Medal of Honor Silver Star   作:機甲の拳を突き上げる

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16話 マルベリー攻略戦

「うむぅ……」

 

会議室にてマザーは頭を悩ませていた。そこにはウェルキンとアリシア、ラルゴといった下士官にラビット達の姿もある

 

頭を悩ませているのは今回の作戦である。目標はガリア北部海岸地帯であり、そこは遮蔽物のない砂浜に切り立った断崖に挟まれた進行ルートを通る必要があった

 

断崖には機関銃座が備えられており、十字砲火が容赦なく降り注ぐのだ。遮蔽物のない砂浜では足を踏み入れただけで穴あきチーズか挽き肉の出来上がりである

 

これにはマザーもオーバーロード作戦のオマハビーチみたいになると考えていた

 

「スモークはあるんだが、数がな……」

 

戦車に積んであるスモークディスチャージャーやスモークグレネードは確かにある。だが、それは数が限られており、ディスチャージャーに関しては1~2回しか使えない

 

「あそこを突破するのにはスモークか銃座の破壊しかない……迫撃砲を使うか?」

 

トラックに積まれていたムジャヒディンの陣地破壊用の迫撃砲がある。だが、弾数も少なく生産には時間が掛り、優先度が低いから使用は控えていた

 

「そうだな、機銃陣地破壊に最適ではあるしな。弾数も今まで使ってこなかった分、余裕もある」

 

プリーチャーの提案にマザーが頷き、その案で行こうかと思ったが

 

「あの!」

 

それにイサラが待ったを掛けた

 

「私に考えがあります」

 

席を立ち、マザーとウェルキンの方を見ながら言う

 

「今開発中のモノを実用化できれば犠牲者を出さずに進めます」

 

どうにも開発中の何かに相当自信があるみたいだ

 

「次の戦闘までに間に合うのか?」

 

当然、次の海岸線の戦いに間に合うのが条件である

 

「はい」

 

イサラが力強く頷く。内気な彼女がここまで自身満々に答えるのだから、相当な秘策があるのだとマザーは判断した

 

「いいだろ、その開発物に期待させてもらう。こっちもスモークと迫撃砲も準備しておく」

 

迫撃砲には榴弾と照明弾が合わせて60発あるが、発煙弾が一発もないのが悔やまれるなと思いながらマザー達が会議室から出ていくと

 

「まってください」

 

後ろからイサラが呼び止める

 

「どうしたの?」

 

ラビットがイサラに尋ねると

 

「これを」

 

イサラから手渡されたのは手作りの人形であった

 

「本当は皆さん全員に渡したかったのですが、人数が多くて……ですから、今回一緒に行くラビットさん達だけでもって」

 

人形は4つあり、それぞれに手渡された

 

「これはお守りみたいな物か?」

 

ブードゥーか人形を見ながら尋ねると

 

「それは精霊節に渡す贈り物です」

 

精霊節?とマザー達が疑問に思うと、イサラが説明してくれた。何でもガリアに住んでいる妖精や精霊達が愛を交わす日とされており、好きな人や大切な人に贈り物をするのが習慣となっているらしい

 

「なるほど、バレンタインのようなものか」

 

マザーが納得したように頷くと

 

「バレンタイン?」

 

それにイサラが首を傾げる

 

「こっちの世界の精霊節みたいなのと思ってくれればいいよ」

 

ラビットが軽く説明をする。それに納得したイサラは

 

「その人形は、ダルクスに伝わるお守りなんです。一緒に戦ってくれるラビットさん達にお渡ししたくて」

 

その贈り物を自分達にまでしてくれることに感謝しながら

 

「ありがとう。大切にさせてもらうよ」

 

ラビットがそういい、マザー達も各々に礼を言って隊舎に戻っていった。その傍ら……

 

「デュースさん、これをどうぞ」

 

満面の笑みを浮かべたイーディがデュースに包装された箱を差し出していた。一緒に歩いていたダスティ共々なにごとかと頭を捻っていると

 

「明日は精霊節なので、今日プレゼントするのですわ!」

 

精霊節の説明を受けて、納得した2人。ダスティがデュースを冷やかしながらも礼を言って受け取るデュース

 

「いま見ても?」

 

この場で箱を開けてもいいかと、尋ねると

 

「もちろんですわ」

 

いつも通り、自身満々に答えるイーディに苦笑いしながら箱を開ける。その中にはカップケーキが入っていた

 

「本当はチョコケーキを作りたかったのですが、食材が不足がちな今の状況ではそれが精一杯でしたので」

 

笑顔から申し訳ない表情へとなるイーディ。だが、デュースはカップケーキを1つ取り出し、食べる

 

「……美味い」

 

その一言。その一言でイーディの表情が180°逆転する

 

「しかし意外だな……てっきり料理なんか人任せなんだと思ってたが」

 

イーディの性格から家庭的な事は苦手かと思っていた

 

「そんなことありませんわ。最近はよくアリシアさんとパン作りをしたり、お菓子作りなんかもしてますわ。それに、料理は女性の嗜みですもの」

 

それは当たり前だと言わんばかりに言う。そして、彼女が人一倍の努力家であることを思い出す。ダスティにあげてもいいかと尋ね、許可をえる

 

「……おぉ、これは美味い。こんな美味い菓子は久々だ」

 

ダスティもカップケーキの出来に舌鼓を打つ。デュースも何か渡そうかとしたが、あいにく今は渡せる物は無かった

 

「すまないが、お返しは作戦後でいいか?」

 

それにイーディは頷き

 

「では後日に。楽しみにさせてもらいますわ!」

 

そうスキップでもしながら帰るかのような上機嫌で隊舎に戻っていた

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

そして翌日。離れた所に戦車を隠し、フォース・リーコン隊員が断崖の状況を偵察していた

 

《こちら、スカウト・チーム。断崖の両側に機銃座を確認、まるでノルマンディーみたいだ》

 

無線からの報告が入る。その声は若干強張っており、それだけ機銃陣地の配置が厳しいものだと判断できる

 

「今回はエーデルワイスに加えて俺のシャムロックもある。派手に暴れ回ってやるぜ」

 

この戦闘にはエーデルワイス号、エイブラムスに加えてガリア軍19式軽戦車『シャムロック号』もあった

 

「イサラ、例の開発物は?」

 

マザーがイサラの方を見ると

 

「はい、既に出来ています」

 

実物の砲弾を机の上に置く

 

「これは煙幕弾です。爆風や時間経過で消えてしまいますが、これを使えば安全に進むことができます」

 

その報告にマザー達が驚く

 

「そんなのを完成させたのか」

 

これで、スモーク兵器を使う必要性が減ることは嬉しい誤算である

 

「では、先方はエーデルワイス。側面は俺達とシャムロックで固める、いいな?」

 

大体な配置と攻略法を指示し、作戦が開始される

 

先行して進むエーデルワイス号に機銃が集中して降り注ぐ。だが、流石に戦車の装甲は貫けないが後続の歩兵には脅威である。そして、エーデルワイスから海岸を進行方向に煙幕弾が放たれる

 

突然、煙幕が目の前に現れたことに驚く機銃陣地にリーコン隊員が迫撃砲の照準を合せる

 

「右に40、仰角25」

 

目標までの距離と角度を計算し、指示する。一人はその通りに動かし、もう1人は砲弾の準備をする

 

「準備よし!」

 

角度の設定が完了し、榴弾を持った兵士が砲の中に入れる。そして、角度を合していた兵士が引き金を引いた。何かが跳ねるような音と共に飛んでいく、そして重力に従い落ちていく。その落ちていく先には機銃座があり着弾。その音からは予想もしない爆発をして機銃座を吹き飛ばした

 

その威力に驚いた顔をする第7小隊のメンバーだが、対戦車兵はもう一つの機銃座を煙幕の中から破壊する

 

その勢いに乗って海岸を突破する

 

「お前達!海兵隊の底力を見せてやれ!」

 

フォース・リーコンの隊長であるラミレス中尉が大声を出して、敵の陣地へと走る

 

「ウ~ラ!」

 

それに続くように他の隊員達も走る。1人が前方にスモークを投げ、そこに目掛けて走る。その姿には第7小隊のメンバーは唖然とした後に、追いかけていく

 

いくら軍隊といえど、子供や女性といったメンバーが約3分の1のいる第7小隊にはこの勢いが無い訳ではない。だが、選抜され鍛え抜かれた武装偵察隊(フォース・リーコン)を前にしてはその勢いに飲まれるのだ

 

「エネミーダウン!」

 

エコー分隊の一人が目の前の陣地にいる対戦車兵を撃ち殺す。だが、その陣地は抵抗が激しく中々反撃できない状態だった。グレネードを投げ込もうかと思った時に後ろから駆動音が聞こえた。その方向からシャムロック号が現れ、徹甲弾で陣地を吹き飛ばす

 

「撃て!撃て!」

 

これを好機としたエコー分隊長が指示をだし、自分も帝国兵に向けて撃つ。分隊が陣地から無理やり吹き飛ばされた帝国兵を撃ち殺す

 

「助かった!」

 

シャムロック号の装甲を叩き、感謝する

 

「すまないが、随伴してくれ!これより先は抵抗が激しそうだ!」

 

ザカがエコー分隊に随伴するよう頼む。さきほどから対戦車兵の攻撃が集中しており、先に進むのが難しかったのだ

 

「了解した!よし、行くぞ!」

 

シャムロックを基軸とした機動部隊が敵の前線へと攻撃を仕掛ける

 

「あいつらに後れを取るな!」

 

他の分隊もそれに続き、エイブラムスとエーデルワイスに随伴している第7小隊も前へと出る

 

「弾種、煙幕。てっー!」

 

ウェルキンの指示を出し、煙幕弾が抵抗の激しい箇所に放たれる。目の前の機銃トーチカからの攻撃が弱まり、持っていたSMAWをトーチカに向けて発射。命中したのか大爆発が起こる

 

命中したのに喜びながらロケット弾コンテナを取り換える。すると目の前から敵重戦車があらわれる

 

「エネミータンク!インカミン!」

 

一人が叫ぶと、即座に伏せた。すると頭上を通り越して、後ろの断崖に当たる。それを見たリーコン隊員は直ぐに無線を入れる

 

《こちら、ゴルフ分隊!敵重戦車を確認、排除してくれ!》

 

対戦車兵器はまだあるが、極力使用を控えるよう言われている。だからこそ目には目

 

《こちら、トマホーク02。了解した、直ぐ片付ける》

 

戦車には戦車である。無線を入れた分隊の斜め後方からエイブラムスが道を進んで現れる。エイブラムスが重戦車の正面を向くと、装填完了した重戦車が撃ってきた

 

だが、何かにぶつかる大きな音と共に砲弾が弾かれる。まさか重戦車の砲撃を弾き返されると思っていなかったのか、慌てて後退するが

 

「目標捕捉!」

 

「てっー!」

 

既に捕捉されていた重戦車はエイブムスの砲弾を正面から食らい、一撃で撃破された。それを見た帝国兵は信じられない表情をしながら後退していく

 

「よし!いくぞ!」

 

目の前の脅威が排除され、前進あるのみである

 

「大分進んだな」

 

帝国軍の拠点と敵戦車を撃破し、残すは後退して籠城の構えをする帝国兵と断崖に出来た機銃陣地、恐らくいるであろう敵戦車を残すのみであり、その機銃陣地の近くの陣地にいるマザーが言う

 

「あの砲台は厄介ですね」

 

携行の対戦車兵器はあるが、トーチカの破壊や陣地破壊でそこそこ使用しており、迫撃砲はまだ後方にある。迅速的かつ効果的に行う為に、トーチカの破壊をすぐに行いたい所であるとラビットは考えていた

 

「なら俺達の出番だな」

 

すると、その後ろからラルゴが率いる対戦車兵達が現れる

 

「あの機銃陣地の目を潰すことは出来ないか?そしたら後は俺達に任せな!」

 

その自信は長年戦場にいた経験からくるもので、信用に値するものとマザーは判断する

 

「俺達がスモークを機銃座の目の前に投げる。そしたらお前達は陣地の方へ走れ、歩兵は俺達が排除する」

 

その提案にラルゴは頷いた。マザー達は今もっている有りっ丈のスモーク・グレネードを投げる。4人分のスモークの濃度が凄く、機銃座からは下の様子がまるで見えなかった

 

「GO!GO!GO!」

 

身軽なマザー達シールズが先に走り、陣地に身を隠し、帝国兵を排除する。目の前には拠点を守る2台の戦車がいた

 

「撃て!撃て!撃て!戦車までの道を作るんだ!」

 

4人は帝国兵を必死に排除していく。後退してきた帝国兵もいて数は多い。だが、任されたのだから、それを確実にこなす

 

「フラグアウッ!」

 

ラルゴ達の到着に合わせて、フラグ・グレネードを投げて陣地と帝国兵を吹き飛ばす

 

「すまねぇ!後は任せな!」

 

ラルゴがマザー達に礼を言い、それにサムズアップして返事を返した

 

「いくぞ!野郎共!せっかく作ってくれたチャンスを無駄にするなよ!」

 

対戦車槍を構えながら戦車に接敵する。そこには女性も含まれているがそんなもの関係ない。今あるのは戦車をぶっ潰すという熱意だけである

 

戦車も機銃を撃つが、そんなもので彼等を止められる筈がなく

 

「ぶちかませっ!」

 

ラルゴの合図と共に一斉に対戦車槍が放たれる。数の暴力に戦車の装甲が耐えきれるはずがなく、2台の戦車は爆散した

 

最後の拠点を占拠したのはラルゴ達、対戦車兵だった

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

戦闘を終え、各部隊の被害を確認と現場での修理と治療を行っていた

 

前回の戦闘でレンジャーの1人が戦死、今回の戦闘ではいつも以上に気を引き締めて挑んだ結果、重傷者はいるものの命の別状はなく、死亡者は0であった

 

その結果にホッとするマザーは今回の被害者数などの確認に回っている。その中、エーデルワイス号の点検をしているイサラにロージーが話しかけた

 

「……これ、約にたったよ」

 

そういいながら取り出したのは、イサラが作ったお守りの人形である

 

「その人形……もってくれたんですか?」

 

最初渡した時は強く拒否されたが、いま彼女が持っているのに驚いていた

 

「アンタがお守りだって言ったんじゃないか。人形のお返しをしなくちゃな、何でも欲しい物を言ってみなよ」

 

ロージーがイサラに礼を言っている光景を周りにいるメンバーが珍しそうな顔をし、ウェルキンとアリシアはその光景を温かく見守っていた

 

「そうですね……私、ロージーさんの歌が聴きたいです」

 

笑みを浮かべながらイサラが欲しいものを言う

 

「え?アタイの……歌?」

 

その返答は予想外だったのか、驚いた表情をする

 

「はい、歌が好きだって仰ってましたよね。ロージーさんの歌、聴いてみたいです」

 

改めてロージーの歌が聴きたいとイサラが答える

 

「わかった……約束するよ」

 

それに頷いて了承する

 

「イサラちゃん」

 

すると、後ろからラビットとブードゥーがやってくる

 

「これのお返しを聞いてなくてな、何でも好きなのを言ってくれ」

 

ブードゥーがイサラから貰った人形を取り出して笑いながら言う。すると、ラビットがロージーの手にイサラの人形を持っているのに気付いた。その目線に気付いたロージーが慌てて隠す

 

「……昔、僕の祖国でも差別がありました」

 

ラビットがポツリと言う。それにロージーはラビットの方を向いた

 

「肌の違いで差別をして、迫害の歴史がありましたし、いまでもそういう団体がいます」

 

祖国であるアメリカで起こって、現在も続いている問題を話す

 

「その時に一人の男性が立ち上りました。彼の名はキング牧師」

 

ラビットの言葉にその場の人間が耳を傾ける

 

「彼は徹底した『非暴力主義』を貫き、彼はどんな困難にも負けず、そして法の上でおける人種差別を終わらせることができました」

 

それにはダルクス人であるイサラやザカが驚いた。まさか、差別を非暴力で勝利した人物がいるなんて聞いたこともなかったのだから

 

「僕にも様々な友人がいます。……人に手を差し伸べるのは難しいかもしれない、だけど差し伸ばされた手を取るのは難しくはないと思います」

 

そういいラビットはロージーが持っている人形を見た。ロージーも人形に視線を向け、イサラの方を向いた。そこには優しい笑みを浮かべたイサラがおり、ロージーの表情は憑き物が落ちたような表情であった

 

その光景を見てラビットはよかったと思ったその時、首筋が疼いた。これは戦場で走り回ったラビットが得た勘のようなものであり、アフガンでも何回か首筋が疼いたことがあり、嫌な予感がする時によくおこった

 

ラビットはすぐに当たりを見回す、すると視界に太陽光が反射する光が見えた。咄嗟の判断であった……イサラの手を引き、自分の後ろに倒す。そして……銃声が響いた

 

その銃声が止むと、ラビットは地面に倒れた。その光景を見たロージーは信じられないモノを見たような表情だった

 

「スナイパー!」

 

すぐに状況を察したブードゥーは大声で叫び、ラビットをエーデルワイス号の陰に隠した

 

「ラビットさん!ラビットさん!」

 

ラビットの下敷きになっていたイサラは状況を把握し、ラビットを揺する。だが、ラビットはピクリとも動かない

 

「メディック!メディィィィィック!」

 

ブードゥーが衛生兵を呼ぶ。イサラは動かないラビットを涙目になりながら必死に揺さぶる。その間にも銃声は聞こえていた

 

「ラビットさん!目を開けてください!」

 

その場にはスージーや第7小隊のメンバーが護衛として集まっていた

 

「いや……いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

その銃声の中、イサラの悲鳴が響いた

 


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