Medal of Honor Silver Star   作:機甲の拳を突き上げる

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6話 野菜

ガリア義勇軍第3中隊訓練所では今日も声が上がっていた

 

「こぉらっ!蛆虫共!もっと声を出して走れ!」

 

歩兵重装備にガリアン-1等の銃を持ち走っているガリア義勇兵はヘロヘロになりながらトラック走っている中、教官である『鬼軍曹』のあだ名を持つ眼帯をした男カレルヴォ・ロドリゲツは今日も声を張り上げる

 

「なにをチンタラ走っている!奴らを見習え!」

 

軍曹が言う奴らとは・・・・いわずと知れた

 

「フーア!」

 

戦闘を走っている1人が声を上げると

 

フーア!

 

後ろを走っている皆が大合唱のごとく声を上げる

 

そう、アメリカが誇る第75レンジャー連隊のメンバーに加え

 

「マリーンコ!」

 

その後ろ走るのは海兵隊もレンジャーに負けず大声を出して走る。彼等も歩兵重装備に銃を持ち走っているが、義勇兵の外側を誰もへたることなく走っていた

 

「奴らに出来てお前達に出来ないはずがない!さっさと走れ!」

 

そう言い聞かせ走らせるが、片や厳しく過酷な訓練を受けたレンジャーに海兵隊、片や最近集められた新兵の集まりでは明らかに錬度が違い酷な話である

 

そんな男達と第3中隊の面々が走っている最中でも状況は変化する

 

会議室に召集されたのは、AFOの両部隊に第7小隊の下士官達だった

 

「あーあ、腹減ったぜ、ったく、こんな昼飯時に召集なんてよ・・・・・・どこ行ったんだ、隊長はよ」

 

ラルゴは会議室に椅子に座りながらグチをこぼしていた

 

「街まで出かけているみたい。それにしてもラルゴはお腹が減るとすぐ機嫌悪くなるんだから・・・・・・」

 

目の前の席に座っていたアリシアが咎めるように言うと

 

「ギュンター少尉の外出許可を出したのは私だ。だから今回は許してやってくれ」

 

上座の席に座っているバーロット大尉がそう言うと

 

「了解しましたよ、大尉殿」

 

降参したように手を上げる

 

「まぁ、分からんでも無いがな」

 

マザーは笑いながら

 

「彼女の作る食事は美味いからな、愚痴を言いたくもなるだろ」

 

アリシアとアメリカ兵の食事当番のメンバーが共同で食事を作った時に、アリシア特製のパンを食べた時は全員から好評だったのだ

 

「そうですね、アリシアが作ったあのパンは絶品でしたし」

 

ラビットも笑いながら言うと

 

「あの時は皆が喜んで食べてくれて、こっちも嬉しかったですよ」

 

その時の光景を思い出したのか、笑顔で答える

 

「パン屋で働いていたのか?」

 

ブードゥーが尋ねてみると

 

「ブルールでパン屋に住み込みで働かせてもらってたの」

 

それを聞いてブードゥーは納得したように

 

「なるほど・・・・・・そりゃ旨い訳だ」

 

と頷いた。だが、アリシアの表情が笑顔から非想というか同情的な表情になり

 

「それに・・・・・・あれを食べてると思うと・・・・・・可愛そうになって」

 

アリシアが指すアレとは・・・・・・アメリカ軍が違う意味で誇るレーション・・・・・・あの"食べ物に似た何か〟と呼ばれるほど・・・・・・クソ不味いMREレーションである

 

「あれってなんだい?」

 

何もしらないロージーが聞いてみると

 

「知らない方が幸せさ・・・・・・あれはな」

 

いくら改善されているとはいえ、あのレーションの味に馴れてしまったメンバーは遠い目をしていた

 

「遅れて済みません!」

 

会議室のドアを開けて現れたのは肩で息をしているウェルキンである。その様子からみて走ってきたのが分かる

 

「急に呼び出してごめんなさい。作戦会議を始めるから座りなさい」

 

大尉に言われるままウェルキンは空いてる席に座ると、アリシアが水の入ったコップを渡した

 

「ありがとう」

 

その水を飲み干したのを見ると

 

「最近、市場の食品価格が高騰しているのわしっているかしら?」

 

大尉は話をし始めた

 

「そいえば、軍の食堂で働いている方が野菜の値段が高くなったと言っていました」

 

イサラが思い出したかの用に言うと

 

「食料生産地、特に野菜の生産地からの輸送経路を帝国に抑えられたのが原因よ」

 

原因の説明をしていると、音を出しながら立ち上がったのは

 

「なんだって!?」

 

ラルゴだ

 

「野菜って言われてもなぁ・・・・・・いまいち危機感がわかないね」

 

ロージーは野菜が不足していて何が問題なのかそこまで理解できていない様子だが

 

「お前、野菜の力を舐めるなよ!」

 

それに反発するかのようにラルゴがロージーに詰め寄る

 

「な、なんだい!急に!」

 

ラルゴの気迫にロージーは驚きながらジリジリと後退していく

 

「野菜の中にはな、体を作るための栄養素がたっぷり詰め込まれてんだ!子供の成長を助ける役目もするし、人間の体は野菜で造られてると言っても過言じゃねえんだ!そもそも野菜嫌いな子供が多いのは野菜の本当のおいしさを知らないからだ、何よりいのは自分で育てた野菜を食べさせるのが・・・・・」

 

ロージー相手に演説みたくラルゴが述べているが

 

「・・・・・・現在、ヴァーゼル近郊にある村が帝国の部隊に占領されている。この村は先程の通り食料輸送経路における要所の1つ、第7小隊と貴方達に帝国部隊の排除を頼みたい」

 

それをスルーし説明を続ける大尉

 

「敵の数は?」

 

詳しい情報をマザーが尋ねる

 

「歩兵の数は少ないようだけど、戦車が確認されている」

 

その情報に対し

 

「なら第7小隊だけで十分ではないのですか?」

 

パンサーが疑問を口にする

 

「その程度の規模ならエーデルワイス号のある第7小隊だけでも鎮圧が可能のはずでは?」

 

歩兵の数が少ない、これは敵の規模は1個小隊もしくは分隊程度の数に対し、第7小隊だけではなくアメリカ軍も出すのは過剰戦力とも言える話だ

 

「中尉達を呼んだのには理由がある。その村には避難できなかった住民がおり彼等を巻き込まないよう今回の作戦では戦車を出さず、少数の歩兵にて隠密かつ迅速に遂行しなければならない」

 

それを聞きパンサー達は呼ばれた理由を理解した

 

「貴方達はこういう任務のスペシャリストと聞いたわ。だから、今回の作戦に参加してもらいたい」

 

パンサーはそれを了承した

 

「しかし、そうなると我々だけでいいのでは?」

 

今回の任務は迅速に敵を排除する必要があり、それゆえに少数精鋭が好ましく敵兵に発見されれば増援を呼ばれ厄介になる。パンサーは自分達が呼ばれた理由は分かった、しかし第7小隊のメンバーを呼ぶ理由はなにか?それを考えていると

 

「第7小隊を呼んだ理由は対戦車兵に信頼できる人物がいるのと、ギュンター少尉に現場で作戦指揮をとって貰うため」

 

パンサーの考えが分かったのか、大尉が第7小隊を呼んだ理由を話した

 

「え!?僕がですか?」

 

ウェルキンは自分の名前を言われて驚くと

 

「この作戦は第7小隊が主導でするものである彼等にはサポートに徹して貰う、戦車が使えないからと後方で待機しとくのは指揮官としてあるまじき発想よ」

 

大尉の説明にウェルキンが納得し、作戦の概要を伝え終わると

 

「よっしゃ!帝国の野郎共に野菜の恨みを思い知らせてやるぜ!」

 

なにやらラルゴはやる気十分なのだが

 

「食べ物の恨みじゃないのか・・・・・・」

 

1人ツッコミをいれるデュースだった

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

夜も深まり深夜のヴァーゼル郊外、村を占拠し巡回をしている帝国兵がいた

 

「うぅ・・・・・・寒いな、トイレトイレ」

 

春と言えど、まだ夜は寒い。そんな時期に尿意を感じた帝国兵が草陰に隠れて用を足そうとしていた

 

「ふぅ・・・・・・」

 

間にあったのか、草陰に隠れて用を足していると、突然倒れた

 

「エネミー、クールダウン。クリア」

 

暗闇に隠れ気配すら察っすることをさせずに目標を沈黙させたのはラビットである。今回の作戦ではAFOウルフパックでは無くAFOネプチューンが任務に就いた

 

「よし移動するぞ」

 

ラビットと共に敵地に侵入していたブードゥーが次の狙撃地点へ移動する。その間にウェルキン達が先を進む

 

「帝国の野郎共め、野菜の恨みを思い知らせてやる!」

 

隠密行動をしているのにもかかわらず、ラルゴは声を上げて言う

 

「静かにしろ、増援を呼ばれたらどうする!」

 

声のトーンを落してマザーが注意すると、ラルゴは申し訳なさそうに謝る

 

「えっと・・・・・・今回の作戦は敵の後ろ側に込んで戦車を破壊するのよね?」

 

ウェルキンの護衛として連れてきたアリシアが作戦の自己確認するかのように聞くと

 

「そうだ、今回の作戦はいわば潜入任務だ。敵に気付かれることなく目標を破壊する、これが鉄則だ」

 

マザーがそう言いながら移動していく

 

≪マザー、戦車を発見した。数は2≫

 

無線からブードゥーの報告が入り、マザー達は物陰に隠れた

 

≪場所は?≫

 

マザーが戦車の現在位置を確認をする

 

≪バリケードの後ろだ。丁度後ろから回り込めばトップアタックができる≫

 

その報告に考えることなくマザーは

 

≪なら予定通りだ、ブードゥーとラビットは其処から援護しろ≫

 

作戦に変更の無いことを伝えると

 

≪了解マザー、ここで援護する。アウト≫

 

ブードゥーからの無線が切れる

 

「俺が先行する。ブリーチャー、お前は最後尾で警戒しろ。俺が合図するまで撃つなよ」

 

切れると同時にマザーが指示を出し、移動を開始する。壁を這うように移動し、なるべく足音を鳴らさないようにして移動していると曲がり角に着いた

 

マザーが角から僅かに頭だけ出し、前方を確認すると・・・・・・2人の帝国兵が焚火の近くで暖をとっていた。それを見て、マザーは身を戻し無線を入れる

 

≪前方に2人、やれ≫

 

無線で指示を出し、確認のため先程の用に僅かに身を出すと、帝国兵の1人が頭を撃ち抜かれて倒れていた。傍にいたもう1人の帝国兵が目の前で仲間が突然狙撃され、思考に一拍の空白ができた

 

そして、仲間が撃たれたことを認識し、非常事態だと思った時には既に永遠の眠りにつかされていた

 

≪エネミー、ダウン。クリア≫

 

無線から排除完了の報告がきた

 

≪了解、移動する≫

 

マザー達は再び移動を開始する。壁沿いに進んでいると少し開けた場所があった、壁に身を隠しながら覗きこむ様に確認する・・・奥には坂道があり、そこから回り込むことが出来ると。だが、そこには見降ろす形で造られた機銃座があった

 

坂道に行くまでに土嚢で造られた簡易陣地や、壁などで身を隠せる場所はあるが、機銃座を破壊もしくは無力化することには前に進むのは困難である

 

≪こちらマザー、前方に機銃座を発見した。そこから狙えるか≫

 

無線で機銃座の無力化を要請すると

 

≪いま移動中だ、少し待ってくれ≫

 

ブードゥー達が別の狙撃地点に移動中であり、その場で周囲を警戒する。だが、じっと待つのが苦手なのか・・・ラルゴがそわそわし始める

 

「・・・・・・少し落ち着け。いまラビット達が狙撃位置に向かっている」

 

そわそわしているラルゴにブリーチャーが注意するが

 

「だがよ・・・こんな所でもたついてんなら、俺が銃座を破壊するぜ」

 

そんなに戦車を破壊したいのか、それとも野菜の為なのかは不明だが、さっさと前に進みたいのは嫌と言うほど伝わってくる

 

「それで爆発音が聞こえ帝国兵が増援呼んでみろ、さらに野菜が手に入らなくなるぞ」

 

そう言われると、ラルゴも大人しくするしかなかった

 

「その鬱憤は戦車にでもぶつけろ」

 

フォローを入れてから周囲の警戒に集中すると

 

≪こちらブードゥー、狙撃位置に付いた≫

 

狙撃地点に到着した報告がはいる

 

≪前方の銃座に1人、排除しろ≫

 

すぐさま無線で敵の無力化を要請する

 

「ラビット、見えるか?」

 

M110のマウントに取り付けてあるナイトスコープから目標を覗く、暗闇な広がる中でそのスコープ内は黄緑に見える、そこから目標である銃座の帝国兵を見つけ照準を頭に定める

 

ナイト・ビジョンで目標を確認しているブードゥーが小声で「やれ」と言う。その声の聞き1秒も満たない時間で引き金を引く、銃口に取り付けられたサプレッサーがM110の銃音と閃光を軽減させ遠くにいる帝国兵はその音に気付くはずがなく、被っていた鉄のヘルメットごと貫通し排除に成功した

 

マザーは無線で要請した後に機銃座の方を確認すると、ラビットによって頭を撃ち抜かれた帝国兵が前のめりに倒れるように落ちた

 

≪排除完了≫

 

ブードゥーがマザーに報告する

 

≪よし、こちらと合流しろ≫

 

すぐさま無線でマザーは指示を出す

 

≪了解、合流する≫

 

マザーの指示に従い、ブードゥーとラビットは森の中を進む。機銃座を無力化によりマザー達も先を急ぐ

 

周りを警戒しながら進み、坂道を登り切ると森の中を移動していたラビット達と合流した

 

建物に近くに身を隠す、目の前には偵察兵と対戦車兵が見張りに立っていた。マザーは無線を使わず、ブードゥーとブリーチャーにハンドサインを送る

 

ハンドサインの指示に2人は頷き、足音を鳴らさないよう慎重に敵兵に近づく。その手には銃ではなくナイフが握られている、敵兵はなにやら話している様子だったがそれが命取りになった。突然口を押さえられ、驚きにより体が硬直、抵抗する暇も無く後ろに倒され、後頭部の激痛で意識がはっきりするが、その時には喉にナイフを突き刺されていた

 

ブードゥー達がナイフで敵兵の息の根を止めると、それを見ていたマザー達がすぐさま前進する

 

「ラビットとブードゥーはウェルキン達と周囲を警戒、ブリーチャーとラルゴは俺と戦車を無力化する」

 

マザーからの指示に皆が素早く行動する。ラビット達がウェルキンとアリシアと共に周囲を警戒し、残りが戦車の撃破に向かい戦車の上をとった。マザーはラルゴの方を向き

 

「やれ」

 

と簡素に伝える。それにラルゴは口に笑みを浮かべ

 

「くらえ!帝国野郎共が!野菜の恨みだ!」

 

叫ぶように言いながら対戦車槍をラジエーター向けて発射。それは狂うことなくラジエーターに命中し爆散した

 

目の前で戦車が爆発し、後ろにいたもう一台の戦車の中では恐らく何が何だか分らなくなっているのか、すぐに動きださなかった

 

それを見逃すはずがなく、再装填したラルゴはラジエーター目がけた発射。見事戦車を破壊した

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

村を奪還し、離れた所で待機していた第7小隊のメンバーが村に入り事後処理を行っていた

 

「よしっと、これで野菜不足も解消されるね」

 

直接戦闘はしなかったが、敵に気付かれてはいけないと言う精神的に疲労していたウェルキンは少し休んでいた

 

「おう。俺の実家はな、農園を経営してたんだよ。だから今回のことも他人事じゃないきがしてなぁ」

 

隣にいたラルゴも一緒に休んでおり、今回の作戦に執着した理由を喋りだした

 

「小せぇ頃から収穫や出荷作業の手伝いしてたから、野菜に囲まれて育ったんだよ。野菜はよ、本当に優秀な食べ物なんだぜ?摂れば摂るほど健康になれるんだからな」

 

そう言うラルゴの表情は穏やかだった

 

「僕もそう思うよ。野菜は他の食物では補えない栄養も多い。それにさ、野菜を食べることは体に自然の力を取り込んでるのと同じだと思うんだ」

 

ウェルキンは真剣な表情をしながら

 

「野菜ってさ土壌や日光に微生物などの自然の力を直に受けて育っているだとろう?それを食べるってことは、自然の力を直に取り入れてるってことになるんじゃないかな」

 

その説明にラルゴは

 

「・・・・・・はっはっは!!そんな大層な野菜の解釈、始めて聞いたぞ!」

 

声を出して笑った。それはバカにした笑いではなく嬉しそうな笑いであった

 

「・・・・・・なぁ隊長。つまんねぇ話かもしれないが聞いてくれるか?」

 

笑っていたラルゴの表情が少し憂いに満ちた表情になった

 

「俺はよ、潰れちまった実家の農園を立て直して野菜専門の農園を作りたいと思ってるんだ。いつも槍をぶちかましてるムサイ男が野菜作りなんて・・・・笑っちまうだろ」

 

ウェルキンに背を向け照れたながらも言うと

 

「そんなことはないさ」

 

ウェルキン達の方に歩いてくるのはマザーだった

 

「スマンが話を聞かせてもらった。お前の野菜に対する情熱は本物だ、そんな奴が作る野菜なら美味い筈だ」

 

笑顔で白い歯を見せながら言うが

 

「ただ、戦争中でそんな話をするのは止めておけ、そんな話をして次の日に死んだ奴を見たことがある」

 

そう言うとウェルキンとラルゴの表情が引き攣ったような表情になる

 

「それはそうと、ウェルキン」

 

マザーがウェルキンの方を向き

 

「鹵獲した機銃座だが、あれは俺達が貰ってもいいか?」

 

親指でその方向を指すと、そこではラビット達と支援兵が機銃の状態を確認していた

 

「いいけど、何に使うんだい?」

 

それを了承するが、何に使われるのか疑問に思ったウェルキンが聞くと

 

「なに、見てからのお楽しみさ」

 

マザーは、そう笑いながら機銃の方に向かう。それに首をかしげるウェルキンとラルゴであった


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