まさか、こんなにも滅茶苦茶な作戦だったとは………………」
「やるしかないよ、桃ちゃん!」
および腰になって呟く桃に、柚子が力強く言い放つ。
「うひょ~、燃えるねぇ~!それじゃあ行こうか!」
杏はそう言って、ヘッツァーの砲身を下げる。柚子はアクセルをさらに強く踏み込み、そのままマウスに体当たりを喰らわせた。
自動車同士が衝突したような音を立て、ヘッツァーの車体がマウスの下に入り込む。
「ッ!?な、何だ!何がどうなっている!?」
マウスの車内で軽く混乱状態になっているのを無視し、その横にM3とポルシェティーガーが停まった。
「撃てるモンなら………………」
「撃ってみやがれ!おりゃあ!」
M3の機銃弾がマウスの装甲スカートを叩き、ポルシェティーガーから放たれた88㎜砲弾が、追い討ちを掛けるようにぶち当たる。
「ッ!?コイツ等、ナメた真似を………………ッ!」
砲手はそう言いながら、マウスの砲塔を回転させて2輌に狙いを定める。
「おおーっ、怒ってるよ向こう」
「にっげろ~!」
砲塔の回転が止まると同時に撤退を始め、2輌はマウスからの砲撃を回避する。
其処へ、アヒルさんチームの八九式が全速力で突進していた。
「さぁ行くよ!」
「「「はい!」」」
典子の掛け声に、他の3人が返事を返す。
「「「「そぉーれっ!!」」」」
そして、何と八九式はヘッツァーを踏み越えて、マウスの車体上面に乗り上げたのだ!
そして、八九式はヌルヌルと車体上面を動き回り、横を向いたままの砲塔の隣に引っ付く。
「良し、ブロック完了しました!」
砲塔を戻そうとする動きを遮っているのを確認した典子はそう言った。
「あいよ!頑張って何とか踏み留まってくれ!」
紅夜はそう言うと、達哉に指示を出してIS-2を発進させる。
「おい、軽戦車!其所を退け!」
「嫌です。そもそも八九式は軽戦車じゃないし」
「中戦車だしぃ~?」
マウスの車長が怒鳴るものの、典子とあけびは挑発するような言い方で返す。
2人の言う通り、八九式は中戦車に分類される。
そもそも『軽戦車』、『中戦車』、『重戦車』と言ったものは、単に戦車の重さで分類されるのではなく、其々の種類による任務の役割で分類されるのだ。
一般的に、軽戦車は火力と防護力を犠牲にして、非常に高い機動力を持つ。そのため、基本的に偵察任務をこなすものだ。
それから中戦車は、火力と防護力、機動力をバランス良く備え、主に主力を務める。
そして重戦車は、軽戦車とは逆に機動力を犠牲にして高い火力と防護力を持ち、陣地突破や、パンツァーカイルで進む際、その先頭に立って、主力となる中戦車の盾になる役割を主な任務としているのだ。
「こうなったら、無理矢理にでも落としてやる!」
「やれるモンなら、やってみろ!」
そうして、マウスは八九式を落とそうと、八九式はその場に留まろうとして、互いに押し合う。
そうしている内にも、マウスの車重に加えて八九式の車体がのし掛かるヘッツァーからは、押し潰されてあちこちが壊れていくような音が鳴り響く。
「こりゃヤバイなぁ~………………紅夜く~ん、そろそろ限界だよ~」
『後少しだけ待ってくれ!』
案ずの言葉に、紅夜からの返事が帰ってくる。
そして、IS-2は斜面に乗り上げてマウスの隣をすっ飛ばす。
「あのネズミ野郎のデカいタンクを吹っ飛ばしてやる………………翔、狙いは増槽だ。ゼロ距離で叩き込んでやれ!」
「Yes,sir!」
そうして、達哉は操縦捍を操作する。
IS-2の左側の履帯は動きを止め、ドリフトのような挙動を描きながらマウスの背後に迫る。
「撃て!」
その一言で、翔は引き金を引き、放たれた122㎜砲弾は紅夜の指示通り、マウスの増槽に叩き込まれる。
激しい爆発音と共に黒煙が噴き上がり、撃破を示す白旗が飛び出す。
「白虎殺しの鼠、討ち取ってやったぜ」
増槽があった部分から黒煙を上げるマウスを見ながら、紅夜はそう呟くのであった。