ねこだまし!   作:絡操武者

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13 考えるネコ

 ―――斧で胴体と下半身とでさよならすること2度、頭を潰されること1度、それが最初から数えて3戦目までだった。俺も手は出したがアステロイドは避けられ、グラスホッパーで逃げた時も斧を投げられて終わった。

 そんなことを繰り返して迎えた4戦目。

 

「な、何が……起きたの……?」

「悪いっすねー負けるの嫌なんですよ俺」

『こなみトリオン供給機関破壊。凄いよーネコ君』

 

 俺は4戦目にして小南先輩から1勝をもらっていた。冷静に倒れている小南先輩を見下ろす俺と、憎き者を見つけたかの様に俺を見上げる小南先輩。オペレーターのうさみん先輩の声が室内に響き渡っている。俺の手には狙撃用のライトニング、左手の周りにはアステロイドが10発分ほど宙を漂っていた。

 

 

 

 ―――遡ること15分ほど前。小南先輩とは初めて戦うわけだし力量なんて良く分からない。遊真との戦闘も斧ばかりに目が行ってしまい、ほとんど見れていなかった。そんな俺に小南先輩は挑発を繰り返していた。C級の訓練のレコードタイムが塗り変わったのも周りが騒いでいるだけ、ラッドを一番多く倒したのもただのゴミ回収だと言う。まぁそうだろうなと俺も思う。別に天狗になってるわけでも無い。それでも挑発されれば『じゃあアンタはどうなんだ?』という気持ちが出てくる。別にムカついてるとかそういう事ではない。どれぐらい強いのか、人にモノを言える立場なのか、それが気になるだけだ。それだけの理由で嵐山隊以外の人と初めて戦うことになった。

 

「うさみん先輩、俺が小南先輩に勝ち越す可能性ってあります?」

「んー、無いとは言わないけど、ミラクルな展開の連続じゃないと厳しいかなー」

「私に勝つつもりでいるの? 遊真みたいに1本だけでもそれなりにまあまあよ?」

 

 その言葉で、俺は『それなりにまあまあ』の上を目指すことに決めた。そもそも個人戦をやったことがなく、嵐山隊の人しか対人戦の経験は無い。しかも相手はボーダー正規のトリガーではない。戦ったことも戦うところも今さっきのモニター観戦以外では見たことが無いけど、人型のネイバーと戦うつもり……つまり、『本気で相手を仕留めるつもりで行こう』と考えていた。

 そうは言っても10本勝負。俺はとりあえず10本の内、最初の3本ぐらいは様子見としてアステロイドとグラスホッパーだけで距離感とか分かるモノなのか調べることにした。

 結果は何も分らなかった。そんな間合いを見切るとか達人チックな事なんて3戦程度で掴める訳もなかった。ただ小南先輩から『弱い、それしか攻撃手段が無いのか』等と言われるだけだった。斧の間合いも持ち方変えたり投げてくれば変化するし、斧を振り回されるだけでも厄介だ。

 迎えた4戦目。俺は何度も繰り返すように、まずは距離を取る。小南先輩はまたかと言わんばかりの落胆した表情を見せ、俺は目の前から消えた。

 

「―――え? あ、テレポーター!?」

 

 小南先輩の真後ろに現れた俺の右手にはライトニング、左手には逃げたとしても仕留められる様にアステロイドを用意する。ライトニングから放たれた弾丸は小南先輩を捉えたかと思ったが、反射神経だけでしゃがんで避けられた。それでも片腕に掠っていたようで、俺は左手のアステロイドで追撃をしようとしたが、放つことはなかった。

 掠っただけでトリオン供給機関を破壊していたからだ。正しく奇跡の内部炸裂1.5倍が効いたようだ。俺は内心で(あっぶねー……)と冷や汗を掻きながら、理解し切れていない小南先輩に強がって言い放つ。

 

「な、何が……起きたの……?」

「悪いっすねー負けるの嫌なんですよ俺」

『こなみトリオン供給機関破壊。凄いよーネコ君』

 

 うさみん先輩が言ってたミラクルが起こったようだ。小南先輩が被弾したのは左腕に掠り傷、そしていつの間にか穿たれた胸の部分。内部炸裂だ。

 

 続く5戦目。俺はライトニングで振り下ろされた斧を受けた。斧の圧力でライトニングは弾き飛ばされ、そこから横薙ぎに振るわれる斧。俺はバックステップで回避して先ほどと同様にテレポーターで小南先輩の目の前から一瞬消えた。

 

「テレポーターは! 視線の先ィッ!!」

 

 振るわれた斧は小南先輩の後ろで空振りになっていた。俺が現れたのは消えた地点の更に後方。つまり距離を更に取っていた。

 

「な、何で更に離れて……!?」

 

 俺はアステロイドの8000発を作り出し広範囲に放った。『ネコ(ぱんち)8000(はっせん)』だ。何百発かは斧で吹っ飛ばされたが、何個かが触れると小南先輩はまたダウンした。

 

『トリオン供給器官破壊、こなみダウン。いやーネコ君ってこんなに強かったのかー』

「つ、次よ、次!!」

 

 まぐれが続いたがもう続かないだろう。テレポーターを持ってることもバレた。さっきのテレポーターだって俺は後方を確認してから飛んだのだが、小南先輩が勘違いをしてくれたようだ。けど、その辺の慢心とかはもう無いだろう。……そう思っていたのだが、トリオン供給機関破壊での決着はもう一度続いた。

 6戦目。俺はアステロイドで牽制するが小南先輩は跳躍でそれを飛び越えてきた。ライトニングを囮で出して構え、先ほど同様に受ける形になる。俺は足の裏から地面を潜る様にスコーピオンを小南先輩の足の裏に伸ばして捕まえた。これもトリオン供給機関に行った様で決着。

 

「スコーピオンまで持ってたとはね……でも何で……」

「あと使ってない攻撃トリガーは他のライフル、イーグレットとアイビスだけですから」

 

 何故と言う小南先輩の疑問には答えない。全てを明かすほどの余裕は無いのだから。

 7戦目。アステロイドでネコ拳8000を作り出す前に速攻でやられた。8戦目も9戦目も手も足も出なくなった。流石に奇襲作戦も行動起こす前に攻撃されれば意味が無い。もう勝てないかな。……そう思っていたが、負けるのも嫌だった。

 

「ま、まぁよくやったんじゃない? 私が3回も負けるなんてまず有り得ない事なんだから」

「まだ、もう1戦残ってますよ……」

 

 勝ち越すのは無理だった。それでも負けるのは嫌だ。10本勝負という形では負けは確定なんだけど、それでも最後は勝ちで終わりたい。最終戦が始まると同時に俺はまず逃げた。可能性が一番高いのは中距離戦に持ち込んだアステロイドでの面制圧だ。手数で削り切るのが一番確実だ。今日に限って供給機関破壊が冴えてるし、これに賭けるべきだ。

 当然そこら辺は小南先輩も察しているようで距離を詰めてくる。俺はアステロイドを作りつつグラスホッパーとテレポーターで逃げ続ける。テレポーターに関しては小南先輩は苦手なのか見失ってくれることが多い。さっき『テレポーターは視線の先』って言ってたから大体の出現ポイントはバレるもんだと思ってたけど見当違いの方向に斧を振るってくれるのでラッキーである。しかし、ネコ拳8000を作れるほどの余裕は無い。俺は通常のアステロイド10発程度の連続使用で対応することにしたが、それだと小南先輩は斧で掻き消して行くだけだった。

 そして、俺の胴体にチェックが掛かった。斧が完全に俺の腹を捉えて切り裂く。俺は作り出していたアステロイドを当たれと念じながら放とうとするが、既に上半身は半回転しており、小南先輩に背を向けていた。そして、苦し紛れに放たれたアステロイドはだれも居ないトリオンで出来た壁に向かい放たれ……小南先輩を貫いて行った。

 

『ネコ君トリオン流出過多でダウン。こなみも供給機関破壊でダウン。引き分けだね』

「な、何でよ!? アンタ、変化弾(バイパー)も持ってたのね!? 何で最後しか使わないのよ!? あーもうっ嘘つき!!」

 

 10本勝負では勝ちだが、個人的には圧勝したかったのだろう小南先輩は怒りを振り撒きながら「もう1回!」だと俺を立ち上がらせる。しかしだ、持っていないのだ。俺はバイパーを持ってない。俺はすぐさま部屋を出てうさみん先輩に調べてもらうことにした。

 特殊な工具で俺のトリガーホルダーを開けてもらい、装備の確認をする。そんなわけが無いと思いつつモニター画面を見つめる。小南先輩は「何なのよ……?」と再戦できないことに少しイジケ気味だが、今は放置だ。

 そんなわけが無い。そんなわけが無いのだ。俺が最後にトリガー設定を弄ってもらったのは嵐山隊へのレンタル前、鬼怒田さんに弄ってもらってそれっきりだ。そもそもバイパーなんて軌道設定すらしてない。変化しない変化弾なんて誰が使うというんだ。俺なんかが使えば軌道の線を引いてる内にやられてしまう。

 

「設定情報でたよー」

「何で無いのよ!? どんなズルしたのアンタ!!?」

 

 俺の使っていたトリガーは【ライトニング・イーグレット・アイビス・スコーピオン・アステロイド・シールド・グラスホッパー・テレポーター】で埋まっていた。やはり変化弾(バイパー)誘導弾(ハウンド)などのシュータートリガーは持っていないのだ。

 ついでに最後の10戦目をリプレイで見せてもらった。しかし、そこには俺は正面からアステロイドを放っている様にしか見えなかった。しかし、先ほどの室内ではアステロイドはカクカクと曲がる折れ線グラフの様なカーブを描いて小南先輩に直撃していたはずだ。うさみん先輩がその辺を不思議がらないのも違和感がある。

 

「アステロイドって曲げられるんですか?」

「それは無理だよー。アステロイドはストレートだけ。変化球を投げたいならバイパーとかハウンドだね」

 

 意味不明だ。うさみん先輩と話し合う中、小南先輩が怒って俺の首をスリーパーホールドし、脳天に何度も拳が振り下ろされるのを俺は棒読みで痛みを訴えている。というか痛みを感じないので本気では無いらしい。

 

「なんだか知らないけど面白そうだ。次はおれだよねネコ先輩」

「んー……じゃあ行こうか」

「ちょっと待ちなさいよ! 私も後でもう1回やるからね!」

 

 混乱で頭が回らないが、相手はネイバーだ。遊真の戦い方を知らないが、そらもう本気でやらないと駄目だろう。小南先輩とやる以上に気合が入る。遊真はレイガストで来た。全てのトリガーを使ったわけでもなく、慣れた訳でも無いだろうが、レイガストを盾のように大き目に構えるのではなく、攻撃に特化させるようにコンパクトなブレードの形状にしていたのが印象的だ。

 俺はそれをライトニングで受け止め、腰元から伸ばしたスコーピオンで遊真を貫く。結果は一撃必殺。

 

『ネコ! さっきもそうだったけど、何でライフルで受け止めるのよ!!』

 

 オペレーターマイクまで奪って小南先輩は俺に怒りの疑問をぶつけてくるが、剣戟とかを受け止められそうなものがライフルしかないのだから仕方ない。スコーピオンじゃ割られてしまう可能性があるからだ。ライフルの中でもライトニングは軽いし振り回しても無理の無い動きが出来る。そもそも接近戦はそこまで好きじゃないのだが、千佳ちゃんの使ってるトレーニングルームの方に大きくトリオンを回しているからここが狭いのは仕方ないらしい。

 2戦目が始まると遊真は高速で飛んできた。俺は対処しきれずに肩を切り裂かれトリオン露出過多でダウンした。

 

「は、はえーなー……」

「これで同点だね」

 

 遊真はニヤリと笑ってそう言った。ここからは勝たせないとでも言いたげな顔だ。しかし、その後は取って取られてを繰り返していた。結果は6-4でなんとか俺の勝ちである。遊真が使いやすいトリガーを使って、慣れた時には勝てなくなってしまうだろう。ブラックトリガーとやらを使った場合は手も足も出なくなるのではないだろうか?

 その後は師匠と弟子という関係を思い出したのか、小南先輩と遊真はトレーニングルームで再び戦い始めた。

 

「ネコでいいか?」

「あ、うん同い年だし、何組?」

 

 とりまるは再び三雲君をボコボコにして戻ってきた様で、俺と話し始めた。同じ学校で違うクラス。その辺は話の枕にして、『ネコ』『とりまる』と呼び合う仲になった。三雲君はソファーで寝かされている。

 

「内容は見て無いんだが、小南先輩から4本取ったって?」

「3本だよ。1本は引き分け」

 

「小南先輩はボーダーでもかなりの実力者だ。納得いかないか?」

「いや、強いのは分るんだけど……」

「ネコ君が納得行ってないのは勝ち方かな?」

 

 うさみん先輩が会話に参加してくる。その通りだ。あれだけ出なかった掠り傷でのトリオン供給機関破壊という一撃必殺の連続発動に加えて、アステロイドの真後ろに向かうほどのブーメランカーブ。今までと何が違ったのかが良く分からない。更に言えば、うさみん先輩が疑問視しないのも不思議だ。

 

「モニターで見る限り普通に強い戦いだったんだけどね?」

「そうっすね」

 

 とりまるは俺と小南先輩の戦闘データをタブレット端末をうさみん先輩から受け取り確認してそう言った。モニター越しには普通に見えるのか? 尚のこと異常である。そして、うさみん先輩は結論付けた。「―――自分で違和感を感じるならサイドエフェクトかもね」と。

 

「何か聞いてるんですか?」

「迅さんから少しだけね。でも『サイドエフェクトを持ってるかも』っていう可能性の話だけで、他は何も聞いてなかったんだけど―――」

 

 となると、初めて玉狛支部に来た時の後の事かもしれない。ここで仮定を一つ『トリオンの内容を変化させるサイドエフェクト』だとしたらどうだろうか? アステロイドを無理矢理バイパーなどに変更して放った。うん、しっくり来る。しかし、そうだとしたら人が吐く嘘などが分るのは何故か? ……相手の変化に気付く? うーん、近い気もするけどやっぱ違うか。

 では『トリオンの声が聞こえたりトリオンに言う事を聞かせることが出来る』……オカルト過ぎる。(そんなオカルトありえません)何て声が天から聞こえてきそうだ。人の能力の延長線上じゃないな。細胞どころか分子レベルの話になってしまう気がする。

 やっぱ『嘘を吐く』とか『相手を騙す』サイドエフェクトで間違いないのではないだろうか? 正解ならば卑劣な気がするが、戦闘においては有利に働くこと間違い無しだろう。それに一番しっくり来る感じがする。

 

「―――今までサイドエフェクトの内容が分らなかったんですけどね……」

「普通は開発室とか診断とかで分るものらしいだけど、珍しいのかな?」

「迅さんみたいな内容だと自分で理解するしか無さそうですけどね。でもその口ぶりだと分ったのか?」

 

「多分だけど……とりまるは三雲君についてるから……もう行くでしょ?」

「あぁ、行けるか三雲」

「はい、お願いします」

 

「じゃあ、小南先輩たちを待つか」

「トリオン兵なら用意できるけど?」

 

「まじっすか?」

「うん、まじ。仮想だから何でもできるよ」

 

 言われて飛び込んだトレーニングルームには見上げても頭の先が見えないバムスターがいた。

 

「大きすぎません? 天井突き破ってるように見えますけど……」

『ウチのオリジナル100mバムスターだよ』

 

 俺はとりあえず足元にスコーピオンを突き刺す。しかし、先ほどとは違い一撃必殺にはならない。デカ過ぎるからだろうか? バムスター以外で標準的なサイズでお願いすると、モールモッドが出てきた。でも……。

 

「何か色違いません?」

『女子ウケのいい『やしゃまるハニーブラウン』だよ!』

 

 『やしゃまる』とは何だ? 俺は疑問を抱きつつもスコーピオンで前足を切り落とす。しかし、モールモッドのハニーブラウンとやらは活動を続けている。とりあえず倒してみるが、さっきと今とで何が違うのだろうか? トリオン兵には効かない? いや、そんな事は無い。見える範囲で別の部位の裂傷は起こっているし、開発室でのバムスターだって確率が低いだけで供給機関の破壊は起こっていた。対人戦の発動率が高い? だとしても謎だ。そうこう考えてるうちに新しいモールモッドが出てきた。

 

「……今度は黒いモールモッド」

『やしゃまるブラーック!』

 

 溜息を吐いた時にモールモッドとは思えないほどの速い斬撃が俺の胴体に襲い掛かった。俺は真面目にならないと不味いと思いながらテレポーターで何とか避けて、狙いの定まらないライトニングで何とか後ろ足を撃ち抜いた。するとモールモッドのブラックは供給機関破壊で沈んだ。何が違う? テレポーターを使えばいいのか? そして、次に出てきたのはピンク色だった。

 

「あの……」

『やしゃまるブラックのことが気になっているが生き別れの兄妹だということはまだ知らない『やしゃまるピンク!』』

 

 ピンクは少し小柄だった。普通のモールモッドよりも性能が全体的に低い感じだ。女子か。俺はテレポーター直後の攻撃や小さな相違点を考えつつ攻撃するが供給機関破壊にはならない。

 

『ネコ君、私の最高傑作『やしゃまるゴールド』いくよ!』

 

 考えが纏まらない内に現れたのは金色のモールモッド。うさみん先輩曰く、圧倒的なパワーと装甲とのこと。つまり硬い上に斬撃も強いと言うことらしい。実際に一度やられた。ライトニングで受けようものなら吹っ飛ばされ、グラスホッパーで体勢を立て直す前に空中で斬り裂かれた。

 

「マジでつえぇ……」

 

 俺は今までと違って余裕が無いと判断し本気で仕留める事にした。―――すると。スコーピオンで斬撃を少しだけでも受け止められたらと思い防いだら、金色の刃がバターの様に斬り落とせた。しかも供給機関破壊での一撃必殺だ。

 

「……あのーうさみん先輩。もしかして、この金色の奴は前足が弱点とかですか?」

『明確な弱点は眼だけだよ? 今のも眼を攻撃したんじゃないの? それでも頑丈にプログラムしてあるんだけどなー』

 

 じゃあ今のはサイドエフェクト成功と言うことか。何が違う? 余裕が無いことか? ……そうなのか? 俺はうさみん先輩に一度に10匹ぐらい用意できるか確認すると、通常のモールモッドなら用意出来るらしい。うさみん先輩が残念そうにしているが、『やしゃまるシリーズ』を10体用意出来ないのが残念らしい。「戦隊モノみたいにとりあえず5色に増やせばいいのでは? ピンクはいるから4色か……」と進言すると『それだ!』と今後のやる気につながったようだ。俺は戦わないけどね。

 

 俺は余裕が無いと思い込むように集中してモールモッド10体に挑んだ。そして、一気にアステロイドの雨を降らせれば全てが一撃必殺。アステロイドを使用しない状態で再挑戦してもライトニングだろうが、スコーピオンだろうが、一撃必殺になった。気持ちの問題と言うことか? 俺はトレーニングルームを出て考える。小南先輩がスリーパーホールド掛けようが、陽太郎に「食べていいのか~」と、どら焼きを目の前でチラつかされようが、集中して考える。

 

 

 

 ―――相手を騙すとしたらどうするだろうか? 嘘をつくとはどういうことだろうか? 何故、人は嘘の情報を信じ騙されてしまうのか?

 

 それは多分、騙す側が考えることから始まる。どんな嘘を付くか、どうすれば相手を信じさせることが出来るか、何も考えずにいきなり『私は、神だ』と言って信じる人はいない。良くて笑われる程度のこと。裏付けとなることや、信じるに値する何かが無いと信じられないだろう。嘘だと最初から分ることはただの嘘であり、嘘を見抜かせないことに成功した時点で騙すことになり、そのまま墓場まで持って行けるほどの事であればその人にとっては本当のことになるのだろう。嘘で隠された真実があったとしてもだ。だから俺が相手を騙すとしたら明確な本気の考え(イメージ)が必要だと言うことだ。

 サイドエフェクトが気になりだしたのは開発室での会話の中で初めてサイドエフェクトと言うものを聞いた時からだ。しかし、その場では自分のサイドエフェクトが何なのか分らなかった。そのヒントをこの前の夜に迅さんから教えてもらった。相手に影響を与えるもの。相手が嘘を付いていることに違和感を感じるのはその副産物。

 違う視点から考えてみよう。今までは深くまで考えるのを放棄していたが、1.5倍の攻撃とはなんだろうか? 相手に影響を与えると言う情報を信じるのであれば、相手のトリオン体、もしくはトリオン能力に何か異常を与えるということだと仮定できる。それが騙しという事を繋げれば答えは『この攻撃は通常より痛いモノだ。だから他の場所も傷付くのだ』と錯覚させるようなものだろう。1.5倍と言っても誤差の範囲とはいえダメージに差はある。

 では、この1.5倍攻撃が発動しない時があるのは何故か? 人は常に相手を騙すことを考えてはいない。俺が防衛任務でトリオン兵と相対するときの心構えとしては『如何に怠けて金を稼げるか』だ。勿論考えない時もあるけど、1発で終わればいいなーとかそういう願望は持っている。その想いが1.5倍攻撃になっているとすれば、まぁ納得することは出来る。勿論俺自身が思いも寄らない思考が働いてるかも知れない。

 迅さんの未来予知が効き難いのも俺の(無料(タダ)で視てんじゃねーよ金取るぞ)という気持ちや、迅さんを信じ切れていない気持ちがそうさせているかもしれない。

 

 考えを小南先輩や遊真との戦闘に移そう。あの時は余裕が無いというよりは本気で仕留めようと考えていた。だから発動した。いや、少し違う。その先があるはずだ。サイドエフェクトを使いこなす、もしくは把握するためには、『本気で仕留めるにはどうするべきか』を考える必要がある。

 相手が攻撃してくるのは当たり前だ。相手の攻撃で自分が倒れることもある。勝った時の事だけ考えよう。

 相手に手出しさせないためにはどうする? 俺は自分の1.5倍を知っている。だから当てればいいと言う考えがまず働く。俺の攻撃を当てるにはどうする? 掠るだけでもいいから手数が大事になる。その中で一発で倒れろと考えながら攻撃する。この思考が一撃でトリオン供給機関を破壊するのだろう。

 その間にやられないようにするには? 距離を取る。テレポーターで逃げる。テレポーターでも位置を錯覚させたのは騙したからだ。後方を確認して飛べば後方に行く。それを自分の後ろに出てくるぞと思わせたのは騙したからだ。

 アステロイドが曲がったのは? 当たれと願い、アステロイドは敵は逆だと言われ、一直線にしか飛べないわけがない(・・・・・)と深層心理でアステロイドを騙したからだ。

 

 ―――あ゛ぁ~~~~やっべぇぇぇ……すっごいスッキリするぅぅぅ。

 

 ―――つまり、俺のサイドエフェクトは『トリオンを騙す能力』ということになる。対象がトリオンでもトリオン体でもトリオン兵でも関係ない。相手がトリオン能力を持っているならば騙せるといっても過言ではない。

 俺が(こんなの信じないよなー)と言う気持ちなどで嘘を吐く、そのイメージで攻撃しても意味が無いということだ。考え無しの嘘や分りきった嘘だと効果が無い。もし何でもOKだと言うなら俺は嘘を付きまくって超一流の詐欺師になってしまうだろう。……楽して生きて行けるのならそれも悪くないが、それで生きていけるほど図太くない。親にも顔向けできなくなるのは人として駄目だ。

 

 『騙しのサイドエフェクトではないだろうか?』と考え始めてから今まで時間が掛かったのは俺すらも騙されていたからでは無いだろうか? そう考えればすっきりする。なるほど、このすっとする気持ちが騙し解消なのかもしれない。サイドエフェクト能力者すらも騙すとか凄い能力だが、解けてしまえばなんてことは無い。あー気持ちえぇー。

 

 

「何てことだぁ~ぁぁ謎がぁ~謎が解けてしまったぁ~」

「あ、動いた。ネコ君、『考える人(ロダン)』状態から長かったねー。もう18時半過ぎだよ」

 

 言われて時計を見ればそれぐらいになっていた。外も暗い。どんだけ俺は考えていたんだ。三雲君も遊真もまだトレーニングルームにいるらしい。トレーニングルームならトリオンも気にしなくていいけど精神的に疲れないのだろうか? 頑張り屋さんのレベルではない。そういえば千佳ちゃんは? と、思ったところでレイジさんが帰って来た。

 

「レイジさんおつかれさま~」

「お疲れ様でーす」

「雨取はどこ行った? もう家に帰ったのか?」

 

「千佳ちゃんですか? そういえばまだ出てきてないですけど」

「!?」

 

 レイジさんは猛ダッシュでトレーニングルームに向かっていった。少ししたらレイジさんと共に戻ってきた。ずっと撃ち続けていたらしい。俺が見に行ってから6時間ぐらいか? それだけ撃ち続けても千佳ちゃんはトリオン切れになってないって事か……すげートリオン能力なんだろうな。

 

 と、そこに戻ってきた小南先輩と遊真。ふふん。もう俺は最強なんだぜぃ? そう思って小南先輩に10本勝負を1回だけお願いすると。待ってましたとやってくれた……のだが、0-10でボコボコにされた。

 

「弱くなってるじゃない!? さっきのは何だったのよ!?」

 

 だ、駄目だ。『俺最強』と考えたら思ったように動けずに終わった。イメージが完全に慢心として俺の身体を騙したらしい。まだこの能力に慣れるには時間がかかりそうである。

 

 

 




◇ネコのサイドエフェクト
『トリオンを騙す』サイドエフェクト。その効果は個人に留まらず、トリオン能力を持つ相手、トリオンで出来ているものも騙せる。だが、どう騙すのかなどを深いレベルで意識しないと効果が出ることは少ない。
テレポーターの時の出現位置もネコが目線を離していないと小南のトリオン体が視覚を騙されたため。

◆そんなオカルトありえません
アニメ『咲-saki-』より、清澄高校の原村 和の名言。

◇「何てことだぁ~ぁぁ謎がぁ~謎が解けてしまったぁ~」
TVドラマ『ST赤と白の捜査ファイル』より赤城左門(藤原達也)の台詞。映画化もしてどちらも面白かったです。他の俳優陣も良い味出してます。

◆やしゃまるシリーズ
ネコの進言により、4色は増えるかも? 今後出てくるかは怪しい。


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