ねこだまし!   作:絡操武者

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24 ネコが飲んだココアが……

『―――敵が通信室に向かっている阻止しろ!』

「了解! 行かせるかよ!」

 

 ココアの匂いを漂わせながら走る諏訪さんが忍田さんの通信に口を開く。実に癒しの香りである。

 

 ―――技術者(エンジニア)や通信室で働いているサポートスタッフは、そのほとんどが正隊員になれなかったトリオン能力の人達だと聞いた事がある。単純に年齢をある程度超えるとトリオン能力は低下していくが、そういった人だけではない。若くても元々トリオン能力が低い人たちなんだ。

 過去のネイバーの侵攻によって家族や友人を失った人たちも、怨恨の念からボーダーに入っている人も少なくないが、全員が戦闘員になれるわけでもなく、そこにはトリオン能力の壁がある。

 それでも、どういった形であれネイバーに復讐を、戦う者にこの想いを、そう願い働く人もいる。

 ボーダーに入る最低ラインの条件の一つとしてトリガーが起動できるトリオン能力を持っている事というのがある。スカウトとは別枠になるらしいが、これは別に直接戦える必要はない。サポートスタッフとしてでもボーダーは受け入れの間口がある。

 

 俺は侵入者を捉えるカメラ映像を送ってもらいながら廊下を走っていた。映像に映るのは片方の目が真っ黒で、黒髪パッツンロングの黒い角つきだった。つまり―――。

 

「風間さんを倒した黒トリガー……はぁ、時間稼げるかなぁ」

「黒トリガー相手に本気かネコ……?」

「―――速攻で倒せるってか? 部隊章(エンブレム)持ちは余裕だな」

「弱腰にならないで行けるのがネコ君のいいところですよ諏訪さん」

 

 おいおい勘違いすんじゃないよ。時間稼ぎすら出来ない気がするし、勝てる気がしないから言ったんじゃないか。人の話はちゃんと聞きなさいよ。

 正直自信がない。黒トリガーは量産できる代物ではなく、命を懸けて創り出す最強のトリガーだ。俺がこれまでのボーダー生活の中で確認した事のある黒トリガーは、迅さんの使ってた風刃だけだ。ログデータからこの黒髪パッツンが使ってた液体化も見たけど、その能力はボーダー隊員の持つトリガーとは明らかに掛け離れた異質さを感じさせる。風刃も使ってはみたけど、ボーダー寄りのトリガーな気がする。弧月っぽいからだろうか?

 

『対象が通信室の裏側まで来てるよ。あっ―――』

 

 おサノ先輩の通信の直後、破壊音がした。この角を曲がれば通信室の入り口のドアなのだが、黒髪パッツンが壁を破壊して先に通信室に入ってしまった様だ。間に合わないと判断し、俺は壁をスコーピオンで斬り裂いた。そこにはデータで見ていた人型ネイバーがいた。

 

「おーおー、ウヨウヨいるじゃねーか。能無しのネズミどもが。戦える雑魚が増えたみてーだが1匹だけか、少しは楽しめるんだろうな? チビ」

 

 間違いないログデータ通りの黒い角に片目真っ黒、黒髪パッツンロングの奴だ。性格も悪そうである。つか、1匹? こっちには諏訪隊が……あれおらん。諏訪隊おる? ……に、逃げたのか!? 俺も連れて行けよ!! 一人で黒トリガー相手にするとか魔王への生贄レベルだろ! あっ今更気付いたけどココアの匂いもしない!!

 

 と、とりあえず通信室のスタッフさんに被害は……。怪我人がいる。黒髪パッツンの壁破壊の攻撃に巻き込まれたのか、瓦礫に埋もれている人がいる。

 ……おい……ふざけんな。勝手に襲ってきて、戦う力のない人に危害加えてんじゃねーよっ!!

 

 俺はアステロイドを放つ。しかし、怒りに任せ放ったアステロイドは曲がる事無く真っ直ぐに相手目掛けて進むだけだった。その上、相手は俺のことを舐めているのか避けずに容易くヒットした。ログデータ通りの液体化でトリオン体が歪んだだけでダメージもなさそうだった。

 

「けっ、さっきの連中にはイライラしたが、やっぱ雑魚だな玄界(ミデン)の猿は」

「みでん? 専門用語使ってんじゃねーよパッツン! こっち来いおりゃー!」

 

「あぁ!? わけ分かんねーこと言ってんじゃねーぞチビ猿!!」

 

 や、やんのかーおらぁー。全力は止めてくださいおらぁー。……しかし困ったな、取り敢えず通信室からは離れられたけど、供給機関破壊どころか別箇所の裂傷なども起こらなかったぞ。あー駄目だ。怒りに任せては駄目だ。落ち着け、イメージだ。大事なのは内部裂傷のイメージだ。供給機関を一撃で破壊するイメージだ。

 

『―――音無、そいつのトリガーは液体化以外にも能力がありそうだ。お前なら大丈夫だろうが、気に留めておけ』

 

 俺なら大丈夫ってなんだよ? だいじょばないよ。

 先にベイルアウトしている風間さんからの通信を聞いて俺は考える。液体化以外か。そうなんだよなぁ。違和感はあるんだよ。隠し事がある的な感覚は伝わってくる。多分俺が『液体化』という情報しかないから『それ以外にあるぞ』とサイドエフェクトが教えてくれているのかもしれないが、強烈な感覚ではない。ってことは液体化に近いことなのか、液体の延長線上の能力だという事かも知れない。多分。そんな気がする。だってそう考えたらモヤっとした感覚が少しだけ晴れたもん。

 

「(風間さん、能力に何か思い当たります?)」

『情報が少ない今はまだ何とも言えんな。だが、それを知るために諏訪隊がいるだろう』

 

 それが逃げたんだよ、あの人達ぃ~って答えようとした瞬間。通路の角、敵の背後からバッグワームを解除してショットガントリガーをローアングルより構える諏訪さんが現れた。疑ってごめんなさい。作戦だったのね。心配だから言ってから行動して欲しい。

 

「―――こっちだぜミスター黒トリガー!!」

 

 でたー諏訪さんの『ミスター』発言ー。あれは精神的にダメージが……あ、イラついた顔してるだけだ。逃げてー諏訪さーん。

 諏訪さんの持つ散弾銃(ショットガン)から放たれた散弾は相手に当たると、俺の時と同様にスライムが歪んだように変質した。まるでターミ○ーター2の液体金属さん(T-1000)みたいである。直後にイラつきの表れか敵の黒い斬撃が諏訪さんを襲うが、何とか回避したようだ。

 

「更に出てきたな雑魚が」

「あっぶねー。しっかしこいつ全然効いてねーっぽいぞ! これマジで急所とかあんのか!?」

『ある。トリオン体である以上、伝達脳と供給機関は必ずある』

『諏訪さん! 訓練室へ誘導しますよ!!』

 

 堤さんも現れ、接近しすぎな十字砲火を浴びせるが、やはり効果はなさそうである。そして、少しずつ通信室を離れていきつつ風間さんの通信は続く。

 

『―――常に体内を移動させて的を絞らせないようにしてるだけだ。端から端まで虱潰しにいけ。お前たちのトリガーはそれに適している』

『さすがA級、簡単に言ってくれるぜ!』

「(あー忍田さん。今の内に通信室へ救護班をお願いします。怪我人は3名。内、意識不明は1名)」

『分かった向かわせよう』

 

 情報が交錯しつつも敵を誘導するように廊下の床や壁に被害を出しながら進む。何となく勝てる気がしないのは相手が黒トリガーだからだろうか? 勝つイメージが固まらない。何度かアステロイドを当てるが、別箇所の裂傷は起きる様になっても供給機関破壊までには至らない。

 ……諏訪隊で引き付けてくれている内に今の駄目なところを考えよう。あー……相手が強そうな黒トリガー、鬼みたいな角を持って怖い、通信の情報量が多すぎて集中できない。ってところか? 相手が怖いという恐怖心に煩くて集中できないか……。一つずつ解消しよう。まずは……。

 

「(あのー、俺だけでもいいんで、5分ぐらい通信カットさせてもらっていいですか?)」

『えー……。どうなんでしょう?』

『……いいだろう』

『忍田本部長!? 通信を切ってもし何かあったら……!!』

『音無の通信をカットするだとぉ!?』

 

 おサノ先輩が忍田さんとかに聞くと5分だけならOKらしい。根付さんや鬼怒田さんの声も聞こえた気がするが、すぐさま音声はカットされ、離れた場所から聞こえてくる戦闘音だけになっていた。あー集中できるわー。

 諏訪隊から堤さんが離れ、諏訪さんと日佐人を追って敵は見えなくなるが、どうやら訓練室へ入ったようだ。堤さんは管制室だろう。ふむ、仮想戦闘モードにすれば時間が稼げるだろう。さ、俺は今の内に気持ちのリセットだ。ちょっと座ろう。

 

 さて、風間さんからの情報としては液体化だろうが、液体化以外に能力があろうが、トリオン体である以上、伝達脳と供給機関は存在する。ならば俺のサイドエフェクトは通用するはずだ。サイドエフェクトを無効化するサイドエフェクトとかなら別問題だけど、俺の攻撃が当たって、別箇所の裂傷が起きたのはサイドエフェクトが効いているという証拠だ。

 で、あるならば後はイメージの問題だ。敵が怖そうであっても、黒トリガーであっても、その辺は黒髪パッツンキャラとして認識してしまえば怖くもない。前髪パッツンスライム……ぶふふ……。桜子ちゃんの笑いも真似しつつ気持ちをプラスに持っていく。

 俺はトリオンキューブを作り出す。それにある(・・)イメージを与えるが、それは失敗に終わった。なるほど、同質の液体を再現できないか……。流石は見た事しかない黒トリガーと言ったところだろうか。ま、無理なら仕方ないんだ。

 それならそれで、いつも通りの手数で勝負だ。失敗に繋がるから過信してはいけない。でも自信は持つ。相手は前髪パッツンスライム、怖くない。イメージは……ネコ拳8000を素早く展開させる感じで……弾数を少なく、でも確実に当てるように……。

 

「……うっし……行くぞ」

 

 

 

 俺は管制室に入った。

 

「ネコ君、今諏訪さんたちが抑えてる! 敵は供給機関を硬質化させているようだが、大量のダミーを作る事もたった今分かった!」

偽装(ダミー)ですか……堤さん俺が入ったら仮想モードのカットをお願いします」

 

「え!?」

「すぐに片付けます。通信カットが解除される前に終わらせますから……あと1分」

 

 すぐに俺は訓練室へ入り、仮想モードの解除を確認した。諏訪さんの片腕が落とされていたようだ。

 

「ネコ!? 何で部屋を解除した!?」

「あぁ? てめぇは逃げたんじゃなかったのか? チビ猿」

「うっさいパッツンスライム! これでも喰らえ!」

 

 ダミーなんて全て無視しろと、4×4×4で64発のアステロイドを放ち曲げる。いや、曲げると言うよりも回す。トルネードの様に敵の周囲を回りながら徐々に狭まっていき、敵は64発のアステロイドの竜巻に触れる。名前はネコ拳64(ねこぱんちロクヨン)だ。

 

「あ? 何だこりゃ? ……ガっ!? くそがっ!!」

「え、まだ動け……えっ!?」

 

 俺は、内部の供給機関に直撃しなかった事への驚きと同時に、違和感の正体が発覚して更に驚いた。―――ココアの香りだ。諏訪さんからしていたはずのココアの香りが敵からも漏れていると気付いたのだ。

 

 これは俺の勝手な想像だが、諏訪さんの腕を斬ったのは何度か見ている液状化を一時的に硬くしているブレードだろう。それがココアの匂いのしたトリオン粒子を少しだけ拭い、敵の能力としてトリオン体に全て戻った。

 で、たった今だ。敵のトリオンから微かにココアの香りがした気がした。しかも、何となくの感覚で言うならばその元が供給機関から匂いがしている気がする。さっきのネコ拳64も供給機関破壊にはならなかったが、感触的には掠ったのかもしれない。それで匂いが漏れ出て俺はこんな奇妙な面白感覚に陥っているのだ。

 そして、もう一つ、液体化以外の能力。それは気体化も出来るって事だ。ココアの匂いを運んだのはそれだろう。じゃ無きゃログで見た風間さんが内部から刺されたのも、俺が現在進行形で内部から刺されているのも説明できない。ブレードの様にでかい奴じゃなくて、針みたいなレベルの攻撃の所為かトリオンの噴出もないからベイルアウトの心配はなさそうである。この針みたいになる前、体内に気体が入る瞬間に俺のサイドエフェクトが『あ、気体系のトリオンが入って来ました。これから中から攻撃されます』的な感じを醸し出したのだ。

 

「てめぇ……何しやがった……何笑ってやがる!!」

「いやぁ、パッツンスライムからココアの匂いがするから面白くてぇ」

 

「あ゛ぁ゛っ!? 何わけ分かんねーこと言ってやがんだ!!」

『ザザッ―――音無5分だ』

「(ありがとうございました。もう終わります。敵の能力は液体化と気体化も出来るみたいです)」

 

 俺は敵の硬質化したブレードを回避しつつ、更に追加でネコ拳8000を作り出し先程のトルネードの様に放つ。流石に体内を動き続ける供給機関でも8000発の内部破壊を回避させる事は出来なかったようで、前髪パッツンはトリオン体を解除して倒れた。

 

「……チビ猿が……!!!」

「ん?」

 

 パッツンの手首にあるアクセサリーから嫌な感じがした。直後に大人一人通れるぐらいの丸い輪っかの空間が出来て、黒い角つきの女の人が現れた。やっぱまだいたか。しかも黒トリガーかよ……。……でも可愛い。これって不思議ミステリー。

 

「まだいんのかよ!」

「人型ネイバー!!」

「空間操作のトリガー……!?」

「回収に来たわエネドラ。派手にやられたようね」

「チッ……! おせえんだよ!」

 

 パッツンは『エネドラ』って名前なのか。でも、女の人から違和感が凶悪なレベルで漏れて来ている。何これ……今まで感じた事のない気持ち悪さのレベルだ。嘘とかかわいいもんじゃない。もっと凶悪な裏がある感じだ。

 

 エネドラは女の人に差し伸べられた手を取ろうと腕を伸ばす。

 

「あら、ごめんなさい―――」

 

 その女の人の言葉と同時に、エネドラの腕は別の空間から伸びた黒い刃で斬り落とされた。

 

「あ!?」

「!!」

「なっ……!?」

「―――回収が命令されたのは黒トリガーだけなの」

 

 諏訪隊も俺も、敵であるエネドラも驚く中、女の人は冷静に淡々とエネドラに伝える。目の色が片方だけ黒いのは命が長くないからとのこと。その角が脳にまで根付いたことで、暴言、独断行動、命令違反が酷くなり、組織の仲間としてはもうやっていけないという事らしい。

 黒トリガーの名称は『ボルボロス』。それを『ミラ』と呼ばれた女性は回収し、諦めず怒り狂うエネドラを空間から串刺しの刃を出し、エネドラを始末した。

 今なら落とせるか? 俺はとアステロイドを数発放つが、別の小さい空間に吸い込まれて行ってしまった。

 

「あなたの事は警戒していたわ……危険な子。返すわね」

「マジかー……そういう使い方もあるのかー……」

「ちぃっ! 厄介なトリガーばかりだな!!」

 

 空間に消えた俺のアステロイドは俺の背後に出来た空間から俺に向けて出て来た。勿論進行方向なので避けられなければ当たるのは俺だ。それを庇ってくれたのが諏訪さんだった。

 

「これぐらいしか出来無くて悪いなぁ……ネコ」

「諏訪さ……!! スミマセン!!」

『気にしなくていいよー。諏訪さんもネコ君に助けられたんだしこれで貸し借り無しって事でー』

 

『こらおサノ! 俺に言わせろよ!?』

『え、諏訪さんからココアの匂いしないんだけど?』

『トリオン体だったからじゃない?』

 

 ベイルアウトした諏訪さんはすぐに通信に割って入って来た。まぁおサノ先輩の言った通りの気持ちらしい。おサノ先輩も堤さんもいつも通りの空気を出し、日佐人も笑っている。

 そこからは追撃無用とのことで、忍田さんに抑える様に言われた。

 そして、空間操作のトリガーの女の人は去って行った。

 

 さっきの気持ち悪さは殺そうとする悪意か……。仲間を助けに来たと俺も思ったから違和感を感じたんだな……。

 エネドラだけの死体だけが残った訓練室からは敵の気配は消えたが、様々な想いが残された。

 

『しかし……仲間を殺りやがるとはな……』

『救護班を向かわせる。風間隊はいるな?』

「はい」

「はーい」

 

 うってぃーときくっちーだ。いたの? そう言えばさっき声がした気がする。何で見えなかっ……あ、カメレオンか、レーダー見てなかったわ。通信のやり取りで諏訪隊は風間隊の存在を知ってたらしい。通信カットしてるとこういう事もあるな。

 

『ちょっと待ってください本部長! そいつもう死んでますよ!?』

『かまわん。こいつの角は未知のトリガー技術(テクノロジー)だ。分析できれば次への備えになる。風間隊は所持品を調べろ。今の女が黒トリガーだったとしても無制限の空間移動はできないはずだ。ワープ座標を決めるための発信機(ビーコン)が必ずある』

「あ、うってぃー、発信器っぽいのなら多分手首のアクセサリーだよ」

「マジか。了解」

「うえーやだなあ。血キライなのに……」

 

 好きな奴なんて普通はいないでしょ。でも遠征組は手慣れてるなーと思う。もし仮に俺も遠征とか行く事になるとしたらあーいう事もしなくちゃいけないのだろうか?

 

「発信器らしきアクセサリーを発見」

 

 あんな冷静に出来ないなー。まぁ遠征になんて行かないけどねー。親に心配をかけ過ぎだ。今回の大規模侵攻でもし既にテレビ報道がされているなら、今頃携帯の着信などはどうなってしまっている事やら。電話くれてたとしたらごめんよ母さん。

 

『音無、通信カットは正直迷ったが、よくやった』

「ありがとうございます」

 

 褒め言葉よりも戦功とかいうボーナスが欲しい。まぁ口に出して言えないが……。

 

「本部長、風間隊も結構やったんでボーナス下さい」

「言った!?」

 

 きくっちーが俺の言えない事をすんなりと言った。なんだボーダーって言いたい事言っていい組織なのか!? お、俺にもボーナスを~……。や、やっぱ言えねー……。

 

 俺は基地内に問題がないことを知らされ、今度は再び外に出される事になった。少し時間が掛かるらしいが、冬島さんの転移トラップを使わせてもらい、基地の外に出る事になっている。どこに転送させるかも城戸司令が考えてるらしい。

 

 俺はさっきのミラって女の人の言葉を思い出しながらベンチに座って足をブラブラさせていた。

『あなたの事は警戒していたわ……危険な子―――』だって? 何だよそれ? 警戒してた? いつから? 初見でしょうが。トリオン兵から情報でも行ってるのか? 迅さんの最初視られた時の攫われるって未来に関係してたりするのか? するかもしれないけど、もうそんな未来は狂ってるだろう。それならやっぱトリオン兵からの情報収集か。やめろよー? マジで攫われでもしたら親に会わせる顔すら用意する事も出来ない。書き置きすら何もしてないのだ。

 俺は恐怖に近い不安感を反芻し、色々な事をふざけながら考えることで何とか誤魔化していた。勿論、誤魔化しきれない恐怖は蝕む様に纏わりついていた。

 

 

 

 エネドラの侵入によって通信室が一時業務中断に陥ったが、すぐに復旧し立て直しを図ったようだ。三雲君ととりまるがC級隊員を連れて本部に向かっていたそうだが、そこら辺はどうなっているんだろう? タイミング的にエネドラが侵入してきた頃だろうから通信室の業務が停止してた頃ではないか?

 俺は現在の状況をうさみん先輩から仕入れていた。

 

 ―――空飛ぶトリガー使いは、弾バカ(よねやん先輩がそう呼んでた)先輩の誘導でよねやん先輩が最後突き刺したのだとか。東さんや荒船先輩などのスナイパーにシューター、ガンナーが総勢で連携したらしい。戦いの基本は数であるってか? そして、ミラという空間操作系のトリガー使いらしき女の人は空飛ぶトリガー使いを『ランバネイン』と呼んだらしい。

 

 ―――とりまると三雲君が人型ネイバー2人を相手にしているところに遊真と迅さんが合流した。レイジさんはベイルアウト。小南先輩はトリオン兵の対応に追われているらしいが、徐々に押し戻してるらしい。ちなみに人型ネイバーはお爺さんの方が『ヴィザ』若い方が『ヒュース』と呼び合っていたという情報がある。

 

「―――じゃあネイバーは千佳ちゃんのトリオンに目を付けた?」

『そうみたいなんだけど、取り敢えず千佳ちゃんはギリギリで開いた連絡通路にC級の子達と一緒に入ったからひと安心。本部の侵入警報のあった黒トリガーは何とかなったって聞いたけどネコ君は知ってる?』

 

「あ、それ諏訪さんたちと連携して俺が倒しました」

『お、偉い! 強い! 流石は玉狛のブラックキャット!』

 

「え、玉狛入ってないですしー」

『えー入ろうよー。楽しいよー。あ……ちょっと危ないのが来たかも……』

 

 ―――少しばかり収束しつつある気がしていた大規模侵攻の中をこのタイミングでもう一人の黒い角が現れたらしい。特徴としては魚や鳥を模したトリオンの弾をかなりの量を飛ばして来るらしい。緑川がそれでベイルアウトしたのだとか。その弾は威力があるのだろうか? 生き物の弾って事は動くのだろうか? よく分からん。

 

「とりあえず了解です情報ありがとうございます。千佳ちゃん狙いって事は、また基地に侵入してくる可能性もあるって事ですよね」

 

 エネドラとミラって女の人のやり取りを見る限りだと、エネドラの独断専行だった気がするのでそれはなさそうだけど、まぁ絶対じゃないし警戒するに越したことはないだろう。

 後は被害状況だ。警戒区域の外。つまり普通に人が暮らしている生活圏内への被害が酷いらしい。今のところ市民に死傷者は確認されてないらしいが……。

 

『―――準備完了だ。待たせたなネコ助』

「……ふぅ……お願いしまっす」

 

 俺は冬島さんからの通信を一呼吸置いてから応答し、続いて入ってくる城戸司令からの通信で現在の戦況と俺の行動内容を確認しながら再び基地外へ出た。

 

 

 




感想、評価、質問、意見、誤字脱字報告、意見などよろしくお願いします。


◆勘違い作品って面白いですよね。
って事で、無理矢理ネコの発言を『黒トリガー?余裕でしょ?』という風に捉え違えた諏訪隊を書いてみた。特に意味はないので引き続きココアをお楽しみください。

◇黒髪パッツンロングスライム!
物語上、エネドラって名前が分かるまでしばらくの間、書くのが面倒でした。パッツンパッツンって煩いな! 敵が最初から名乗るシーンを作ると楽ですねー……。
「俺は黒トリガーのエネドラだ! ミデンの猿ども○すぞ!」……駄目だ。これはこれでかませ犬過ぎる。

◆エネドラ=T-1000
原作だと『エネドラッド』になってから雷蔵さんと『あの映画』見てましたよね。口と性格の悪いペットだけど、映画見てるときは大人しそうなところが面白い。

◇ネコのエネドラ対策。
最初はいつもの様にイメージがしっかり出来ていませんでした。その後は通信カットして先ずはトリオンキューブをエネドラと同質の液体に出来るか試しましたが失敗。これは以前、風刃を使いこなせなかった事と同じく、『対象が黒トリガー』だという事に関係しています。結局は原作の忍田さんと同様にダミーすらも全て破壊しちゃえばいいんでしょ? という数の暴力ネコぱんちで対処しました。設定はダミー無視として書きましたけどね。

それと、前回までの感想欄で『ネコならエネドラ戦が楽そうだ』というお言葉を結構多めに頂きまして、作者の負けず嫌いが発動し、太刀川さんも迅さんに言ってたように私も『読者様の予知を覆したくなりました』
その結果として、原作とは違い通信室がほぼ無事で、忍田さんの出撃が無く、C級隊員たちは連絡通路を通り避難しました。千佳ちゃんセーフ。

◆微かにココアの香るエネドラ。
諏訪さんの腕を斬った事による液体伝染。私は供給機関をトリオン体の心臓のようなモノとして捉えており、ココアの香りつきトリオンも供給機関に一度運ばれたと無理矢理解釈しました。サブタイの通り、『ネコの飲んだココアが……こんなにも設定を引き伸ばすとは』って感じです

◇警戒されていたネコ。
ミラの言う『警戒していた』『危険な子』発言により、ネコが不安感を煽られております。でも何とか無理矢理楽しい事などを考えて気持ちのバランスを取ろうとするが、内面としては落ち着ききれてません。だって、空いてる時間なのにココア飲んでませんもん。この時ココアを飲んでいれば……あぁ、でもエネドラと戦う前に飲んでるし……。ココアの用法容量を正しくお飲みください。

ネコ拳64(ねこぱんちロクヨン)
64のコントローラーの真ん中に『3Dスティック』ってあったじゃないですか。アレをぐりぐり回す感じにするとアステロイドが回ってトルネードになります。(イメージの話ですからね?)


◇原作との大きな違いまとめ◇
●エネドラ戦での忍田さん出撃なし。
●諏訪さんベイルアウト。
●通信室などの非戦闘員の死者が出てない。
●千佳ちゃん達C級隊員がほぼ逃げる事に成功。


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