今日はボーダー本部に向かう。防衛任務であって防衛任務ではない。なぞなぞではない。次のレンタル先はまだ決まってないのだ。今日から新しいところにレンタルされて今日の昼過ぎから防衛任務だ。というわけで次はどこでっしゃろ忍田はん?
「失礼しまーす」
「来たか音無」
そりゃ呼ばれたからね。念のため室内を見渡すが鬼怒田さんは居ないようだ。忍田さんもその辺は理解があるのか苦笑いを浮かべつつ、今は鬼怒田さんも俺に手が出せないのだと説明してくれた。何故って? 城戸派との抗争とも言うべき遊真のブラックトリガー争奪戦が始まるかもしれないからだよ!!
しかし、本当に強盗行為するのかよと怪しんでたんだけど、更に可能性濃厚となる事が近々起こるらしい。
「―――知らないだろうから説明するが『遠征』というモノがある」
「あー、ネイバーの世界に行くやつですよね?」
「え、何で知ってるの!?」
機密事項を知ってる俺に忍田さんのお隣の沢村さんが驚く、忍田さんも少し驚いているように見える。俺は迅さんに教えてもらったと素直に答えた。
「迅くんかぁ……」
沢村さんは少し嫌そうな顔を浮かべて納得したようだった。何? あのエリート嫌われてんの?
「話を戻そう。その
「今回の遠征チームはA級の1位から3位までの構成メンバーなんだけど、全チーム城戸司令の派閥って言えば分かるかな?」
「マジかー……」
流石は最高司令官とでも言えばいいのだろうか? ボーダーとしては誇らしいが、今の俺は忍田さんの派閥に属している。城戸司令の派閥に入りたいとも思わないけど、その遠征部隊が襲いに掛かる可能性があるからそれを防ぐことになるかもしれないのだとか。A級1位~3位って、S級を除けばボーダー最強部隊ってことでしょう? しかも話の展開からしてブラックトリガー持ちが他に居たとしても今回関わってくるS級は迅さんだけだ。一人だけで複数名とやり合うとか無謀だ。そこに俺を何故に巻き込むのか?
「……あのーこの前の電話の時に聞くべきだったんですけど、何で俺なんでしょうか? B級ですし、しかも上がったばかりですよ?」
「あぁそうか話してなかったな。一つは直属の上司が私だと言う事と」
「ネコ君がスカウティング対象なのよ」
【スカウティング対象】とは、初期戦闘訓練などで好成績だった者や、トリオン能力が優れている者はボーダーとして観察対象になっているらしい。観察と言っても四六時中見られているとか盗聴器などを仕掛けられていると言うことではないらしく、ボーダーとして支援しやすいように、また、緊急時に真っ先に連絡を取れるようになっているらしい。メリットは優遇されやすい……かも。デメリットは時と場合によっては行動を制限されたり忙しくなる事があるとの事……え、聞いてないんですけど、優遇されやすい
「あ、ボーダー辞めるとか言わないでね?」
「い、言わないですよーやだなー」
本当にやだなーちくしょう……。
さて、スカウティングは様々な角度から見られることになる。本部に来て自主トレや集団訓練、個人戦やチームランク戦に参加したりした際の成績などを周囲の人と比べて10倍ぐらいは見られる。研究されていると言ってもいい。更に本部だけに留まらずどこかの支部での行動もチェックされているらしい。ある程度育ったら解放されるというが、その頃になれば「ウン、ボク、ボーダー、ダイスキ、何デモ、言ウコト、聞くにゃんこ」などと洗脳状態ではないだろうか? それは流石に無いか。でも開発室に記憶消去装置とかある組織だしなー……。ん、開発室といえば……。
「開発室に通い始めた当初、嵐山隊の皆さんの日替わり護衛みたいなのがあったのはもしかして関係してます?」
「あれは行きすぎかと思ったが、鬼怒田開発室長の一存で決まったことだな。音無の方から断ってくれてこちらとしては人員の面で助かった。あの時の鬼怒田室長は納得していなかったようだがな。サイドエフェクトだと結論が出て助かった面も大きい」
「ちなみに昨日は玉狛支部で小南ちゃんに3勝したんでしょ? 実力も十分ね」
oh……個人情報が筒抜けな上に、それが本人に開示されている不思議空間なんだな。つまり今までのボーダーでの活動や行動は全て他の隊員以上にめちゃくちゃ見られてるってことだ。涙が出そうだよ。だから給料も計算と合わなかったのか。防衛任務時の討伐数を計算しても明らかに多い給料。『諸手当』の部分にある謎の金額。アレは『ずっと観察してるけど、これ迷惑料な』って意味なのだ。明細を開いた時には予想よりも多くて小躍りしてたぐらいなのに何かショックだ。
「さて、本題に戻ろう。迅と相談したんだが、念のため嵐山隊に声を掛けてある。音無は今日から3日間諏訪隊へのレンタルとなるが、緊急時は抜けても問題ないことになっているから気にしないでいい」
凄く気にするよー。等と言える訳もなく、俺は精一杯の歪んだ笑顔を浮かべつつ話を聞いて部屋を後にした。嵐山隊が居れば問題ないんじゃないだろうか? 俺の必要性に疑問を感じながら俺はエレベーターで下に降りる。今日から諏訪隊とのことだが、待ち合わせ時間まで3時間ぐらいある。ふむ、投資兵器を買いに行くか。
今日のお菓子はクッキーにしておいた。俺が和菓子を食べ飽きてきていたからだ。どら焼き以外と言っても大福は手が白くなるし、隊長の諏訪さんもどちらかと言えば洋菓子の方が好きそうな顔してる気がする(偏見) そして、和菓子より少し安い! 今後はA級チームには和菓子(高め)、B級には洋菓子(安め)という方針で行こうか等とつまらぬことを考えつつ昼ごはんも食べ終わってボーダー本部に戻ってきた。
それでも早すぎる。まだ2時間近くはあるぞ……とりあえず休憩所でココアでも買おうかなと思い足を運ぶと諏訪隊のアタッカーで俺と同い年の笹森日佐人が居た。
「やほー日佐人」
「お、今日はよろしくな。暇なら作戦室行くか?」
俺は日佐人に連れられて諏訪隊の作戦室に行くことにした。暇なら作戦室って、何か暇潰し出来る物があるのだろうか? そう思いながら入ってみると麻雀卓に漫画と小説の多い本棚が真っ先に眼に入った。え、作戦室ってこんなに弄っていいの? ―――いいんだよ! 明らかに成績が振るわないと駄目だが、モチベーションや成績を維持、向上できるならば自由に使って良いスペース。それが作戦室だ。そう話すのが諏訪さんだ。やり過ぎ感があるけど、上から何も言われて無いならいいか。他の隊の人もよく遊びに来てるとのことだし俺が気にするだけ無駄だろう。
「おう来たなミスターNeko Mk-II。ウチの隊で遊んでやるぜ」
え、何それ? ダサイから『ミスター』とか付けるの止めてください。でも諏訪さんはどこか自信満々である。少しだけ残念な人だ……。
「あ、これつまらないものですが」
「あん? おう、気が利くなぁ」
「あー忘れてたけどここのクッキー好きなんですよー。久しぶりに紅茶入れよー」
小佐野先輩は諏訪さんの肩越しにクッキーの包装を見ると踵を返してお茶を淹れに行く。忘れてたのに好きとは言い得て妙だ。まぁそう言うモノもあるだろう。
小佐野先輩の淹れた紅茶でしばしの歓談。そして今では……。
諏訪さんは何かの小説を読んでおり、日佐人は麻雀卓で牌や麻雀マットを掃除している。小佐野先輩はパソコンでファッション系のサイトを見ているらしい。俺はソファーに寝そべりながら漫画を読んでいる。何て自由な空間だろうか? そんなだらけ切った空間に入って来たのは諏訪隊最後の一人堤さんだ。ソファーの背もたれが死角になっているのか俺にはまだ気付いてないらしい。
「諏訪さんお疲れ様です。今日はネコ君が来るって聞いたんですけど」
「おう、もう来てるぞ、そこで恐ろしいほどに寛いでやがる」
「犯人は~主人公の奥さーん」
「さらっとネタバレすんじゃねーよ!? つかもう死んでんだよ奥さんは!」
「あ、堤さん今日はよろしくです」
俺はソファーから起き上がり挨拶をする。で、またソファーに倒れ込む。……そうか奥さんはもう死んでんのか。というか何の小説読んでるか知らないし、知っててもネタバレするほど悪党でもないよ俺は。堤さんに寝そべりながら挨拶すると堤さんは微笑を浮かべていた。
「ははは、もう馴染んじゃってるんだね」
「あークッキーあるんでどうぞー」
「麻雀やりませーん?」
「あ、私やるー」
本当に何て自由な空間なんだろう。素晴らしいとしか言い表せない空間で俺は漫画を読み続けていると、日佐人の掛け声で諏訪隊の面々は麻雀を始めた。チラリと時間を見ればまだまだ余裕はある。俺はとりあえず漫画を優先し読み耽った。
数十分して最終巻まで読み終わり、麻雀もそろそろ終わりらしい。俺は麻雀のルールはよく知らないけど、ドンジャラの様に同じ柄を集めたり数字を階段状に揃えれば良いのだろうというぐらいは理解している。ドンジャラも名前しか知らないけどね。
俺は小佐野先輩の後ろに行くと何となく面白そうな形に見えた。すぐ近くに置いてあるプラスチックの器には点棒と呼ばれるものが乱雑に入っていた。
「小佐野先輩が独走ですか」
「そうだよー。そこの3人は負け犬共だよー」
「お~サ~ノ~……」
「事実ですよ諏訪さん」
俺は負け犬共と称されるボーダーの先輩方を見やり、小佐野先輩に色々と簡単に説明して貰い少しだけルールが分った。結果は小佐野先輩の上がりで終了。俺は思い出したように漫画を片付けるために本棚に持っていくと麻雀の役などを紹介してる
本を見つけた。役なんて覚えてない人はいないらしく貰っていいとのこと。あざーっす。あ、この『国士無双』ってのは聞いたことがある。
さて、防衛任務の時間になるが、目立った事は何も起きなかった。まぁイレギュラーゲートを防ぐための作戦を終わらせたばかりなのだから大事があっても困るのだが、今日はゲート発生予測地点に向かうだけの簡単なお仕事だ。出てきても苦労しないレベルのトリオン兵達。実に楽だ。
しかし、イレギュラーゲートは厄介だったけど、沢山出てくるトリオン兵はB級の俺たちにとっては良い金稼ぎになった。まさにボーナスステージと言えたのではないだろうか? そんな事は怯えて暮らす市民に大変失礼なので言えな――――。
「タバコ値上がりするしなー、もっとネイバー出て来ねーかな?」
「でじゃう゛!?」
「諏訪さん不謹慎ですよ。分からなくもないですけど」
「ネコどうかした?」
いや、これは
諏訪さんに聞けばB級にも嵐山隊程ではないにしても訓練の補佐などの仕事はあるらしい。俺呼ばれたことありませんけど? その分観察されているのだろうか?
しかしアレだねー。
そんなこんなで何事もなく防衛任務終了。反省会もそこそこに報告書もお願いする形で俺は帰ることにした。窓から覗く空はすでに暗く、外は寒そうである。コートを着て明日の事を考えれば少しほっこりする。だって明日は終業式。学校は冬休みへと突入する!
「あら? 確かネコ君よね?」
「へ? あ、加古さんだ」
エレベーターで1Fに着くと、加古さんと双葉ちゃんに出会った。
「どうも」
「あ、双葉ちゃんも久しぶり。B級に上がれたよー」
「聞いてるわよ、訓練成績も色々塗り替えてるらしいじゃない」
「スカウト大成功です」
「噂の一人歩きですよー」
加古さんの言葉に双葉ちゃんも頷いているが、俺はとりあえず謙遜しておいた。そう言えばこの二人はA級とかいう話だったはずだ。聞いてみるとその通り、A級に上がって特別な仕事はあるのか聞いてみると、俺を誘ったあの『スカウト』がA級の仕事の一つだそうだ。双葉ちゃんは中学生だし、加古さんも大学があるから長期の休み、つまり春や夏などの休み期間中などで旅行プレゼントを含めて他県でのスカウト業務が与えられることがあるらしい。
「ネコ先輩はA級に上がるんですか?」
「楽な仕事で、楽に上がれるなら考えるかなー、固定給+討伐歩合制とか安定するじゃないですかー」
「なら
まさかのお誘いだ。那須隊の次はA級の、しかもまたもや女性チームからのお誘いである。なに? ネコフィーバーなの? 人生には3回のモテ期があるらしいが、その1回目がココなのだろうか? もしくは那須隊が1回目で、既にこれは2回目? だとしても、じゃあ入りますとはならない。A級の仕事内容もよく知らないし、女性だけのチームと言うのも断る理由の一つだ。那須隊の時もそうだったけど、『女性だけ』と言うことに拘りとか理由は無いんだろうか?
「お断りします」
「そう言うと思ったわ」
「えっ……」
双葉ちゃんだけ何だか着いてこれて無いような会話の流れだが、安心して欲しい。俺も良く分かって無い。取り敢えずの理由を聞かれたので、B級上がり立てで足を引っ張るかもしれないし? と答えたのだが……。
「あら、桐絵ちゃん倒せる力持ってるんでしょ?」
桐絵ちゃんって小南先輩だよな? 何で知ってるの? A級は個人情報閲覧権限でも持っているというのか? そうだとしたら何てダーティブラック企業だよ。しかし少し違うらしい。能力向上に繋げる為に、規定人数満員になっていないチームに忍田さんが売込みしているらしい。「ウチのネコいりませんか?」ってな感じだろうか? 飼い猫じゃあるまいし……まぁボーダーの社畜という見方をすれば飼われているが……。
「貰ったデータ見せてもらったけど、私みたいに結構真面目にネコ君を入れようと検討してるチームは多いらしいのよ。次はB級にも話を回すらしいけど、一度レンタルしてから考えたいってところが多いらしいわね」
「ネコ先輩の争奪戦ですか……確かにスナイパーならバランス良いですね」
この人は、なんて面白そうに笑うんだろう。いや、綺麗ですけどね。双葉ちゃんも深く考え込まないでね。スナイパーも仮だから。なんちゃってスナイパーだから。
さて、俺の情報はA級に回っていて、今度はB級にも回される。そんな情報を初めて知った俺はどうしたらいいんだろうか?
『何で仲間はずれにするのかなー? 誰か音無君を仲間に入れてあげてもいいよーって班はありませんかー……じゃあじゃんけんで決めよーか。ね?』……っておい待て!? そんな体験したこと無いのにとてもリアルに再現映像を頭の中に映すな!!
B級に上げられた時にレンタル活動だけでいいって聞いてたのに、ぼっちになってたなんて酷いじゃないか! そういえばC級の訓練の時も3人組が多く見受けられたのは、既にあの時点でチームを組んでいたのか? 俺も誘えよー。そりゃ初日から開発室に連行されたけどさー。
「まぁ考えておいてね。いつでも歓迎するから」
「失礼します」
「は、はぁ……お疲れ様でした……」
俺は力なく手を振って別れ、家路に着いた。明日は終業式に出た後にしばらく時間が空いて諏訪隊2日目の防衛任務かー。遠征チームが帰ってくるのは明後日だから、明日色々と試してみるかなー。鬼怒田さんのいる開発室は頼れない。嵐山隊はC級訓練の指導とか言ってたから無理でしょー。玉狛は離れてるから防衛任務が億劫になる。えーと……あれ、もしかして俺って那須隊と諏訪隊とぐらいしかまともな知り合いいない? しかも1度しかレンタルされてないので頼って良いかも分からないレベルの知り合いだ……もし、裏ではレンタルが迷惑がられていたとしたらと考えると更に申し訳ないな……那須隊に関しては小夜は男性苦手なわけだし、かなり有り得る。
ふむ……初めての個人戦やってみるか?
感想、質問、誤字脱字報告などありがとうございます。引き続き随時受け付けております。
◇今回の独自設定◇
【スカウティング】:スポーツなどでスカウトする人の仕事とでも言いますか、その人を偵察し、その人の情報を集めて分析することを言いますね。ボーダーにも裏方部門はあるかと思い、少し拡大解釈して都合よく書きました。今後は触れるかどうかも怪しいですが、深く描ける足掛かりになればとおもってます。
◆諏訪さん「ミスターNeko Mk-II」
今のところは単に言わせたかっただけ、エネドラが出て来た時にまた弄るかもしれない。
◇麻雀教則本を貰ったネコ
最初は麻雀強い設定で、『御無礼』とか言っちゃいそうな人が親戚のお爺ちゃんで、麻雀を教えてもらったという設定で書いてましたが消しました。これは麻雀の題材小説ではないっていうのと、傀が爺になっても麻雀を教えるわけ無いか、って感じでイメージが沸きませんでした。別に麻雀強くなくてもいい。今後カモられてもいいと思って初心者にしました。主に影響しないところに時間掛けてました。
◆ショットガンのトリガーに魅かれるネコ
作者は映画『マトリクス』を見てショットガン大好物になりました。スパスでしたっけ? 買おうと思ったこともありましたけど、近所で売ってる場所もなく、諦めて今に至ります。ライフル持ってても対象に接近しちゃネコにはお勧めかも知れないトリガーですね。シューターのこと忘れてやがりますけど、今だけです。
◇A級に情報が渡されてるネコ
売られてるわけではありませんし、里親を探されているわけでもありません。そして忍田さんに飼われてるわけでもありません。嵐山隊や三輪隊のように規定人数満員でチームを組んでるところは勿論駄目ですが、あと一人枠が空いてるチームは少なくありません。チームの力の底上げになればと忍田さんが開示できる情報を開示しているだけです。
情報には訓練成績新記録が連なって書かれているのと、最新情報としてA級の小南桐絵から10本中3本取ったという事実が載っています。その後にボコボコにされたことは書かれてません。
◆ネコフィーバー?
ネコのモテ期かもしれません。ですが、そうだとしても2回目や最後の3回目ではなく、1回目です。そして、モテ期ではないかもしれません。