ねこだまし!   作:絡操武者

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31 ネコ+クマ≠パンダ

 俺は作戦室で現実逃避の意味を込めつつも落ち着くために雑誌を読みながらココアを飲んでいた。何の現実逃避かっていったら明日から始まるチームランク戦の件だ。未だにオペレーターさんの件を依頼していない。

 このままではランク戦不参加で忍田さんに怒られ……いや、まだだ、まだ慌てる時間じゃない。まぁ数十分も後になってしまえば慌てる時間が来るのかもしれないが、今はまだココアタイムである。

 

 カップから口内へと入り込んでいくココアの香りを聞きながら、ふと少し前の風間さんと加古さんの会話を思い出した。迅さんが未来予知した事を踏まえて俺の周囲の人間に依頼して『ネコ育成計画(多分そんな名前付いてない)』なるものを進めている事を。

 実際はどうなのか知らんけど、主にA級グループの人が俺のところに遊びにきたり(戦闘バカがやってくる)、最近では飯を注文しにきたり(「ココアチャーハンにしてやる……」と呟くと逃げる人がいる)、個人戦や模擬戦に誘ってくれたりと(結局は誰かしらに連れ出されて戦う)、コミュニケーションを取ってくれている。ありがたいことである。あーあー本当にありがたいねー。

 

 パソコンにメールが入る。確認すると、明日から始まるチームランク戦の大雑把な内容が記載されていた。

 差出人は沢村さんだが、忍田さんがメールを送るように言ったんだろう。まだ参加申請の報告をしていないのだから、当然と言えば当然なのかもしれないが、逃げ道があるかもしれないという淡い期待に「お前の逃げ道ねーから」と言われている気がする。

 

「ぐぬぬ……今日中にオペレーターさんを探さなくては」

 

 ボーダーと言うのは仕事場ではあるのだが、ランク戦に参加するのは学生がほとんどである。ともすれば毎日ボーダーに来る人も珍しいのだ。俺は作戦室も作られたし結構来てる方だけど、防衛任務時にしか来ないという隊員も少なくは無い。とりまるの様にバイトしてる人もいるのだろう。

 別にそれが悪いわけじゃない。ただ、今回に限って言えば、防衛任務で空いてなかったり、そもそも本部に来る予定がない人を「もしもし俺俺ー。チームランク戦出るからオペレートよろしくー」なんて呼び出すのもおこがましい話しである。

 

 今更ながらではあるが、A級のオペレーターさんは除外だろうか? 参加するランク戦がB級である以上、依頼すべきはB級の人だろう。A級でもB級でも俺は構わないのだが、オペレートの経験値とかで差が出てしまう可能性もあるのかもしれない。詳しく知らんけど。

 

「やっぱり昨日買ったりんごの下ごしらえをして正解だったかな?」

 

 俺はハチミツと水で軽く煮詰めた薄切りにしてあるりんごの入った鍋を見やる。そして、もう一度雑誌に目を戻す。甘く煮詰めたものを『フィリング』というらしいのだが、このアップルフィリングを春巻きの皮で包んで、マーガリンを入れたフライパンで焼き上げれば、なんと簡単にアップルパイが出来るのだ!

 ……そんな馬鹿な。春巻きの皮でアップルパイ? そう思っていた俺は既にいない。りんごをそのまま渡して「オペレーターしゃっす」って頼んでも何か違う気がする。でもこれが少し手を加えた『春巻きアップルパイ』ならどうだ? アップルパイみたいに調理器具も要らないし作るのも大変ではない。それでいてオヤツである。

 ……まぁ雑誌を見てりんごを切った時点で決まった事ではあるんだけどね。

 

「よぉネコ、個人戦どうだ! おっ良い匂いだな! 何か作ってるのか!!」

「うるせぇ! ココアチャーハンぶつけんぞ!!」

 

 太刀川さん改め、バカダンガーは架空のココアチャーハンに怯えて去って行った。いきなり入ってきて、速攻で去っていく。嵐のようなバカである。

 

 ちなみに、『バカダンガー』とは加古さんに聞いたのだが、―――『―――太刀川君ってねー『DANGER』を『ダンガー』って読んだらしいのよ、あれを聞いた時は、何でも許そうと思ったわ』―――あれを聞いてて自分の事じゃないのに何故か顔から火が出るほど恥ずかしかった。全く、恥ずかしいったらないよ! ソロランク1位だし戦術面でも戦闘面でも凄い人だと思ってたのもあり、その落差は計り知れなかった。それを抜きにしても今回は邪魔されるわけにはいかない。この話しを聞いて以降、俺は太刀川さんをバカダンガーと呼ぶことがある。常にではない。イラッとした時だけである。……今のところは。

 

 俺は全てを焼き上げて一つ味見をしてみる。……ほう、これは美味い。でもあれだな、カスタードクリームとかあると更に美味い気がする。でも流石にカスタードクリームなんてシュークリームとかで食べた事はあっても作り方は知らんし、この雑誌にも載ってない。時間もないし、完成だ。いや、『オペレーター引き受けてくれたら完成品を用意しますよ』とか言って釣っても良いかもしれない。

 いや、待てよ? それなら更に踏み込んで『これが食べたかったらオペレーターを引き受けることですね』と要求してもいいのでは……いやいや、だから何で上から目線だ。だから俺は駄目なんだ。

 俺はくだらない事を考えながら完成品を紙皿に用意した後、探し人へ連絡を取るのだった。

 

 

 

 

 

 探し人であったクマちゃん先輩は本部に来ていたようで、更にタイミングよく個人戦を終えたところだった。何でクマちゃん先輩かって? 昨日スーパーでりんごを手に取った時に『あーりんご好きって言ってたなー』という些細な切欠だ。小夜の方がいいかもしれないけど、自宅警備の邪魔をしちゃいけない。それに気兼ね無い感じがいいよね。緊張もしなくて済むよ。やったねネコ君、オペレーターを頼めるよ。受けてくれるとは確認してない。

 そんな明日のオペレーター候補さんはすぐに来てくれた。

 

「―――へぇ、キッチンがあるって噂は本当だったんだ」

「早速ですが、これを」

 

「春巻き? いや、甘い香り……どうしたの?」

「クマちゃん先輩がりんご好きって言ってたから作ってみました」

 

「へぇ、いただきます……んー! 美味しい! ネコは何でも出来るねー」

「食べましたね?」

 

「え、た、食べたけど? 何よ? 失敗作だったとか?」

「食べていいとは言ってないのに食べましたね。あーあー食べちゃったかー。どーしよーかなー困ったなー困った事になってるぞー」

 

「た、食べるように仕向けといて? 何が目的なの?」

「話が早くて助かりますよ先輩」

 

 ふっふっふ、と悪く笑う様にしながら俺はクマちゃん先輩に向き直る。

 

「チームランク戦でオペレーターやってくださいお願いします! 俺が困った事になってるんです!」

 

 

 

 しばし説明をして、「小夜子には聞いたの?」という話も出るが、連携に難がありそうだという事で今回は見送らせてもらうと説明する。

 

「―――ふーん……まぁネコならどこのオペレーターでも引き受けてくれそうだけどね……そもそも私オペレーターなんてやった事無いよ」

「そこはほら、何とかなりますってー。座ってるだけでも大丈夫ですってー。それに今後の那須隊のチームランク戦の下見も出来ると思うんでどうでしょう?」

 

「そりゃあ当たるチームになるなら相手の動きとか見れるのはありがたいけど、別にログでいいしねぇ……一応聞くけど、どことやるの?」

「え、知りませんけど? メールには載ってなかったんで」

 

 「んなわけないでしょ……」と言いつつ、溜息を吐いてオペレーターさん用のパソコンの席に座るクマちゃん先輩。俺が後ろからそのパソコン操作を見ていると、見落としていたようで気付かなかったファイルをクマちゃん先輩は開いた。添付ファイルである。

 

「書いてあるじゃん……初日の夜の部で吉里隊・間宮隊・玉狛第二・ネコ隊。ここだよ。ちゃんと添付も確認しないと駄目でしょ」

「ほう、玉狛以外知らない。おぶっ」

 

 添付ファイルの見落としに対する謝罪も、それを発見して頂いた感謝も無く冗談めかしてキランとしている俺にクマちゃんチョップが飛来する。

 

「しかも初日って……明日だと那須隊(うち)は防衛任務だから間に合わないかもね」

「マジかー……」

 

 俺は紙皿ごと春巻きアップルパイを渡して頭を下げてクマちゃん先輩を見送った……つもりだったのだが、クマちゃん先輩はスマホを取り出し、何やら入力をし始めた。30秒も経たずに電子音が2件ほど入る。

 

「来るってさ」

「ん? あ、もしかして知り合いのオペレーターさんに声掛けてくれたんですか? 仮に本当に座ってるだけなら連携も何も関係ないですしね。誰でもいっか」

 

「え?」

「え?」

 

 ―――数分後、那須先輩が俺の作戦室にやって来た。小夜は自宅警備。日浦ちゃんは本部に居ないらしい。いや、知らんけど。この前といい今回といい、何でクマちゃん先輩は俺のところに那須隊を呼び寄せようとするんだ! 今回は那須先輩だけだけど!

 那須先輩とクマちゃん先輩で仲良く頂かれるアップルパイ。俺は牛乳割りのココアを淹れてあげる。

 二人はしばしの歓談と共に食べ終わると、それぞれが感謝の言葉を述べてくる。そして帰っていく。……ってこらー! 何しに来たんだー! 結局オペレーターさんを紹介してくれるでもなく喫茶店代わりとして作戦室を利用されただけじゃないか!

 

 

 

 どうしたものかと思いつつ俺は作戦室を出る。割と気持ちは焦っている。時間がない。早めに沢村さんに返信のメールを返さなくてはならないのだが、肝心のオペレーターさんがいない。もっと早くから探しておけばよかった。これでは夏休みの宿題やってない最終日の子供ではないか。頭の片隅に追いやっていた『忍田さんに怒られる』という予想が現実のモノになってしまう。今だ、今が慌てる時間だ。『ネコ君は忍田さんに怒られるよ。俺のサイドエフェクトが―――』うっせー暗躍エリート! 脳内に勝手に出てくるんじゃないよ! そこでタイミングよく出くわしたのが綾辻先輩だった。

 

「あ! 綾辻先輩~明日空いてます? 空いてないかーそうかー、じゃ急ぐんで! もぉー空いてないなら最初から言ってよねーまったくもぉー」

「えぇぇぇぇ……あ、ネコ君もしかして明日のランク戦のこと?」

 

 クマちゃん先輩への依頼に失敗した俺は空いてるなんて答えを期待しておらず、自己完結型の台詞を述べ、更に『声掛けたのおまえだろ』というツッコミを受ける様な失礼な事を言いつつ諏訪隊にでも行こうかと考えていた。あそこは暇人がいるはずだ。―――すると背後から俺の期待値を上げる声が掛かる。

 

「空いてるんですか!? いやー、困ってたんですよ。本当に助かります。じゃあ明日の夜の部なんですけど―――」

「あ、待って待って、私は空いてないんだけど……」

 

 じゃあ今は構わないで下さいよ! 同情するならオペレーターやっておくれ!!

 

「―――紹介できる子がいるから」

「綾辻さん大好き! あっ! 木虎とか駄目ですよ!? 試合前にベイルアウトさせられるから!」

 

「え、藍ちゃん? あー大丈夫だよ。ちゃんと予定は確認してある正規のオペレーターの子だから」

 

 どうやら木虎ではなく正規のオペレーターさんらしい。名前は宇井(うい) 真登華(まどか)。B級の柿崎隊のオペレーターさんで、俺と同い年らしい。

 ちなみに、嵐山隊は現在、新規の入隊予定のリストチェック作業がこれから大事になる予定らしく、大規模な応募に対してどう対処していくかの話し合いや、現状の書類を急ピッチで片付ける必要があるそうで忙しいらしい。

 これは、数日前のテレビで流れた三雲君の発言で、『ネイバーの世界に遠征する』という情報が世間に洩れたためらしい。大規模侵攻によってボーダーを辞める人も少なくないらしいが、それを軽く上回るほどの応募者がいるらしい。

 さて、綾辻さんは何かあるかもしれないから気に掛けておいてほしいと沢村さんから聞いていたらしく、事前に宇井さんに話を通していたらしい。出来る! 流石はボーダーの顔!

 

 俺は話を聞いてすぐさま作戦室に戻って来た。宇井さんはココに来てくれることになってるらしく、俺はとりあえず沢村さんに返信のメールを送る事にする。えーと―――。

『明日の夜の部に参加できます。綾辻先輩からの紹介もありまして、オペレーターは柿崎隊の宇井さんに依頼しました。お気遣いも頂いていたようで本当にありがとうございます。よろしくお願いします』

 ―――これでいいだろうか? 文章を送信しようかというところで部屋をノックする音が響いた。入室を促すと、雰囲気優しそうな感じの人がやって来た。

 

「やほ~ネコ君。宇井です。綾辻さんに紹介されて来ました~」

「初めまして明日はよろしくお願いします」

 

「え~、何度か顔合わせてるんだけどな~」

「え、どこで?」

 

 どうやらこの宇井さん。同じ学校の人らしい。友達に会いによくウチのクラスに来ているらしいのだが、今はオペレーターさん用のトリオン体(制服姿)という事もあってか、気が付かなかった。というか、顔も言われてみれば見覚えあるかもと言ったレベルだ。

 

「それは失礼」

「いやいや、別にいいよ。試合頑張ろうね~」

 

 

 

 

 

 翌日、初のランク戦である夜の部まで暇でブラブラしていると迅さんに捕まった。

 

「暇だろネコ君。ランク戦行こう」

「個人戦っすか? 気分じゃないんですけど」

 

「いやいや、チームランク戦だよ。ネコ君なら大丈夫だよ俺のサイドエフェクトがそう言ってる」

「はい?」

 

 迅さんは風間隊のオペレーター、三上歌歩(みかみか)に解説席に呼ばれていたらしい。そこで間接的に俺が視えて、連れて行こうと考えた様だ。試合するチームは諏訪隊と鈴鳴第一と茶野隊らしい。

 

「でも解説なんて良く分からないですし」

「思ったことを話せばいいだけだよ。ネコ君は結構呼ばれる頻度が多そうな雰囲気だからな。慣れておくのもいいだろう?」

 

 ふむぅ、「おぉっと諏訪隊長吹っ飛ばされたー」とか言ってれば良いのだろうか? いや、それは実況か。

 

 

 

 

 

【B級ランク戦・昼の部】

 

『さぁ、B級ランク戦第1戦、昼の部が間もなく始まります。実況担当は風間隊の三上。解説は「ぼんち揚食う?」でおなじみの迅さんと、Neko2で噂のネコ隊隊長、音無ネコさんをお招きしています』

『どうぞよろしく』

『ココア飲んでいいの? あ、始まってる?』

 

『念のため用意しておきましたのでこちらをどうぞ』

『え、いいの? ありがとー』

 

 俺はみかみかからココアをありがたく貰うと迅さんの手元からぼんち揚もいただく。ふむ、ぼんち揚とココアは予想通り合わないね。

 

 対戦するのは諏訪隊・鈴鳴第一・茶野隊の3チームである。諏訪隊しか知らんけど良いのだろうか。三上歌歩(みかみか)が今期初のランク戦という事もあり、知らない人にも仕組みを分かりやすく説明する。迅さんはそのフォローをしているが、俺は質問する側である。

 チームが勝てば一番多くポイントが貰えて上のランクに挑める。と言うわけではないようだ。

 極端な例えではあるが、『アゴヒゲダンガー2刀流』というアタッカーがいたとして、このアタッカーに誰も勝てないが、他の隊員はどうにか出来そうだ。という戦況があったしよう。

 そのアタッカーを避けて戦闘をして他の隊員を倒してポイントを稼いでベイルアウトしてもOKらしい。ただし生存点というのもあるので、やれる事を全てやったらスナイパーの様に隠れて時間切れを狙うのも当然有りだ。時間切れまで逃げ切る自信があるなら相手に生存点を与える必要も無いだろう。

 1人倒せば1点チームのポイントとして加算され、減点は無い。最後まで生き残っていれば、そのチームに2点。2人生き残っても生存点は4点に増えない。複数のチームが残って時間切れだと生存点は発生しない。

 また、倒されて相手に点をあげるぐらいならベイルアウト。という選択も有りだが、相手が半径60m以内にいるとベイルアウト不可というルールもある。

 ふむふむ、夜の部のための勉強になる。

 

『―――さて、茶野隊は遮蔽物の多い市街地を選択。これについてはどうでしょう?』

『茶野隊は村上隊員を意識してここを選んだかもしれませんね。スナイパーは鈴鳴第一にしかいませんから射線を切りやすくし、ガンナーが多い対戦内容になりますから、村上隊員を中距離に止めておきたいのかもしれません』

 

『なるほど、ネコさんはどう思いますか?』

『ん? あー……誰がどんな装備してるか知らないんで今はノーコメント』

 

 思ってたより気が楽な感じだ。思ったことを言いつつ、聞かれたことに「分からない」で答えればもう一人の解説さんがフォローしてくれそうだ。しかし、みかみかが俺を『さん』付けで呼んでくるとは実況の方が大変そうだ。俺も呼ばれなれなくて少々困惑である。

 

 そして全部隊転送が完了し、ランク戦が開始された。

 

『諏訪隊はチームの合流を優先している模様。茶野隊2名の中間にはアタッカーNo.4の村上隊員がいて茶野隊は合流を後回しにし、村上隊員と距離を取る』

『お、村上隊員が動きますね。先ずは1点取る考えでしょう』

 

 俺は画面に表示される資料を確認する。村上(むらかみ) (こう)。鈴鳴支部所属のアタッカー。その実力はアタッカーのNo.4。見た目ガン○ム装備の様に片手に弧月と、もう片方に大盾(レイガスト)装備。

 来馬隊ねー……ガンナーとスナイパーと、アタッカー。バランスの良いチームだ。

 茶野隊は2人の戦闘員で両方共にハンドガンの二丁拳銃。トゥーハンドとでも呼ばれたいのだろうか? チームとして考えるならアタッカーかスナイパーが増員で欲しいところじゃないだろうか? まぁ今すぐに人が増えるわけでもないし、鉛弾(レッドバレット)とか持ってると面白そうだけど、どうだろうか?

 

 茶野隊は作戦通りなのか村上先輩にハンドガンからアステロイドとハウンドを放ち、距離を保ちながら……あれ、なんで後退するの? 意味わかんない。

 

『何で距離取るかなー挟み撃ちにしてレイガストの隙間狙えばいいのに。ハウンドもあるんだし』

『村上隊員の圧力もあるでしょう。レイガストを使用している隊員の中でもレイガストの扱い方が上手いですからね』

『さぁ、その隙に鈴鳴第一の来馬隊長にバッグワームで忍び寄る諏訪隊長と堤隊員、別役隊員もその姿を捉えたか』

 

 日佐人はカメレオン起動で視界には映らずに戦闘に参加せずだが、指示を受けている様で、住宅を迂回して来馬隊長の背後に回る。

 ここでまた動きがある。カメレオンは当然位置はバレてるわけで、村上先輩がスラスターも使いつつ、来馬隊長のフォローに回るために急行する。それを追う形になった茶野隊が、明らかにラッキーで鈴鳴第一のスナイパー、別役太一を視界に捉えバッグワームを起動、この席で見れば明らかにバレバレだが、偶々オペレーターさんの情報処理が追いつかなかったのか見落としたのか、別役太一はハウンドが放たれた直後に側面からの射撃に気付いた様で、茶野真をイーグレットで狙い撃つ。

 

『ここで別役隊員と茶野隊長が相打ちで双方共にベイルアウト』

『これでこの戦いには遠距離持ちがいなくなりましたね。アタッカーNo.4の村上隊員を抑え込めるかがカギですね。手を休めたら一気に距離を潰されるでしょう』

 

 ほんの少し状況は停滞するが、それぞれ作戦を見直したのか、諏訪隊が動き始めると同時に試合は加速し始める。

 日佐人はギリギリまでカメレオンで来馬隊長へ接近し、一気に接近し旋空孤月で来馬隊長の片腕を斬り落とす。村上先輩が来ると諏訪さんと堤さんの前方に出る様に配置した。茶野隊の藤沢はこれに連携する形で来馬隊を挟む位置取りをし、ポイントは狙わずに村上先輩を貼り付けにする事に専念する。

 

『諏訪隊は日佐人を盾にして中距離維持だね』

『藤沢隊員が手負いの来馬隊長へ射撃を継続。これで配置は全部隊直線状に並び来馬隊が挟まれる形となり少し苦しいか』

『村上隊員もスラスターで一気に諏訪隊へ向かいたいところでしょうが、諏訪隊にはショットガンが合計4丁。これは飛び込めませんね。先に茶野隊の藤沢隊員へ向かう場合も背後ががら空きになりますから一度サイドへ退いても良い状況ですが―――』

 

 迅さんの解説通りに一時的に逃げに回る鈴鳴第一。しかし、時計の針が動いたところで中心は変わらない。それと同様にピボットの様に射線の向きを変えるだけで諏訪隊としては状況はほとんど変わらない。

 変化があったのは他の2チーム。茶野隊の藤沢はその射線変更に着いて行こうとするが、来馬隊長の上空から降り注ぐハウンドにベイルアウトして行った。

 これによって鈴鳴第一は挟まれる形を回避できた……が、状況は諏訪隊が良い。

 

『シールドで対応していた笹森隊員ですが、孤月をオフにし両防御(フルガード)で耐える』

『笹森隊員が良い動きをしてますね。今諏訪隊を機能させているのは彼です。アタッカーの仕事をあえてしない事がチームにとって最高の結果を生むというのはチームランク戦ならではですね』

『ん、鈴鳴第一が動くね』

 

 感覚で伝わって来たナニか。恐らく来馬先輩の射撃に反応したのだろう。

 次の瞬間、来馬先輩はハウンドを上空に向けて連射。それに合わせたのか、来馬先輩が合わせたのか、ほぼ同時に村上先輩はショットガンの猛攻を凌いでいた罅が入りボロボロのレイガストをスラスターで押し出す。

 シールドモードのままに諏訪隊に進むレイガストはショットガンの弾丸に砕け割れ……旋空孤月に斬り裂かれた。村上先輩はレイガストごとフルガードの日佐人を斬り伏せた。先端に行くほど威力が増すという利点を最大限に利用してシールドを斬り割っている。個人戦なら日佐人の完敗だろう。

 しかし、盾の無くなったアタッカーに対して距離を置いているそこはショットガンの有効射程。諏訪隊は最後まで冷静だったのか全てが作戦通りだったのか、空から来るハウンドの弾丸もシールドで防ぎ切り、来馬先輩も村上先輩も撃ち抜いて二人残して勝利した。

 

 

 

『―――別役隊員が残っていれば面白い結果になったかもしれませんが、茶野隊の転送位置が良かったですね。最初に合流を避け迂回した結果もまた大きい』

『なるほど、ネコさんは初めての解説でしたがどう見ましたか?』

『本当に日佐人が良い動きしてたね。ほぼ諏訪隊の作戦勝ちだったんじゃないかな。どんな作戦か知らんけど』

 

 いい加減な事を言いつつも迅さんは頷いてるし、白服(C級隊員)達からはささやかながら笑い声が出てるしOKなのだろう。そして、みかみかに『ネコ隊は本日の夜の部が初戦ですね。頑張ってください』と言われて締めとなった。

 さて、遂に俺の初めての『ぼっチームランク戦』である。俺はそれまでの時間をトリガー構成を見直した後に作戦室で寝ることにした。

 

 




感想・質問・ご意見・誤字脱字の報告等々随時受け付けております。

ネコのランク戦入ると思った? 残念次回でした。本当にすみません。

◇サブタイトル変更
ネコがクマちゃん先輩にオペレーター断られたよって話。
ジャイアントパンダは『大熊猫』と書く。チーム:パンダって名前を付けたかったと言うボツ設定です。……今後また機会がある可能性も。知らんけど。
ちなみに、パンダって日本では基本的に熊ってイメージですよね? 中国では猫だという人が結構いるそうな……マジか?

◆B級ランク戦だからB級のオペレーターさんだよね
ネコ個人としてはこの考え方です。きっとオペレーターさんはA級の人でも受けてくれる。ですが、B級の人たちやランク戦の観戦者は妬みの感情を持つかもしれません。『A級から連れて来やがって……』『オペレーターのおかげだな』とかね。ネコはその辺も心の内で気にしてるのかもしれません。

◇バカダンガー太刀川
ダイガン○ーとかアバレ○ジャーとかダイミダ○ーみたいな感じのニュアンスと言うかイントネーションと言うか、そういうのが欲しくて、バカとダンガーを繋げた。それだけ。
……あ、はい。遠藤正明さんの歌が大好きです。

◆本日の一品『春巻きアップルパイ』
簡単で美味しい。オペレーターに雇い入れるために作ったのだが、食べられただけ。しかも仲間まで呼ばれた模様。『喫茶ネコ屋敷』営業中。

◇ネコ隊最初のオペレーター宇井真登華
最新のお話だと柿崎隊が熱い感じで描かれており、まだ少ししか出てないけど綾辻さんのおススメなら良い子でしょう。間違いなく良い子。BBFによると猫好きのねこ座だし、ネコと相性も良いはずだ! ……と思って描きました。次回どうしよう……。
あ、髪の長い綾辻さんも新鮮でしたね。

◆初のランク戦……の解説
基本的に『知らんけど』『わっかんねー』を使って迅さんに丸投げ風。ネコのサイドエフェクトに引っ掛かるような奇襲作戦や囮や釣り等は結構喋れるかと思われる。
ちなみに解説の時のネコは『三尋木咏』をイメージ。


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