Medal of Honor Silver Star   作:機甲の拳を突き上げる

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12話 7月事件

デュース達が急いで合流しようとして移動していると、次第に銃声が鳴らなくなってきた

 

川を挟んで、エーデルワイス号とストライカーが見える位置までくると、既に戦闘が終わっていた

 

合流し話を聞くと、ウェルキン不在のため戦車が使用できない状況だったが……ストライカーがあったのが帝国兵の運の尽きだった

 

ストライカーに装備されている武装は105mm戦車砲。2世代型の旧式戦車の主砲だが、この時代では明らかに規格外の砲である。さらに自動装填装置により連射を可能としていた

 

保有砲弾数は20発程度とかなり少ないが、1発で戦車を破壊できるので、1台しかなかった帝国戦車と榴弾砲は高機動で動けるストライカーの餌食となった

 

エーデルワイス号を狙う対戦車兵も一個小隊規模のレンジャーとデルタフォースを前にして狙える状況ではなく、時速70km以上で迫りくるストライカーの重機関銃の前になすすべもなく蜂の巣にされていた

 

目の前で戦車が守っていた壁も、持ってきていたC4により爆破。その勢いでレンジャーが雪崩込み、本拠地を占拠、作戦終了という流れだったらしい

 

この短時間でと驚いていたが、驚く前にウェルキン達、第7小隊のメンバーは無事に再開できたことを喜んでいた

 

デュースの方も心配はしてくれたが、生きて戻ってくると確信していたパンサー達だったので、はしゃぐ程ではなかった

 

ある程度の報告を終えると、首都ランドグリーズへと帰路をとった

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

森林の包囲網を抜けて基地に戻って数日、中隊の指揮官室にパンサーとマザー、ファルディオの姿があった

 

「今回なにで呼ばれたのかしってるか?」

 

マザーが隣にいるファルディオに尋ねる

 

「いえ、俺には検討がつきません。他の小隊長を呼んでいない所を見ると、俺達に用事がありそうなのですが……」

 

ファルディオも何で呼ばれたのか知らなかった。するとドアをノックする音が聞こえ

 

「ウェルキン・ギュンター、入ります」

 

入ってきたのはウェルキンであった

 

「君も呼ばれたのか」

 

入ってきた方を見て、パンサーが声を掛けた

 

「中尉達に……ファルディオもですか?」

 

中にいた人物を見て、なんで自分が呼ばれたのかを考えていると……

 

「四人共、非番の日に出頭してもらってすまないわね」

 

椅子に座っていたバーロット大尉が口を開いた。多大な戦果を上げ、数多くの戦場に投入されて戦って、休みを貰っていた第7小隊と独立遊撃隊、偶々非番であった第1小隊の隊長のみが呼ばれていた

 

「実は、コーデリア姫主催の晩餐会に私とあなた達が招待されたのよ」

 

その言葉に4人は愕然とした

 

「え?どうして、僕たちが?」

 

晩餐会なんかに御呼ばれされる理由が分からないウェルキンが尋ねると

 

「ヴァーゼル橋奪還以来の義勇軍の活躍をお認めになってくださったらしいわ」

 

確かに第7小隊の活躍は義勇軍ならず正規軍の士気を上げるほどの活躍をしているから分かる……だが

 

「しかし、自分達が呼ばれる理由が分からないのですが?」

 

マザーが自分達も晩餐会に呼ばれた理由が分からなかった。恐らくその晩餐会には政府・軍高官に、貴族といった上流階級の人間も呼ばれているのだろう。その中で、たかだか傭兵にしか過ぎない自分達が呼ばれるなんてありえないことだと考えていた

 

「確かに傭兵である貴方達が呼ばれるのは極めて異例なことだけど、帝国を圧倒し、死傷者の増加を防ぎ、短期間で戦線を押し上げているという戦果をお認めになってくださったらしいわ」

 

独立遊撃隊が上げた戦果はまさに異常であり、第7小隊並みに士気の向上を担ってくれていた。正規兵の中には傭兵と言うことで快く思わない連中も少なからずいる、逆に義勇兵の方は各々が笑みを浮かべ、快く受け入れてくれていた

 

その人の温かさが、知らない地で戦い続けるアメリカ兵にとって不安な気持ちの救いとなっていた

 

「こんなことは初めてだと思うけど、出てくれないかしら?コーデリア姫直々のご指名なのよ」

 

それに又しても愕然とする。軍高官が自分たちの抱き込みの為に参加させるのかと考えていたら、まさかの国のトップ直々のご指名だった

 

「そちらから1人選んだ人物か、貴方達2人でもいいわ。少なくとも代表と言える人物を1人出してちょうだい」

 

こればかりは軍高官のお誘いを蹴り続けてきたマザー達も無視できるはずがなく、どうしようかと悩んでいた

 

「晩餐会は明日、ランドグーズ城で催されるの。私と一緒にいきましょう」

 

もう行く事が決定し、誰かを選抜(生け贄)しなければならない

 

「はぁ……堅苦しい場は苦手なんですけど……」

 

ウェルキンは頭を掻きながら苦笑いをした

 

「何言ってるんだ、ウェルキン。姫に拝謁できるなんて、滅多にない機会だぞ!」

 

ファルディオはどうも乗り気の様だ

 

「ガリア公ランドグリーズ家の一族には古のヴァルキュリア人の血が流れているという。つまり、コーデリア姫もヴァルキュリア人かもしれないんだ。その姫に直接会えるんだぜ!」

 

伝説のヴァルキュリア人かもしれない姫に会えるのは考古学者としても楽しみのようだ

 

「まぁ、確かに……」

 

同意はするものの、ウェルキンは余り乗り気ではなかった。マザー達は完全に乗り気ではなかった、絶対に高官共が勧誘してくるに違いないと思っているからだ

 

「晩餐会には、儀礼用の軍服を着用するのを忘れないようにね」

 

バーロットがウェルキン達にそう言うと

 

「貴方達用に儀礼用の軍服を用意させましょうか?

 

一応、マザー達の状況をしているが、儀礼用の服を持っているとは思っていなかった

 

「いえ、結構です。自分達のを持っているので」

 

パンサーはバーロットの提案を断った。もし、ガリア軍の礼服なんて着て行ったら面倒なことになるのは火を見るより明らかだった

 

「貴方達は礼服をもっているの?」

 

提案を断ると言うことは、そういう服を持っていることになるが

 

「えぇ……まぁ……一応は」

 

どこか歯切れが悪いが、バーロットはそれを着てくるように指示をだし

 

「では明日、ランドグリーズ城で合流しましょう。用件は以上よ」

 

面倒なことになったなぁ……と持っていると

 

「やれやれ……明日はバードウォッチングに行きたかったんだけどな」

 

ウェルキンがそう呟く。自国の姫より鳥かよ、とマザー達は思った

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

溜息を吐きながら、アメリカ軍が駐留している基地のゲートに近づく人がいた。その男は青い礼服をきて、装飾が施された帽子をかぶっている

 

「なんで俺なんだ……」

 

その人物はパンサーだった。陸軍用のブルードレスユニフォームをビシッと着こなし、黒いネクタイを締め、制帽を被っている。その制帽も尉官用にチンストラップが金で出来ており、兵科を表す帯は歩兵のライトブルーである

 

エポレットに中尉の階級章を付け、部隊を表す三角の稲妻に、剣というデルタフォースの部隊章が肩に付けられていた

 

この礼服は装備品が入っていたトラックにBDUと一緒に入っていたのだ階級章はあったが、部隊章が無く、このまま行こうとしたが何時の間にか作られていたデルタフォースの部隊章が縫い付けられていた

 

さて、何故パンサーが選ばれたのかと言うと。独立遊撃隊の責任者は3人おり、一人はパンサー、一人はマザー、もう一人はアパッチのパイロット、ホーキンスだった

 

ホーキンスは副官の立場なので除外され、パンサーかマザーが行くかで討論になり。髭ずらのマザーよりマシなパンサーが選ばれた

 

当人は大分反対したが、多数決で決められたせいで強く言えず、当日に髭を剃り、身嗜みを整えたらイメージがガラッと変わった

 

デュースとダスティにからかわるも、睨みつけることしかできず、今に至る

 

「大尉!」

 

ゲート付近でガリア製のジープの運転手を務めるレンジャーがいた。そのレンジャーの服装はBDUであったが

 

「今は中尉と呼んでくれ」

 

本来の階級は大尉だが、独立遊撃隊となった時にガリア軍では中尉として扱われていた。故に階級章も中尉だった

 

「失礼しました、中尉殿」

 

そう笑いながら言うと、パンサーは助手席に座り

 

「早く行くぞ」

 

運転席にレンジャーが乗るとゲートが開く、そこから車が発進し、ランドグーズ城に向かった

 

ランドグリーズ城に付き中に入り、目的の場所まで行くと

 

「あら中尉、時間通り……」

 

集合地点にいたバーロットがパンサーを見ると驚いた顔をした。髭を剃り、身嗜みを整えただけでここまで違うのかと

 

「……どこか可笑しな所がありますか?」

 

驚いたかをしていたので、何処か不味い箇所があるのかを聞くと

 

「いえ、正直ここまで見違えるとは思ってなくてね」

 

別にパンサーの何時もの格好が汚いのではなくて、バーロットと会う時は戦闘準備をした格好で会うことが多く、何時も髭を生やしていたのだか仕方ないと言える

 

「それが、貴方達の世界での礼服なのかしら?」

 

陸軍用のブルードレスユニフォームをつま先から頭まで見ると

 

「まぁ、そんな所です」

 

そう苦笑いしながら言うと

 

「お待たせしました」

 

扉から生きたのはウェルキンだった。ガリア軍の礼服を着て、しっかりと制帽も被っている

 

「あら……ウェルキン、見違えたわね」

 

バーロットはウェルキンの姿をみて、感想を述べる。ウェルキンもアリシアに手伝ってもらったと他愛ない話をしていると

 

「よう、ウェルキン。今日はバッチリきまってるな」

 

ファルディオも到着し、全員が揃った

 

「お、ファルディオ。珍しく帽子をかぶってるじゃないか」

 

ウェルキンが驚いたかのように言うと

 

「あぁ、軍隊の帽子ってやつはデザインが気に入らなくて敬遠してたんだが……今日ばかりはそういう訳にもいかないしな。まぁ、姫に拝見する為に我慢するさ」

 

デザインが気に入らなく溜息をこぼし、パンサーの方を見ると

 

「中尉もバッチリきまってるじゃないですか」

 

ブルードレスを初めて見たファルディオは異文化交流みたく珍しさを感じていた。するとカメラのシャッター音とフラッシュが光った

 

「ハーイ!皆さんお揃いのようね!」

 

カメラを取ったのはエレットであった

 

「お前もいたのか、晩餐会の取材か?」

 

新聞記者である彼女がいてもおかしくは無いなと思いながらパンサーが尋ねると

 

「もちろん!今夜の晩餐会には、『連邦』の大使も招待されているんだけど……どうやらその裏には、ガリアと連邦が同盟を締結しようという動きがあるのよ」

 

エレットがなにやらきな臭いことを言うと

 

「ふむ……ガリアはどの国とも同盟を結ばない中立主義を国是としている筈だが……」

 

国の主義を破ろうとしているのではないかとファルディオが言うと

 

「コーデリア姫の摂政である宰相・ボルグの意向が大きく影響しているのは間違いないわね」

 

宰相・ボルグ……まだ若い姫の代わりに政治を任されている人物である

 

「姫が若年なのをいいことに、今の国の政治はボルグを始めとする貴族たちが牛耳ってるの。今のコーデリア姫は、ハッキリ言ってボルグの操り人形みたいなものよ」

 

別の世界でも国のトップに腐ってる奴はいるもんだな……と、パンサーは感じていた

 

「そろそろ時間よ。行きましょう」

 

バーロットと共に5人は晩餐会の会場に向かった

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

先程のエレットの話……あれは事実であった

 

晩餐会の会場に到着し、最初は様々な視線をパンサーに向けられていたが、そんなこと気にもせずにいた

 

するとコーデリア姫の挨拶が始まり、そこまでは良かった。だが……宰相・ボルグ、いかにも腹に一物ありそうな人物であった。その隣にいた男が姫の挨拶が終わると、一人拍手をした

 

「連邦の大使としてガリア公国を訪問できた事は私の至上の喜びとする所であります」

 

この白髪の男は連邦の特命全権大使、ジャン・ダウンセントである

 

「ラグナイト資源に富み、東西の中央に位置する帰国は、まさにヨーロッパの要所!我が連邦は貴国と手を取り合い、帝国を打ち砕くとしましょう!」

 

いかにも……なことを言っているが

 

「フン……そのヨーロッパの要所を自分たちが押さえたいだけだろう」

 

ファルディオの言う通り、この国の資源と富を狙っているのは明白であった

 

「連邦とて、ヨーロッパ統一を目論む軍事大国……気に食わんな」

 

そう呟くように言うと、含みのある挨拶だな……とパンサーは感じずにいられなかった

 

「我々が手を組めば帝国など恐るるに足りません」

 

まるでパフォーマンスをするかのように大使が言うと

 

「帝国を打倒し、このヨーロッパ全土を我がガリアと連邦のものとしようではないか!」

 

宰相・ボルグが高らかに言うと、ダモンを始めとするガリア将兵は拍手をした

 

「(ヨーロッパ全土とは……随分物騒な事を口走るな)」

 

パンサーは拍手をせず、内心はボルグが連邦に個人的な繋がりがあるのではと睨んでいた

 

「俺達は他国に攻め込みたくて戦っている訳じゃない」

 

ファルディオの呟きには怒りが滲み出ていた

 

「故郷と、そこで暮らす人達を守りたいだけなのにね」

 

そう悲しい表情をしながら賛同できないなとウェルキンも呟く

 

すると宰相と大使が「両国の輝かしい未来を!」と高らかに言い、乾杯をする

 

「……チッ!」

 

するとファルディオは舌打ちをしてその場から去ろうとした

 

「……どうかしたのか?」

 

去ろうとしたファルディオをウェルキンが心配そうに声を掛けると

 

「質の悪い茶番劇を見せられて胸ヤケがしてきた……俺は先に帰るよ」

 

そう言い、この場を去った

 

「茶番劇なのには同意だな」

 

今まで黙っていたパンサーが宰相と大使の方を見ながら言う

 

「『我がガリア』に『両国の輝かしい未来』か……これは果たして誰に言ってるのだろうな」

 

明らかに国を思っての言葉ではないなと確信に近い何かがあったが、あえて口にしなかった

 

「しかし、姫に呼ばれてここまできたが……当の本人は心ここに非ずみたいだしな……」

 

パンサーの視線はコーデリア姫に向いた。挨拶では「心からの喜び」と言っていたが、そんな風に思ってるようには見えず、明らかに無理をしているのが伺えた

 

すると、コーデリア姫とパンサーの目と目が合った。服装が明らかに違うから見つけやすかったのだろう。だが、すぐに俯いてしまった

 

そこから晩餐会を楽しめる筈もなく、軍の高官からの誘いを全て聞き逃し、宰相と大使がパンサーの方を見ながら何かを言っているのを確認しながら一人、ワインと少量の食事を取った

 

ようやく晩餐会も終わり、パンサーとウェルキンにバーロットは帰路についていた

 

「まったく、とんだ晩餐会だったな」

 

パンサーの表情はまったく嬉しそうになく言いながら歩き、それに2人が苦笑いしていると……バーロットは誰かとぶつかった

 

「あっ……」

 

ぶつかった相手の無事を確認しようとして固まった。それはバーロットだけではなく、ウェルキンもパンサーも愕然とした表情をしている

 

「……」

 

それもそのはずである。なにせ、ぶつかった相手はコーデリア姫のあったのだ

 

「こ、コーデリア姫!」

 

ウェルキンが驚きながらも相手の名前を言い

 

「し、失礼いたしました!お怪我はありませんでしょうか?」

 

直ぐに傷が無いかを調べる。国のトップに何かあったら一大事なのだから

 

「……大丈夫です」

 

まるで機械のように言う

 

「申し訳ありませんでした!無礼をお許しください」

 

バーロットは深々と頭を下げ、謝った

 

「よいのです。気を付けてお帰りなさい」

 

コーデリア姫は首横に振り、去ろうとした……だが

 

「コーデリア姫、姫は連邦と同盟を結ぶことに、賛成なのですか?」

 

突然ウェルキンが質問を投げかけた

 

「ギュンター少尉!?突然何を言いだすのだ?」

 

バーロットは驚く。たかだか義勇軍の少尉が国のトップに質問を投げかけるのだから仕方ないと言える。だが、この問いはパンサーも気になった。明らかに乗り気ではなく、傀儡となっている姫の考えはいかほどのものかと思っていたのだ

 

「……申し訳ありません。失礼なことを言っているのは十分わかっています。ただ……今日の晩餐会を見ていたら姫の意志が無視されているようなきがして……」

 

失礼を承知で理由を言う

 

「……」

 

コーデリア姫は俯いたままだった

 

「……わたくしは若年の身、国政は摂政のボルグにまかせています。このガリアの地、そしてヴァルキュリアの血統を守ることが、わたくしに課せられた宿命……宿命を守るために、わたくしの意志は必要ありません」

 

それはまるで自分は傀儡のままで十分であると言っているみたいであった

 

「……守るためにこそ自分の意志が必要なのではないのですか?」

 

黙っていたパンサーが口を開く

 

「パンサー中尉!」

 

まさかパンサーも意見を言うとは思っていなかったのかバーロットは驚いた

 

「姫は自分の宿命を守る為に自分の意志は必要ないと仰いました。ですが、私はそれを守るためにこそ強い意志が必要なのだと思います」

 

パンサーはコーデリア姫の目を見ながら言う。コーデリア姫も驚いたような表情をしている

 

「今は傭兵の身なれど、このガリアを自分の祖国と思い、守る意思があります。姫は国民とその宿命を守る為に自分を貫き通す意思こそが必要であると私は思います」

 

その言葉に驚いた表情のまま固まっていると

 

「……このような失礼なことを言い、申し訳ありません。どうか無礼をお許しください」

 

パンサーは制帽を取り、深々と頭を下げた。それに気づいたコーデリア姫はあわあわとし始めた

 

「あ、頭をお上げください」

 

先程の人形のような無表情ではなく、人としての感情が顔に出ていた

 

「……あなたの名は?」

 

目の前の人物が一体何者か……それは服装とさっきの言葉で分かっていた。だが、この人の名が気になった

 

「義勇軍第3中隊隷下、独立遊撃隊所属デルタフォース隊長、パンサーです」

 

パンサーは敬礼しながら答えた。デルタは国が存在を隠している部隊であるが、今ここではその制約は関係ないので答えた

 

「……私はしきたりに従って生きることしか知りません」

 

その表情はとても悲しい顔をし

 

「それでは、ごきげんよう……」

 

また、人形のような無表情になり、この場から去った

 

「コーデリア姫……」

 

ウェルキンとパンサーは去って行った方向をじっと見つめていた

 

「……聞こえるか?俺だ。今、『ブツ』は一人だ。実行するぞ」

 

連邦大使がどこかに連絡をしている

 

「作戦どおり、装甲車を待機させておけ。『ブツ』を奪いしだい、そちらに向かう」

 

そういい通信を切った

 

「それでは私はこれで、おやすみウェルキン、パンサー」

 

バーロットはまだ用事があるのか、駐車場で解散することにした

 

「はい、お疲れ様でした」

 

パンサーも別れの挨拶をしようとしたら

 

「ま、待てーっ!待たんか、バーロット!」

 

聞きたくもない声が聞こえ、その方を向くと駄モンが此方に走ってきていた。だが、その表情は珍しく焦っていた

 

「バーロット、一大事だ!こ、コーデリア姫が誘拐されたのだ!」

 

その言葉に、3人は目を見開いた

 

「何ですと!?」

 

余りに衝撃的なことにバーロットも慌て始める

 

「どうやら、連邦の大使が犯人らしい。奴め、連邦のスパイだったのだ!」

 

既に犯人に目星はついていたようだ

 

「……姫を『保護する』という名目で人質にとり、ガリアを連邦の保護国とする。秘密条約や威圧外交で勢力を広げてきた連邦らしいやりかたね」

 

冷静さを取り戻したバーロットは状況と相手の目的を見抜く

 

「しゅ、出動だ!バーロット、急いで姫を奪還してこい!」

 

正規軍ではなく義勇軍に頼む辺り、どうかとは思うが。それより姫の護衛は何をしているんだと思いながらも、パンサーに直ぐにジープに積んでいた無線を用意する

 

「わかりました。ギュンター少尉、パンサー中尉、すぐに部隊を招集せよ!」

 

 

 

 

 

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パンサー達が胸焼けする茶番劇を見ている頃、第7小隊とアメリカ兵達は共に食事をしていた

 

第7小隊の隊舎の隣が独立遊撃隊の隊舎であり、戦場を共にすることが多いことから親睦があった。そういうことで、久々の休暇なので一緒に食事をすることになった

 

コンロを並べ、肉や野菜を用意し、バーベキューの準備をしていた。久々のバーベキューにアメリカ兵達は皆歓喜していた、警備の為に基地内にいる兵士には悪いが、心から楽しませて貰おうと思っていた

 

バーベキューが開始すると、皆が各々に肉を焼き、或は串に刺す作業をしたり、異文化交流に笑みを浮かべる姿があった。その中でもラルゴ特性・野菜の乱れ串に驚いたり、アメリカ兵が芸をしたりと戦時中とは思えない賑やかであった

 

アリシア特性のシナモンパンが披露されると、挙ってそれをほうばった。その喧噪の中には燥いでる姿だけではなく、いい雰囲気の者からお悩み相談所みたいな所があった

 

「こんなにはしゃいだのは久しぶりですわ」

 

イーディが木のそばに腰を下ろし、手にアルコール……とはいかず、ソフトドリンクを手に離れた所から第7小隊のメンバーとアメリカ兵達が笑っている姿を見ていた

 

「久々のバーベキューだ、サプライズとしてはこれ以上の物は無いだろうさ」

 

その隣にはデュースの姿があった。その手にはビールの入ったコップを持っており、その横にはビンもあった

 

「このまま私の快進撃で帝国との戦争も終わらせてみせますわ!」

 

自信満々に言う姿に、デュースはこれまでの活躍を思い出して苦笑いをした。だが、イーディが言葉だけでは無く強くなるため、部隊の足を引っ張らない為に人一倍努力をしているのを知っていた

 

ここまで自分自身を信じれるのも努力家故にかも知れないと思っていると

 

「そういえば、デュースさんは何か夢でもありますの?」

 

突然聞かれたことに、デュースは考えてはみるが

 

「夢か……特に無いな。戦場から生きて祖国に戻ることが今の目標だな」

 

軍に入りたての頃は確かに夢を持っていたが、特殊部隊員となり、場数を踏んできたデュースは夢という不確実なものより、現実的な目標を立てるようにしていた

 

「そうですか、私には大きな夢がありますわ!」

 

イーディの表情は笑顔で輝いていた

 

「この戦争を終わらせて!世界一の女優になることですわ!」

 

立ち上がり、デュースの方を向きお嬢様笑いのポーズをしながら高々と宣言する。その姿にポカーンとなった後、デュースは腹を抱えて笑った

 

「な、何が可笑しいのですか!?」

 

突然笑いだしたデュースを見て怒るが

 

「ハハッ……それは確かにデカイ夢だな」

 

ここまで自信家な人間なら確かに女優向きの性格だなと思い

 

「じゃぁ、未来の大女優に」

 

ビールの入ったコップを向けると、イーディは座り

 

「ガリアを救いに来た兵士に」

 

2人は乾杯し、中身を飲み干した

 

「……ところで、デュースさん。今、お付き合いしておられる女性は……その……」

 

イーディは顔を赤くし、髪の毛を弄りながらモゴモゴ言うと

 

「いや、今付き合ってる女はいないな」

 

女性と付き合った経験はそこそこあるが、職業故に長続きした試がなかった

 

「で、でしたら……その……わ、わたく……しと」

 

何処か嬉しそうな表情をし、恥ずかしそうに何か言おうとした。が、無粋にもこの光景の覗き見している連中をデュースは見つけた。それに気づいたのか

 

「よう、お二人さん。随分と仲が良さそうじゃねぇか」

 

笑いながらデュースをからかいに来たのはマザーであった。2人の様子は全員が見える位置であり、女性陣はその光景にドキドキしながら見ていた

 

「なんだ、マザー。俺をからかいに来るくらいなら自分の部下をからかいに行けよ」

 

デュースの視線の先にはラビットが複数の女性と会話していた……しかしその会話内容は

 

「それで、ギュンター君の好みがどんなものかを知りたくて……」

 

第7小隊の女性隊員であるユーノ・コレンが尋ねると

 

「ウェルキンみたいな性格なら、本や栞なんかが良いかもしれないけど、虫眼鏡やスケッチブックなんかも良さそうだね。その時にスケッチ用のペンなんかも添えてプレゼントするといいよ」

 

性格上、何が好まれるかを考えてラビットが答えると

 

「私……これが戦争なんだと分かってはいるのですが……この手で人を殺すのが……」

 

俯いた様子で自分の本音を語るスージー・エヴァンス

 

「その気持ちはよくわかる……僕も初めて人を殺すときは体が震えたよ。でもね、自分を大事な人を想像して欲しい。その人を守る為に……その人が泣かない様にするために引き金を引くんだと心に決めたんだ」

 

ラビットはスージーと目線を合しせるようにし、自分の本音を言う

 

「これはとても難しい問題かもしれない。でも、自分の大事な人を……隣にいる友人を守る為にと思えば、きっと君にも勇気が出るはずさ」

 

親身になって心の問題を一緒に考える。それに俯いていたスージーの表情は和らいでいた

 

「はい……お話を聞いてくださってありがとう御座いますわ、ラビットさん」

 

その表情はどこか恍惚とした表情に見えなくもない。するとラビットが胸ポケットから家族の写真をとりだして、彼が家庭をもっているのに気づく。スージーは最初それに落胆するものの、何故か何かに燃える表情になり、ラビットの傍に近寄った

 

「アイツはどっちかと言うとお悩みの相談だしな」

 

マザーは自分の部下の光景を見て、苦笑いすると……サイレンが鳴り響いた

 

そのサイレンで片付けや談話をしていた全員が動きを止める

 

「これは……緊急出撃のサイレンですわ」

 

イーディがサイレンの種類を思い出すと、既にアメリカ兵達は走っていた。酒を飲んでいた者も、女性に迫られていた者も、そんなの関係なく隊舎に戻り戦闘準備をする

 

≪ウルフパック1より通信。緊急事態、緊急事態発生。戦車、装甲車、歩兵戦闘車を出撃、最低限の兵士を残し各隊出撃されたし≫

 

スピーカーより流れる通信兵の報告が隊舎に伝えられる

 

≪場所は市外入口、繰り返す市外入口にてウルフパック1と合流せよ≫

 

情報が終えると、戦闘準備を整え、銃を持った兵士が分隊ずつに出撃していく

 

「まさか、初めての戦場が首都内とはな……」

 

ラグナリンで動くように再設計されたラジエーターを積んだ、戦車……コールサイントマホーク02が発進する。それに続き40mm擲弾銃を装備したストライカーにM2ブラッドレーも発進する

 

第7小隊も戦闘準備を完了させ、出撃していく

 

 

 

 

 

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パンサーとウェルキンに合流した後に移動しながら情報が通達される

 

《現在、連邦大使がコーデリアを拉致し兵員輸送装甲車を奪い逃亡。港にて船を連邦へと逃げるみたいだ。この区域は近衛連隊によって封鎖されている、銃を持っている人間がいたら、そいつは敵だ。既に発砲許可が出ている》

 

全部隊が装甲車を追い、区域へと突入する

 

《だが、装甲車は破壊するな。繰り返す、装甲車は絶対に破壊するな。それ以外なら何をしてもよいと近衛連隊の指揮官からお墨付きをもらっている》

 

区域に入り、各部隊が展開していく

 

《何人かは倉庫の屋根へと上り、状況を報告。絶対に装甲車を逃がすな!》

 

通信を終えるとデルタも行動に移る

 

「さぁ、港まで急げ!そこから船にのって、国外脱出だ!コーデリア姫、狭い車内ですが今しばらくのご辛抱を」

 

連邦大使が運転手に指示を出した後、捕えられたコーデリア姫の方を向いた

 

「……」

 

コーデリア姫は連邦大使を睨んでいた

 

《こちら、アルファ分隊。敵とコンタクト、奴らガリア兵の姿をしている》

 

屋上に上ったレンジャーの分隊が状況を報告。その後に銃声が響いた。狭い路地を進む戦車は上からの指示に従い進んでいる

 

《こちら、バイパー分隊。敵兵3名排除。近くに駆動音あり、場所はB-3》

 

次は海兵隊の方から報告が入る。人数に物を言わせた人海戦術は効果てき面であった

 

《こちら、ロージー。目標を視認したよ!進路はA-2からA-3に移動、右折した》

 

とうとう目標を捉えた。銃撃戦が激しくなるも、鎮圧されるのは時間の問題でもあった

 

《トマホーク02、進路をF-4からC-4に向かい左折しろ。それで正面は抑えられる》

 

トマホーク02はF-6地点からF-4へと移動しいいく

 

《エーデルワイスはそのまま直進しC-2にて待機、ブラッドレーはC-5を固めろ》

 

装甲車が港へいち早く向かおうと速度を速めるが、目の前に戦車が現れた

 

「あの赤と白に星のマーク……義勇軍の傭兵部隊の戦車です!」

 

運転手が目の前に現れた戦車の側面に書かれた星条旗を見て、焦りの声を上げた

 

「晩餐会に呼ばれていた傭兵の部隊だと……ガリア軍最強の部隊……厄介な連中がきやがった。迂回して別ルートを取れ!」

 

大使も冷や汗を流しながら指示をだす

 

「……パンサー中尉」

 

コーデリア姫がパンサーの名を呟く。装甲車が進路変更するが

 

「目の前に第7小隊の戦車です!」

 

既に状況は絶望的であった

 

「義勇軍の精鋭部隊……何としてでも!船着場へ急ぐんだ!」

 

もう指示なんて出せるレベルでは無くなっていた、外で聞こえていた銃撃音も次第に少なくなっていき、追い込まれていると理解できるのだから

 

右折し、真っ直ぐ向かおうとする。だが、目の前の通路にM2ブラッドレーが現れ、後方にはストライカーが道を塞いだ

 

《追い込みました、仕上げをお願いします》

 

無線からは屋上のレンジャーが状況を報告。既に倉庫の屋根にいた敵兵は排除済みで、大半の屋根にレンジャーが配置していた

 

するとコンテナの陰に隠れていたパンサー達が装甲車に向かう。ダスティとベガスがラジエーターを狙い撃ちし、破壊。作戦終了である

 

「ほら!キリキリ歩け!」

 

装甲車内にいた大使と兵士を拘束し、連れて行く

 

「コーデリア姫!お怪我はありませんか!?」

 

救い出したコーデリア姫をウェルキンが怪我など無いか確認する

 

「……大丈夫です」

 

その言葉にウェルキン達は胸を撫で下ろす

 

「しっかし、お姫様ってのも大変だねぇ。ガリアの国を一身に背負ってさぁ」

 

ロージーが呆れながら言うと

 

「こら、ロージー!お姫様にむかって、いくらなんでも失礼だろうが!」

 

ラルゴが注意するが

 

「いえ、よいのです……そのかたがおっしゃる通りですから。ヴァルキュリアとして、このガリアと共にいきるのが、わたくしの宿命なのです……」

 

淡々と答えるが

 

「……それは逃げではないでしようか?」

 

コーデリア姫の後ろから現れたのはパンサーだった。部下の3人もその後ろにいた

 

「えっ?」

 

目を見開き、驚いた声を上げる

 

「姫が言う『宿命』……これがどれ程の重荷なのかは私には分かりません。ですが、それを理由に自分が『意志』を持つことから逃げていませんか?」

 

コーデリア姫の正面に立ち、眼を見て話す

 

「おい!パンサー!お前まで何を言い出すんだ!」

 

パンサー物言いにラルゴが注意するが

 

「この国の人達は、皆強い意志をもっています。帝国に追い込まれた状況にめげず、必死に祖国を取り戻そうとする『意志』。それを支えようとする人達の『意志』を私はこの目で見ました」

 

自分達を受け入れ、共に戦うことを誇りに思ってくれる人達がいる。見知らぬ異世界に飛ばされ、心が擦り減っていた彼等にとってはこれ以上になり救いであり、確かな『意志』を感じた

 

「困難が立ちふさがっても……それを前にしても進み続ける『意志』こそ……人が持ち得る『意志』なのではないでしょうか?」

 

堂々とした立ち振る舞いで言い切ると、コーデリア姫の表情は悩みに満ちていた

 

「姫は宿命を背負ったヴァルキュリア人なのかもしれません。昔から伝わる定めや仕来りも大事なのも分かります。ですが、自分の人生を生きようとする『意志』を捨てるのは間違っています」

 

言い切ると、ラルゴがパンサーの肩を掴む

 

「おいパンサー、いい加減にしねぇか!」

 

これ以上は見逃せないのか、力ずくで止めとしたが

 

「……あなたの言われるとおり、わたくしは知らず知らずに逃げてきたのかもしれません古えからつづく血統の中で、自分がどう生きるべきかを、考えることから」

 

パンサーの言葉に何か感じる物があったのか、コーデリア姫が語り始める

 

「真っ直ぐに自分の考えを話せる貴方を、恐れずに自分の『意志』を貫く貴方を、とてもうらやましく思いました。 わたくしも、もう一度……考えてみたいと思います。自分の『意志』で」

 

その表情は人形のような無機質なものではなく、何かを決めた表情になっていた

 

「……姫ならできます。国民に出来て姫に出来ない通りなど無いのですから」

 

そう僅かに笑みを浮かべながらパンサーは言った

 

「あいがとうございます。パンサー中尉」

 

心から礼を言うと、お腹が鳴った

 

「あうっ……」

 

突然の事にコーデリア姫は顔を真っ赤にする。それを見たパンサー達は笑みを浮かべ

 

「だれか、食べ物を持っていないか?」

 

パンサーが周りを見て聞くと

 

「さっき焼いたシナモンパンがあるわよ!」

 

アリシアが先程のバーベキューで作ったシナモンパンを持っていた

 

「どうぞ、コーデリア姫」

 

パンを1つ取ると、コーデリア姫に渡した。貰ったパンを持つと、それを食べた

 

「はじめて食べましたが、とても美味しいですね」

 

その顔は花が咲いたかのような笑みだった

 

「彼女のパンは、本当に美味しいですからね」

 

ウェルキンが頷きながら言うと、周りも笑いながら同意した

 

「よし、ではランドグリーズへ帰還するぞ!」

 

パンサーが撤収準備をするように指示をだす

 

「すみませんが、姫。余り乗り心地はよくないですが……」

 

先程無線でハンヴィーを持ってこさせてた。後部座席に乗せようとパンサーは手を差し伸べた。コーデリア姫は笑みを浮かべ、その手を取りながら後部座席へと乗った。その隣にパンサーが乗り、運転席と助手席にダスティとベガスが乗る

 

デュースは一人歩きであるが、イーディと一緒なのを見たパンサーが苦笑いをして、そのまま走って付いてこいと意地悪をする

 

デュースが文句を言うが、それを無視して

 

「よし、出発だ!」

 

第7小隊と独立遊撃隊(アメリカ軍)はランドグリーズへと向かった

 




今日が誕生日でまた歳を取ってしまったな......

そんなことは置いといて、今回のコーデリア姫の説教は無理やり過ぎたかなと不安です......そこら辺やそれ以外の事でもって感想お待ちしてます

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