ねこだまし!   作:絡操武者

15 / 47
お気に入り230件です。お読みいただき、本当にありがとうございます。





15 ネコ、個人戦やってみた

 寒い曇り空の下、終業式が終わりボーダー本部に向かう俺。コートを着てもマフラーを巻いても寒さを感じてしまうこの感じは好きではない。家にコタツとかあればいいのになぁと思いながら歩みを進める。(あ、そうだトリオン体になろう)と、京都をアピールする鉄道会社のコマーシャルの様に思い付いて、今更ながらもトリオン体になる。

 見た目はコートよりも薄着になろうとも、寒くもなく、暖かくも……いや、ほんのり暖かい。最高の防寒着だ。一市民としての考えが染み付いてしまい寒いならコートやマフラーを装備するという先入観がある。しかし、俺は正規のボーダー隊員。トリオン体になればほら、そこには自販機のココアの様に『あたたか~い』になる。確か鬼怒田さんが言ってたんだっけか? トリオン体になると適温になる的なことを。実に快適だ。

 (うしゃしゃしゃしゃ)と内心でご満悦な俺は飛び跳ねながら本部を目指す。あ、歩くよりも圧倒的に早い。トリオン体にデメリットなし。トリオンの消費ぐらいだろう。少し先の未来ではトリガーが一般人にも行き渡り、トリオン体がトレンドになるのではないだろうか? 「ねーねーこのトリオンの服オートクチュールなん?」ってな感じで小さいお子様までカバーできる夢の話。

 ……いや、そこまでのトリガーの数が確保出来ない点もあるだろうし、その場合は世に出ている冷暖房器具まで無くなってしまうかも知れない。そしたら家電業界は一気に衰退してしまうし、コタツを無くすと言うのならトリガーいらねー。コタツは別物である。あ、次は作戦室にコタツのあるチームにレンタルされないかなー。そんなチーム無いかなー。諏訪隊が自由空間だったしあるかもしれないなー。

 

 俺は本部に着くとすぐに個人戦用のブースに入る。さて、簡単な話でしか使い方を教わったこと無いけど……。簡易的なソファーがあるのはベイルアウトなどで離脱した時の場所。んで、モニター画面には何も映って無い。……んー、まずは台座にトリガーをかざして、おぉ画面が点いて正隊員でログインされた。なるほど、これで個人戦という名目ではC級とは戦えなくなるのか。ポイント移動のない模擬戦なら出来ると言うことだと思われるが、事前申請とか必要なのだろうか? そしたら面倒臭いね。

 モニターには他の部屋番号と所持ポイントとメイン装備のトリガーが表示されているが、一番下の黒い四角はなんだろう? タッチしてみると黒い文字で対戦対象人数が増えた。これは全てが4000以下のポイントだからC級と思われる。これで戦えるわけか。4000以下でも白文字のままの人は俺と同じ様にB級以上だけど、他の装備を練習してるとかだろう。

 名前もランクも分らないけど、これぐらいの不透明性がいいな。相手が誰か分からないけどメインのトリガーだけ分るというドキドキとワクワク感がある。俺もこれぐらいの見えない個人情報がいいな……。と、しみじみしてたら対戦申し込みが来た。

 

「3本勝負か……スコーピオンで9000ポイント以上もあるよ……4000以下を相手にするなんて、暇潰しか人違い、後は考えたくないけどイジメだろうなぁ……まぁいずれにしろ強いって事は変わらないか」

 

 俺はOKボタンをタッチして転送された。相手を見下ろす形でどっかの建物の屋上に出ると相手の通信が飛んできた。

 

『あー、ごめん人違いだ。よく考えたら荒船先輩はライトニング使わないかー。出る?』

「いや、3本だしすぐ終わるでしょ? それとも時間ない?」

 

 俺と同じぐらいの身長だろうか? 少年の声をした子は少し生意気そうだ。これは中学生だな……いや、中学生で9000pt超えとかマジか? 迅さんみたいにエリートというやつなのだろうか? まぁ年下に変わりは無いか。相手もすぐ終わるという言葉に含みを持たせて同意し対戦となった。

 

 バッグワームを持ってない俺はとりあえずいつもの様に突っ込んだ。すると、目の前に居た少年はグラスホッパーを使い多角的に動いて距離を詰めてきた。おぉーグラスホッパーで上に跳んで、上にグラスホッパーを起動して斜め下に、右上にと、まるで箱の中でスーパーボールが跳ね返っているみたいだ。これではライトニングでは当たらない。俺は左手にアステロイドを用意し放つ。

 しかし、避けて当然かのようにグラスホッパーの進行方向を途中で前方に切り替えスコーピオンを振り下ろしてきた。俺はシールドで弾くと一度距離を取った。すげーな。俺があの動きしてたらグラスホッパー止められないなーと感心していた。グラスホッパーとスコーピオンの戦闘特化のスタイルらしい。

 さて、騙すにはどうイメージする? 俺は考えを深め始める。俺は最強じゃない。慣れない動きは身体が着いていかない。考えるのは自分のことじゃない。相手がどう倒れるかだ。それが騙す結果を導き出す鍵になる。

 俺はアステロイドを撃ちまくり距離を一定に保つ。相手は避けながら進んでは下がってを繰り返す。これでは倒せない。倒されもしないが何も意味を成さない。俺はもう少しだけ距離を取って行動にでた。

 

(必殺、ネコクラスター……行けっ)

「何だ……?」

 

 俺が作り出したのはアステロイドキューブ。その大きさはバスケットボール大ぐらいだろうか? そのキューブを俺は上空に放つ。相手は一瞬だけそれを見上げたが、俺を刈り取ることにしたようで弾幕の無い道を駆け抜けてきた。俺は上空のアステロイドキューブを見てるが……うん。失敗だアレ。俺はあっさりと胴体とお別れした。

 ブース内のソファーベッドに落下するように出てきて再びインする。転送されている間に色々考えるが、全ては実験だ。負けても何も問題ない。それでも次も負けるのは嫌だけどね。

 

『さっきのなんだったの?』

「いやー失敗みたい。色々試してんだよねー」

 

『ふーん? ……じゃあ、行くよ』

 

 わざわざ宣言してこなくてもいいのに。俺がいる建物を一気に駆け上がり、その素早い動きから繰り出されるスコーピオンをライトニングで受け止める。少年に驚きの色が見えるが申し訳ない。刃物の止め方はこれが一番しっくり来るんだ。俺は肘からスコーピオンを伸ばし、相手の腹を刺して仕留めた。トリオン供給機関破壊らしい。

 ふむ、これは問題ないな。後は100%発動できるようにイメージを固定化していくだけだ。問題は1戦目の【ネコクラスター】だ。上空での待機状態まではよかったけど、発動しなかった。アステロイドを騙し足りなかったのかもしれない。それかもう少し手を加えてもいいかもしれない。と、少年が再度インして戻ってきた。

 

『スコーピオンも持ってたとはね』

「ん? あぁ、先に言っておくと、アステロイド、スコーピオン、ライフル3挺が攻撃トリガーね」

 

『何かバランスおかしくない? 下手な完璧万能手みたいじゃん』

「スナイパーいらないんだけどねー。でも、勝手に弄っちゃうと怒られかねないから仕方ないんだ」

 

 開始の合図と共に相手は再び突っ込んできた。しかし、さっきのスコーピオンを警戒してか、グラスホッパーで少しフェイントを混ぜてきた。ふむ、勉強になるな……そういう動きもあるのか。

 そんな俺はテレポーターで消える。

 

「な!? いや、視線は―――」

「残念こっちでしたー。はい、ちぇっくめいとー」

 

 俺は相手の予測とは別の位置に出現しライトニングで頭を撃ち抜いた。悪いね。攻撃トリガー以外も当然あるんだよ。俺はログアウトしてみると、200ポイント貰えた。こうやってマスタークラスに近付いていくのか。

 

『ちょっと! もう一回! もう一回勝負してよ! 正直舐めてたけど次はスコーピオン以外も使うから!』

「え? さっきの子?」

 

 いきなりの通信にびっくりしたが、部屋番号が分ると通信が出来るらしい。負けず嫌いにも程がある。しかし奇襲で負けると言うのも後味が悪いだろう。しょうがないなー―――。

 

「おことわる」

『はぁ!?』

 

 ―――本当にしょうがない。勉強にはなるけどスコーピオンとグラスホッパーって、自分でも使ってるからある程度イメージしやすいところがある。やっぱ今求める相手はシューター、ガンナー系か、スナイパー辺りかな。そうで無いと明日以降に起きるかもしれない抗争には生き残れないと思う。最強クラスがチーム単位で来るんでしょ? 色々なことに対応できるようにならなければいけない。

 時間を見ればまだ余裕がある。さっきの3本勝負で考えればあと10戦ぐらいは出来るな。でもご飯も大事だ。俺は一度出ることにした。

 すると部屋の前にはさっきの少年が居た。部屋番号だけで出待ちするなよー。

 

「ねーやろうよー! 次は5本か10本で!」

「お腹空いたからやだー」

 

 そんな言い合いをしつつホールに出ると人が多くいて、C級らしき人たちに遠目に見られながら何か言われていた。

 

(ほら、やっぱラッド狩りのNeko2だよ)

(何でランク戦やってんの? やらないって噂だろ?)

(つか隣にいるの緑川じゃね?)

(その緑川が負けてたよ)

(嘘だろ!? ほら、1本だけ取ったとかだろ)

(私見てたよ。3本勝負で2-1。1本目は緑川君で、2本連続でネコ先輩だよ)

 

 何て言ってるか知らないけど、この子と戦いたいのか? あげるよー、俺は食堂で何か食べてくるから。そんな感じで少年の誘いを断り続けると別の切り口から誘い始めた。

 

「お前何年生だよー?」

「え? 高1だけど?」

 

「え?」

「え?」

 

 改めて自己紹介。少年の名前は『緑川(みどりかわ) 駿(しゅん)』A級4位の草壁隊とか言うチームのアタッカーで中学生。俺のことを年下だと思ってたらしい。俺は偉そうだからもしかしたら同い年かと思ってたよ。やっぱ年下だったんだな。しかし双葉ちゃんといい中学生でA級って凄いなー。あ、木虎もか。あいつも凄いなー。

 しかしA級4位って最強チームと競ってるってことだな。断った手前こちらから再戦を申し込むのもアレだし、結局は『スコーピオン駿』みたいな発展途上の主人公タイプだし(関係ない)今回は別の人にしよう。

 で、俺が名乗ったら何か納得した感じになった。

 

「なるほど、Neko2って先輩だったんだね」

「何を納得してんの?」

 

 聞いてみると、初期戦闘訓練だったっけ? あれのタイムレコードはどうやら俺の前は緑川が最速タイムだったらしい。納得し終わると再び熱烈な再戦の申し込みが来た。だからやらないってーの。

 

 

 

「お願いだよーネコ先輩ー」

「まだ言ってんの? 飯まで奢らせてまだ言ってんのお前?」

 

 俺は本部の食堂でチャーハンと餃子を食べてるわけだが、俺が食い始めたのを見て緑川もお腹が減ってきたらしい。仕方ないからラーメンだけ奢ってやった。あ、こら俺の餃子を取るな。『先輩』はいい響きだが話の通じない後輩は要らないぞ。

 

「む、ネコじゃないか」

「ん? おぉ陽太郎か。一人で来たの? あ、こら俺の餃子取るなって」

 

 雷神丸に乗る陽太郎は『ようすけに会いに来た』という。誰だか知らんが保護者代わりがいるなら安心だ。と、その『ようすけ』とやらも食堂にやって来た。

 

「あー腹減った。お、緑川じゃん。さっき負けたんだって?」

「よねやん先輩!」

「どうも」

 

 米屋陽介、俺と同じ学校で1個上の先輩で、三輪隊のアタッカーらしい。『三輪隊』ねぇ、割とよく聞く名前だな……あ、城戸司令派閥で遊真と戦った部隊か。んー、てことはブラックトリガーを奪いに来るのもこの人達だろうか? 悪い人には見えないけど、上司には逆らえないということだろうか?

 まぁ、アタッカーということで俺は興味をなくしたが、個人戦について話したり、緑川少年に勝ったのは結構凄いことらしく、今度戦う約束をした。あーチャーハンうめぇ。

 

 

 

 少し話し込んでしまったので後3本勝負の1戦が限界かなーと思いブースに入る。するとポイント高めのバイパーさんが居た。この人で良いやという考えで3本勝負を申し込むと少しして了承されたらしく転送開始となった。

 

「あれ? 那須先輩?」

「あ、やっぱりネコ君だったのね」

 

 何故そう思ったか。スナイパーを使う様になったと小夜から聞いたらしく、ライトニングのポイント数を見て、もしかしたらと思い受けたらしい。小夜はどこで知ったんだろうか……?

 そして、時間も有限と言うことで会話そこそこに戦闘開始となった。那須先輩は会話に付き合わせてしまったと言って一度隠れてもいいと言うが俺は必要ないと断った。俺が話しかけたのが始まりだし、それは譲られすぎだろう。

 那須先輩の動きは防衛任務時とは全く違った。勿論、通常体の病弱さの欠片も無い状態だ。ただ、あれほど飛び回る姿は見たことがなかった。俺は襲い掛かるバイパーの雨をシールドで防ぎながら建物内に侵入する。

 

「げっ! 建物内でも関係なしに追ってくる!?」

 

 しかもその横殴りの雨が止まない。その上これだけ撃たれ続けるとシールドが持たない……あ、窓から覗く位置に飛んで来た那須先輩と目が合った。那須先輩はトリオンキューブを2つ重ね合わせると俺に向けて放出した。一直線、アステロイドか、何とか防げるな。これを防いだら奥に逃げよう。しかし、罅割れていたシールドは呆気なく砕け散り、俺はアステロイドの群れに穴だらけにされた。

 ソファーベッドに落ちた俺は予想以上の威力の高いアステロイドを思い知りながら再度インする。最後のアレは、アステロイドとアステロイドの合成弾だろうか。合成弾は嵐山さんととっきーに時間が掛かるから隙が多いと聞いたことがある。合成弾か……そういう手もあるんだなぁ。しかも早い。

 転送が終わり開始の合図が鳴る。今回は俺は建物の屋上に出た。那須先輩は表示できるマップ範囲の一番端に居る。スナイパーとシューターならスナイパーの方がレーダー索敵範囲は広い。視覚支援も無い今なら取れるかもしれない。

 

「居た……(シールドが張られても突き破れー突き破るのだー君なら出来るー自分を信じろアステロイドの弾丸よー。シールドは、そうだなぁ……シールドは暖簾みたいなもんだ壁じゃなーい。暖簾に腕押し、シールドにアステロイドだ。君は楽に貫通する事が出来るのだー)」

 

 念じるように、また願うように最も射程の長いイーグレットの引き金に指を置く。那須先輩はジグザグに動き、隠れながら少しずつ此方に近付いてくる。全てが丸見えというわけではないが、経験則である程度の位置を確認しながらマップを確認しているのだろう。しかし、スナイパー装備の俺と会うのは初めてだったはずだ。しかもこの状態での対戦経験も防衛任務も無い。レーダーに映らないバッグワームの事も当然考えにあるはずだ。持って無いけどね。未だに撃たれないことに疑問も浮かんでいるかもしれないが、思考までは読めない。俺には経験が足りなさ過ぎる。

 那須先輩が俺を見つけた様に見える。俺がMAPの表示範囲に載ったんだろう。しかし、この距離じゃあ俺も那須先輩も当てられない。もう少し近付いてくれないと……俺はふと視界の右脇にあるここよりも少し低い建物を確認した。テレポーターで届くか? いや、届くだろうが、タイムラグがありそうだ。

 動きながらの狙撃で行けるだろうか。狙撃の面倒を見てくれた佐鳥にこれを見られたら怒られそうだが、そうも言ってられない状況もあるだろう……ということにしておこう。

 那須先輩は建物で射線を遮りながら確実に近付いて来てシュータートリガーを腕に起動した。射程距離が近いのだろう。さっきみたいに全方位から攻めてくるか……。俺に経験が足りないことは那須先輩にも知られてる。シュータートリガーに詳しくないことも知られてる。

 一息吐き、俺は引き金を引いた。那須先輩は斜め上へ飛び回避するが、シールドに当たる。シールドを割らずに透き通るように貫通する弾丸は那須先輩の本体に触れる事無く地面に着弾した。それを俺は正面ではなく斜面から確認していた。引き金を引いた瞬間に俺はテレポーターですぐ10mほど離れた真横に飛んだ。別の建物にテレポーターで移るには時間が掛かりすぎる。なら空中で構わない。那須先輩が着地する前に当てれば勝ちだ。

 

「(君はどこへでも行ける。曲がりたければ曲がるが良い! ただ、これだけは成し遂げろ―――)当たれ!」

 

 落下しながら放たれた弾丸は幾何学的に進み那須先輩に直撃した。ベイルアウトしていく那須先輩を見て俺はグラスホッパーで体勢を立て直し仮想のコンクリートジャングルに着地した。

 

「っしゃ!」

 

 しばらくして那須先輩が再度インしてきた。対戦の最後になる3戦目だ。

 

『聞きたいことはあるけど、とりあえずこれを終わらせましょう』

「了解です」

 

 今回は開始と同時に那須先輩が見えた。俺は鳥籠の様に下を除く全方位から襲い来るバイパーをシールドとテレポーターで何とか避けきると、距離を詰めた。俺に勝ち目があるとしたら、それも騙し以外で経験の差を埋められるモノがあるとしたら、それは相手の隙を突く事だ。隙は自分で生み出させないといけない。つまりスナイパーがまさかのインファイトだ。……まぁスナイパーになってから何度もやってる戦法だが、那須先輩には見せたことが無いものだ。

 しかし、シューターとアタッカーの戦いは攻撃可能範囲を考えれば圧倒的にアタッカーが不利だ。あの那須先輩の弾幕をどうにかしないといけない。ここは、ラッキーを願うのみの見様見真似しかない。さっき見たばかりのアレをやってみてあのスピードが出せるかは分からないが……。行くしかない!

 

接近戦(インファイト)……!?」

 

 驚きの声を漏らす那須先輩から遅れて俺に放たれるバイパーの隙間を掻い潜るようにグラスホッパーで避ける。跳んだ先にグラスホッパーを用意。その先にも、その先にも用意する。使ってても身体の動かし方が上手くいっていない気がする。やはり緑川の動きを再現するのは難しい。それでも少しだけスピードを落とせばそれっぽく見えるのではないだろうか?

 

「ピンボール!?」

「―――っ! ここだ! 貰いっ!」

 

 再びバイパーを放とうとする那須先輩には近付かず、俺は逆噴射するようにグラスホッパーで後ろに跳んだ。ライトニングで那須先輩を撃ち抜き、飛んで来る多角的な軌道を描くバイパーをテレポーターで回避する。これに当たってベイルアウトしたら引き分けになってしまう。

 避けきった俺は、システムの異常を考えた。戦闘終了にならないからだ。アステロイドで間違いなく那須先輩を撃ち抜いたのを見た。俺はベイルアウトして無いんだから俺の勝ちで終わ……あれれ~? このMAPに映る赤い点は何かなー?

 

『残念だったわねネコ君』

「マジかー……」

 

 俺は真横から来た爆撃でベイルアウトした。炸裂弾(メテオラ)である。一撃必殺の内部炸裂が失敗したようだ。結果は1-2で俺の負け。ポイントは50ポイント那須先輩に移動していた。

 モニターを見てログを確認すると、最後のライトニングの弾丸は間違いなく那須先輩の足に当たっていた。ほぼ同時に肩が損傷したのが見えた。トリオン供給機関破壊にはならなかった。あー慢心したか俺。最後の最後で貰ったと思ったのがいけなかったのだろうか? 感情を殺して倒せとでも言うのか? 何事でも達成する地点が眼の前に見えれば慢心するだろう? だとしたら何て難しいサイドエフェクトだ。

 

『ネコ君戻ってる?』

「あ、お疲れ様です。ありがとうございました」

 

『今、ログを見ていたんだけど、2戦目、ネコ君の撃った弾道が直線じゃないように見えたの……でも、ログに映るのは一直線に私を撃ち抜いてた。何か分かるかしら?』

「見間違いじゃないですかー? だってライフルの弾丸はアステロイドですよね?」

 

『そう……よね。トリオン体でも疲れ眼ってあるのかしら?』

「あー……眼に良い物でも調べて何か作りましょうか?」

 

 俺のサイドエフェクトの話をして情報が広まるのは避けたい。対応策でも考えられたら誰にも勝てなくなるし、これ以上の個人情報流出を自ら出すわけには行かない。

 

『じゃあ今度、皆で行くわね』

「皆? ―――あ、防衛任務だ! 那須先輩また! お疲れっしたぁ!」

 

 俺は那須先輩の言った。『皆』って那須隊ってことか? と思いつつ諏訪隊に急ぐのだった。

 

 

 

 諏訪隊でのレンタル活動2日目。この日も難なく終わり、まるでヤル気の無い夏休みの絵日記のごとく、『今日も平和だった。』ってな感じだった。来た時は時間があまりなく話せなかったが、防衛任務の最中に今日の個人戦について質問された。どうやら俺が来る前に小佐野先輩がログを見てたらしい。防衛任務中でも自由だなこの隊は……。

 

「で、何で緑川に勝てて、那須に負けんだ?」

「そりゃー、緑川は分かりやすいしー」

「緑川に勝ち越すなんて凄いな……」

「ポジションも相性良かったかもしれませんね」

『いや、堤さん。ネコ君は接近戦してたよ?』

 

「何だそりゃ!? スナイパーの意味ねーじゃねーか!!」

『ゲート発生来ますよー』

 

 そんな感じで、今日も気楽に防衛任務を終わらせ帰る事にした。

 明日で諏訪隊の活動も終わりだが、明日になれば遠征部隊が帰ってくるという話だ。ブラックトリガー奪いに来るかなー。来ないでほしいなー。と考えつつ温かいココアを飲みながら俺は家路に着いた。

 

 

 




◆ネコはコタツで丸くなりたい。
ネコの一人暮らしの家に炬燵はありません。でも炬燵が素晴らしいものだと言うことは知っていて、夢の家電製品だと思っています。

◇緑川駿
迅に助けられてもらった事があり、それ以来、迅を見かければペットの様に『迅さん! 迅さん!』と小躍りをするほどのバカ。実力は有り、A級4位の草壁隊に所属する天才型の中学生。運動神経がよく、スコーピオンとグラスホッパーを使い、『ピンボール』というグラスホッパーの技術を持っていることしか分からない。……ので、他に何のトリガー使ってるか分らない。米屋陽介と戦って、勝ったり負けたりというレベルらしい。※3バカの一人。

◆新必殺技『ネコクラスター』
トリオンキューブを上空に打ち上げて……。まだイメージがネコの中で明確ではないところがあるようで完成して無い失敗作。

◇米屋陽介
通称『槍バカ』。ネコとは今回が初顔合わせ。緑川に勝ったと言うことで戦いたくなった模様。尚、ネコはアタッカーに興味が無い模様。※3バカの一人。

◆志岐小夜子の情報(独自設定)
ボーダーの隊員ログインで色々な情報が見れる模様。隊員名で検索し、現在の主トリガーだけ確認でき、隊員同士の掲示板もある。その中でも最新のスレッド【Neko Mk-II こいつ、動くぞ part.6】では嵐山隊での出来事や、菓子折りを持って現れる礼儀正しさ等の目撃情報が寄せられている。

◇シールドなんて暖簾だよ偉い人にはそれが分らんのです。
アステロイドの弾丸に対して割と真っ直ぐな騙し方をするネコ。アステロイドは真っ直ぐしか進めないので、直球勝負の騙し方をしているらしい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。