ねこだまし!   作:絡操武者

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 はい、またまたお待たせしております。

 今回はまとめるにまとめられず伸び伸びと10000文字を越えました。

 しかも終わらないネコネイバー編。

 原作と違う流れをやろうとすると大変ですね。身に沁みてます。

 真面目に書きつつもネタを入れてたら変な感じになった。



39 白ネコプロジェクト

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 それは空閑有吾とレプリカが調査してボーダーに提示された近界惑星国家の軌道配置図。それにも浮かび上がってこず、乱星国家として割と自由に飛び回る国があった。その国の名は『コデアル』

 ちなみに、この『コデアル』に関する古い文献によると『コデアル』は省略された名前であり、正式な通り名(・・・)は『ワガハ・イハネ・コデアル』という。通り名というのはそのまま意味で、正式名称ではない(・・・・・・・・)であろう事からだ。

 『ワガハ・イハネ・コデアル』それは『名前はまだない』と直訳されるらしい。この国のことを見聞きした事がある近界の国々の者は『名無しの国』と呼ぶこともあるそうだ。

 地球のオーストラリアに生息するカンガルーという動物と同じ様な名付けの過去があったのかもしれない。

 

 さて、『コデアル』は古くから『玄界(ミデン)』と呼ばれるその国に興味はありつつも、その近辺には近付く事はできなかった。何故なら『キオン』『リーベリー』『レオフォリオ』『アフトクラトル』という大国と言われる様な国家が『玄界』と『コデアル』の中間にいつも位置していたからである。

 いくら乱星国家としてもそれらの大国をすり抜けていく事は危険な行為だった。そもそも『コデアル』は弱小国家。戦える者は数えるほどしかいなかった。

 『玄界』に向けトリオンによる通信を行った事は何度もあるが、その全てに返事はなく、もしかするとトリガーという概念が無いのかもしれないという話し合いがあったこともある。

 

 『コデアル』に住む者たちは大国の侵略行為を恐れており、小さな国同士、また、未発達な国も含めて、それらに対抗しようという同盟国を求めていた。

 しかし、近隣の国と話してみても『コデアル』が弱小すぎて同盟に値しないと断られ続けていた。ちなみに、条件を出して来た国もあったが、当時は飲める様な条件でもなかったそうだ。

 ではもう最初に『玄界』と同盟を結んでしまおう。少しずつで時間も膨大に掛かるだろうが地道に同盟国を増やして行こう。塵も積もればなんとやらである。そう考えたのだが、どうやって大国の目を誤魔化して『玄界』に近付こうか……。そんな悩みを誰が解決させたのか、それがどんなわけか誰も知らないが、ある日、突如として『玄界』の目の前へとワープした『コデアル』

 <さぁ、まだ未発達な玄界と友好を結んで対等な関係を作り、切磋琢磨して強国にも屈さなくて住む平和な世界を作ろう!>という友好的な話し合いを望む大多数の住民達が嘗ては居た。

 そして、そんな『コデアル』に住む友好反対派の立場を一人貫く『ネコ・サイレント』という変わり者。

 

 これは、そんなありえるかもしれない悲しい物語。

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「―――って、なんですかコレ?」

「今回の設定資料らしいわよ。中々有り得なくもなさそうな設定ね」

 

 アホですか。暇なんですか作った人は。

 

 まだまだ試合開始までは時間がある。装備や作戦を確認しているとパソコンへメッセージが送られてきた。それはB級以上の部隊に送られているらしく、今回の仮想近界民(ネイバー)戦闘演習訓練ネコの部を始めるに当たって、<相手はネコではない。ネイバーである。百歩譲ってネコ型ネイバーである>という説明を含めた、世界観というか、背景を描いたものだった。

 まぁ、暇といえば暇なわけだし、俺と蓮さんはそれを読み進める。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 その家は猫の頭部を模した様な形だった。ドーム型に生える2つの三角に尖った屋根。目に当たる部分には窓があり、口に当たる部分は家の玄関だ。家の裏手には太いパイプがあり、それは尻尾の様に見えなくもない。

 2つの窓の上辺りには大きく『玄界人侵攻反対!!』と書かれた横断幕が張られており、まるでネコがハチマキをしているように見えてしまう。

 この家は辺境にあるのだが、太いパイプが都心部と繋がっており、トリオンの供給があるためライフラインは確保されている。だが、国の端に存在するこの家は『ネコ屋敷』と揶揄され、殆どの人は近付かない場所になっていた。

 

 繰り返しになるが、『コデアル』は弱小国である。では『ネコ・サイレント』という人物は何故、同盟や近隣国との友好に反対するのか。

 

 一言で言うとすれば、誇りがあったからである。

 

 古い歴史の中で彼の先祖は王族であった。その血が彼には流れている。実は絵本にまでなっていたりするが、それを知らない他の住民達は「御伽噺だ」「絵本だから実話ではない」と教育用には適しているが、同盟に反対する『ネコ・サイレント』を認めることはなかった。

 彼が王族の血筋だと裏付けるモノは他にもある。彼が住んでる『ネコ屋敷』だ。『コデアル』に於いてその建物は一人暮らしにしては大きすぎる住居だった。そして、ネコ屋敷は誰が建てたのかも分からないほどに古い建物だ。絵本にはこう書かれている。

 

<王様はいつもひとりぼっちでした。でも寂しくありません。守るべき民がいる。それだけで王は最前線に住まいを構えていられます―――>

 

<王様はとても誇り高く、とても強かったのです。何度も何度も襲ってくる敵を倒します『僕がこの国を守る! 安心してくれ! さぁ来いアフトクラトルの兵よ!』―――>

 

<やがて、コデアルは少しずつ豊かになりました。それでも王様は一人ぼっちです。それでも王様は寂しくありません。『僕がここにいていつでも敵から皆を守れるようにしよう』―――>

 

 

 この『最前線』とは今でこそ多くの住民が住んでいる辺りだが、古くは敵国からの侵攻があるとすれば、攻め易いのは『ネコ屋敷』がある方面であり、そこが最前線であった。

 また、王族がトリオン能力が特別高かった事が分かっている。『ネコ・サイレント』も変人扱いされているが、とても強い。

 彼が同盟を反対するのも『自分が守るから大丈夫。この国の事はこの国で解決しよう』と言っているのではないか。

 

 ―――そして、時が流れ、玄界と接触する時が来た。

 

 ※この続きは戦闘終了後に更新されます。

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「大変だったわねネコ君。グス……」

「お、俺じゃないですしー。ズズー……」

 

 俺も蓮さんも何故か絵本の内容に潤んでしまっていた。何だよネコ・サイレント。身を挺して国民を守ってた王族の子孫でその誇りを受け継いでるのに、今では誰にも信じられずに変人扱いされてるなんて。おっと涙が。

 

「……ん? もしかしてこの『ネコ・サイレント』って俺ですか?」

「そうね。ネコ・音無(サイレント)はネコ君ね」

 

 マジかー。なんとも安直な名前である。まぁいいや。

 

 

 

 開始直前になり、俺はトリガーを起動してトリオン体に姿を変える。開発室にお願いしてこの試合用にカラーチェンジをしてもらった。今日は真っ白である。木々は幹から真っ白だし、ぱっと見で分からない様にカモフラージュしてみた。

 

「白ネコプロジェクトね」

「蓮さんそれ以上はいけない」

 

 さて、俺と蓮さんは最終確認の段階に入った。確認と言っても戦い方とかではない。装備の話でもない。ここまで来たらもう精神論である。

 

「じゃあ最終確認しましょう。今日のネコ君は?」

「ネコネイバー……」

 

「今日のネコ君の敵は?」

玄界人(みでんじん)……」

 

「その玄界人は何をしに来るのかしら?」

「襲ってくる……」

 

 ……精神論というか洗脳的な何かだ。次第に本当に洗脳でもされているかの様な気分になってくる。なんと言うか、一つの事しか考えられ無い様になってくる感じである。何も見えないようで一点において全てが見えるような気さえしてくる。

 

「―――じゃあネコ君はどうするのかしら? 見てるだけかしら?」

「殺せ! 殺せ! 殺せ!」

 

「何もせずその首を差し出すのかしら?」

「殺せ! 殺せ! 殺せ!」

 

「『コデアル』を愛してるかしら? 国民を愛してるかしら?」

「ガンホー! ガンホー! ガンホー!」

 

「目指せ全滅! 撃滅! 大殲滅!」

「オー!!」

 

 

 

 ―――変なテンションのままに時間になり、俺は一足先に設定した森のど真ん中に転送された。ネコ屋敷前である。

 

「行けラッド! 君に決めた!」

 

 『らっど』と書かれたトリオンキューブを投げる様に俺は『お徳用ラッド10体セット(1pt)』をばら撒く。更にトリオンキューブもネコ屋敷を囲む様にばら撒いておく。ネコ屋敷を周辺をうろつく様にラッドは動き始める。ここはこれで良し。玄界人共のスタート地点に向かおう。

 一応、昼間の設定なのだが、天候を『薄霧』設定にしてあるのと木々に遮られた所為で薄暗さを感じる。しばらくして玄界人共の出現ポイントまで辿り着く。ここでも1pt分のラッドをばら撒く。ラッドはちゃんとレーダーに表示される様に登録されているため転送と同時に驚いてくれる事を願う。転送位置を囲む様に10個の点が表示された。

 俺は更にトラップを仕掛けた後、バッグワーム(白)を起動して200mメートルほど距離を置いてライトニングを構えて待つ。

 

『―――ネコ君、来るわ』

 

 スーツ集団の二宮隊を筆頭に、香取隊、生駒隊が転送されてきた。

 彼らのスタート地点はここ。ゴール地点までの規定ルートは2つだ。どっちを選んでもネコ屋敷前を通る事になるが、少々広めになっていて戦いやすい道か、最短距離になっているが獣道の様に狭く細い道かの違いだ。

 邪魔者()を排除して進むのなら広めの道を使った方がいいが、戦闘は避けてゴール地点(勝利)を目指すという事ならば、最短ルートの方がいいだろう。

 まぁどっちを選んでくれても構わんよ。俺の仕事は愚かなる玄界人をこの土地から追い出すことだ。それに変わりはない。

 

 転送されてきた瞬間に全員周囲を警戒する様に見渡し始めるが、敵は見えない。MAPに赤い点が囲む様に点在しているだけだろう。

 

 二宮さんがゴーグルの人に何か指示を出したように見えた。直後、ゴーグルの人から旋空孤月が放たれる。とりあえずって感じで敵影(ラッド)一体の方向に向かって放たれた様だ。……が、長くないか? マジか。何であんなに距離が長い旋空になるんだ。30m以上……40mぐらいだろうか? 斬撃により、木々が斬り倒され、ラッドの反応が1体消えた。

 

 まぁその隙に真横から失礼しますよー?

 俺はバッグワームを展開していたサンバイザーの男の人に銃口を向けて引き金を引いた。

 

 ―――当たれ当たれ当たるまで曲がれ確実に仕留めろ。

 

 ライトニングによる小さな射撃音と発光に気付き、一斉にこちらに振り向いてくるところを見ると警戒はしていたのだろう。うん、そらそうだ。俺と違ってそっちは3チームで事前に作戦会議をしていたんだろうからな。こっちは蓮さんと作戦を練っただけだ。そこに不満は無いけど、人数多くて羨ましくはある。

 それはさておき、こっちがどのタイミングで仕掛けてくるかもある程度は想定していたのだろう。でもね、そっちが想定してる事はこっちも想定してるんだよ。主に蓮さんが。

 

 各隊員がバックステップやシールド、大きく回避でライトニングから放たれた弾丸を回避しようとしている。回避行動により弾丸が向かう先は誰もいなくなった。が、香取隊の黒髪の男の人に向かった。何を言ってるか分からないって?

 

 ―――その弾丸(アステロイド)、曲がるんだぜ?

 

 胸部を穿たれた事により先ずは一人ベイルアウトさせることに成功した。少しばかり驚いている表情がいくつか見える。

 

『もう一人行けるかしら?』

「玄界人死すべし!」

 

 俺は彼らの進行方向に仕掛けておいた炸裂弾(メテオラ)を撃ち抜いて爆破させる。その爆破で片足を失った生駒隊のサンバイザー狙撃手。それだけで済んだのはグラスホッパーを使ったからだろう。俺以外でグラスホッパー装備のスナイパーって初めて見たな。

 

 ―――ぶち抜けぶち抜けぶち抜け。

 

「片足だけだとバランスが悪いだろう。もう一発持っていけ」

「「シールド!」」

 

 スナイパー自身のシールドと、サポートで二宮隊の弧月持ちがシールドを重ね掛けしてきた。が、それも関係ない。

 

 ―――その弾丸、シールドなんて楽に貫通するんだぜ?

 

 生駒隊のスナイパーがベイルアウトした瞬間に彼らは最短ルートを選択したようで、そっちの方向に駆けて行く

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 香取葉子は困惑していた。

 

 二宮の提示した当初のプランは戦いやすいルートを選び、音無ネコを2回ベイルアウトさせて楽々と目的地に向かうというものだった。

(※トリオン兵の使用を認められているため、音無ネコが2度ベイルアウトしてもトリオン兵が存在している限りゴール地点に辿り着かなければ勝利とはならない)

 

 事前に彼らは、少しばかりの対応策を話し合っていた。

 

『知ってる奴もいるかもしれないが、アイツの戦い方は異常だ。こちらからの狙撃、奇襲は効かないと思っていいだろうし、掠り傷一つで緊急脱出(ベイルアウト)もあると思え』

『んなアホな……』

『生駒隊って事前情報とか少ないんだね』

 

 二宮隊の犬飼は生駒隊の水上を咎める訳でもなく、笑って突っ込んだ。

 

『いや、ちゃんとログとか見るで? せやけど今回はそれが見れない相手だったやん?』

『せやな』

『やっぱり、サイドエフェクトですか?』

『そうだ。対象に影響を与える系統とも言われているが、誤魔化す系統のモノだろう。アイツの使うトリガーが特殊というわけではないからな』

『誤魔化す? よう分かりませんけど、狙撃が効かないって点で俺は足手まといですかねー』

『効かんと決まったわけとちゃうやろ。狙えれば撃ってけや撃たなただの雰囲気イケメンやで』

『どっちにしても、こっちの勝利条件は目的地に着く事ですよね』

『そうだ。状況次第だが、戦闘は避ける場合も考えておけ』

 

 生駒隊の独特な雰囲気もあってか、楽観視していたが、2月8日になって試合が始まってみればありえない事が起こり続けた。

 転送直後には想定の範囲だった目視できないトリオン兵の赤い点に囲まれている状況。恐らくは『ラッド』だろうと想定して、二宮が生駒に指示して『生駒旋空』と呼ばれる全アタッカーの中で最長を誇る旋空弧月が前方に放たれ、トリオン兵の機影が1つ消えた。そこまでは良かった。

 その直後の狙撃は全隊員が回避したはずだった。それなのにも関わらず香取隊の三浦雄太が曲がった弾丸にベイルアウトさせられた。これが混乱の始まりだった。

 

「曲がった!?」

「狙撃とちゃうんかいマリオちゃん」

『狙撃……のはずや』

 

 どのオペレーターからも同じ回答だった。狙撃で弾丸を曲げられる? 意味が分からない。狙撃ではなくシュータートリガーなのではないか?

 

『狙撃警戒』

 

 爆発が起こる。唯一の狙撃手でグラスホッパー持ちの隠岐がグラスホッパーで避けるが、回避しきれずに片足を失った。その直後に容赦なく襲ってくる連続狙撃。二宮隊の辻が隠岐のシールドに合わせてシールドを重ねる。それにも拘らず、シールドをいとも容易く貫通して隠岐をベイルアウトさせる。

 そう、音無ネコの攻撃は掠るだけでもベイルアウトさせる。香取葉子も個人戦で味わった。意味が分からないあの攻撃。シールドも意味を成さないというなら、どうしたらいいというのだろうか。

 

『……最短ルートだ』

 

 舌打ちでも入ったかの様な苛立ちの二宮の声に残ったメンバーは駆け出した。

 他の隊員がどんな気持ちだったのかは知らないし、考えもしない。ただ、香取は自分の中に嫌な気持ちが纏わりついたのは感じていた。駆け出すのが悔しかった。

 

(だってこれはそういうことでしょ?)

 

 誰でもいいから目的地に辿り着こうと……逃げ出したのだから。

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

『―――最短ルートね』

「はいっす」

 

 急がば回れである。このまま後ろから追いかけても追いつけはするだろうけど、撃退される可能性もある。ならば手元にあるカードを最大限に活用するべきだろう。

 

 俺は近くにいるラッドにトリオンキューブを差し出す。ラッドはそれに乗っかる様に飛び付き、すぐに吸収し、球体の黒いゲートを開いた。

 それに飛び込むと俺はネコ屋敷周辺にいた1体のラッドの近くに転送された。

 

 最短ルートから進んできてネコ屋敷へと出てくる辺りにメテオラを仕掛け、俺はネコ屋敷の上にライトニングを構えて待つ。距離もシューター・ガンナーでは届かない距離だし、ここで更に何人か落としたいところだ。今頃、玄界人共は『後ろから来てるかな!? かな!?』とか『逃げろ! 速く逃げろ!』と焦ってくれている事を想像すると面白くて仕方ない。

 

 数分後、玄界人共は現れた。俺は設置しておいたメテオラを狙撃して爆破させ、玄界人共の動きを止める。爆撃でベイルアウトした人はいなかった様で残念だが、俺は即座にライトニングで撃ち始めた。生駒隊のゴーグルじゃない方の弧月持ちの足に当てて内部破壊のベイルアウト、香取隊のメガネの胴体に当ててベイルアウト。

 

「蓮さん残りは……」

『二宮隊3人、生駒隊2人、香取隊1人で合計6人ね』

 

 6人か、まだ多い。接近戦なんて出来る様な数じゃない。

 玄界人共は止まっていても狙撃されるだけだと思い、再び足を動かし始めた。

 

「振り出しに戻ってもらってもいいですかね?」

『数を減らす手としてはいいと思うわ。じゃあ音楽再生するわね』

 

 音楽が流れ始めたら規定の動きをする。その様に設定された6体のラッドが動き出す。ラッドが六芒星を描くように配置に着くと―――。

 

 ―――ズンチャラッカホーイホーイホヒッホヒッ♪

 ―――ズンチャラッカホーイホーイホヒッホヒッ♪

 

 マヌケなBGMに合わせてクルクルと回っては右へ左へと見事にシンクロして踊りだした。

 

(なんか良からぬ事始めたんじゃないネコ君)

(なんやこのアホらしい音楽は……止めなあかんか)

 

 それを感知して止めるべきと思ったのか、二宮隊の犬飼先輩がマシンガン、生駒隊のモサモサ頭の人がシュータートリガーでラッドに向かうのが見えた。邪魔されるわけには行かない。ここでミスったら俺が囲まれてベイルアウトさせられる。折角調子よく4人落とせてるんだから、もう勝ちしか味わいたくない。

 

 まだシューター・ガンナートリガーの射程距離ではない。俺は即座に犬飼先輩とモサモサ頭の人を狙撃した。当たれ、当たれ、当たれと願いを込めた弾丸は彼らを撃ち抜いていった。しかし、サイドエフェクトでもないのだが、何か嫌な感じが見えた気がした。犬飼先輩のマシンガンに弾丸が当たってほんの少し弾道が弱まり軌道もズレた。結局は犬飼先輩もベイルアウトしてるから問題ないと思うのだが……。

 

 おっと、こちらに射撃が届く距離になったか。二宮さんが牽制であろうハウンドを構えてる。カトリンもハンドガンを手にした。残りは4人。誰か一人でもここを抜ければ終わりだとか思ってんだろ? 無理だよ抜けられるわけがない。先ずは玄関までお帰り願おう。

 ラッドが6体の力を合わせて大きめのゲートを開く。それに飲み込まれる玄界人達。

 

 ……範囲外だったらしくゴーグルさんが残ってた。

 まぁ一人なら接近戦でも大丈夫だろう。二宮さんたちが再度ここに来るまでには数分はかかる。俺は弧月を抜いてネコ屋敷の上から飛び降りた。

 

「狙撃だけやないんかい」

「我が名はネコ。ネコ・サイレント。コデアルの剣なり!」

 

「おぉ、めちゃ設定凝ってるやん……っ!?」

 

 俺は弧月に擬似的な風刃の光の帯を生み出す。帯の数は10本。

 

「それは反則やろ……」

「旋空弧月!」

 

 一気に伸びる11本の斬撃。それはゴーグルさんから逸れて背後からも折り返すように襲い掛かる。小南先輩とやった時は相手の前方だけへの斬撃だった。ただ伸ばすだけだったモノが全方位から襲う斬撃にまでイメージを変える事が出来た。ハウンドやバイパーを使ってきてイメージが膨らんだおかげかもしれない。ただ、射程が伸びなかったのだが、さっきゴーグルさんの伸びる旋空を見たから(いけんじゃね?)と思ってやってみたら出来た。伸びるし折り返せるし、いい感じだ。

 と、思ったらシールドと弧月で片足だけで耐えられた。内部破壊までイメージが足りなかったようだ。片足でもゴーグルさんは俺に旋空を放った後に距離を詰めてきた。俺はグラスホッパーでその斬撃を避けると真正面から鍔迫り合いになった。

 

「む、お前、近寄ぉて分かったけど、弧月はそないに上手ないな?」

「ギクッ……」

『声に出しちゃ駄目よネコ君』

 

 くすくすと笑い声も聞こえてくる蓮さんの声を流しつつ、片足もないし、擦り傷だらけでダメージを受けてる人には負けられないと、弧月で片腕を斬られつつもアステロイドで仕留めた。

 

「あ、ちょま……やられたわ」

 

 残りはシューター・ガンナー・アタッカーの3人。ゴーグルさんのベイルアウトの光を見送りつつ、煽る事を考えた。片手もないし余裕は無い。ベイルアウトすれば完全体で復活するかもしれないけど、ベイルアウトがいやだ。マットに振って落ちる感じが大嫌いだ。落ちる夢とか見たかのような感じだ。いや、実際に落ちてるからね? あんなんやだよ。

 ならば煽って少しでも冷静さを欠いた状態にしたい。カトリンぐらいしか煽れないかも知れないけどやらないよりやった方がいい。

 さて、煽るために借りたわけではないが、煽り向きのトリガーがある。俺は桜子ちゃんに借りておいたトリガーを取り出す。『どこでも実況トリガー』とか言う名前らしい。これで侵略者へ声を届けようと思う。

 

『あーあー聞こえるかね愚かなる玄界人の諸君。生駒隊は全滅した。10人で襲ってきて残りは3人。それなのにも関わらずネコの片腕だけの戦果。ねぇねぇ今どんな気持ち? ねぇ、どんな気持ち? こっちはもうバテバテなんだよね~。それでも負けたとしたらどんな気持ちなんだろうな~俺には理解できないなー理解したくないなー。あ、後でベイルアウトの時のマットに落ちる感覚ってどんなのか教えてくださいねー。じゃあまたさっきの場所で待ってまーす』

 

 と言いつつも、あー……ヤバイな。“頭が痛い気がする”ヤツが来た。確かあの時はトリオン体を解除したら倒れたんだっけか。いや、その前に“気がする”が痛いに変わったんだ。トリオン体である内は大丈夫だ。まだ大丈夫だ。大丈夫だよな?

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

「振り出しに戻された……?」

「どういう事……?」

「ラッドだろうな。アレはトリオンを吸収してゲートを開く特性がある。それを利用して、ここら辺にいるラッドとネコ屋敷前のラッドでゲートを繋げているんだろう」

 

 辻がMAPと生駒の弧月で斬り倒された木々を確認してスタート地点に戻された事に気が付いたが、すぐ隣に香取が居た事に気付き顔を赤くしてそっぽを向く。全くコイツは……異性が近くにいると冷静さを欠くな。しかし困った。打つ手が無い。いや、無くは無いがアイツ(ネコ)のサイドエフェクトが凶悪すぎる。

 戦闘能力の無いラッドと、ネコに翻弄され、更にはオペレーターには月見が居ると聞いている。それに比べて俺たちのシールドは意味を成さない。相手の攻撃は狙撃であっても曲がる。ギリギリで完璧にかわさないと掠り傷一つでベイルアウト。厄介だ。

 

「あれ、生駒さんは?」

「え? あれ?」

『ウチの隊長なら戦ってるわ。風刃までコピー出来るみたいやなあの子』

『アレやばくない? 面白い!』

『ネコ君のサイドエフェクトやばいなー。勝てる気せんわ』

 

 生駒隊のオペレーターと犬飼が通信で声を揃えているが、他のベイルアウトした連中も同じ様な意見らしい。しかし、生駒が残ったか。

 

「時間はまだあるが、残り3人で勝つ手段を考えるぞ」

 

 香取は諦めの表情を伺わせたが、指示には従うようだ。

 

「狙撃があると近寄れませんよ? 回避しても追って来る弾丸なんて狙撃の距離でハウンドを使われてるようなものです」

「そうだな。シールドも意味が無い」

「囮になりましょうか?」

 

 自発的とまでは言わないが、さっさとベイルアウトして帰りたそうな香取が声を上げる。確かに一人を生贄に残りが走り抜け、更にもう一人もそれをカバーでもしないとゴール地点まで辿り着けないだろう。だが、絶対に防げないというわけでもない。犬飼と氷見が言うにはマシンガンに狙撃の弾丸が当たった時を考えると、トリオンで出来ていない物や、弧月やガンナートリガー系統のモノならば壁役に使えるかもしれないとのことだった。

 

「―――いや、香取。お前がゴールまで抜けろ」

「は? 何であたしが……ですか」

 

「グラスホッパーを持ってるのがお前だけだからだ。最初は戦いになると思っていたが、戦いにすらならん今では速度が優先される」

「……分かりました」

 

 嫌だという顔がありありと読みとれる。

 

『あーすんません二宮さん。やられましたわ』

 

 そんな時だった。生駒のベイルアウトの報告を聞いたのは。そして、どうやって声を届けてるのか知らないが、ネコの声も聞こえてくる。

 

『あーあー聞こえるかね愚かなる玄界人の諸君。生駒隊は全滅した。10人で襲ってきて残りは3人。それなのにも関わらずネコの片腕だけの戦果。ねぇねぇ今どんな気持ち? ねぇ、どんな気持ち? こっちはもうバテバテなんだよね~。それでも負けたとしたらどんな気持ちなんだろうな~俺には理解できないなー理解したくないなー。あ、後でベイルアウトの時のマットに落ちる感覚ってどんなのか教えてくださいねー。じゃあまたさっきの場所で待ってまーす』

 

「あのチビネコ……!」

「生駒さんが片腕を落としたから狙撃は無いと見ていいですかね」

『すんません。それが限度でしたわ』

「十分だ」

 

 絶対とは言えないが、片腕の狙撃は無いと見てもいいだろう。狙撃が無いなら勝ちも見える。

 

「香取、お前は目的地に全速力で向かえ」

「……了解」

 

◇ ◇ ◇

 

 

 





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随時受付中。お待ちしております。



◆ワガハ・イハネ・コデアルやネコ・サイレント等の設定資料
 そんな乱星国家はない! けど宇佐美が作ってくれました。ネコが負ける場合も勝つ場合も想定して、2通りのエンディングを書き終えているようです。

◇殺せ!殺せ!殺せ!ガンホー!ガンホー!ガンホー!
 ふもっふ。
それは最弱ラグビー部のシンデレラストーリーである(嘘は言ってない)

◆ラッド
 トリオンを吸い取ってゲートを開く力がある。今回はラッド同士をゲート座標軸にしてる。音楽に合わせて踊る事も設定上可能……ってことにした。

◇ズンチャラッカホーイホーイホヒッホヒッ
 悪徳ロリータ登場BGM。特に意味はないけど、半熟英雄の召喚呪文でもいい気がする。

◆我が名はネコ。ネコ・サイレント。コデアルの剣なり
 仮面を被った偽者。あいつゼンガーじゃね? という噂もあったが、後に偽者だと分かる。あ、はい本編に全く関係ないです。


次回で決着です。


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