那須隊(+ネコ)で防衛任務が始まろうとしていたが、オペレーターさんは男性恐怖症と言うか苦手と言うか、その辺は良く分からないけど、あまりよくない感じのファーストコンタクトだった。
かなり落ち込み始めたのがオペレーターの志岐 小夜子さん。同い年らしい。身長も同じぐらいだろうか……オペレーターとして優秀だというが、異性が苦手との事。何のフォローなのか知らないが、「ネコ君が小夜ちゃんよりも年上じゃなくて良かった」とのこと。もしそうならどうなっていたのだろうか。
志岐さんを小夜ちゃんと呼んでいるのが隊長の那須 玲さんだ。身長は俺よりも少し高めのようだ。これは認めざるを得ない事実。1つ上の先輩でかなり綺麗な人で惚れ惚れするけど、どこか病弱そうに見える。この隊長さんは大丈夫だろうか? ポジションはシューターらしい。シューターである。個人的に超重要である。
熊谷 友子さんも1つ上の先輩で、高身長でまるでバレーボール選手のようだ。これには今は勝てない。今後の俺の成長に期待するしかない……あ、身長の話ね。で、この人がこの那須隊の斬り込み隊長、つまりアタッカーである。
最後に1つ年下の日浦 茜ちゃん。俺と同じか少し小さいぐらいか……帽子とおさげ髪が可愛らしい。この中で一番感情豊かそうに見えるスナイパーだ。
「まぁ買ってきてくれたんだし甘いものでも食べて落ち着きな」
「……はい、どうもです」
時間になり意気消沈してほとんど言葉もない志岐さんを作戦室に置いて本部から警戒区域へと向かう。警戒区域は人が住んでないゴーストタウンだ。距離的に玉狛支部に近いかもしれない。
防衛任務のほとんどは警邏をして周って、たまに不良がいるから立ち入り禁止だと伝える。それで終わりらしいんだけど、個人的にはネイバーが潜んでいたり、ゲートが発生して警報が鳴ってくれたほうがありがたい。お金を稼ぎに来てるからね! まぁそんなことは真面目に働いている人達に悪いから口が裂けても言えな―――。
「やっぱりネイバーが出てこないと給料でないからB級も厳しいね」
「言った!!」
熊谷先輩が俺の思っても言えなかった事を言ってのけた。そこに痺れた憧れた!
「言ったって何? 当然でしょ?」
「いやぁカッコいいです! 熊谷先輩最高です!」
「な、何よ、褒めたって何も出せないよ?」
『くまちゃん、ネコ君。集中してね』
「ごめんなさい!」
那須先輩に注意されるけど、どうしても集中しきれない。見回りだけなのだから仕方ないのかもしれない。俺は廃屋になってしまっている少し古めに見える一軒家で伸び放題になっている雑草を孤月の鞘で八つ当たり気味に払った。
「ん? 何か光った?」
『ネコ君何かあったの?』
「いえ、民家の庭なんですけど……何だこれ?」
小型の機械の様な亀の様な虫の様な。座学でもこのタイプは見た事が無い。玩具にしては出来過ぎだし、足っぽいのが動いてるしネイバーのモノで間違いなさそうだが、レーダーに映らない。取り敢えず攻撃して潰そうとした瞬間、警報が鳴り響いた。
『ゲート発生! 音無さんの真上!』
「え?志岐さん喋った?」
俺の驚きはゲート発生ではなく、落ち込んでいたはずの志岐さんの突然の通信の声に対してだった。レーダーを確認すれば俺と重なる点がある。上を見上げれば降ってくるデカブツ。バムスターだ! 俺は取り敢えず足下に居る小型の奴を孤月を抜いて刺し貫いて仕留める。そして、少し後方に飛び上がり、旋空孤月で斬り払う。スパッと切れたバムスターはそのまま落下した。俺は死骸となったバムスターの上に降りた。家よりも高くなった視界の中で俺は初めての実戦に割と軽い手応えを感じていた。今まで開発室で動かない的を何百回と斬ったり撃ったりするだけだった。それだけでも訓練になっていたのだろう。
更に上から降ってくるトリオン兵を2体確認する。ブレードの様な脚が見える。確か名前はモールモッドとか言う奴だ。バムスターよりもお金になる奴だ!
「防衛任務って初めてなんですけど、あれ何体出てくるんですか…ねっ!」
まだ高い位置にいるモールモッドに向けて俺はグラスホッパーで飛び上がり、旋空孤月で刀身を伸ばして仕留める。奥に居る奴もすぐさま斬り落として上を見るが、その他は出てこない。ここのボーナスステージは終了のようだ。
確か報告をするんだよな。
「えーと、バムスター1、モールモッド2、小さいの1、倒しました回収お願いします」
『え、最後の何?』
「多分トリオン兵? いや、それより、え? 会話して大丈夫なの?」
志岐さんは気分を持ち直したのか分からないけど、とりあえず新型っぽい小型のトリオン兵の事を把握した様だ。その後は割りと楽なもので熊谷先輩はモールモッド2、日浦ちゃんはバムスター1、那須先輩はモールモッド1、バムスター1だ。俺は最初の以外は0だった。
まだ1回だけの防衛任務だけどこのチームは連携が素晴らしいと思った。常に冷静な那須先輩が上手くまとめているチームだ。他の隊もこうなのだろう。これより連携が上手く行かないチームがあるなら上には行けないだろう。もしかしたら連携は駄目だけどゴリ押しで勝ってるチームもあるかもしれないけど、それはある程度までしか勝てないだろう。
ってそんなことより!
「那須先輩! もう一度! もう一度シューター見せてください! さっきの遠くのモールモッド倒してた奴! 何であんなに綺麗な線を描けるんですか!?」
「えと、困るわ。対象がいないもの」
「あの、だったらこの後お時間があれば是非訓練室でも行きません!? 先輩のシューターがカッコよすぎて見てられません!!」
「ね、ネコ君? 支離滅裂になってるわよ」
『防衛任務は終了です。早く戻ってきてください』
何か機嫌悪そうに感じた志岐さんの通信を聞いてとりあえず本部に戻る。志岐さんは俺が持ってきた菓子折りを食べていた。
「小夜ちゃん大丈夫?」
「大丈夫です」
そうトリオン体を解除した体調悪そうな那須先輩に笑顔を向ける志岐さんは俺をチラリと見るとそっぽを向いてまた菓子に手を伸ばしていた。任務に出る時は意気消沈で、今は怒ってるとかわけが分からないよ。しかしそれよりも隊長は大丈夫か。
「へぇ、やるじゃん」
「え? 何がですか?」
熊谷先輩が俺の肩を叩いて菓子に手を伸ばす。今のが何の評価かは分からないが、とりあえず菓子折りは成功したと見ていいのだろう。
「お疲れ様です。ネコ先輩」
「あ、お疲れです。初めての任務なのに先輩って恥ずかしいな」
「そんなことないですよ。最初のアレ、サポートする間も無かったですから」
スナイパーの日浦ちゃんはそう言ってくれるが、経験が圧倒的に足りない俺としては、もっと大量にネイバーに来てもらわないと困る。もちろんそんなことになれば市民が困るわけだが。やっぱり個人戦で経験値を上げるべきなのだろうか。
最近はイレギュラーゲートとか言われてるのも増えてきているらしいけど、防衛任務で必ずネイバーが出てくるとは限らないのだから。
「あの、ネコ……さん」
「同い年だし呼び捨てでいいですよ志岐さん」
「んなこと言ったらネコも小夜子にさん付けじゃん」
「んーでも、それはそれで失礼かと……」
とりあえず志岐さんは俺となんとか話が出来るようだ。任務に出た後に何があったのだろうか? 単純にクッキー効果と言っていいのだろうか。やはり甘いものは世界を救うのか。
さて、志岐さんは俺が最初に倒した小型のトリオン兵の件を上に報告しており、その結果開発室に呼ぶように言われたようだ。何か悪いことしたかな? もしかしてトリオン兵じゃなかった?
「じゃあ自分は開発室行くのでお邪魔しました。また明日お願いします」
「うん、よろしくねネコ君」
「お疲れーまたー」
「お疲れ様です」
「お、お疲れ様……」
(小夜ちゃん凄いわ。男の人と話が出来たじゃない)
(で、小夜子なにがあったの?)
(何か甘酸っぱい感じでしたよね?)
退出したと同時に中ではガールズトークが花咲いているかもしれないが、忘れちゃいけないことを先に伝えておくことにする。部屋をノックしてもう一度入る。
「ごめんなさい失礼します那須先輩。明日にでも時間あればシューター見せてくださいね。じゃ今度こそ失礼します」
(那須先輩に興味が行ってますね……)
(わ、私じゃなくてシューターのトリガーが好きみたいで……)
(でもネコって良い名前じゃない? 親しみやす……そう言えば名前で呼んだよね小夜子)
(え、いや! ネコが苗字かと思って……!)
(最初のゲート発生の時は『音無さん』って呼んでましたよ?)
(そ、それはその……よくよく冷静になって考えてみたら、小さいし、怖い人じゃなかったし、同い年みたいだし、クッキー買って来てくれたし、初めての任務でネコ……君のほうが大変だと思うし……)
(優しそうな子でよかったわね小夜ちゃん)
(この店はりんごパイが美味いんだよね。このクッキーもいいけど)
―――開発室。鬼怒田さんはこの部屋の室長だ。そんな鬼怒田さんが俺を見つめる。その低い身長で更に小さい俺を見下すように見つめる。そんな目で俺を見ないでください。物凄く睨み付けて見ないで!!
「この馬鹿者!」
ほら怒られた。
呼ばれたのは先ほどの防衛任務で仕留めた小さいトリオン兵について。あれはトリオン兵で間違いないらしい。俺の攻撃の副産物のトリオン異常噴出はトリオン体にしか効かないらしく、小型トリオン兵にも異常噴出で機能停止したのが見て取れたらしい。
では鬼怒田さんが何故怒っているかというと、俺が弧月で刺したことによって切れ目からトリオンの異常噴出効果により重要部分が漏れなく破裂しており、ただ小さい新型がいるという情報だけで、この小型トリオン兵がどんな機能があるのか不明となっていたからだ。
バムスターは人攫いタイプでモールモッドは攻撃タイプ。今はもう動かないあの小型トリオン兵が攻撃型なのか、それとも別の機能があるのかが争点とされているようだ。もしかしたらイレギュラーゲートとに関連するかもしれないが、まぁそこまで深刻ではないだろう。一応このトリオン兵は『こんな形の新型がいる』という情報だけボーダーに伝わっていくことになった。
今度から見たことがない奴見かけたら他の人を呼ぶように言及された。
「ネコ先輩、何したんですか? 鬼怒田さんが凄く怒ってましたけど」
「さっき怒られてきたよ……」
開発室から出て休憩室でココアを飲む俺に通りすがりの木虎が疑いの眼差しで俺を見る。そんな目でも見るな。優しい目で見守ってあげてよ。拗ねるぞ。
「知らない物を見かけたら人を呼ぶようにだってさ」
「子供ですか」
なんて冷静な突っ込みでしょう。でも木虎なりの優しさなのか、訓練に付き合ってくれるらしい。
「でも、今はシューターの気分なんだよなぁガンナーはお呼びじゃないんだよなぁ」
口が滑ってそう言ったら弁慶蹴られた。マジかー。
翌日、早退することなく学校から直接ボーダー本部に来た俺。那須隊との合同防衛任務2日目である。集合時間まで余裕がありブラブラしてるとC級だった時に見かけたことがある人達に遭遇する。知り合いというわけでもなく話し掛けることも掛けられることもないが、居辛くてその場から離れる。しかし、逃げた先には昨日も遭遇した脇腹パンチマシーンが現れた。逃げ出した。しかし回り込まれてしまった。
「何で逃げるんですか?」
「咄嗟ノ行動ダヨ」
はい一発目。木虎から今日の一撃を貰う。良く遭遇するボーダーの虎である。今日のねこ座の運勢良かったはずなんだけどなぁ。しかし、本当にメディア向けの顔は可愛いと思う。切に思う。ほらアイドルが脇腹パンチなんてするからC級の子達も怯えてるよ?
(確かあの小さい人この前まで一緒にC級にいなかったっけ?)
(高校生らしいけど、お前知らないの? あの人がNeko2だよ)
(え、あれが噂のNeko2? 本当に2秒で戦闘訓練クリアしたの?)
(B級に上がったの本当だったんだな)
(嵐山隊の木虎さんやっぱり綺麗~それに凄く仲良さそうじゃない?)
あーあー知らない。怯えてはなさそうだけど完全に面白いとこ見たと言わんばかりの目だよ。木虎もう猫被りバレたわ~。ボーダー内でのアイドルの顔失ったわ~。
「何ですかその目は? 腹立つんですけど」
2発目、3発目……。イジメダメゼッタイ。その後すぐにとっきーが来て木虎を連れて行った。今日は嵐山隊でテレビの仕事があるらしい。あ、鏡で身嗜み気にしてる。そういう所はプロだなと感心する。
俺も良い時間潰しが出来たと考えよう。殴られて感謝はしないが、時間潰しにはなった。今日も稼ぐぞー出て来いネイバー。出来ればお値段高い奴。
さて、木虎で時間が潰せたと言っても集合20分前という早めな時間。それでも誰かしら居るだろうと那須隊の作戦室へノックして入ってみる。
「昨日に引き続きネコです。よろしくお願いします」
「は、早いの……ですね」
どこか言葉遣いのおかしい志岐さんが迎えてくれるが、他のメンバーはまだ来てないらしい。
「あの志岐さん。俺と話して大丈夫なんですか? そう言うの良く分からないんですけど、苦手なんですよね?」
「いや、その、ネコ…くんは……その、頑張りたいので……」
そうは言ってもチームの連携に問題が発生するなら止めといたほうがいいだろう。それに女子って影でイジメとかあるんでしょう?(偏見)男子だって余裕で囲んでボコボコにするんでしょう?(超偏見) ならば離れておくのが一番いいと思うんだ俺は。
「あの、志岐さん。もし駄目なら俺外に出てま――――」
「大丈夫! あ、その……下の名前で……呼んでくれていいから。あっ違くて! その、男の人に早く慣れる練習と言うか……」
……なるほど。互いを下の名前で呼べば親近感が沸くか。友達や家族は基本的に下の名前で呼んでくる。ならば志岐さんの為にもそれが良いのだろうか。……あれ、志岐さんの下の名前なんだっけ?
感想や質問や誤字脱字の報告等々お待ちしてます。
◆裏設定や独自設定について◆
◆木虎のネコに対する攻撃について
基本的に先輩と思えない身長だし、ボーダーとしては木虎のほうが先輩ということで、口では『ネコ先輩』と言うが、同年代と同じように接する。だからパンチするし、記録を抜かれても尊敬よりも嫉妬が出てきます。
◆トリオン兵のお値段
バムスター・バンダー・モールモッドしかまだ確認されていないという設定の中で書いてますが、攻撃能力の有無や、その脅威度で値段違うんじゃないかと思って、
お値段公式『バムスター < バンダー < モールモッド』と考えてます。