Medal of Honor Silver Star 作:機甲の拳を突き上げる
エーデルワイス号の傍、空に響く銃声、一瞬の空白、誰もが何が起こったのか分からなかった
「……え?」
その声と共にアリシアが倒れたことから事態が動き出す
「スナイパー!」
マザーが叫び、アリシアをエーデルワイス号の陰に隠す。マザーの声を聴きM110を持ったラビットとM4でスナイパーを探すブードゥーとダスティー
戦車から飛び降りたウェルキンがアリシアの身を案じていた
「いったい何処から撃ってきたんだ」
スコープで敵スナイパーを探すラビットが汗を流しながら必死で探す。まだ狙っているのなら必ず何処かにいるはずだと思いながら
アリシアが撃たれた所をガーゼで抑えながら止血をする。いま衛生兵が向かっていると無線で連絡が入るが、マザーは別のことを考えていた
「(何故アリシアが撃たれたんだ?戦車長であるウェルキンが身を出していたのに、それを無視した。敵の狙いは小隊長であるウェルキンではなく一兵士に過ぎないアリシアであるということなのか?)」
考えが頭の中を駆け巡っていたが、一先ず置いといて行動に移すべきだと判断する
「ウェルキン、直ぐに撤退するぞ。ここは危険だ、アリシアも搬送しなけりゃならん」
そばでアリシアが撃たれたことに狼狽えているウェルキンを揺さぶる
「アリシア!」
まだ狼狽えているウェルキンだが、マザーが一発殴る
「落ち着け!ここで騒いでも様態は悪くなるだけだ!すぐに兵を集め後方に撤退するぞ」
殴られたことで幾分か落ち着いたのか、ウェルキンは頷き撤退の準備をし始める。マザーもアリシアを衛生兵に任せ、撤退の準備をし始めた
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野戦病院に着き、アリシアはベッドに寝かされていた
「アリシア……」
ウェルキン達第7小隊の面々がアリシアの病室で辛い表情をしていた
「アリシアですが、幸いに急所をはずれ命に別状はありません。けれど、重傷には違いなく今だ意識不明の状態だそうです」
野戦病院の外で待っているマザー達だが、ラビットがアリシアの容体の情報を仕入れ、報告していた
「そうか……ラミレス、お前のとこが偵察した時には帝国兵の姿はなかったんだな?」
共にいたラミレス中尉に尋ねると
「あぁ、この区域はチャーリーとホテルの分隊を偵察させていた。家の連中が見落とすとは思えないのだがな……」
それはマザーも同意見だった。フォース・リーコン……海兵隊武装偵察隊といえば海兵隊の中で最も厳しいと言われるほどの訓練をする部隊だ。それも戦場に出たことのないルーキーではなく幾度の戦場を生き抜いてきた兵士だ、絶対とは言えないがその彼らが偵察で敵兵を見落とす可能性は低いと言えた
「帝国の特殊部隊かもしれんな……だが、問題は何故アリシアが撃たれたかだ」
いまの問題はアリシアが撃たれたのもあるが、敵の狙いである
「何故、敵の狙撃兵が小隊長であるウェルキンを狙わなかったかだ」
帝国兵の間でも『規格外』と呼ばれる戦車『エーデルワイス号』を持ち、常勝し続けている第7小隊の小隊長であるウェルキンがいたにも関わらずだ
「敵が小隊長をアリシアと思った線は?」
敵が小隊長を間違えたのではないかとラミレスが言う
「いや、その可能性は低い。ウェルキンは戦車に乗っていたし、敵にも小隊長が誰なのかの情報は回っていても不思議じゃない。敵が小隊長ではないと知っていながらアリシアを狙撃した可能性が大きい」
ダスティーが今の状況と情報で判断する。ダスティーが独自の情報網で敵の中隊長レベルなら直ぐに顔と経歴の情報を仕入れられる。帝国の情報部がここまで有名な義勇軍の小隊長の顔と経歴を知らないのは少し不自然と言える
「なら、なぜ彼女は撃たれた?こう言っちゃなんだが、あの場で価値のない彼女が撃たれる理由が俺には思いつかない」
ラミレスの言った価値のない、あの戦場ではある意味正しいと言える。彼女は怪我人を治す衛生兵であれば、まだ狙われる理由も分かる、だが一偵察兵にすぎないアリシアが狙われるのなら、傍にいたマザーの方が貫録もあり狙われる対象になりやすそうだったのにだ
「……敵ではなく味方の可能性は?」
ふとダスティーの言った言葉にこの場の空気が下がる
「味方に?そんな馬鹿な、彼女は誰かに嫌われるタイプじゃない」
真っ先に反対意見を言ったのはラビットだった
「いや、可能性としてはあるかもな」
ダスティーの意見が外れてないと言ったのはラミレスだった
「いまやガリア軍の代名詞といえるのが義勇軍であり、第7小隊だ。彼らの活躍を好ましく思わないのは?」
そう尋ねるとマザーが忌々しそうな表情をしながら
「正規軍か」
それにラミレスが頷く
「そうだ。義勇軍が活躍をする中、正規軍の活躍はそこまで聞かない。義勇軍ばっかりが活躍してるから上から嫌味や何やらを言われ、その怒りの矛先が」
ブードゥーも舌打ちしながら嫌そうな顔をして
「第7小隊、しいてはウェルキンに向けられた……って訳か」
そこまで言われて後の行動は分かる。ウェルキン本人ではなく副官であるアリシアが狙われ、第7小隊への嫌がらせと憂さ晴らしと言う線が見えてくる
「な……何だって!」
野戦病院からウェルキンの驚く声が聞こえ、それに驚いたマザー達は急いでアリシアの病室に向かった。そこでは衛生兵に肩を掴み問いただすウェルキンの姿がった
「それじゃぁ……アリシアは味方に狙撃されたというのか!?」
肩を強く握り問いただすウェルキン、それに焦った様子の衛生兵が慌てると
「落ち着けウェルキン!」
ブードゥーとラビットが掴んでいた腕を離させ、ウェルキンを抑える
「すまないが、詳しく聞かせてくれないか?」
マザーが衛生兵に改めて話してもらうよう言う、それに衛生兵は頷いた
なんでも、アリシアの体内から取り出された銃弾はガリア製の新型狙撃中のようで、銃弾も一般には渡っていない新型狙撃銃用の特殊な弾丸だと言うのだ。そしてこれらから味方に撃たれた線が最も強いと確信できる証拠になった
「しかし、何故こんな身元が特定されやすい銃で撃ったんだ?」
マザーが摘出された弾丸を見てポツリと言った。後ろ弾をするにしても量産されているモデルではなく、出回っていない新型狙撃銃の、しかも特殊弾頭なんてもので撃ったのか?これでは犯人特定など簡単に出来てしまうのも関わらずに
「なぜだ……なぜ、アリシアが味方に撃たれる必要があるんだ!?」
味方に撃たれたのが相当ショックだったのか、ウェルキンは声を荒げる。それを何とか落ち着かせようとするラビット達。10分後、なんとか落ち着かせたウェルキンと共にマザー達も自分の部隊へ戻って行った
……そして夜が更けた頃、アリシアの病室に誰かが現れた。アリシアの傍に近づき、蒼い宝玉が埋め込まれた白い螺旋状の物体を傍に置いた。すると、宝玉が輝きだし蒼い炎がアリシアを包む。アリシアが起き上がる、その髪は銀色に輝き、眼は真紅に染まっていた
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翌日、司令部が再び総攻撃を仕掛けるという寝言をほざきだし、再びナジアルで両軍がぶつかり合う
それを聞いたマザーは、これは不味いと無線でレンジャーへの救援要請を入れるレンジャー50名を乗せたチヌークが戦闘前に到着し合流、総勢74名のアメリカ兵がナジアルに参戦した
そして戦いの幕が開け……ガリア軍が劣勢を強いられていた。帝国の物量に加え、その先頭にはヴァルキュリアであるセルベリアの姿もあり、ガリア軍の士気はガタ落ちであった
「ガリア軍に告ぐ!今すぐ武器を捨て降伏せよ!さもなくば……ナジアルは血に染まる大地に化すだろう!」
セルベリアがヴァルキュリアの矛先をガリア軍の方に向け降伏勧告をする。それに伴い帝国兵が雄叫びを上げる
それを目の当たりにしガリア軍が瓦解するまで秒読み段階になったその時、異変がおきた
「お、おい……あれを見ろ」
ガリア兵の1人が声を震わせながら後ろ指差したそれに釣られ他の兵士も後ろを向くと信じられない光景があった。そこにいたのは……アリシアだった
「そ……そんなバカな!」
ウェルキンが戦車のハッチからアリシアの姿を見て信じられないと思った。いや、ウェルキンだけではない、第7小隊の面々やアメリカ兵達も自分の目を疑った
「俺は夢でも見ているのか……昨日撃たれた筈のアリシアが……あれじゃまるでヴァルキュリアじゃないか」
ブードゥーも唖然とその光景を見ていた。アリシアが蒼い炎に包まれ、髪が銀色になり、目が深紅に染まり、その手には螺旋状の槍と盾を持っているのだから
「それなら俺はお前と同じ夢でも見ているのか……帝国側にいるヴァルキュリアと瓜二つじゃないか」
ラビットが何とか漏らすように言う。この光景を受けいれるには余りにも現実とかけ離れすぎていた
アリシアはまるで幽鬼のような足取りで前へ前へ歩き、その表情は虚ろとしていた
「貴様もヴァルキュリアだと言うのか」
セルベリアはアリシアを睨み付け構える
「ヴァルキュリアは2人もいらぬ……消えろ!」
そう言い、セルベリアはアリシアに襲い掛かった。跳躍からの降り下ろし、通常の人間なら反応することも出来ずに塵となっていただろう。だが、アリシアはそれを紙一重で避けて見せた
「なっ!?」
セルベリアの表情が驚愕に染まる。直ぐにアリシアを睨み付け横に一閃、だがそれもアリシアは跳躍し避け、空中で体制を直し着地する。更にそこへセルベリが仕掛ける……すると、アリシアの目が輝きだし槍を抱きしめる。槍の部分が鋭く飛び出した
迫りくるセルベリアの攻撃を弾き、避け、唾迫り合いになる。アリシアの槍はまるでレイピアの用に細いにも関わらず、セルベリアの槍を難なく受け止める。そして、セルベリアは力負けし弾き飛ばされる
「おのれっ!」
槍が蒼く輝き、地面へと振り下ろす。それは衝撃波となりアリシアへと一直線に襲い掛かる。それをも跳躍で避け、空中で回転し始める、その遠心力を使った突きをセルベリアに繰り出す。防御するも
「うわああああっ!」
難なく吹き飛ばされ、セルベリアはヴァルキュリア状態を解除させられた
「ば、バカな……」
相当なダメージだったのか起き上がれず、その場で気絶した
アリシアはフラフラと歩き始めた。敵重戦車が傍に来て攻撃をしようとしたが、アリシアが重戦車に槍を向け、蒼いレーザーが重戦車を貫き爆散した。そしてまたフラフラと歩き始め、今度は攻撃を仕掛けてきたトーチカがアリシアの攻撃で吹き飛んだ
「あれは無意識でしているのか?近づいたり攻撃の意思を見せたりした者に反応しているのか?」
今のアリシアの攻撃対象が不明のままだが、このままじっとしている訳にはいかない
「俺たちとリーコンが敵本拠点を制圧しに行く、
状況を判断し、マザーは素早く指示を出す。目の前のアリシアは今だ暴れまわってり、近づかないように進軍し制圧に向かう。岩肌が段差になっている所があり、そこに沿うように進んでいるとマザーが停止の合図を出した。丁度斜め上に砲台トーチカと対戦車砲が配置されており、このままでは狙い撃ちされる格好であった
C4でも投げ込んで爆破しようかと考えていた……すると
「マザー!」
ラビットの叫び声が聞こえた。マザーが反射的に声の方向を見るとアリシアの槍が此方を向いて、蒼い光が集まりだしていた
「伏せろー!」
その声と共に、歩兵はその場に伏せ、M1やM2は死を覚悟した。だが、蒼い閃光はマザー達ではなく目の前に陣取る砲台トーチカと対戦車砲を貫いた。その衝撃波はマザー達にまで届き、衝撃に備えた
衝撃波が通り過ぎ、マザー達は体を起こす。そしてアリシアの方を見ると此方を見詰めていた。マザー達歩兵は冷や汗を流しながら何時でも動ける体制をとり、車両部隊も回避運動できる用意を整えていた。だが、アリシアは踵を返し反対方向にフラフラと歩いていく
「助けて……くれたのか?」
ラミレスが呟くように言う。意識がないであろうアリシアが自分達の脅威を排除し、無差別に攻撃していたのにも関わらず、見逃してくれた。恐らく本能で敵ではないと判断したのかと思うマザーだが
「道は切り開けた!このまま一気に敵本拠点を制圧するぞ!」
目の前の障害が無くなった今が好機だと考えたマザーがアリシアのことを一先ず置いておき、制圧に向かう。殆どの帝国戦力をアリシア1人で片付けただけあって抵抗なしに敵本拠点を制圧した
≪ウェルキン、こちらマザー。本拠点を制圧した≫
マザーからの報告に一先ずホッとするウェルキン。後はアリシアを……と思った矢先異変が起こった。アリシアが身に纏っていた蒼い炎が徐々に消えていき、手から槍と盾を落とし炎も完全に消え、髪と目の色も元に戻るとその場に倒れた
「アリシア!」
倒れたアリシアの元に駆け付けようしたウェルキンが衛生兵だったが、後方から爆音が聞こえた
「な、なんだ!?」
その音に振り向くと、そこから大型戦車と共に帝国兵が現れた
≪戦場の北と南から大型戦車が接近中!気をつけろ!敵の挟み撃ちだ!≫
無線からバーロットの警告がくる。アリシアが倒れている地点は南側の戦車から狙える位置であり、このままだと殺される危険性があった
「拠点は囮で、僕達を誘い込んだのか!」
ウェルキンが敵の罠に嵌ってしまったことに気付き、どうするべきかと思案を巡らせていると
「ウェルキン!彼女の元に向え!」
レンジャーの隊長であるフォード少尉がウェルキンにアリシアを救出するように言う
「大型戦車はM1で破壊できる!彼女までの道は我々レンジャーが切り開く!」
その言葉と共に他のレンジャー隊員も返事をする。その後直ぐにレンジャー隊員達が土嚢を盾に防衛陣地を構成していく
≪敵大型戦車は燃焼弾を発射できる。燃焼弾は広範囲に強力な炎を撒き散らし、土嚢に隠れても食らってしまう。注意するんだ≫
大型戦車の兵装を教えたバーロットとの無線が切れる。レンジャー達はカールグスタフM3を2門用意していた、だがこの無反動砲の口径は84mmであり、大型戦車を撃破することはできなかった……だが
「RAAWSは砲門を狙え!他は敵兵の排除!エコー、フォックスロットは彼女までの道を確保だ!」
装甲がダメなら別の個所を狙えばいいだけの話だった。正面からなら砲門を狙い、そこを潰せば如何に強力な燃焼弾であろうとも無力化できる。そして、エコー分隊とフォックスロット分隊に道を作るよう指示もだす
4分隊による制圧射撃により、帝国兵は反撃が中々できず、戦車も急いで燃焼弾を撃とうとしたが、レンジャー達に時間を与えすぎていた
「ファイヤ!」
2人の砲撃手が砲門に向けて発射、同時ではなく交互に撃つことで当たる確率を上げる。大型戦車もじっとしているわけでなく、動いているので1人目の砲弾は違うところに命中してしまう。だが、2人目の砲弾は砲門に命中し砲が半ばから爆発した
砲撃ができなくなった戦車は砲塔についている機銃で攻撃しようとしたが……砲塔が動かなかった。一発目に当たった弾が砲塔部分に直撃、旋回機能を潰していた。目の前の大型戦車はうすのろな棺桶と化していた
「よし!M1を突撃させろ!」
カールグスタフは履帯を狙い、もう一つは機銃や覗き窓を狙う。殆ど攻撃能力を持たない戦車を無視し歩兵を優先していく
「リローディン!」
土嚢に隠れ、マガジンを変える。その間に傍にいる人が援護に回る
「OK!」
マガジンチェンジを終え、再び攻撃を開始していく。M1がレンジャー達の前に出る、そのまま前進し大型戦車を通り越し背後を取る。近づいてくる帝国兵は砲塔上部にある重機関銃を操作し蹴散らす
「目標捕捉!」
「てっー!」
車長の掛け声と共に120mm徹甲弾が発射される。目標はラジエーターであり、至近距離で外れることがある筈がなく大型戦車は爆散した
≪敵大型戦車を撃破!≫
M1のトマホーク03が戦車破壊を無線で報告すると、北の方でも爆発が起こった
≪こちらトマホーク02、こっちも大型戦車を撃破。これより歩兵の掃討に移る≫
北の敵戦車を撃破し、帝国兵の掃討に移り始めていた
≪こちらウェルキン、アリシアの回収に成功しました!≫
倒れたアリシアの回収も成功し、敵戦車を2両とも撃破を完了し作戦成功した。そして、このナジアル会戦はヴァルキュリア同士の戦闘という歴史的な出来事と共にガリア軍の勝利で幕を閉じた