ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第5話~フラグへ向かって前進です!~

「ではこれより、戦車道の授業を始める」

 

大洗女子学園グラウンドにある、戦車の格納庫の中にて、戦車道が始まって初の授業が開かれようとしていた。

 

その格納庫の前には、1年生の女子生徒が6人、歴女を思わせる女子生徒が4人、如何にもバレーボール部の部員を思わせる女子生徒が、同じく4人、そして、西住みほと武部沙織、五十鈴華と、それを遠巻きに見る癖っ毛の少女の前に、生徒会メンバーの3人が立っていた。

履修者は、合計21人である。

 

だが、彼女等からは何故か、やる気が感じられない。

 

その理由は…………………

 

「えー、この状況を見て分かると思うが………………現在、この学校に置かれている戦車は、このⅣ号D型の1輌だけだ」

 

そう、これである。

 

そもそも、大洗女子学園は、かなり前に戦車道は廃止されており、今日になって漸く再開されたと言うもの。

当然、健全なまま残されている戦車など、ある筈もなく、格納庫に入った少女達を出迎えたのは、錆びだらけのⅣ号D型だけだったのだ。

 

戦車道経験者であるみほは、そのⅣ号がまだ戦えることを悟り、全員のやる気が少しは上がったと言うものの、ここで新たな問題が浮上してきたのだ。

 

 

……………戦車が足りない。

 

たとえ少なからずも人が集まったとしても、肝心の戦車が無ければ、人を集めたところで何の意味もないのだ。

 

 

 

「と言う訳で、本日の授業の内容は、我々全員が乗り込むのに最低限必要な、残りの4輌を見つけ出すことだ」

 

そう言って、片眼鏡の女子生徒--河嶋 桃(かわしま もも)--は言葉を続けた。

 

「この学園では、何年も前に戦車道は廃止されていた。だが、当時使用されていた戦車が、まだ何処かにある筈だ。否、必ずある」

「して、それは一体何処にあると?」

 

桃が断言すると、歴女のような4人のうち、首に赤いバンダナを巻いた女子生徒が訊ねる。

それには、小柄なツインテールの女子生徒--角谷 杏(かどたに あんず)--が、苦笑いしながら答えた。

 

「いやー、だからね?それが分からないから探すんよ」

「手がかりは無いんですか?」

「うん、何1つとして無い!」

 

清々しい程あっさりと言い張る杏に、メンバー全員はスッ転びそうになったが、それを何とかして堪える。

 

「んじゃ、頑張ってねー!」

 

杏が言うと、其々がグループになって探し始めた。

 

「何か聞いたのと違う~。戦車道やったらモテるんじゃないの~?」

「でも、来る教官はカッコいいよ?」

 

落胆した声を出す沙織に、杏は言った。

 

「本当ですか!?」

「ホントホント、来たら紹介してあげる」

「よぉーし!捜索行ってきまーす!」

 

杏に言われた沙織は、先程の落胆ぶりは何処へやら、上機嫌で走り出し、みほと華を引っ張っていった。

それを見た生徒会の杏や桃、柚子は揃ってこう思った……………

 

『この女、チョロすぎる』と……………

 

 

 

 

 

 

「………………んで、勢いに任せてああは言ったものの……………そもそも戦車とか何処にあるってのよォーーーーッ!!!?」

 

駐車場にやって来たみほ達一行だが、全く見つからない事に苛立っているらしく、沙織が大声を張り上げた。

 

「流石に、駐車場に戦車は置いてないかと……………」

「なんでよー?戦車って言っても一応は車でしょー?」

 

苦笑いしながら言う華に、沙織はガクリと肩を落としながら言う。

 

「もう良いよ。なら裏の山林に行こう?『何とかを隠すなら林の中』って言うぐらいだし!」

「それは森ですよ」

 

沙織が言うと、華がツッコミを入れる。

そんな会話を聞いて苦笑いを浮かべつつ、みほも2人と一緒になって歩き出そうとするが、その時、木陰から仲間になりたそうに此方を見ている、癖っ毛頭の女子生徒の存在に気づいた。

その女子生徒は、みほが振り向いた瞬間に木の後ろに隠れる。

気にしない振りをしてみほが歩き出すと、その生徒も隠れていた木から出て、距離を保ちながら付いて来る。

少なくとも、その女子生徒に敵意が無いと思ったみほは、声をかけることにした。

 

「あ、あのっ!」

「はい!?」

 

振り向き様にみほが声をかけると、その女子生徒はビクリと体を震わせ、声をあげた。

 

「良かったら、私達と一緒に探さない?」

「い、良いんですか!?」

「勿論!」

 

嬉しそうに言う女子生徒に、みほは答える。

 

「え、えっと……………普通Ⅱ科、2年C組の秋山 優花里(あきやま ゆかり)と申します。そ、その…………不束者ですが、よろしくお願いします!!」

 

そう言って、優花里は綺麗なお辞儀をした。

 

「此方こそ、よろしくお願いします。私は五十鈴華です」

「私は武部沙織!」

「あ、私は…………」

「存じ上げております!西住みほ殿ですよね?」

「う、うん……………」

 

自分の事を知っていることに驚きながらも、みほはそうだと頷く。

 

「では、よろしくお願いします!」

 

仲間に入れてもらえたのが余程嬉しかったのか、優花里はヤマト式の敬礼をして言った。

そうして一行は、山林へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、みほ達が向かっている山林の奥では………………

 

「今日は取り敢えず、格納庫の戦車全てを、1度走らせておかねえとな…………俺等のIS-2なら未だしも、レイガンやスモーキーの戦車は、流石にほったらかしにし過ぎだ。別に壊れたりはしてねえだろうが、そろそろ動かしといた方が後先良いだろう」

「そうだな…………レイガンはチームメイト全員が学校行ってるし、スモーキーの場合は、操縦手が女子だからな……………せめて、スモーキーの男子陣の中で、戦車動かせる奴が一人ぐらいは居たら良いんだがなぁ……………」

 

古びた戦車の格納庫にて、レッド・フラッグ小編成チームの1つ、ライトニングのチーム全員が集まっていた。

 

紅夜の一言に翔が頷くと、格納庫からIS-2が出てきた。そして操縦手用のハッチが開き、そこから達哉が顔を出した。

 

「それで紅夜、取り敢えずはどうする?時間はかかるが、1輌ずつ走らせるか?」

 

格納庫から出てきたIS-2の操縦手用のハッチから出てきた達也が、何処からとも無く取り出した大型のバールを軽々と、バトンのように振り回している紅夜に言う。

 

「いや、この際だから全部イッペンにやろう。幸い、俺等は全員、此処にある戦車全部を運転したことがあるからな。走らせるぐらいなら出来るだろう」

「だが、誰か1人余るぞ。その辺どうすんだ?」

 

バールを振り回すのを中断し、そう提案した紅夜に、IS-2のフェンダー部分に腰かけた翔が言うと、勘助が口を開いた。

 

「達哉は何度も運転してっからなぁ…………今回ぐらいは、IS-2の車長の席にでも座ってみたらどうだ?1日車長って感じでさ」

「そうだな……………そうすっか!」

 

そうして、紅夜はIS-2の操縦席に座り、達哉はIS-2の砲塔に登り、キューボラハッチを開けて車長の席に座る。

そうしているうちに、他の2人が格納庫の中へと入る。

そして約1分後、2つのエンジン音を響かせながら、先端にマズルブレーキの付いた長砲身を持つ2輌の戦車が姿を現した。

 

灰色に塗装されたドイツ戦車、Ⅴ号戦車パンターA型に、深緑のアメリカ戦車、M4A3E8こと、シャーマン・イージーエイトだった。

 

其々の戦車には、IS-2と同じように、フェンダー部分と砲塔側面に、風に靡く赤い旗が描かれ、そして砲身には、其々の所属するチーム名が白いペンキで書かれている。

パンターが《Ray Gun(レイガン)》、シャーマン・イージーエイトが《Smokey(スモーキー)》だ。

そしてIS-2の砲身には、《Lightning(ライトニング)》と書かれている。

 

「じゃあ、紅夜の命により、今日1日は俺が車長を務める!皆、準備は良いか!?」

 

そう達哉が叫ぶと、3輌の戦車のマフラーから、まるで返事をするかのように白い煙が吹き出される。

 

「では……………Panzer vor!!」

 

達哉の号令を皮切りに、IS-2、パンター、シャーマン・イージーエイトの順に、1列になって走り出した。

 

この先に待っている、彼等の生活を変える出来事との接触も知らず………………


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