ねこだまし!   作:絡操武者

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大変長らくお待たせ致しました。





28 ネコはビルダーになったようです

 木虎から逃げ切って改めて150万円の使い道を考える。

 車とか買っちゃう? いや、免許ないし。木虎に言われたとおりに三門市の復興費に寄付とか? いやいや、それはやっぱ違うだろー。別に市民に褒められる為にボーダーやってるんじゃないし。

 で、結局最終的に物欲などが今は無いことに気が付いた。せいぜいコタツぐらいのものだ。コタツも結局は置き場とかを考えると即決で買うわけにはいかない。ならば現状の使い道としては少しだけ高い食材を買って豪勢に料理を作ってみようというぐらいである。後は貯金だ。

 一応、母親に話したところ、『貯金しておきなさい』という答えだったし、コレが正解なのだろう。何か欲しいものが出来たときに使おうじゃないか。

 

 そんな一人の作戦室に飽きて、俺が外に出ようとすると、タイミングよく那須先輩がやって来た。な、なんだよー? 150万円は貯金するんだからなー? もう決めたんだからなー?

 

「えっと……そんな疑いの目で見られても困るわネコ君」

「はっ! ごめんなさい疑心暗鬼でした」

 

「少し相談に乗ってほしいの」

「はぁ……どうぞ、まだ作戦室作ってもらったばかりで何もなくて、ココアすらも出せませんが」

 

 ……あ、ここにコタツ置けばいいんじゃね? あと、嵐山隊の部屋みたいに給湯の場所を……いや、思い切ってココアのホットとアイスが入れられるドリンクサーバーにして申請してみよう。ネコワクワクしてきたぞ。

 

 ランク戦参加時のレンタルオペレーターさん用の机とパソコン。奥にはベイルアウト時のマットが並んでおり、その他はまだ何も申請してないので、お見舞いなどで貰ったぬいぐるみなどが机の上に置かれているだけだ。

 那須先輩は室内に入ると那須隊について話し始めた。どうやら日浦ちゃんが引越しの話しを本格的にし始めたようで、今は何とか両親を説得している最中らしい。

 

「大規模侵攻が決定打になってると思うんだけど……。あ、それでね、ネコ君には私と模擬戦をして欲しいの」

「何言ってんの?」

 

 あ、いかんいかん。意味不明だが那須先輩を落ち込ませてはいけない。しかし、本当に意味不明である。

 話しをとりあえず聞いてみると、大規模侵攻が起きて、日浦ちゃんが引っ越してしまう可能性は極めて高い。だからランク戦で今までで一番の成績を取って笑顔で解散しようと考えているらしい。その為には自力を上げる事がまず第一と考え、少し前にやった俺との個人戦を思い出したらしい。

 引っ越さないならそれに越したことはないが、その時は自力もついてて結果オーライとのこと。

 

 俺とやった個人戦。あの時、那須先輩はアステロイドの合成弾、―――徹甲弾(ギムレット)って言うらしいのだが、―――アレを使ったのは公式戦初だったらしい。というよりも合成弾自体が初めてだったとの事。公式戦では見せた事がない技であれば、その対応策も取られていない事から有利に働くだろうという考えらしい。

 ギムレットは単純に威力が上がり貫通性が高まったアステロイドである。だから合成弾だとはログでは見分け辛いから使ったのだという。

 つまり、俺に他の種類の合成弾の標的になれってことだ。いずみん先輩の使ってた変化炸裂弾(トマホーク)とかだろうか。

 

「退院したばかりで申し訳ないのだけれど、どの距離でも戦える人はネコ君ぐらいしか思いつかなくて」

「んー……別にやることないし、いいっすよ」

 

 そして、トレーニングルームに入り、少しだけ住宅地などを再現し展開する。俺は那須先輩の言われるがままにアタッカーになったりガンナーになったりと大忙しである。秘密特訓であるが故に他の隊のオペレーターさんを呼べないので、室内の設定を弄ったりトリガーチップの交換が面倒である。ちなみに小夜は本日引き篭もり中だそうな。

 

 時には見よう見真似でいずみん先輩のようにメテオラの雨の中、ハウンドも隠して放ったりする戦闘スタイルや、太刀川さんの様に旋空弧月で斬撃を伸ばしまくったりもする。これはこれで自分自身の勉強にもなると思いつつ、サイドエフェクトは意識して使わないようにしている。

 

「前の個人戦の時みたいな違和感はないわね……」

「オー、疲レ目治ッテヨカッタデスネー」

 

 俺はサイドエフェクトの事は触れずに軽く流しつつ、お互いに何度かダウンを繰り返し、休憩を挟んで話す。

 

「那須先輩の弱点は、スナイパーぐらいっすかね」

「アタッカーにも寄らせた時の苦手意識はあるわね」

 

 そりゃそうだろうシューターなんだから近寄らせちゃ駄目だ。建物を壁にして逃げ回りつつ合成弾を作り……って言うだけは簡単だけど、やっぱ実際にやると難しいよな~……あれ?

 

「思い出した! シューター教えてくださいよ!! 俺にも合成弾とか!! ねー師匠ー!!」

「し、師匠? で、でも、ネコ君のシューターってさっき見たけど、凄いと思うわよ? それに合成弾は―――」

 

 結論から言うと、合成弾は感覚だ。センスだ。才能だ。そもそも合成弾という枠組みは最初は存在しなかった。その辺を無理を通して道理をぶっ飛ばしたのが、弾バカ族代表で始祖の出水公平という偉人である。しかも、「あ、出来た」ぐらいの感じで創り出したモノなのだ。それに関してはアステロイドやバイパーを考え出した技術班も、簡単に自分達の考えの先を行かれてしまいショックは大きかった事だろう。

 

「弾バカ族どもめー……」

「それって私も入ってるの……?」

 

 俺は教えてもらえないことで愚痴りながら右手に変化弾(バイパー)、左手に誘導弾(ハウンド)を何となく作り出す。

 それをとりあえず重ね合わせようとするが、重ねるのに時間が掛かる。2つの粘土を継ぎ目が無いように捏ねていく感じだろうか? お、いい感じだ。これを……こうか?

 

 俺は少し離れた建物の屋上に発生させておいたボウリングのピンのような的に向けてそれを放出する。地面スレスレを小刻みに左右に動きながら屋根の上を目指す初めての合成弾。段差は、まるで動物がジャンプしているかのように動きながら的を目指し、的を全方位から一気に襲うように囲んで穴だらけにした。

 

「あ、出来た」

 

 なんと、俺も弾バカ族だった様だ。

 

「やっぱネコ君は凄いから師匠は受けられないかしらね……」

「マジかー……」

 

 そこからは那須先輩もイメージが沸いたのか変化炸裂弾(トマホーク)の練習をした。放出したのにも関わらず、帰ってくる様に線を描いたパターンも練習し、(うん、やっぱ那須先輩も弾バカ族だよ)という感想を持った。言ってはいない。言ってはいないけど穴だらけにされた。本当にトリオン体だと凄く動ける人である。

 他にも地を這ったり、天井を這ったりするようなバイパーも練習していたが、いつ使うんですかそれ?

 

 

 

 

 

 さて、思い立ったが吉日という事らしいので、俺は自分の作戦室にコタツとドリンクサーバーを申請した。次の日には搬入されてきて、ドリンクはココア(ホット・アイス)・ウーロン茶・紅茶・コーラとなっている。

 コタツに入ってココアを飲む。(あ、やべーこれ)と、味を占めた俺は本棚とテレビも要求した。テレビを付けたままに漫画を読みココアを飲んでコタツで丸くなる。(あぁ、やべーこれ)と、ニマニマしていたところで目が覚めた。

 

「音無、ドリンクサーバーは駄目だ。機器のメンテナンスの問題や―――」

「……夢だった」

 

「音無、聞いているのか?」

「あ、はい。人の夢は儚いのだと悟りました……」

「そんなに落ち込まなくても……」

 

 忍田さんから窘められる様に却下されたが、コタツは大丈夫らしい。嵐山隊の様に給湯室なら大丈夫らしい。だが、ドリンクサーバーだと定期的なメンテナンスの問題で、業者との契約もあり許可は出せないとの事だ。書類整理をしていた沢村さんも苦笑して「残念だったねー」と言ってくれるが、夢を見ていただけに覚めた時のダメージはでかい。

 

 んーするとコタツだけってのも見栄えが悪い。今更ながらココアも休憩所に買いに行けばいいから給湯室もいらない。漫画とかだったら諏訪隊に行けばいいし、ゲームなら太刀川さんのとこ行けば出来る。ふーむ、部屋作りって難しいな。

 作戦室って言っても俺しかいないし、作戦室に寝泊りするわけじゃないから家にあるモノを持ち込むのも違う気がする。とりあえず、加賀美先輩に貰った俺の芸術的粘土細工と、スーパーうちゅうねこのぬいぐるみ、これをパソコン机の上におくでしょー……。あ、別に俺だけの部屋ではないか。那須先輩みたいに来客があることも無きにしも非ずだ。じゃあここに机でしょー。ソファーでしょー。冷蔵庫はいいだろうか? いや、応接室スタイルは古いか? 他の隊がやっていないような自由な空間でありつつ、斬新な部屋は……。

 そんな感じで俺は部屋作りにのめり込んでいった。

 

 

 

 そして、東さん達との焼肉の日である。

 

「よぉネコ助ー焼肉行くぞー、ってうぉ!?」

「何だこりゃ……行った事もねーけど一部がBarみてーな感じだな」

 

 よねやん先輩といずみん先輩が驚きながら入ってくる。

 黒塗りのカウンター。その奥には給湯室を超えて、もはやキッチンという代物。カウンターの上にはお洒落にグラスなどが吊り下げられており、カウンター周りにはナッツなどの小皿が用意されている。

 

「木材×5、鉄のインゴット×1で作り上げた自慢のカウンターです」

「お前はビルダーか……」

「つーかキッチンっていいのかよ?」

 

「開発室の人に『あ、出来ないんですね』って言ったら何故かやってくれた」

「なに煽ってんだよ!?」

「開発室ってことは、これもトリオン技術かよ……」

 

 だって業者に発注だと駄目だって忍田さんが言うんだもん。開発室に相談しに行ったら最初こそ断られたが、何気なく口に出した「あ、出来ないんですね」という言葉が「開発室の人って凄いと思ってたんですけど、大した事ないんですね」と曲げられて取られてしまったらしい。まぁ鬼怒田さんが「息抜きに作ってみろ」と言ってくれたのも大きい。煽ったつもりは本当に無い。全くの誤解である。

 

 

 

「―――へー、今度俺も行って良い? ネコ先輩の作戦室」

「ありゃ作戦室じゃねーよ」

「だな、あれは酒場みてーな食事処だ」

「自由な作戦室に憧れて、被らない様にした結果ですー」

「ははは、一人部屋を満喫してるじゃないか。今度遊びに行かせて貰うよ」

 

 最初こそ「うおォン、俺達はまるで人間火力発電所だ」「うんうまい肉だ。いかにも肉って肉だ」「米はよー米ー!」等と東さんを除いてハイスピードで肉を消費していたのだが、落ち着いてみれば日常の会話になっていた。

 

「―――この後の記者会見は見るだろ?」

「攫われたC級隊員が24人。街への被害も0じゃないですからね」

「迅さんが『面白い事になるはずだ』って言ってたし見ますよー」

 

 そう、本日は大規模侵攻の結果報告の記者会見である。本部や各支部の専用回線のテレビであればCMなどのカットも無く、全部最初から最後まで見れるのだ。

 緑川の言うとおり、確かに迅さんもそんなこと言ってたな。基本的に攫われた事に対しての謝罪会見になりそうな気がする俺は間違っているのだろうか?

 

 俺達は焼肉屋を後にしてボーダー本部へと向かい、俺の作戦室に集まり、軽いお菓子を用意してテレビを見ることにした。

 

「俺コーラ」

「俺ペプシー」

「俺はサイダーでいいですよネコ先輩」

 

 そんな3バカの要求には応えず、俺は有無を言わさず冷たいココアを冷蔵庫から取り出すのだった。

 

 

 




感想・評価・誤字脱字報告・質問・個人的なメッセージなどなど、随時受け付けております。


◆150万円の使い道
物欲は無かったはずなのですが、作戦室を作り上げるのに食器などを購入。それでも10万も使わずに開発室がやってくれました。鬼怒田さんはネコに優しいというか甘いです。

◇ネコの合成弾
何も悩む必要なんてない。だってネコにはサイドエフェクトがあるのだから。感覚でやろうと思えばまず出来ない事はありません。苦手意識などの先入観があるだけです。

◆ネコの作戦室
入って左手にバーカウンター(キッチン付き)。冷蔵庫はミニサイズでカウンター下に2個設置。
加古さんがチャーハンを作りに来る事もあるようです。
中央から右手にかけて机やソファーがあり、雑談や軽食をいただけます。
佐鳥や緑川が飯を食いに来る事もあります。
奥の部屋にオペレーターデスクがあり、ベイルアウト時のマットがあります。
コタツは諦めた模様。その内、影浦隊に遊びに行くからコタツに固執する事もないでしょう。

◇ビルダーとは?
ドラクエビルダーズ参照。

◆3バカの要求にココア。
有無を言わさず冷たいココアを冷蔵庫から取り出したネコですが、東さんには確認を取ってからお茶を出しました。
ネコ? ネコは自分にホットココアを用意しました。

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