Medal of Honor Silver Star 作:機甲の拳を突き上げる
帝国の増援部隊を文字通り殲滅し、いそいで基地に戻った翌日
アメリカ軍が滞在している隊舎の食堂にて
「いやぁ、あれは焦あせったね」
普通にラビットが食事をしていた。結論から言うとラビットは死んでいなかった。スナイパーの銃弾は防弾プレートにて殆ど威力を失い、狙撃銃だからこそ貫通したものの、何時も身に着けている『兎の足』の金具で銃弾が止められていたのだ
だが、撃たれた反動で後ろに倒れ、イサラが持っていたスパナに後頭部が直撃。撃たれたショックと後頭部の直撃により気を失っていただけであった
メディックが状態を見た時に血が流れていないのにすぐ気づき、ただ単に気絶しているだけと分かった。だが、周囲は慕われているラビットが撃たれたことに阿鼻叫喚となっていて報告が遅れていたのだ
「まったく、もうあんなことは勘弁してくれよ」
対面に座ってるブードゥーが溜息を漏らす。実際、アフガンの戦闘でラビットが徐々に死んでいく様を見ていた親友の彼からしたら心臓が止まるかのような出来事であった
「だけど、あの時庇わなかったらイサラちゃんは撃たれてたぞ」
ラビットが言うことは最もである。あの時、ラビットが咄嗟に庇うことが出来なかったらイサラは急所を撃たれて死んでいた。そしてそのショックは瞬く間に義勇軍に広がり、士気の低下は免れなかったであろう
「だからって、お前が死ぬ必要があるってことじゃないんだぞ」
ブードゥーが真剣な表情でいう。ラビットがもし死んでいたら、彼を慕っている第7小隊の隊員やアメリカ兵達にもショックを受けることは間違いなかった。アメリカ兵達は既にレンジャー隊員が1人死んだことに大きなショックを受けているのだからこれ以上は看過できないことになる
「わかっよ、なるべくこういう無茶はしないって」
プレートのポテトを食べながら言う。無論、無茶をしないなど言えない、彼等は特殊部隊の人間なのだから無茶な行動しかしないと言っても可笑しくないのだ
「はぁ……とりあえず、お前の無事に」
そういい、ブードゥーは傍に置いてあるビンビールを持つと、ラビットもビールを持ち、無事の生還に乾杯する
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「これより作戦会議を始める」
義勇軍基地の会議室。そこには第3中隊の小隊長達とパンサーの姿があった
「パンサー中尉、負傷した隊員の容体は?」
ラビットが死んだという噂が義勇軍に流れ、第3中隊の人間は驚き、それを確かめようと情報収集していたぐらいだ。実際、ラビットが目を覚ましたのは基地に搬入された翌日であり、死んだように寝ている姿をみて噂が本当であったと勘違いした者もいた
「問題ありません、大事をとって今回の作戦からは外しますが」
無事なのと、アメリカ軍の士気低下が見られないことを確認し
「では、これより次の作戦を伝える。今回、私は攻略目標をダモン将軍に上申し許可を得た」
バーロットがあのダモンに上申するほどの場所とはパンサーが思考を巡らせる
「わが義勇軍の次の攻略目標は国境周辺の都市・ブルールとする」
その発表に会議室がざわめく。特にウェルキンが一番驚いており、パンサーも少なからず驚いている
「中隊はブルールを包囲。第7小隊と独立遊撃隊には街中心部に突入し、風車塔広場を占拠してもらう」
ブルール……そこは初めてウェルキン達と出会った思い出深い地であり、この世界に足を踏み入れた最初の場所でもある
「この作戦は穀物の生産と酪農が盛んであるブルールは、収穫時期を控え、この拠点を奪還できれば工業生産に続き食糧不足も好転できると考えている」
今のガリアが攻勢に転じているが、戦線が広がるにつれ食糧不足が目立ってきていた。だからこそバーロットは
「帝国軍のブルール防衛部隊には中規模な戦車部隊も確認されている。十分に気を付けてくれ」
第3や第4小隊の隊長から激励をもらうウェルキンとパンサーはこの作戦を確実に成功させる熱意を持っていた
「できました!」
場所は変わり、アメリカ軍の格納庫ではクライスとリオンがエイブラムスの作業をしていた
「なんとか間に合ったか」
トマホーク02の戦車長が確認をしていた
「焼尽薬莢ですか?これほどの技術は今のガリカ工廠では実現不可能ですからね。なんとか自動排莢装置を付けれましたよ」
そう、エイブラムスの主砲である120mm滑空砲は撃てば薬莢が焼けて無くなる焼尽薬莢を採用しており、この技術は今のガリアどころか帝国、連邦でも無理だと言われていた。そこで通常の薬莢を自動で排莢する装置を付ける必要があった
渋りに渋っていた上層部もやっと120mm徹甲弾を作り始めていたのだ。威力は劣化ウラン弾に比べて格段に落ちるが、それでもその大口径の砲弾なら通常仕様の重戦車までなら一撃で破壊可能な規格外である
「撃った後の空薬莢はここの坂になっている部分を滑る様に移動して、砲塔後部から自動的に排出されます」
戦車内でクラウスが実際に空薬莢で実践してみせる。そこにはパイプを半分に割ったような形のを、滑る様に移動して、薬莢の重さで開くハッチから外に排出され、自動的にハッチがしまった
「素晴らしい、これで薬莢の問題と砲弾の問題も消えたな」
車長は実に上機嫌で答える。砲弾も残り半分ぐらいまで減っていたし、2台による全力出撃は後3,4回が限度だったのだ
「それは……よか……たで……す」
説明が終わり、クラウスはフラフラしながら車内で倒れ、寝た。3日間の徹夜作業でモノにしてくれたのだから仕方ないといえる。車長じゃクラウスを担ぎ、外にでた
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「ついに……ブルールに戻ってきたな」
戦車の上から壊された家屋を見ながらウェルキンが呟く。初めて異世界で戦闘し、初めて異世界の住人にであったこの場所
「ブルールを脱出してから、5ヶ月ぶり……」
あの日から経過日数、それをアリシアの言うと「もう、5ヶ月になるのか……」とレンジャー隊員の一人が呟いた
この世界に来て5ヶ月、元の世界に戻る手がかりを得れずにいるまま既に半年近く経過していたのだ。何人かのアメリカ兵士はこの世界に骨を埋めることになると考えており、既に1人はこの地に眠っているのだ
「でも……戻ってきました。このブルールに」
イサラは再びこの地に戻ってこれたことには違いないと感じていた
「あの日、お前と会ったのが5ヶ月前とはな……時が経つのは早いな」
ダスティがウェルキンと出会ったあの日の事を思い出している
「あの時は焦ったぞ、イサラが帝国兵2人に銃を向けてたんだからな」
デュースがイサラを救ったあの場面の説明を聞いて、アリシアは驚いた
「イサラ、そんな危ないことしてたの!?」
まさかウェルキンの家まで帝国兵が乗り込んでいたとは思ってもみなかったのだ
「その時に、デュースさんが助けてくれましたので。でも、その時は銃を持った不審な人にしか見えませんでしたけど」
それを聞いて周りが笑い、「そりゃないぜ」と苦笑いをするデュース
「さぁ、お喋りはここまでだ。そろそろ作戦時間だ、各員チェック」
パンサーが腕時計を見て、時間なのを確認。各員の武装のチェックをするよう指示する
「取り戻すんだろ、お前の故郷を」
ウェルキンの方を見ながらパンサーが言うと、ウェルキンは力強く頷く
「これより作戦を開始する!第7小隊、出撃する!」
号令と共にウェルキンが戦車に乗り込み
「行くぞ!ロバート伍長の雄姿を忘れるな!」
レンジャーが総出で出撃しており、アルファ分隊隊長のフォード少尉も号令をだす
「フ~ア!」
その号令にレンジャー全員が返事をする。こうして戦いの火蓋が切って落とされた
「スナイパーを確認!10時の方向の屋根の上!」
既に街の中で戦闘が始まっており、そこには帝国兵の狙撃手が多数陣取っていた。レンジャー隊員の1人がランチャーを狙撃兵がいる所に向けて発砲、狙撃手のいる屋根の上で爆発がおきた
「スナイパー排除!」
その報告と共に、突撃猟兵へと昇格した第7小隊の突撃分隊が進行する。大通りにはエーデルワイス号とエイブラムスが共に進行している
「目標捕捉!」
「てっー!」
トマホーク02から120mm徹甲弾が発射される。風車塔の前に陣取っている戦車を破壊するが
《前方に対戦車地雷を多数確認。その場で待機してください》
支援兵からの無線連絡がはいる。戦車が足止めを食らっている間に脇道から攻めるが、その脇道に陣地を構築し帝国兵が防衛に徹する
「撃て!撃て!応戦しろ!」
チャーリー分隊が倒壊した家屋に身を隠しながら、陣地に攻撃をする。ガリア軍の前線と帝国軍の前線とがぶつかり合い、混戦となっていた……だが
「エネミーダウン!」
ブラボー分隊の1人が帝国兵を排除する。市街戦はレンジャーの訓練で嫌と言うほど訓練し、実戦もこなしてきた。相手がゲリラ戦法ではなく、正面からの殴り合いな分、錬度の高いアメリカ軍の方が有利であった
「フラグアウッ!」
陣地に向かってラグナイト製手榴弾を投げる。土嚢で出来た陣地は吹っ飛ぶが
「シット!塹壕まで掘ってやがる!」
手榴弾を投げたレンジャー隊員は吹っ飛ばされた陣地の後ろに塹壕で出来た陣地の2段構えに悪態をつく。だが、これで立ち止まるような彼等ではない
第7小隊の迫撃槍手が塹壕の場所にえと照準を合す。その間の援護にブラボー分隊と偵察兵、突撃兵が援護をする。そして、迫撃槍が弧を描くように飛んでいき、塹壕にへと命中した。塹壕内に隠れて応戦していた帝国兵はラグナイトに吹き飛ばされたか焼かれて排除された
「よし!いくぞ!」
ブラボー分隊が先に行き、それに続く形で第7小隊のメンバーも続く
「エネミーダウン、クリア」
デュースが壁際に隠れていた帝国兵を後ろから銃で撃ち抜き、その音で気付いたもう一人の喉にナイフを突き刺し、切り裂いて排除する。ハンドサインで来るようサインを出すと、角に隠れていたパンサー達とアリシア、イーディといったメンバーが出てくる
「イーディ、あの陣地にいる敵兵を排除できるか?」
デュースが角の斜め先にいる陣地に隠れながら応戦している帝国兵を指さす。そこは帝国兵の拠点であり、できれば土嚢を壊さずにそのまま防衛用に利用しようと考えていた
「問題ありませんわ」
イーディはその問いに問題ないと頷く。前なら傍にある死体に驚き、狼狽え、敵兵に反撃されるものならパニックに陥っていた彼女も今では立派な兵士となり、この程度では動揺しなかった
角からイーディが飛び出す。目指すは拠点の陣地であり、走ってくるイーディに帝国兵が気付く。それをデュース達が援護をするが、イーディを狙って撃ってくる。しかし、その程度の攻撃では彼女は止まらない
「くらいなさい!」
マシンガンの下部に付いている火炎放射器を薙ぎ払う。突撃猟兵となったイーディは火炎放射器装備のマシンガンを使うことができ、それにより陣地を破壊せずに帝国兵だけを排除したのだ
「拠点、占拠しましたわ!」
帝国の旗からガリアの旗へと変わり、陣地にへとデュース達が向かう。すると
《こちら、デルタ分隊。目の前の敵の抵抗が思ったよりも激しい!こちらの迫撃槍も弾切れで身動きが取れない、援護を要請する!》
無線から苦戦している分隊の援護要請がはいる
《こちら、パンサーだ。目標地点は?》
敵が陣取っている場所を聞くと
《場所は
無線からは軽機関銃の発砲音を響かせながら場所を位置を言う。地図を確認すると、ちょうど家を挟んだ向う側である
《こちら、パンサー。ここからなら支援砲撃ができる。その場に待機しろ》
デルタ分隊に指示を出し
「アリシア、あの家の左の窓の方にライフルグレネードを向けろ。着弾地点は家の向う側の約5mだ」
アリシアが持っているライフルにはライフルグレードが付いており、軽迫撃砲の様に上に向けて撃ち、弧を描くように着弾するのだ。丁度、帝国兵のいる地点はライフルグレネードの射程圏内で、狙い撃ちできるのだ
パンサーの指示する通りにグレネードを構え、左の窓より少し左よりに撃つ。気の抜ける音と共に宙へと飛んでいき、家を屋上辺りで重力に従い、落ちていく。家の反対側へと落ちていき、着弾音が響いた
《こちら、デルタ分隊。支援感謝する!》
どうやらグレネードが命中したようで、無線から連絡が入った
「よくやった、次に向かうぞ」
命中させたことを褒め、プランBのルートを進んでいった
支援兵による地雷撤去作業が終了し、これを機に一気に敵本陣にへと攻勢を仕掛ける
「GO!GO!GO!」
アルファ分隊のフォード少尉が突撃指示をだし
「オーダー発令!各員、一斉に攻め込むんだ!」
ウェルキンがオーダー『一斉攻撃』を発令する。進行方向にスモーク弾を撃ち込むのも忘れない。視界が塞がれて、一気に攻め込もうとした時、そのスモークが榴弾で吹き飛ばされた
何事かと思うと、本拠地から敵重戦車が一台現れた。ハッチを開き出てきた人物を見て、ウェルキンやデュースといった一部の人間は驚いた。その人物はあの指揮官であった
「私は帝国軍ブルール防衛部隊、隊長のエルンストン・バウアー大尉だ」
ハッチから上半身を出して、名を名乗る。バウアーを屋根や建物等からアメリカ兵が狙う、するとエーデルワイス号のハッチが開き、ウェルキンが出てきた
「僕はガリア公国義勇軍第3中隊所属、第7小隊長のウェルキン・ギュンター少尉です」
ウェルキンの姿を見て、バウアーはやはり、と笑みを浮かべた
「その戦車長はやはり君だったか。風車塔の上から君らしき姿が見えたな」
そのまま雑談でもしようかのような声色だった
「私は君に一騎打ちを望む。既に我々には抵抗する戦力と意志は無い。だが、このままでは終われん」
しかし、それがとって変わるかのように軍人の表情になる
「なぜです!ここで殺し合う必要などありません!」
既に降伏すると言うのに最後まで戦おうとするバウアーに何故かと問う
「我が戦車兵には臆病者などいない。私と共に帝国と兄弟肉親の為に死ぬ!誰も犬死させん」
隻眼の眼光がウェルキンを貫く。その眼、その姿勢、その意義、バウワーが一歩も引かないとウェルキンは悟った。アメリカ兵がどうするのかとバウアーを狙いながら汗を流す
「……わかりました。お相手します」
そして、決闘が始まる
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「みろ、マイヤー。あれがガリア軍最精鋭の『規格外』だぞ」
帝国重戦車改『ティーガーⅡ』に乗るバウアーは正面にいるエーデルワイス号を見て笑っている
「笑っている場合ですか、大尉。相手はあの『規格外』ですよ」
装填手のクルツが焦りながら言う。帝国兵はエーデルワイス号を『規格外』と言われていた。その機動、装甲、火力、どれをとっても従来型とは規格外であり、そこから取られていた
「なに、相手は『化け物』じゃない」
『化け物』とはエイブラムスの事を指している。砲弾を弾き、一撃で重戦車すら葬り、軽戦車並かそれ以上の機動力をもつそれは帝国から見れば『化け物』であった
「それに、俺達には総司令官殿から頂いたこれがある」
バウアーは明らかに装飾の違う砲弾を叩いた
「これならば、あの『規格外』でも仕留めきれるはずだ」
そうニヤリと言い
「いくぞクルツ、しっかりと俺の指示について来い」
その眼には負けると言う気弱な考えなど微塵もなく、勝利することしか考えていない……まるで戦車の色と合わさり、黒騎士と言えよう
「了解、地獄までついていきます」
彼等は既に死を覚悟していた
「兄さん、来ます」
操縦席に乗り、真剣な表情をしているイサラが、相手の戦車が仕掛けてくるのを感じた
「あぁ、相手は改良型の重戦車のようだ。直撃するようなら、無茶を言うけど場所を考えてくれ」
ティーガーⅡが従来の帝国重戦車ではないことに気付いたウェルキンは、その戦闘力が把握できていない
「イサラ、敵の側面に回り込む。だけど側面ではなく、それに対応して動いてきた所を榴弾で狙う」
ウェルキンが考える戦法を話す。それに頷き、先に動き出した。動き出したエーデルワイス号に反応し、ティーガーⅡも動き出す
ウェルキンの予想通りに動き、速度で勝るエーデルワイスが側面に回り込み、それにティーガーⅡが反応した所を
「今だ、てっー!」
榴弾を発射させる。狙いと予想が重なり、見事に命中……したはずだった
「なに!?」
ウェルキンが驚いたのはティーガーⅡの損傷の少なさだった。あそこで直撃していれば履帯が切れるか、少なくとも大きな損傷を負う筈なのだ
「恐らく咄嗟に後退して、損傷を減らしたんだと思います」
イサラが相手の操縦手の腕に冷や汗を流す。ウェルキンも相手の戦車はこれまで相手にしてきた戦車の中でも上位に入る強さであると確信する
「いいぞ、マイヤー。よく避けた」
榴弾を履帯にへと撃たれ、咄嗟に後退したマイヤーを褒める。ウェルキンの戦法が足を狙ってくる戦法であると気付き、顔を顰める
「若いのに戦いを理解してるな。だが、此方も情け無用だ!火力特化型特殊榴弾装填!」
弾種の指示を出し、クルツが即座に装填する
「ファイヤー!」
バウアーの指示と同時に榴弾が撃たれる。撃ってきたのが榴弾だと分かり、直ぐに回避しようと動くエーデルワイス号。だが、その予想は裏切られた
通常の榴弾とは遥かに比べ物にならない威力と範囲で車体が揺れる
「くっ!何かあると思って通常より早めに避けたけど、これほどまでとは」
その榴弾の威力にウェルキンは顔が強張る。相手は改良型で何をしてくるかが分からない状況、回避を早めに行ったが、損傷を負ってしまった
「装甲に損傷小、履帯、油圧系共に無事です。ですが、あれを直撃しては履帯や熱量でラジエーターが耐えれません」
イサラが被害の確認を行い、装甲以外の被害が無いことを報告。そして、その榴弾の威力を分析していた
「そうだね、それに通常の砲弾も厄介だ。それに注意しながら攻撃をしていこう」
ウェルキンは直ぐにティーガーⅡにへと近接戦を仕掛ける
「あれを回避しただと!」
特殊榴弾の煙の中から、エーデルワイス号が出てきて、その損傷の小ささにバウアーが驚く
「恐らく、警戒して早めに回避行動をとったんでしょう。相手もなかなかやる」
マイヤーがイサラの操縦技術を褒める
「そんなこと言ってる場合ですか!あの榴弾の後1発でカンバンですよ!」
クルツが褒めるマイヤーに言う。今のを合わせて4発消費しており、この状況が拙いと言うが
「ならその1発射で俺達がヴァルハラへ送ってやる!」
突っ込んでくるエーデルワイスを睨みながらバウアーが言う
「それに、こいつが重戦車だ。近接戦でも遅れはとらん!」
ティーガーⅡもエーデルワイスに近接戦を挑んできた
「敵戦車、急速に近づいてきます!」
イサラが突っ込んでくる、ティーガーⅡを報告する
「く、予想が外れたか。射線から回避するんだ!」
次も榴弾でくると読んでいたウェルキンが予想が外れ、直ぐに回避行動を指示する。だが、回避行動をする前にティーガーⅡが発射してきた
その距離と速度に命中すると思ったイサラは、ハンドルを切る。徹甲弾が正面装甲を削りながら逸れていった
「なんだと!」
その回避行動にバウアーが冷や汗を流しながら叫ぶ。絶好のタイミングで撃ったにも関わらず避けられたのだ
「いかん!回避しろ!」
マイヤーに叫ぶも、エーデルワイスが徹甲弾を発射。回避行動が遅れてしまい、戦車が揺れる
「正面装甲中破!」
マイヤーが被害報告をする
「なんて奴だ……だが、負けはせん!クルツ!特殊榴弾装填!」
中破程度では止まらず、虎の子の一発を装填する
「マイヤー!相手を攪乱させろ!僅かな隙にこいつをブチ込むぞ!」
その指示通り、エーデルワイスの側面に回り込もうとする。多少の装甲を犠牲にして速度を上げたティーガーⅡはエーデルワイスにそう後れを取らない
まるで円を描くかのような軌道をする2台の戦車。両方共に、短期決戦を考えていたため、相手の僅かの隙を窺っている。先に行動を起こしたのはティーガーⅡであった。車体ごとエーデルワイスの方に向けようとした、それにイサラが反応して回り込もうとした
だが、それがフェイントであると気付くのに遅れた。正面を向いたかと思うと、側面を向き、ティーガーⅡがエーデルワイスの側面を捉えた
「情け無用!ファイヤー!」
バウアーが発射の指示をだし、特殊榴弾が発射される。だが、イサラが滑らすようにエーデルワイスをティーガーⅡの正面に向け、全速力で突撃をする
それでは間に合わず直撃する、そうバウアーは思った。自分から榴弾にへと突っ込むのだからだ……しかし、バウアーはエーデルワイス号の性能を過少評価してしまった
榴弾が着弾し、辺りが大爆発をする。その煙の中から、正面装甲と側面装甲が焼け焦げたエーデルワイス号が突っ込んでくる
「確かに威力は凄まじい。けど、撃つ瞬間に足を止めるのを待っていた!」
被弾覚悟で突っ込んだのも、装甲には外付けの追加装甲をしている改良型のエーデルワイスなら耐えれると信じていたのだ。そして、追加装甲を犠牲にして榴弾に耐えたのだ
「いかん!回避だ!」
直ぐに動きだすも、エーデルワイスは側面を通り抜け、後ろを取った
「てっー!」
徹甲弾がラジエーター目がけて発射される。動き出すのに遅れたティーガーⅡはそれを回避できずに直撃した
ティーガーⅡは履帯が吹っ飛び、爆発寸前である
「……見事だギュンター少尉」
無線からバウアーの声が聞こえる
「バウアー大尉!早く脱出してください!」
爆発寸前の戦車から脱出するよう言うが
「無駄だ、クルツもマイヤーも既にヴァルハラへと逝った……私も既に手遅れだ」
無線から所々咳き込む声が聞こえる
「残った奴らはせめてでも寛大な処置を頼む」
最後の願い……同じ部隊の部下のことだった
「……必ず約束します」
そうウェルキンが答える
「そうか……では俺もヴァルハラへ行かせてもらう。……部下の埋葬、感謝してるぞ」
それを言い切ると、ティーガーⅡが爆散した。その光景にウェルキンは敬礼をして敬意を表した
さて、次回は最大の戦場であるナジアル会戦ですね
それを投稿するのが少し遅れるかもしれんので、ここで報告しときます。
感想、誤字報告など気軽にしてくれると嬉しいです