艦隊これくしょん~艦これ~―There is no rain which does not stop.―   作:雪見酒

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序章、冷雨

 轟音が響いた。

 闇に染まる海洋上。僚艦は赤々と炎を上げて燃え盛る。

 空を切り裂く音の刹那、僚艦は横殴りの一撃を喰らい、爆炎を吐く。

 砲撃は暗闇よりさらに漆黒な『それ』

 人の形にも見える。女の形にも見える『それ』は、細身にはあまりにも不釣り合いな無骨な砲身を聳え立たせていた。

 肌は白く冷ややかで、その瞳は青く冷たい深海を思わせる。

 殺気とも。

 憎悪とも。

 絶望をも感じさせる砲撃。

一体だけではない。数多くの異形の種による複数の砲撃が僚艦を貫いた。

 口が裂けて歯がむき出しのクジラのような『それ』数体が、水中へ筒状の物体を投擲する。

 魚雷。

 水中から静かに忍び寄り、傘を破る雹のように、僚艦の装甲を食い破る。

 そして爆音。轟沈。

 異形の『それ』は冷酷な瞳で燃え盛る船を見つめる。その唇は薄く笑っていた。

 

 ――――ゴシャッ!!

 

 端正で無慈悲な容姿は、高速の巨体に衝突され歪み、拉げる。

 駆逐艦にも満たない小型艦船の特攻攻撃。艦首は衝突で大きく形を変え、黒髪の『それ』を海面で引きずりながら猛進。異形の集団が形成する陣営を突破する。

 異形の集団が身を翻し、小型艦船に照準を合わせようとする。

 

 ――――ドゴオォォォォン!!

 

 友軍の爆撃機により異形の集団の頭上には無数のミサイルが降り注いだ。

「澪っ、やめろ!」

 小型艦船の通信機が、男の悲鳴を伝える。

 覚悟を決めた彼女は、悪戯っぽく明るく装って答える。

「ゴメンね」

 通信を一方的に切る。

 異形の『それ』は、引きずられる姿勢から、至近弾を食らわせようと船に照準を向ける。

 

 ――――バコンッ!ガギィン!

 

「?!」

『それ』の二門の主砲は遠隔からの精密射撃で破壊される。『それ』は初めて表情を露わにした。驚愕の表情を。

「…ありがとう」

 聞こえるはずもない言葉を愛おしそうに呟く。

 彼女はモニターにパスワードを入力する。

 モニターにカウントダウンが表示された。

「あんたたちを、丘に揚げるわけにはいかないのよ!」

 閃光が船体から発せられた。

 

 ――――爆炎。

 小型艦船は『それ』もろともその身を散らした。

 彼女の体は海に投げ出される。

 激しい衝撃。傷つき重い身体は石のように沈んでいく。

(あぁ…なんて)

 軽率なことをした、と少し後悔が残った。

 しかし、上手くやった、とも思う。これで短い期間でも本土侵攻を食い止めることができる。

 そのためなら自分の命なんて。

 海中には紅が漂う。海面で燃える船の色か。

 それとも自分の血が漂っているのか。

 薄い意識の中、海面に泡が吹いたのが分かった。

 何かが沈んでくる。彼女を目指して。

 彼女に向かって手を差し出して。

(まだ私を助けようとするの…?でも、もう私は)

 もう死ぬと分かっていた。

 差し出された手に抱きしめられてその身は浮上する。

 水中なのに、温かい腕。

 わずかな希望も捨てない熱意を持った温かさ。

 彼女に生きてほしいと切望する強さがあった。

 彼女はやはり後悔した。

(あなたと…あなたのために…)

水中なのにはっきりとわかる。

自分は涙を流した。

(ウェディングドレス、着たかったな)

 


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