Medal of Honor Silver Star 作:機甲の拳を突き上げる
野原が広がり、森が傍にあり、戦争中でなければピクニックにでも行きたくなるような場所に、そこそこ大きな建物があった
まるで洋館のような建物であり、どこかの貴族が住んでいるのではないかと思うぐらい洒落た家であった。しかし、その屋上には似付かない人影があった
そう、帝国兵の見張りが立っているのだ。その帝国兵の見張りをスコープ越しに覗いている兵士の姿があった
「ラビット、お前は右を殺れ。俺は左を殺る」
丘へと昇る坂道の草むらに隠れている2人のスナイパーはマザーとラビットである。ラビットは息を止め、見張りの頭に集中し、そして引き金を引く。放たれた弾丸が見張りのこめかみを貫き、見張りが事切れた人形のように崩れ落ちた
もう1人はそれに気づく事無くマザーに撃ち抜かれ、死んでいた。
《こちら、マザー。見張りを排除した》
無線で連絡すると、下の草むらから4人の人影が現れる。それはパンサー達デルタだった。洋館の正面玄関にいる見張りは既に殺された後だった
側面の窓に張り付くと、マザーたちシールズも裏口に周る為に移動する。そして、正面玄関にはウェルキンを含む4人の第7小隊がいた
何故、こんな所にいるかと言うのはブリーフィングにまで遡る
中隊の会議室に呼ばれた、マザーとパンサーにウェルキンはバーロットの雰囲気がいつもとは違うと感じていた
「諸君らには特別な作戦を遂行してもらう。内容は、帝国軍に捕らえられた人質の解放だ」
よばれた理由と今回の作戦の内容に可笑しな点はなかった。だが、不自然に感じたのはいつも彼女の後ろにいる筈の副官の姿が見えないことだった
「今回は、私の独断で部隊を動かさせてもらう。司令部にも上申していないが、私が全責任を持つ」
それにはマザーとパンサーが顔を顰めた。軍の兵士を私事で使うと言うのだからだ
「司令部に届けずに、ですか?いったい、どうしてです?」
ウェルキンが理由を尋ねると
「質問は許可しない。私の言うとおりに行動してくれればいい」
バーロットは理由を話さない、それには流石に納得がいかないと
「俺達は大尉に返しきれない恩があるから、手伝うのも吝かではない。だが、理由を言ってくれないとどの部隊が適しているか判断できない」
マザーが作戦に参加する事態は問題ないが、その理由を話すよう求める
「……敵となる帝国部隊は、ファウゼンの敗残兵だ。郊外の洋館に武装して立て籠もっている。そして……ダルクス人の収容施設に火を放った部隊の可能性が高い」
その情報にパンサーは眉を動かす
「作戦の目的は、人質である民間人の全員救出。そして敵国兵を全員、拘束もしくは……殺害すること」
マザーはその様子に少し驚きを感じている。あの冷静沈着であるバーロット大尉が怨みを言うように殺害しろと言ってきたのだから
「……」
ウェルキンもその様子に驚きを隠せなかった
「敵部隊の隊長の名は、ゲルド……ヨルギオス・ゲルド」
その名を吐き捨てるかのように言う
「第一次ヨーロッパ大戦時にわが軍を虐待し殺害した男だ。遠慮は無用だ」
その言葉の節々から怒りを感じ取れていた
「……ゲルドだと?おい、まさか……」
その場にいたラルゴがその名前に反応する。だが、バーロットは部屋から出て行った
そんなブリーフィングがあり、彼等は人質救出の為に少数精鋭が好まれると判断し、シールズとデルタの共同に決定したのだ
《こちら、マザー。準備よし》
マザー達が裏口に到着した連絡が入り
《こちら、パンサー。準備よし》
待機しているパンサーも連絡を入れる
《こちら、ウェルキン。準備よし》
突入班の全部隊が準備完了なのを確認し、バーロットが突入指示を出す。すると、裏口にいたプリーチャーがドアに後ろ蹴りをして吹き飛ばし、窓からはダスティが肘で窓ガラスを割る
いきなり屋敷内が騒がしくなり、銃撃まで聞こえてきたのに上の階の部屋に立て籠もっているゲルドがしきりに焦る
「な、なんだ!何が起こっているですか!」
人質である少女や人質達を盾にしながら、傍にいる部下に怒鳴り散らす
「なにがあっても私を守るんです!」
そんなことを大声に出しているのだから、場所など直ぐに特定されていた。部屋のドアにパンサーとベガス、隣の部屋の壁にデュースとダスティが爆薬をセットして待機していた
その間にマザー達が屋上に上がり、下にえとロープを垂らす。そのロープで部屋の2つの窓に其々配置する
《こちら、マザー。突入準備よし》
その連絡が入ると、行動にでる
「ブリーチン!」
パンサーの掛け声と共に爆薬を起爆。ドアの近くにいた者が吹っ飛び、壁の近くにいた者が吹っ飛ぶ。更に窓からも侵入してきて、もはやゲルドは混乱の極みであった
それは彼の部下も同じで、突然の出来事に反応できず、全て排除される。ゲルドもブードゥーに拘束されていた
「ほら、もう大丈夫だから」
人質となっていた子供や大人をマザー達が確保していた
《こちら、ブードゥー。ゲルドを拘束した》
デュースが無線で連絡する。中に人質がいるのに爆発物で突入できたのも、ブードゥーが先に部屋の中を偵察し、帝国兵の配置と人質の確認を済ませていたからだ
彼等を敵に回した時点で、ゲルドは既に詰みだった
――――――――――――――――――――――――――――――
「貴様がゲルドか……民間人を戦闘に巻き込むことは、条約違反だが?」
ゲルドは後ろ手に拘束され、膝立ちの状態だった
「お、お許しください!故郷に帰りたい一心で、やったのです。人質はもちろん、いずれ解放するつもりでした。本当です、信じてください」
白々しさを感じながらも、必死に謝るゲルド。だが、部屋の中で人質達を盾として扱っている姿を確認していたことから、ここで逃せば人質を殺される可能性が高かった
「黙れ!貴様のような奴の言うことが信じられるか!間違いなく貴様は、人質を殺していたはずだ!」
もはや聞く耳など持たないというぐらいに怒鳴りつける
「それに、ファウゼンでダルクス人収容所に火を放つよう命令していたことも確認している」
それにゲルドは焦り始める。その姿は自分が犯人ですと言っているみたいなものだった
「貴様が……」
ラビットが拳を握りしめて、ゲルドを睨みつける。デュースから話を聞いていたラビットは小さな女の子がいるのも構わず放火したのを聞いており、今回も女の子を盾として扱っていたゲルドに飛び掛からん雰囲気である
さらに、デュースやダスティといった他の面々もゲルドを睨みつけ、拳を鳴らしている。いつでも殴り殺す準備が出来ていると言わんばかりに
針のムシロの状態であるゲルドは冷や汗が止まらなく、キョロキヨロしている
「貴様は、裁きを受けなくてはならない。ヨルギオス・ゲルドを銃殺刑に処す!」
ホルスターから拳銃を取り出し、ゲルドに向けたバーロットにその場の人間がぎょっとする
「ば、バーロット大尉!捕虜を勝手に裁判にかけ処罰することは禁じられています」
ウェルキンがバーロットを止めようとするが
「構わん!私自らが処刑する。全責任は私が取る!」
今にも撃ちそうなバーロットはウェルキンの言葉を聞こうともしなかった
「そんなことをしたら大尉は解任されてしまいます!」
アリシアも必死に止めようとするが
「それがどうした!私は、この男を殺すために生きてきたのだ!私がフレデリックにしてあげられるのはそれしかない……それしかないのだ!」
引き金を引こうとした……が、ラルゴがバーロットにビンタを食らわした。それにバーロットが唖然とする
「やめるんだ……エレノア」
ラルゴは真剣な表情でバーロットを見ていた
「ラルゴ……どうして?どうして止めるの!?この男は、フレデリックを殺したのよ!私たちの……かけがえのない仲間を!」
止めたラルゴに食いかかる
「無残に、虐待されて死んだフレデリック……あなたは悔しくないの?可哀想だと思わないの!?」
それは誰にも言わなかったバーロットの本音であった
「もちろん、悔しいさ。俺だって、この手でこいつを殺してやりたい」
バーロットの思いをラルゴは否定しない……だが
「フレデリックはそれを望んでいると思うか?お前が罪に問われることを、望んでいると思うか?」
親友で共に戦った戦友だからこそフレデリックが何を望むかが分かるように言う
「あの頃……3人でよく話したよな?平和で、安心して暮らさるガリアを作ろうって。フレデリックはきっと……今でもそれを、望んでいるはずさ」
昔を懐かしむように悲しく微笑ながらいうラルゴ
「ラルゴ……」
バーロットは憎しみに満ちた表情でなくなっていた
「お前が軍隊に残ってきたのは、こいつに復讐するためじゃない。今、ここで……未来へ歩き始める自分を取り戻すためだったのさ」
その言葉を聞いてバーロットは泣いた
「うぅ……うわぁぁぁっ!」
今まで背負ってきた後悔と憎しみが溶けていくように涙を流す
「泣くなよ……エレノア」
ラルゴが涙を流すバーロットを慰める
「俺でよかったら……これからもずっと……見守っててやるからよ」
まるで愛の告白のように慰めの言葉を掛ける
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「ヒヒヒヒヒ……やっと味方の陣地に戻ってこられましたね」
帝国に占拠されているギルランダイオ要塞の前にゲイドがいた。最低限、人道的な扱いを受けていたが、
「一時はどうなることかと思いましたが、ガリア軍も甘い、甘い」
顔に青アザを付けながら呟き、門の前まで行くと
「止まれ!何者か?」
門の警備をしている帝国兵に止められる
「ヨルギオス・ゲルド大尉です。捕虜交換で、解放されて戻ってまいりました」
帝国式の敬礼をしながら名乗ると
「……貴様が、ゲルド大尉か。ダルクス人以外の民間人を人質にとったそうだな」
その兵士は上級兵士であり、現場ではゲルドより上の人間であった
「さらに一次大戦においては、捕虜を虐待した罪で禁固刑に処せられた。間違いないか」
ゲルドの罪を並べていく
「え、ええ……しかしそれは、昔のことで……」
いきなり自分の罪を再確認されたことに戸惑っていると
「総司令官のマクシミリアン殿下は軍規に厳しい。今回の件、ことのほかお怒りだ」
総司令官の怒りをかった……これがどういう意味かゲルドでも分かった
「貴様はこれより軍法会議にかけられる。厳しい刑も覚悟しとくんだな」
それを聞いたゲルドが焦る
「そ、そんな!」
まるで信じられないという表情をしている
「連れて行け!」
上級兵士の傍にいた帝国兵がゲルドを拘束する
「や、やめろ!放せ!」
ゲルドはそれに抵抗するが、無意味である
「いやだ……死にたくない!俺はまだ、死にたくないんだー!」
無様に足掻くその姿は、まさに滑稽であった……もしかしたアメリカ兵に私刑されていた方がマシだったのかもしれない
さて、マルベリーを期待されていた人は申し訳ありません
すぐにマルベリー戦を書こうと思ったのですが、この断章は唯一CQBが書ける話なので、現代戦でCQBのスペシャリストがいるのだから書かなくては思いまして……
なるべく早めにマルベリー戦を書くよう努力します