Medal of Honor Silver Star   作:機甲の拳を突き上げる

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明けましておめでとう御座います

投稿が遅くなり申し訳ありません……


18話 ナジアル会戦 前篇

ブルールの奪還に成功した義勇軍第3中隊と独立遊撃隊(アメリカ軍)はナジアル平原に集結している帝国軍に対抗するため正規軍と共にナジアル平原にいた

 

ガリア、帝国の主力部隊がナジアル平原に集結し、この戦争の命運を決める会戦の火蓋が切らんとしていた

 

「将軍!先程から申し上げているように作戦変更を進言します!」

 

ナジアル平原ガリア軍司令部には主力部隊の各部隊の隊長が集まっており、バーロットが机を叩き立ち上がっていた

 

「帝国軍との兵力の差を考慮すると、ガリア全軍に総攻撃を命じるのは無謀です!」

 

戦車の質も兵力の数も帝国の方が上で正面からのぶつかり合いは此方が不利だと言っていた

 

「防衛拠点を中心に兵力を集中させ、迎撃態勢を整える方が……」

 

バーロットは防衛戦に周るべきだと言っていた。防衛戦なら重武装や土嚢などで身を隠しながら戦うことができ、数に劣るガリア軍にも勝機があった。攻撃側は防衛側を潰すのに3倍の兵力がいるとされており、数と戦車の質で劣るガリア軍ではこれが最適な戦術であると言えた……だが

 

「せっかく敵が一箇所に集まってくれたのだ。この機会を逃すわけにはいかん!」

 

ガリア中部方面総司令官のダモンが最高司令官であり、ここに集まった帝国軍を一網打尽にすべきだと考えていた

 

「この戦いに勝利すれば、ガリアから帝国軍を撃退することができるのだぞ!」

 

ダモンの言い分にも一理あった。各所で撃破では時間もかかれば此方にも損害がでてくる。資源は帝国の方が有利なのは一目瞭然であり、長期戦ではなく短期決戦の方が好ましいのも事実であった

 

「しかし、強固な陣地を突破するには我が軍の兵力は少なすぎます!」

 

この考えは相手より自分の兵力が勝っているか、質が勝って壊滅的被害を受ける覚悟で攻め込むしかなかった。質は同等、量は下、ガリア軍にはダモンの作戦を遂行できる可能性が余りにも低かった

 

「兵力が足りなかったら徴兵でもなんでもして連れて来い!」

 

主力部隊の兵力が少ないから別の場所でとってこいというダモン

 

「将軍は我が国の兵士達を無駄死にさせるおつもりですか!?」

 

無駄に正面からぶつかり合えば此方の兵が無駄に死んでいくとバーロットが主張するが

 

「いま攻めずして、いつ攻める!?何が何でも勝たねばならぬのだ!」

 

何が何でも突撃したいと主張するダモン

 

「ガリア軍全部隊を集結して総攻撃だ。多少の被害は厭わん!」

 

ダモンが最高司令官としての権限を使い、総攻撃の命を出した

 

「……」

 

司令官の決定に逆らえるはずがなく、バーロットは睨みつけるだけしかできなかった

 

「臆病風に吹かれている暇があったら寄せ集め共に喝でも入れてこんか!」

 

戦力と情報、戦況がまったく読めてないダモンはただ突撃することしか考えておらず、怒鳴るだけであった

 

「……分かりました。最前を尽くしてみます」

 

バーロットは拳を握りしめ、そう言うしかなかった

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

司令部で言い合いをしている頃、第7小隊とアメリカ軍は後方支援に回っていた

 

これはダモンからの命令であり、戦果を挙げ続けている両部隊への嫌がらせか何かは分からないが最高戦力を後方で遊ばせていた

 

「まったく……何を考えているんだかな」

 

ブードゥーが弾薬や医療品を確認しながら呟く。トラックに積まれている物資の管理がアメリカ軍の与えられた命令だった。第7小隊は女性が多いことから食事や治療の方に回っていた

 

「そう言うな。作戦がどうなるかは分からないが、俺達が前に出ずに済めば死なずにすむ」

 

同じくチェックリストを見ながら確認をしているマザーがブードゥーを落ちすかせる

 

「まぁ確かにそうだな……あいつが突撃なんて言わない限りはな」

 

溜め息をつきながらブードゥーが言う。総軍突撃なら自分たちが駆り出されるのは目に見えている

 

「流石にあれが馬鹿だからと突撃は言わないだろ。ここで突撃するもんなら全滅は免れないぞ」

 

ガリア主力部隊の4割が最低でも死ぬことになるのだから、そこまで馬鹿げた作戦は行わないはず……とマザーは信じたかった

 

「そうだな、全滅するのならどんな馬鹿でも突撃なんてするはずがない。兵力も此方が劣っているのだからな」

 

戦力と状況を見れば突撃をするなんて正気の沙汰ではない行動なのだ

 

「ここでまともな指揮官なら防衛に回るだろうな。攻勢よりも少ない兵力で対応できるし、悪戯に兵士が死んでいくリスクが低くなるんだからな」

 

そう言いながら、再びチェックリストに目を向ける。指揮所にはバーロット以外にもダモンの息が掛かっていない将校も少なからずいれば、息の掛かった将校も悪戯に兵を失えば自分の立場を危うくなるのだから突撃はしないだろうとマザーは考えていた……だが

 

「マザー!」

 

食料の物資を確認していたラビットが慌てた様子で現れた

 

「何があったラビット」

 

その様子からただ事ではないと感じ取ったマザーとブードゥーが真剣な表情になる

 

「先ほどバーロット大尉より通達がありました……どうも最悪の事態のようです」

 

ラビットもまるで戦闘中かのような真剣な表情で言うと、マザーも冷や汗が流れる

 

「すぐにウェルキン達とブリーフィングを行う。大尉とウェルキンを指揮所に呼ぶんだ!」

 

マザーの指示を聞き、ラビットは直ぐに走って行った

 

「マザー……もしかすると」

 

同じく冷や汗を流すブードゥーが先程の会話通りなのではと思っていると

 

「まだ決まった訳じゃない、帝国側に何かあった可能性もある。とにかく、俺達も急ぐぞ」

 

マザー達も急いで指揮所へ向かった。指揮所にはマザー達シールズとラミレス中尉率いるフォース・リーコンの分隊長、ウェルキン達が集まっていた

 

「大尉、貴女には恩があるがこの作戦には反対だ」

 

ラミレスが大尉の申した作戦に異議を唱えた

 

「兵力が劣っている此方が正面からぶつかり合うなんて正気じゃない。どれだけの兵士が死んでいくと思っているんだ」

 

バーロットの口から帝国軍の正面から拠点を確保しに行くと聞いた時は全員が耳を疑った程だ

 

「これは司令官が下した命令なの。貴方達には申し訳ないけど、ここの砲撃拠点を落とせれば兵の被害が抑えられる。だからこそ貴方達にこの作戦を成功してもらいたい」

 

バーロットがこの作戦に賛成しているはずがないと皆が知っている。少しでも被害を抑えるために無茶な任務を言い渡すしかなかったのだ

 

「まさか全軍による突撃を命令するとは……いったい将軍は何を考えているんだ」

 

マザーが恨むかのように言う

 

「私も拠点防衛で迎え撃つべきだと進言したのだけど……力及ばずだったわ、ごめんなさい」

 

頭を下げるバーロット、彼女もまたマザー達と同じく苦汁を舐めさせられた1人なのだ

 

「大尉のせいではありません、問題はこの作戦を決行した将軍にあります」

 

頭を上げるようマザーが言う。バーロットもダモンの被害者であることはしっている

 

「それに、拠点攻略の算段は考えています」

 

マザーの言葉に皆が注目した

 

「今回の作戦に必要な速さです。時間が掛かれば掛かるほど此方が不利になる、いかに素早くこの砲撃陣地を制圧するかが鍵となってきます」

 

砲撃陣地から放たれる榴弾は歩兵どころか戦車にも大打撃を与えかねないだからこそ一刻も早くこの陣地を制圧する必要があった

 

「ラビット、ベースに連絡だ。アパッチを全機出撃させろ」

 

戦車と歩兵と戦闘ヘリ、これを使った素早い制圧作戦……アメリカ軍のメンバーは何をするかが大体予想できたが、ウェルキン達の方は何をするか分かっていない様子だった

 

「大尉、今の戦況は?」

 

既に先遣部隊が戦闘を開始している頃であり、少しでも情報が必要であった

 

「あ、あぁ。どうもバリアス砂漠で現れたヴァルキュリアらしき姿が確認されている。そのため此方の被害も大きい」

 

ヴァルキュリア……あのスーパーウーマンが出てきているのかとマザーは思考を巡らせる

 

「……なら、そのヴァルキュリアが来る前に制圧するとしましょう」

 

その言葉にウェルキン達が驚く、身体能力が馬鹿げているヴァルキュリアが来る前に陣地を制圧するというのだ

 

「作戦名は……ブリッツ・クリーク」

 

マザーが言う作戦名にアメリカ軍の面々はやはりと思い行動に移す。ウェルキン達は何が何だかわからない様子だった

 

「ウェルキン、この作戦にはお前達の力も必要だ。存分に働いてもらうぞ」

 

マザーが笑みを浮かべながらウェルキンに言う。それにウェルキンはただ頷くだけであった

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

砲撃陣地を前に第7小隊とアメリカ軍が展開している。周囲にヴァルキュリアの姿はなく、平原東部で暴れまわっているとの報告だった

 

ここら一帯には榴弾によるロケット攻撃が飛んでくるので戦車は通常なら使わない筈であった。だが、この場にはエイプラムス2両にエーデルワイス、シャムロックに加えM2ブラッドレイも2両ある

 

さらに、その後ろには準備万端のアパッチ3機が待機している

 

「中尉、この一帯はロケット攻撃が飛んでくるので戦車での進軍は不可能です!」

 

ウェルキンがマザーに歩兵のみでの進軍を進言するが

 

「大丈夫だ、それに歩兵には重要な役割がある」

 

腕時計を見ながらマザーが答える。そして無線の受話器を手に取ると

 

≪こちら、マザー。ラミレス、状況は?≫

 

≪こちら、ラミレス。準備は万端だ、いつでも進撃できる≫

 

左翼を担うフォース・リーコンの確認を終え、右翼の第7小隊+シールズの編隊が待機している。戦車もヘリも準備よし、あとは作戦時間まで待つのみだった

 

「……時間だ」

 

腕時計の長針が作戦時間に来た、マザーが再び無線のスイッチを入れ

 

≪各ユニットに通達、作戦開始≫

 

作戦開始の合図が出された。アパッチ3機がエンジン音を響かせローターが回転していく、回転数が徐々に増えていき空へと舞い上がる

 

≪ガンシップ01、こちらマザー。敵拠点とロケット砲台、榴弾砲を優先して潰せ。全て潰したら掃討に周れ、ヘルファイアは2発まで許可する≫

 

≪ガンシップ01、了解≫

 

アパッチが敵砲撃陣地目がけて飛翔していく。塹壕に隠れていた帝国兵は唖然とした表情でアパッチが通り過ぎていくのを見ていた

 

そして、敵陣地にある榴弾砲及びロケット砲を目視で確認した

 

≪ガンシップ01、目標を確認。攻撃開始≫

 

無線で報告し、安全装置を解除する。それに続きガンシップ02、03も安全装置を解除、ガリア戦記で最も素早い作戦の火蓋が切って落とされた

 

アパッチ3機によるロケット弾での飽和攻撃、固定砲台でしかない榴弾砲と帝国兵はなすすべもなく爆殺されていく。これに対抗して帝国兵が空に向かって銃を撃つが、距離がありすぎて届かなく、高速で飛翔するアパッチに当てることすらできなかった

 

数分も掛からない内に榴弾砲とロケット砲が瞬く間に全滅していた

 

≪マザー、こちらガンシップ01。砲撃陣地を破壊≫

 

無線で報告をいれると

 

≪マザー了解。すぐに戦車部隊を突撃させる≫

 

そう言い、戦車部隊に無線を入れる

 

≪戦車部隊、こちらマザー。敵砲撃陣地の破壊に成功。カーニバル開始、繰り返すカーニバル開始≫

 

無線で突撃の合図がでる。それを聞き、4台の戦車と2台の歩兵戦闘車両が走り出す

 

≪ガンシップ01、これより戦車破壊に移行する≫

 

アパッチ3機が方向を変え、陣地内にいる戦車の破壊に周った。突然空から敵が現れ、砲撃陣地が破壊され、正面から戦車、空からの攻撃、指揮所の破壊により帝国兵は指揮できる人間がおらず混乱の極みでいた。さらに

 

≪まるで七面鳥撃ちね≫

 

とガンシップ02が30mm機関砲を撃ちながら言うように、まともな動きの出来ない帝国兵は只の的にすぎなかった。それを確認したマザーが

 

≪ラミレス、こちらマザー。作戦は順調、これより進行を開始する≫

 

ヘリによる空襲、戦車による突撃、残されたのは歩兵による拠点制圧であった

 

≪ラミレス了解、進行する≫

 

左翼のフォース・リーコンと

 

「よし、塹壕内にいる帝国兵を掃討し、拠点を確保する!」

 

マザーの号令と共に右翼の第7小隊とシールズが敵陣地に進攻を仕掛けた

 

塹壕内で頭を抱えている帝国兵は恐怖に怯え、悪い悪夢かなにかだと思いたかった……だが、悪夢はまだ続く。ガリア軍の歩兵を突撃してきており、頭を出して撃とうものならブラッドレイの餌食にされ、そもそも塹壕内でも空から見える位置にいればアパッチに挽肉にされる

 

もう帝国側には戦車も榴弾も士気もない、詰みであった。大した抵抗もできるはずもなく塹壕内にいた帝国兵は掃討され、生き残りはいなかった

 

それに対し、第7小隊とアメリカ軍の被害はほぼ0であり、圧勝であった

 

ブリッツ・クリーク……日本語訳では電撃戦と言われるこのドクトリンのおかげである。電撃戦とは言わば奇襲である。制空権と機動力のある戦車が必要不可欠であり、帝国に航空兵器がなく此方に航空兵器がある時点で制空権が確保されていたといえる

 

航空部隊による近接航空支援との連繋の下で相手の陣地防御に対して機甲部隊に縦深突撃を実施させ、直ちに敵の側面から歩兵による拠点制圧をしたのだ。このように機械化された戦闘部隊の優位である高い機動力を駆使しながら、戦いの主導権を掌握し、無線で味方との連携が必要不可欠であった

 

さらに、この電撃戦の内容を帝国側が全く知らないことも重要であり、知られていたら奇襲は成功しなかった。全ての条件が整っていたこの戦いは勝つべくして勝ったと言えた

 

「まさか……こんなに早く拠点が制圧できるなんて」

 

ウェルキンも、この素早い作戦に驚きを隠せなかった。電撃戦は名前通り稲妻の如く素早い戦いであるのだ

 

「なんだと……」

 

セルベリアが到着したが、その時には全ての拠点が制圧されていた

 

「馬鹿な……わが陣が食い破られていただと……それにしても早すぎる、ここの部隊はそこまで脆いはずが……」

 

そしてセルベリアの目に映ったのは星条旗……独立遊撃隊(アメリカ軍)のシンボルであった。この部隊がいるならこの速さも可笑しくはないと思えて仕方ないセルベリアは舌打ちと共に見つかることなく撤退していった

 

「しかし、ヴァルキュリアが来る前に終わってよかったよ」

 

安堵しながらウェルキンが言うと

 

「どうだ、なんとかなっただろ?」

 

この作戦の立案者であるマザーが笑いながら言った

 

「えぇ、まさかこんなに早く制圧できると思ってもいませんでしたよ」

 

そういうが、この作戦には航空戦力が必要不可欠なのだがな……とマザーは内心でそう言

 

「そうだな……しかし」

 

マザーは平原東部の戦場を見た、そこにはヴァルキュリアによって破壊された戦車が数多と転がっていた

 

「あれがヴァルキュリアの力か……」

 

双眼鏡の取出し見回してみるが、友軍の屍が殆どであった

 

「これは酷いな……ほかの戦線は大丈夫なのか」

 

マザーがそう呟き、ウェルキンも他の戦線を見ながら

 

「拠点の制圧には成功したけど、味方の被害が甚大だな……」

 

この戦いで勝てたのは、この戦線だけの可能性すらある状況だった

 

「拠点を維持することは困難だろう、後方部隊に支援を頼もう」

 

振り向き、後ろにいたアリシアに言う

 

「はい!隊員達を集合させます」

 

アリシアはそれに頷き、同意見のマザーも集合さえようと無線で連絡を入れた

 

……その時、一発の銃声と共にアリシアが倒れた

 




vita買ったのもあってGE2や蒼き鋼のアルペジオを全話見て嵌まって漫画全巻揃えたりレポートしたりで投稿に時間が掛かってしまいました

まだ忙しい所なのですが、少し時間ができたのでまた細々と書いていこうかと思っています。次の投稿も遅れるかもしれませんが、ご容赦願います

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