日曜日にも関わらず防衛任務ということで本部に来ていた。しかし、今日は初の試みというか、他の隊との合同ではないそうだ。『見回りのエリア狭めるから一人で大丈夫だよね?』って感じで沢村さんに言われてオペレーターも居らずに完全に単独行動だ。迅さんとかある特定の人は一人で防衛任務をこなしている人もいるらしい。その人たちと俺を一緒にして欲しくない。酷いよねー。どんだけほったらかしにしたいんだよー。一人って寂しいんだぞ? ウサギじゃなくても死ぬ事もあるんだからなー。やってみるけど、寂しいんだからなー。
そんな寂しい防衛任務まで時間もあり、槍バカ弾バカコンビに誘われてボーダー本部の食堂で昼飯を食べていた時である。ちなみに昼ご飯はカツカレー。ちょー美味しいよー。添えてある福神漬けもいい甘さだわー。そんな幸せ空間に舞い降りた電波信号をスマホがキャッチする。
……長文メールにて忍田さんに注意されました。太刀川さんのように勉学関連についてではないのが幸いと言えるが、何の注意かって? 昨日の初のチームランク戦が1点しか取れなかったことを追究されたのだ。玉狛贔屓が過ぎたということですなー。
「ざまぁ」
「確かにあれはねーよ。白チビ落とせる力あんのに1点止まりで時間切れって」
「うっさいなー。カレーうまー。忍田さんこわー」
遊真とは間宮隊が全滅した直後に戦闘始めたから、俺が間宮隊の近くに潜伏していたのはバレているわけで、そもそもエスクードやメテオラ使ってる時点で、何で間宮隊を落とせなかったのかも説明できない。落とそうと思える力があるのに落とさない。それは間違いなく玉狛に点をあげるためである。
俺が玉狛を兼任してるという点もあり、『玉狛とどう戦えばいいのかと困惑している』とも取られていたようではあるが、今後はチームランク戦の存在定義を揺るがす事なので真面目にやるように言われたのである。……カレーのスプーンを置いて水を飲んで冷静に忍田さんを想像する。……こ、怖いよー。注意の先には何が待ち受けているのかなんて考えたくもない。
つまりは『どこの隊相手でも全力で戦え』と言う指示である。まぁ今回は初めてのチームランク戦と言うこともあって、大目に見てくれたようだが、今後は本気で掛からないといけない。三雲君ごめんよ。俺はヒーローを倒す悪になる! まぁ出来るだけ玉狛第二と当たらない事を願うだけである。幸いとも言うべきか、次の試合は2月5日の昼の部で、三雲隊とはグループ分けが下位と中位に分かれたので戦わない。将来的に対戦相手として当たった時にも遊真と相打ち狙いにすれば怒られないとも悪知恵が働く。頑張ったけど負けました! うん、当たった時にはこれでいこう。
現状として、ネコ隊としては1点しか取れてないから下位チーム同士での戦いだ。前回の状況を見る限り問題ないだろう。オペレーターさんは誰に頼もうかなー。今回は前日とかじゃなくて早めに探し出そう。
『おい音無聞いとるか! もう一度言うが―――』
「使いますってばー」
鬼怒田さんの通信を遮るように俺は応答する。今回の防衛任務前、いや、大規模侵攻後から言われている事だったのだけど、俺はネコ隊が作られてからスナイパートリガーを相手に対して使っていない。トリオン兵であってもランク戦の相手であったとしてもだ。
これに対して開発室は『あの気分屋ネコ、俺らの努力の結晶を早く使わんかい』と意見が出ているようで、効果は知っているが、音無ネコ用に作ったのだから本人に使ってもらわなければ作った甲斐もないというものだ。あ、キッチンは使ってます。
ネコ隊を含めてもそうだが、トリガーは俺が頼んで作ってもらったわけでもない。ないのだが、そこまで言われては使わないわけにも行かない。ライトニングだけでなく、他のスナイパー用、ガンナー用の実体型のトリガーも同じ様な細工をしているらしいが、とりあえず今回の防衛任務で遠距離で安全圏からの狙撃で効果を見せるのが鬼怒田さんとの約束事である。
ちなみにではあるが、弧月も持ち手となる柄の部分にもネコ隊エンブレムの肉球マークを入れる予定だったらしいが。握ったら見えなくなるじゃん。という意見から、黒い鞘にエンブレムは施された。暗闇の中だと肉球マークだけぼんやり光るそうな……。知らんけど。
さて、防衛任務である。一人で弧月を抜いてとぼとぼと歩く。どーせ本部のゲート誘導装置に引っ張られるゲートだけでイレギュラーゲートは発生しない。ゲート発生予測地点はMAPに随時表示されるし、今回は一人ということもあって見回りのエリアも狭い。楽な仕事だ。はー楽だわー……寂しいわー……。
でもね、すっごく不気味な違和感が俺を包み込んでるの。多数の視線が俺に向かってるかのような。でもその視線は一点集中で見られているというか、大規模侵攻以来では最高クラスの奇妙さである。まぁ大きな害はなさそうな気もする違和感だが、はっきり言って気持ち悪い。
そんな経験は無いんだけど、狭い部屋のステージに一人立っていて、10名ぐらいの観衆に集中して見られてる感じだ。幼稚園や小学生の時に演劇に出るとかはあったけど、基本は樹木などの目立たない役だ。メインで見られるなんて事に慣れているわけがない。そんな慣れない環境に放り込まれてる感じは気持ち悪くてしょうがない。
『……ザザ……』
「え、誰!? 誰かいるの!?」
びっくりした。オペレーターさんがいるなんて聞いてない。最低限オペさんは付けてくれたという事だろうか。しかし、何の挨拶もなく開始から今までとぼとぼ歩いているだけで弧月で落書き教室を始めても何も音沙汰も無かったのに、今になって通信を飛ばしてくるとは考えにくい。それに通信障害のような雑音のみとか意味わかんない。東隊の作戦室で見たホラー映画を思い出してしまうから止めてよー。見通しの悪い交差点からいきなり出てくるとかも無しだからな……。
「だ、誰かいるんどすかー……?」
ビクつきながらも通信を飛ばすがリンク先がないので当然ながら応答なし。本部に繋げたら繋げたで、「何も無いのに連絡してくるんじゃない」と怒られる気もするし怖い。その場に居ては怖いので俺はゲート発生予測地点へ射線が通るように建物の屋上へ跳び上がる。それでも視線の違和感は尽きず、視線の発生源はどこだろうかとキョロキョロしながらも弧月を消してイーグレットを出して構える。なんだろーなーこの視線はー怖いなー怖いなー。そう思いつつも視線が消える事はない。
撃つ前にイーグレットの銃口を覗き込むが、暗い銃口内がどんな細工か分からない。そうこうしてる内に警報と共に事前情報のあった地点へゲートが発生する。モールモッドが2体降りてくるが、1体をそのまま空中で狙撃する。狙い通りの弾道でモールモッドの眼球を貫くと、腹部辺りからも裂傷が起こる。スコープで眼球に注目である。そこには丸い弾痕ではなく、肉球型の弾痕があった。マジかー。そういう事かー。銃口を肉球型にしてあるのか。なんて無駄な技術力。そんなとこ誰も見てないよー。で、あるならば……。
もう一体のモールモッドが着地し、俺の方へと身体を向け前進を始める。俺はアイビスを取り出し、サイドエフェクトで騙し始める。千佳ちゃんほどじゃないにしても大型の弾丸はモールモッドを背から貫き仕留めた。弾丸は地面のアスファルトまで達して地面に肉球型のダメージを与える。俺はそれを確認した上で悪戯心から射撃を続ける。アイビスの引き金を引く事4度。巨大な猫がそこに居たかのような作り物の足跡を残して防衛任務は終了となった。
違和感は本部に帰るまで続いた。前に沢村さんから観察対象とか聞いた気がするけど、気になったのは今日が初めてのことだ。今後も今日みたいな感覚があるのだろうか。やだなー。でもねそんな不安定な精神も回復出来ちゃう。そう、cocoaならね。
◆ ◆ ◆
ここは本部のとある一室。ボーダーで隊を補佐するオペレーターの多くの人間がここに集まっていた。最初こそチームランク戦の実況などのミーティングだったのだが、そこは有能な集団な事もあって仕事に関する話はすぐに終わり、談笑の時間を過ごしていた。そして、とあるエリアの防衛任務の交代時間を見計らってモニターが点けられた。
音無ネコは観察されていた。まるで可愛い子には旅をさせろという子供の初めてのお使い番組状態である。今回から一人での防衛任務という事もあり、狭いエリアで短い時間という試用期間だが、まず問題ないだろうと上層部は考えているらしい。
「ん? 落書き終わったと思ったらキョロキョロしてない?」
「してますねー」
「つーかビク付いてないか? こんなんで本当に桐絵に勝ったのか?」
「普段は落ち着いた子だよー」
「光ちゃんのとこの影浦君とかに追いかけられそうなイメージが容易に浮かぶわー」
「あぶなっ! ……通信用のボタン押しちゃったけど……気付かれた?」
『え、誰!? 誰かいるの!?』
「「「「「……セーフ」」」」」
『だ、誰かいるんどすかー……?』
「ふっぐっくくくく……」
「ぶふふっ……」
「どすかって……ぷっふふふ……」
音無ネコが観察されている理由。その多くの理由は音無ネコの自分の隊への勧誘するための情報収集である。だが、音無ネコはどこの隊にも入る事無く、司令の城戸正宗と玉狛の暗躍エリートが動いた事によりネコ隊なる単独遊撃隊を作ってしまったので、勧誘のためという理由はほぼ建前になっており、もう完全にペット鑑賞である。
「おぉ~肉球型の弾丸かー」
「鬼怒田さんも粋なことするねー」
「鬼怒田さんは何でネコ君に優しいの?」
「ほら、玉狛のスナイパーちゃんが気に入られてるじゃん。あれで子供が男の子だったらって感じじゃないの?」
「おぉ! 巨大ネコ降臨の足跡!!」
「あのポイントは『ネコの通り道』と名付けよう!」
◆ ◆ ◆
防衛任務が終わり、鬼怒田さんら開発室にも報告をして本部内をブラブラとしていると食材を手にした双葉ちゃんと加古さんを見かけた。またか、またウチのキッチンを使うのか。と思いきや、ネコ隊の作戦室には向かっていない。あ、目が合った。
「あら、今日は防衛任務だったの?」
「お疲れ様です」
「お疲れ様でーす。防衛任務終了でーす」
食材を手にどこに行くのかというと、加古隊作戦室とのこと。なんと、加古隊にもキッチンがあるそうだ。マジか、俺の作戦室が初めてじゃなかったのか。だからあんなに早く作戦室が出来上がったのかもしれない。
「……またチャーハンですか?」
「あら、残念ね。今日はビーフシチューが食べたくなったのよ。来る?」
誘われたから恐る恐る確認してみたが『作戦室の悲劇』は起きないらしい。何があったって? 太刀川さんや堤さんに聞いてみてくれ。被害者だからうまく言葉に出来ないかもしれないけどな。
誘われてやって来た加古隊の作戦室。そこは那須隊の様に作戦確認部屋というモノとはかけ離れている空間で、生活感があり良い匂いがした。ってそんなことより!!
「こ、コタツだ!」
「コタツで丸くなってて良いわよ」
マジかー念願のコタツだ。トリオン体を解除してコタツに侵入する。あれ……んー別に思ってたほどの効果は―――。
「電源入れてないですよネコ先輩」
「あ、電源ね。ありがとう………………ぉ、ふぉぉぉぉぉぉ……」
双葉ちゃんに電源を入れてもらい数分ゴロゴロしてると、じんわりと精神破壊光線が放出されているのか、ゴロゴロレベルが上がっていく事に気付く。
「ウチ以外だとどこだったかしら? コタツ置いてるの」
「影浦隊です。根付さん殴って降格した」
えー根付さん殴られたのー? ざまぁー。
俺は聞こえてきた内容を軽くスルーしつつスマホで動画を見ながらゴロゴロするが……暑くなってきた! 双葉ちゃんの操作した電源を見ると弱・中・強の三段階で、強になっていた。弱でいいや。そして、いつしか眠りについていた。
(双葉、写真とってくれる? サイトに上げるわ)
(はい!)
(『ネコ好き集まれ! ウチに来たネコどう思う?』でスレ立てましょう)
(はい!)
寝起きにビーフシチューを頂くが、目がしぱしぱしてるところに『カシャッ』と、スマホの写真を撮る音が聞こえてくる。
「ぅー……何撮ってるのー?」
「ビーフシチュー(を食べてるネコ先輩)です」
あー食べ物撮る人多いよねー。
月曜日。学校帰りに玉狛に来た。迅さんからメールが来て、『多分気分転換になるから』との事だった。まぁねー。一人ぼっちの防衛任務で気分は落ち込んでるからねー。愚痴る相手が欲しいですわ。ぼっち歴の先輩たるエリートに聞いてもらおうじゃないの。俺はトリオン体になって猛ダッシュで玉狛支部に辿り着いた。
「―――っていないんですか!? 自分から呼んどいて!?」
「あぁ、迅なら防衛任務に行ってるぞ。でも
あまり見かけない林藤支部長に出くわした事に驚きもあるのだが、気分転換にって呼ばれたのに言いだしっぺが居ないのはおかしいだろう。
「あぁ、そういえばまだ会ってないんじゃないか? 今の
「雷神丸以上の癒しなんて玉狛にいるんですか?」
「癒しじゃないけどな~」と言いながら進んでいくのは地下の奥の部屋。林藤さんはノックをして「入るぞー」と言ってドアを開ける。そこには鬼が居た。いや、角がある人。ってアフトクラトルの人型ネイバーじゃないですかーやだー。
「……俺以外にも捕虜が居たのか」
「捕虜?」
俺はその声に後ろを振り向くが誰もいない。そんで男は俺を見据えている。え、俺?
「違う違う。ネコ、フード外してみろ」
「あ、あぁそういう事か。外すの忘れてた」
林藤支部長の声に俺はネコ耳フードを外す。どうやら自分と同じ様な角があって隠すためにフードを被っていたと勘違いしたようだ。
「こいつの名前は『ヒュース』大規模侵攻の時に迅が連れてきた捕虜だ。ヒュースこっちは『音無ネコ』一応、
俺は一応ぺこっと頭を下げるが、ヒュースって男は鼻を鳴らすようにそっぽ向いた。三輪先輩みたいな人だろうか? や、やったんぞーおらー。
で、俺が呼ばれた理由は明らかにされた。本日の当番はレイジさんなのだが、急遽防衛任務シフトが入ってしまい思いついたように『ネコも玉狛支部なんだしネコの手を借りてみようぜ』みたいな話になったらしい。
当番とは、玉狛支部のお料理担当の事である。当番制になっており、人によって個性が出るが、肉肉肉野菜炒めだったり、バイト先で覚えたイタリアンだったり、カレーしか作れなかったり、鍋だったりと、皆で協調しあってご飯を作って食べるのだそうだ。……おいおい、何だか羨ましいぞ。作戦室が作られる前だったら玉狛に入り浸っていたかもしれない。
「でだ、噂によるとネコは何でも作れるらしいな」
「んなわけ無いじゃないですか。安全なチャーハンとかは勉強中ですけど」
厨房に案内され、冷蔵庫の中身を確認。とりあえず米を研いで水に浸ける。そんな時にうさみん先輩と小南先輩がやって来た。
「今日の当番ってネコなの!? ど、どうせカレーしか作れないんでしょ」
「ネコ君は色々作れるらしいよーこなみ」
俺は長ネギと豆腐、挽肉を冷蔵庫から取り出して調味料を探す。
「あ、小南先輩。片栗粉ってどこでしょう?」
「か、カタクリ砲? えっと、そんなトリガーあったかしら……」
「うさみん先輩」
「うん、ここの棚に―――あ、でもネコ君、そこまでしなくても確か麻婆豆腐の素があったと思うよ。陽太郎は辛すぎるの食べられないからさー」
「ま、マーボー豆腐ね。『オレ外道マーボー今後トモヨロシク』みたいな料理ね。知ってるわ」
よし、知ってないみたいだ。聞く相手は把握した。
とりあえず先に一人分を完成させる。出来上がったのは玉子の中華スープと麻婆豆腐。餃子、サラダである。遅めに来るとりまるやレイジさんの分はまた後で用意しよう。三雲君たちはトレーニングルームに入ってるらしく、俺はお盆に一人分を乗せて陽太郎と一緒に奥の部屋に向かった。
「ヒュース入るぞー」
陽太郎がノックしてドアを開けるとベッドに腰掛けているヒュースがいた。
「つーか何で一人で食べてんだ?」
「やはりネコもそう思うか」
陽太郎はキランと目を輝かせながら、皆で食べる事に賛成のようだ。俺は別に『皆で食べよう』と誘ったわけではないのだが、まぁ結局はそういう意味になるのか。お盆をテーブルに置こうとすると、陽太郎は「ちょっと待っててくれ」と駆け足で去っていった。
「何だ? まぁいいや、辛いのは平気なの?」
「コナミが作ったカレーというモノは食べた事がある」
俺は無いから辛さは分からないが、まぁ問題ないだろう。でもあれだな、人型ネイバーって言っても角を無しで考えれば海外の外国人って感じだろうか。日本食が苦じゃなければいいけど……と思いヒュースを見ると、ヒュースは俺を見つめていた。
「んだよー」
「……」
「待たせたな諸君!」
無口だなーと思いつつ部屋は静かになるが、足音が聞こえてきてドアが開けられた。陽太郎は戻ってくると、その手には自分用のお盆を持ってきていた。その後ろには林藤さんもいる。林藤さんも一人分の食事を持ってきているが。ここで食べんの?
「持ってきてやったぞネコ。やっぱ優しいやつだなお前」
……俺がここで食うのかよ。はいはいいいですよー。もう捻くれモードだかんね! この後に作る麻婆豆腐は外道麻婆にしてやるかんね!
ヒュースは陽太郎の食べる様子を見よう見まねで、麻婆豆腐をレンゲを使って食べ、ご飯を食べる。ふん、こーゆーのは麻婆丼にすんだよ! 俺はご飯の上に麻婆豆腐をかけてハフハフと食べる。
俺の食べ方を陽太郎が見ると「あぁそうか」といった表情を浮かべて真似をする。ヒュースもそれに続く。……会話がないのも面白く無いと思い、ちょっと立ち入った話しを入れてみる。
「ヒュースはいつ帰れるんだ?」
「……知らん」
サイドエフェクトに違和感が走った。何か隠してんなー。いつ帰れるか知らんって事で騙すってんなら、そりゃもう逃げる気満々なわけだ。まぁそれはそうか。逃げれるかどうかは別として、捕まったら逃げたくはなるか。それは普通な事だ。でもネイバーに優しい玉狛支部なわけだし居心地は悪くないだろう。ニート的な考えが無いって考えれば帰りたい理由があるわけだ。俺だったら入り浸る方が楽な気がしてならないけど。まぁ何にせよ―――。
「早く帰れるといいな」
「……捕虜の心配をして何になる」
その後は食事の音以外は静かなもので、餃子、サラダ、スープ、丼とループを繰り返しハフハフと食は進み、空っぽの皿が出来上がっていくのだった。
俺がヒュースが逃げるとか心配するまでも無く、迅さんがどうとでもするだろう。迅さん的に俺の力が必要なら声掛けて来るだろうし、上手い具合になるように暗躍をするだろう。
食器を下げに居間に戻ると既に三雲君たちも来ていて、席についていた。既に訓練後のようで、談笑していたようだ。
「お、ネコ先輩だ。この前はどうも」
「いきなり襲って来るんだもん驚いたよ」
「「え?」」
ランク戦なんだから当たり前だろって空気だ。だからまず誤解が発生していたところからの会話になった。俺が「よろしく」って言った事でバトる気満々だったと捉えられていた様で、俺はフォローする気だったと言った。そして、その点について忍田さんからも釘を刺されたからは今後当たる時は本気で行くと伝えた。
「何だ。じゃあこの前は本気じゃなかったんだ」
「うーんでもなーそしたら試合の時には千佳ちゃんも落としに掛からなきゃいけないんだよなー」
「き、気にしないで下さい」
気にするわ。
まぁ誤解は解けたわけだし、俺は三雲君たちの分を温め直したり、作ったりして配膳した。
概ね好評だったネコの簡単中華コース。しかし、片付けをしていて気付いた。まだ3名ほど食べる人が居る事に。迅さんレイジさんとりまるの食事が残念コースになってしまう。材料はどうだと冷蔵庫を確認する。
「しまった餃子使い切っちゃった上に、麻婆豆腐も申し訳程度の量に……レイジさんたちの分が……」
「安全なチャーハンなら勉強中って言ってなかったか? 安全の意味が分からなかったが」
林藤さんの声に俺は考える。チャーハンを作るか、確かにチャーハンなら今の材料だけでもどうにでもなる……いや、でも俺は
「いいじゃないチャーハンでも。ご飯が無いことの方がショックよ」
小南先輩の後押しもあって、俺はチャーハンを作る事に決めた。
「チャーハン作るよ!」
その日の夜、遅れて食事の場にやって来た3人の男が机に突っ伏していたと言われている。手にはレンゲが握られ、彼らの前にはチャーハンを冒涜した何かがあったらしいが、そのチャーハンの製作者は洗脳されたかのような目で後に語る。
「―――何を入れたか記憶にございませんにゃ」
感想・質問・ご意見・誤字脱字報告・評価・お気に入り登録等々いつも嬉しく承っております。
今回のサブタイは詐欺だなーと思いますが、ほら、ねこだましですし。
◆防衛任務のぼっち化。
試験運転です。その内また隊を転々とするかもしれませんし、ぼっちのままかもしれません。当然のことながらぼっちの方がストレスが溜まります。
◇スナイパーやガンナー装備の銃口
銃身が黒いだけじゃなく、ネコ隊エンブレムのような肉球マークの弾丸が放たれる。威力に差異は無く、本当に遊び心の品です。アイビスで地面を撃った場合は巨大ネコの足跡の様になります。警戒区域外(市街地)ではまず撃つ事は無いでしょう。今のところボーダー内だけの都市伝説的な足跡です。
◆最新15巻で明らかになった加古隊作戦室の補完。
加古隊にもキッチンあるで。コタツもあるで。
ネコの理想の完成系な気がしますが、遊びに行けばいいんだよ。細けー事はいーんだよ。
◇受け継がれし能力