Medal of Honor Silver Star   作:機甲の拳を突き上げる

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11話 森林の包囲網

戦闘が終了し、首都ランドグリーズへと帰還している途中だった

 

「おい隊長、流石に偵察の帰りが遅くないか?」

 

エーデルワイス号の前にウェルキンやラルゴといった分隊長クラスの人間が集まっていた。アメリカ軍の方も暗視ゴーグルやナイトスコープを使い辺りを捜索している

 

「……この辺りに敵兵がいると考えた方がいい」

 

パンサーがウェルキンに近づき忠告をした。偵察班が行って既に1時間、戻ってくる気配がない。帝国兵にやられた可能性がでてきていた

 

「分かりました。皆!直ぐにでも動ける準備をしといてくれ」

 

部下に指示を出すと、ウェルキンは崖の方へと近づいた

 

「……なにか見える?」

 

アリシアも崖の方に近づく

 

「いや……ここらはガリア軍の勢力圏のはずなんだが」

 

そういい、ウェルキンは目を凝らして見渡した

 

「そこにいたら狙い撃ちされる危険があるぞ」

 

デュースがウェルキン達のいる場所が危険だと注意を言いに来ていた。その後にはイーディの姿もあった

 

「アリシアさんも、こんな危ないところより安全な所にいた方がいいですわ」

 

イーディもアリシアのことが心配だったのか、デュースに付いてきたのだ。4人が戻ろうとしたが

 

「ん?」

 

ラルゴが何かを見上げた。そこから何かが落ちてくる音が聞こえてきた。その音にデュースは気付き、咄嗟に近くにいたイーディを庇った。その瞬間、ウェルキン達がいた場所に爆撃がおこった

 

ウェルキンとアリシアが悲鳴を上げ、4人が崖の下へと落ちて行った

 

「兄さん!」

 

何が起こったのか理解できたのか、イサラが爆撃のあった崖に駆け寄るが

 

「馬鹿野郎!どこ行くつもりだ!」

 

駆け寄るイサラをラルゴが引き留めた。崖の場所は爆撃によって大きく穴が開いていた

 

「お前が行ったら誰が戦車を動かすんだ!誰が戦車を護るんだ!」

 

その言葉にイサラは思いとどまったが、その表情は不安で一杯の様子だった

 

「敵襲だ!」

 

レンジャー隊員が叫ぶ。その声に紛れ銃声が響いてくる。戦力はストライカーとガリア製のジープ、エーデルワイス号があるが、ウェルキンを含む4人が行方不明で戦車は使い物にならない状態だった

 

「……しかたない、一時撤退するぞ!」

 

帝国兵がどの規模でいるのかが把握できない今の状況で応戦すれば、包囲殲滅される可能性がある。先に安全を確保してから捜索に移るべきだとパンサーは判断した

 

「しかたねぇ……第7小隊!後方に撤退する!」

 

ラルゴもこのままでは不利になると思っており、直ぐに撤退するよう指示を出した。だが、イサラだけがウェルキン達が落ちた方を見て固まっていた

 

「おい、イサラ!いくよ!」

 

ロージーが声を掛け、ようやくイサラは戦場から撤退した

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

気を失っているウェルキンの耳に何かが聞こえていた

 

「……い……り……」

 

それが人の声であるとぼんやり理解しながら目を開くと、ぼんやりとだか人の姿が見えた

 

「おい、しっかりしろ。大丈夫かウェルキン」

 

なるべく声を抑えながらウェルキンに声を掛け続けていたのはデュースだった

 

「だ、大丈夫……そうだ、アリシアは!」

 

落ちた時の記憶が戻ってきたのか、一緒に落ちたアリシアの安否を確認しようとすると

 

「……う……ん、ウェルキン?」

 

隣で意識を取り戻したアリシアを見てウェルキンは胸を撫で下ろした

 

「イーディも一緒に落ちてしまったが、命に別状はない」

 

ウェルキンは直ぐ近くに寝かされているイーディを見た後に、デュースの方を向いた。その時にデュースが頭から血を流しているのに初めて気が付いた

 

「デュース!頭から血が」

 

驚いた声を抑えながら言うと、デュースも頭に手をやり血が出ているのを確認した

 

「恐らく爆発したときの破片で頭を切ったんだろ、問題ない」

 

何事も無かったかのようにイーディを起こしに行った

 

「おい、起きろ」

 

肩を掴み、揺さぶると気が付いたのか徐々に目を開き始めた

 

「あ……う……なんで私はここで……そうでした!わた……むがっ!」

 

自分に起こった状況を思い出したのか、大声を上げて驚きそうになったのをデュースが口を塞いで止めた

 

「この辺りには帝国兵もいる。だから大きな声をだすな、分かったか?」

 

囁くような小声で言うと、イーディは頬を赤らめながらも首を縦に振った。デュースが口から手を放したのをみて、頭から血が流れているのに気が付いた

 

「デュースさん、頭から血が」

 

イーディは直ぐにポーチからラグナエイドを取り出し、治療しようとする時に自分がデュースに庇われたことを思い出し、ドギマギしながら治療した

 

「助かった」

 

治療してくれた礼を言うと、顔を赤らめながらソッポ向いた

 

「あ、貴方には助けられましたので!これはそのお礼です……ッ!」

 

ツンデレ発言をしたと思ったらイーディは太腿を抑えた

 

「怪我をしたのか、見せてみろ」

 

デュースが直ぐに治療しようとしたが

 

「こ、この程度我慢できますわ」

 

痛みに堪えながらも、笑みを浮かべながら大丈夫だと言い張るイーディ。今の状況は直ぐにでもこの場を離れなければならないのは十分承知だったデュースは

 

「ウェルキン、この辺りに恐らく帝国兵が迫っているはずだ。直ぐにこの場を離れるぞ」

 

そういうとウェルキンは頷き、アリシアに肩を貸しながら立ち上がった。アリシアもどこか怪我をしたみたいだった。デュースもイーディに肩を貸して立ち上がらせるとそのまま歩く手助けをした

 

「すまないが先頭を頼む。この辺り地形はまだ完全に把握できていない」

 

HK416を片腕で持ち上げ、この辺りの地理に詳しいウェルキンに道案内を頼んだ。

 

「わかった、頑張ってこの包囲網を抜けよう」

 

それに頷き、ライフルを構え警戒しながら進む。その後を、足を引きずりながらアリシアが続き、後方をデュースが警戒した

 

「デュースさん、私も一人で歩けますわ」

 

足を引きずりながら自分で歩くアリシアを見て、自分も一人で歩けると言うが

 

「2人も足を怪我した奴が一人で歩いたら直ぐ帝国兵にみつかってしまう。それに……かなり痛むんだろ?」

 

イーディが先程からずっと怪我をした太腿を抑えたままだったのを見逃していなかった。下手したら骨折をしていると考えていた

 

「ここで動けなくなるぐらい悪化したら、俺達は全員死ぬことになる。だから、黙って担がれていろ」

 

そう言うとデュースは再び辺りを警戒し始めた。全員死ぬことになる……これは誰もお前を見捨てないと言ってるのと同意義であり、男性にこんな力強い言葉を言われたのが初めてであるイーディは嬉しく思いながらも黙って担がれることにした

 

するとウェルキンが腕を振り下ろした、これは伏せろというハンドサインである。全員その場に伏せると目の前から話し声が聞こえてきた。帝国兵が話をしながら何かを探しているようだった

 

数は4人、デュースはその場にイーディを寝かせ、銃を構えた。ウェルキンも同様に銃を構え何時でも撃てるように準備をしていた。だが、今の状況が夜なのが幸いし帝国兵達はデュース達に気付くことなく過ぎ去っていった

 

すると、何かが発射するような音が響いた

 

「この音は……榴弾砲か!?」

 

戦車長であるウェルキンが音の正体を見破った

 

「わたし達を狙っているのかな?」

 

アリシアがどこを狙っているのかを聞くと

 

「いや、それにしては狙いが甘いな。恐らく砲撃であぶり出すつもりなんだろう。注意していれば着弾位置は予想できるから、爆発の予想範囲内に気を付けて進もう」

 

弾道計算ができるウェルキンがいて心底助かったと思うデュースを余所に、アリシアが何かを見つけていた

 

「ねぇ、ウェルキン……この光ってるの、何?」

 

アリシアが見つけたのは、目の前を飛ぶ光の玉だった

 

「これは……ヒカリムシだ。体内に発光器官をもつ、ホタルみたいな虫だよ」

 

目の前を飛んでいるヒカリムシを見て、ウェルキンはあることに気が付いた

 

「待てよ……ヒカリムシは動物の排泄物が主食だ。だとすると、獣道が近くにあるのかもしれない」

 

その言葉にデュースは何と幸運なのかと本気で思った。獣道は動物が通る程度の狭い道で、草木が生い茂る場所である。夜と草木で姿を隠しながら進めるのは正に幸運だった

 

デュースは担いでいたバックパックから暗視ゴーグルを取り出し、辺りを見回した。すると道の外れに別の道を見つけた

 

「ウェルキン、あっちだ」

 

デュースが方向を示し、前進すると獣道が目の前にあった

 

「こんな暗闇の中で、よく見つけたね」

 

いくら月明かりや星の光があるからといって、ここは森の中で肉眼では殆ど見えないほどの暗闇である

 

「こいつのおかげさ」

 

暗視ゴーグルをトントンと指で叩きながら獣道を進んでいく。ある程度進むと、先程の道から見えない位置で一旦休憩することにした

 

「ん?この草は……いいぞポニセーラだ」

 

何かを見つけたのか、ウェルキンは嬉しそうな声をした

 

「どうした、ウェルキン」

 

何を見つけたのかを訪ねると

 

「捻挫や打ち身に効く薬草なんだ」

 

それを聞いてウェルキンがそういうのにかなり詳しかったなとデュースは思った。今の間にイーディの怪我の具合を確かめておこうと怪我をした部分を触診した

 

特殊部隊であるデュースが医療系の知識もあり、幸いしてイーディの足の骨が折れていないことにホッとした。だが、歩けないほど強く打ったのだから酷い打ち身であることには違いなかった

 

「茎と葉の部分をすり潰して、と……アリシア、足に塗るよ」

 

怪我の状態を確かめている間に、薬草をすり潰し、塗り薬を作っていた

 

「ちょっと……しみるけど……なんだか、足の痛みが少し引いたみたい。ありがとう、ウェルキン」

 

即効性とは恐れ入るなと思いながらもデュースはメディカルキットからガーゼと包帯を取り出し、足を固定するよう言って渡した。ウェルキンから塗り薬を貰うと

 

「薬を塗るが……どうする?」

 

流石に女性のズボンを脱がす程にデリカシーが無い訳が無く、自分で塗るか他人に塗ってもらうか聞くと

 

「ぬ、塗らせてあげても構わなくてよ」

 

顔を真っ赤にして、ソッポ向きながら言うが

 

「そんだけ元気なら自分で塗れるな」

 

塗り薬をイーディに手渡し、デュースは先の様子を偵察しに行った。イーディは文句をブツブツ言いながらウェルキンとアリシアのイチャイチャした光景を見て、一人で寂しく薬を塗った

 

休憩を終え、イーディの太腿が良くなったのか、手で押さえるほどではなくなっていた。先に進んでいくと橋の前に2人の帝国兵が警備をしていた

 

「ウェルキン、イーディを頼む」

 

イーディをウェルキンに渡し、草陰に隠れるように指示をだす。デュースは暗闇を利用し、暗視ゴーグルと言う最大の武器を使用しながら静かに近づく

 

相手の視界に入らないギリギリの位置でナイフを取り出すと、遠くにいる方の帝国兵に投擲する。投擲されたナイフは首筋に命中し、その場に倒れた。倒れた音で何事かと音のした方を向いた瞬間にバックチョークをする。首を絞められたことによって帝国兵が足掻くが、その場で首の骨を折られた

 

2人の帝国兵を無力化すると、死体からナイフを回収し、ウェルキン達のいる場所まで戻った。デュースが無事なのにホッとしながら先へと進む

 

橋を渡っている最中にサーチライトを発見し、見つからないように進んでいくが、目の前に厄介な配置がされたった。一つの道にサーチライト2つと帝国兵2人、帝国兵を排除するだけなら簡単なのだが、死体がサーチライトに見つかれば増援が呼ばれる

 

そこでまたしてもデュースの出番だった。元々こういった隠密行動が主な任務であるデュースは場馴れしていた

 

まずは道が二つに分かれている場所で別々に行動する時を狙い、サーチライトが過ぎたのを見計らって射撃。銃口にサプレッサーを装備しており、音と閃光に気付かれることなく排除できた。死体は音が出ないよう支えながら草むらに隠し、もう一人方も合流地点で待ち伏せし、背後から口を押え、喉をナイフで掻っ切った

 

死体を隠し、イーディに肩を貸し、サーチライトに気を配りながら誰一人欠けることなく戦域を突破した

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

帝国兵が探し回っていた戦域から抜け、そこそこ歩いた所に偶然山小屋があった

 

「こんな所に山小屋がある……少し休ませてもらおう」

 

ウェルキンの提案にデュースは賛成した。デュース自身はまだ体力にも余裕はあるし、夜通しで歩き続けることもでき、まだ安全とは言える場所ではなかった

 

だが、暗視ゴーグルのバッテリーも長時間使い続けたせいで残りの残量が心配であるし、なにより3人の体力が限界だった。夜通しで行軍する訓練などうけているはずがなく、女性の2人は負傷もしている

 

この状態で夜道を進み続けるのは危険であると判断していた

 

「そうだな。これ以上は2人にも負担になる」

 

そう言い、4人は山小屋に入った。ウェルキンは途中で拾った薬草を取り出し、それを見たデュースは残りの包帯とガーゼもウェルキンに渡した

 

バックパックを下し、枕代わりしてイーディを横にする

 

「しかし、ウェルキン。その薬草の知識は一体どこで?」

 

ウェルキン自身が昆虫に詳しいことは知っていたが、薬学系の方まで詳しいとは思っていなかった

 

「昔、よく父さんと山に行ってね、その時に色んなことを教えてもらったんだ。薬草はその時に知ってね、後は専門書なんかを読んで覚えたんだ」

 

その勉強熱心な所に感心しながらも、ウェルキンから包帯と何かが塗られたガーゼを渡された

 

「このガーゼに塗ってあるのは湿布代わりになる薬草なんだ、これを付けておけば少しは楽になるはずだよ」

 

戦車兵もだが、衛生兵も向いてるんではないだろうかと思いながらイーディの傍に近寄る

 

「すまないが、これを巻くからズボンを脱いでくれ」

 

流石に一人で包帯を巻くのが苦手なのか、イーディは一人でやらずズボンを脱ぎ始めた。ズボンを脱ぐと、太腿の所が赤く腫れており、先程のポニセーラの塗り薬を塗り、その上から湿布代わりのガーゼを当て、包帯で巻いた

 

作業が終わるとイーディは顔を真っ赤にしながらズボンを上げた。チラリとデュースの顔を見るが平然とした表情をしており、それにムッとしたのか

 

「乙女のあられもない姿を見ておいて、その態度は失礼じゃなくって」

 

どこか怒りながら言うが

 

「なにバカなこと言っているんだ、治療行為をしただけだろ」

 

余裕綽々と言う姿に、余計怒りを感じながら

 

「それとも何か、そういうことを期待していたのか?」

 

そうニヤつきながら言うと、イーディはムキーッ!と言いながらデュースをポカポカと殴り始めた

 

「まったく!デュースさんはデリカシーがありませんわ!」

 

腕を組んでプイッとソッポ向いてしまった

 

「すまなかったって、確かにデリカシーがなかったな」

 

そう笑いながら謝る。その姿を横目で見ながら

 

「……戦いの時と随分雰囲気が違っていらっしゃるのですね」

 

落ちた場所から、この山小屋までデュースは帝国兵をほぼ1人で排除してきた。それ以外でも会話や警戒する時の態度、敵兵を見つけた時の眼付きの鋭さ、全てが今と違っていた

 

「今はなんだか……フレンドリーな雰囲気なので」

 

今のデュースは先程の鋭い感じではなく、親しみやすい感じであり、さっきとはまるで別人のようであった

 

「あぁ、それは俺の中で切り替えをしてるからだ。年がら年中あんなに集中していたら疲れてしょうがない」

 

そう言い、微笑ながらイーディの髪を撫でた。その手にはグローブをしておらず、まるで大事な物を撫でるかのような手付きだった

 

「今はもう休め、幸い毛布は人数分ある」

 

毛布が置いてある所から人数分の毛布を取り、一枚をイーディの上に被せた

 

「お前達も寝れる内に寝て置け、見張りは俺がしておく」

 

ウェルキン達にも毛布を渡し、寝るよう言った。その言葉通り、会話を中断して2人は横になり、イーディも目を閉じた

 

時間的に2時間が過ぎた頃……小屋の中では静かに寝息だけが聞こえ、見張りをしていたデュースも座って目を閉じていた

 

すると……砂を踏むような音でデュースは一気に目を覚ます。すぐさま傍に置いていたHK416を手に取り、窓の近くの壁に張り付く。窓から覗くように外の様子を窺うと、帝国兵が1人この小屋に向かってくる姿が見えた

 

デュースは直ぐにウェルキンを起こした

 

「起きろウェルキン、敵だ」

 

なるべく外に声が漏れないように言い、体を揺らす。眼を覚ましたウェルキンに状況を説明し、次にイーディを起こす。ウェルキンは直ぐにライフルを手にし、アリシアを起こした

 

足音が段々と近づく中、デュースはイーディを、ウェルキンはアリシアを庇うように銃を入り口の扉に構える

 

そして……扉を開けて帝国兵が入ってきた。だが、帝国兵はその手に持っている銃を構えなかった。それを不審に思いながらも銃の照準は帝国兵の眉間を捉えている

 

帝国兵は足を擦る様に近づいてくる

 

「止まれ!」

 

デュースが停止するように声を掛けると

 

「あ……う……」

 

呻き声を上げ、倒れた。いきなり倒れたことに3人が驚いている中、デュースは冷静に近づき、銃を蹴って遠ざけてから確認をした

 

すると背中に弾痕があった

 

「この帝国兵……傷ついているのか?」

 

ウェルキンも帝国兵に近づき、状態を確認した。撃たれた痕は4つある

 

「たすけ……て……」

 

絞り出したような声で帝国兵は助けを乞うた

 

「ウェルキン!手当を!」

 

アリシアは直ぐに帝国兵の手当をしようと、ウェルキンにも手伝うよう頼む。それに頷き手当をし始めた

 

デュースもバックパックから予備の医療品を取り出す。敵ではあるが、助けを求める……いわゆる降伏してきたとも取れ、正規軍であるがゆえ、降伏してきた者を撃ち殺すような真似はしなかった

 

「……どう?」

 

アリシアが手当をしているデュースに尋ねる

 

「ダメだ……肺を貫通し、出血も多い。手遅れだ」

 

首を横に振り、助からない事を教えた。傍で見ていたアリシアとイーディは悲痛な表情をしている

 

「苦しい……助けて……か……あさん……」

 

傷の痛み悶える帝国兵は救いを求めて手を伸ばす。デュースは一息で楽にしてあげようか迷っていると……伸ばしていた手をアリシアが握った

 

「う……母さん……」

 

帝国兵は激痛で朦朧とした意識の中自分の母を呼んでいた……すると

 

「もう大丈夫……母さんはここにいるよ。安心して……ね?」

 

アリシアは手を握りながら帝国兵の頭を、子供を撫でてあげるかのように優しく撫でた

 

「かあさん……」

 

最後に母を呼び……息を引き取った。握っていた手が力なく落ちる、その光景にアリシアとイーディは涙を流した。その表情は悲しみに包まれていたが

 

「彼の顔をみろ」

 

そう言ったのはデュースだった。涙を流している2人は死んだ帝国兵の顔をみた

 

「先程まであんなに苦痛を浮かべていたのに、今は驚くほど穏やかな表情だ」

 

その表情は母の腕の中で抱かれた子供のように穏やかな表情をしていた

 

「アリシア……君は君にしかできない方法で彼を助けたんだ」

 

ウェルキンの言葉でアリシアは泣いた。ウェルキンが胸を貸し、その中で泣いた

 

「何もできなかったと思うな。前は最後まで彼の安否を願っていた、それは大事な事だ」

 

アリシアと同じく悲痛な表情をしていたイーディをデュースが本心の言葉を言う

 

「……デュースさん」

 

イーディはデュースの胸で泣いた。デュースはただ抱き締めてあげることしかできなかった……そして夜が明ける

 

小屋の外に死んだ帝国兵を埋葬し、その上に彼が持っていた銃を刺し、ヘルメットをその上に掛けていた。その目の前でデュースは十字を切った

 

3人もその傍で祈りを捧げた

 

「……あたしね、ガリアの人達の命を奪った帝国がずっと憎いと思ってた。でも帝国の兵士だってあたし達と同じ人間で、同じように守りたい人がいるんだよね」

 

祈り捧げた後、アリシアがポツリ、ポツリと思ったことを述べていく

 

「あぁ……そうだね」

 

ウェルキンがそう頷く中、デュースはその考えは難しい問題であると思っていた。帝国は侵略者だからそうとは言えない……と言えないこともないが、彼らも人であり愛する家族がいる同じ人間なのだ。この問題の答えは出そうにない難問だと思っていた

 

「戦争が始まって、そんな当たり前のことも忘れていましたの……この方も戦争が無ければ、家族と……もっと一緒にくらせていたのかもしれませんわ」

 

力の無い表情でイーディが言う

 

「……ねぇ、ウェルキン。わたしね……家族がいないの。生まれた時から孤児院育ちで、両親の顔も名前も知らないんだ」

 

アリシアが自分の過去の体験を言う

 

「そう、だったのか……」

 

それになんて言葉を掛ければいいのか分からずにいた……が

 

「でも、それもいいかもいしれないね。家族が……大事な人がいなければ、分かれる悲しみを感じずにすむかもしれない」

 

その表情は笑みを浮かべているが、とても悲しいそうに

 

「一人ぼっちも悪くないかも!……なんてね」

 

そう言い笑った。笑っているのに、とても悲しんでいるとウェルキンは感じていた

 

「……アリシア、君はひとりぼっちなんかじゃないだろ?僕もイサラも……小隊の皆も、今はアリシアの家族じゃないか」

 

だからウェルキンはそれを否定する

 

「みんなが……家族?」

 

その言葉にアリシアの心が揺れ、眼を見開いた

 

「あぁ。僕が父さん、アリシアが母さん、ロージーにイサラが娘で……ラルゴは……お爺ちゃん!なんて考えてみたらどうだい?」

 

そう心からの笑みを浮かべて言うと

 

「あら、でしたら私はアリシアさんの姉ですわね」

 

イーディもアリシアの家族であると言い

 

「なら俺達はご近所さんか?まぁ、この場合は友達という間柄になるがな」

 

デュースも笑いながら言う

 

「ぷっ……そんなこと言ったら、ラルゴに怒られるよ!」

 

そう言いながら笑う。その笑みは先程の悲しい笑みではなく、嬉しさからくる笑みだった

 

「よくケンカもする家族だけど、ケンカするほど仲がいいって言うだろ」

 

確かに、ロージーとイサラにイーディがいれば騒ぎには困らないだろうなとデュースは思った

 

「だから、もう一人ぼっちとか言わないこと。分かったね?」

 

遠回しの告白に聞こえるな……と思うイーディとデュースであった

 

「うん……ありがとう」

 

だが、アリシアの笑みが心からの笑みであることに嬉しく思っていた……だが、それも長く続かなかった

 

突然、茂みから足音が聞こえた。デュースは反射的に音の方向にイーディを庇いながらHK416を構える、ウェルキンもライフルを茂みに向ける

 

その茂みから出てきたのは……銃を構えた数人の帝国兵だった。その真ん中には明らかに階級の高い人物……恐らく指揮官であろう。お互いが銃を構えたまま緊迫した空気が辺りを包む

 

その内、一人の帝国兵が先程埋葬した場所に近づく

 

「このヘルメットと銃はフリッツの……!」

 

帝国兵の声は驚きに満ちていた。黒服の男性がウェルキン達の目の前までくる

 

「……お前達が埋葬してくれたのか?」

 

何を聞くのかと思ったら、埋葬してくれたかどうか……おそらく埋葬した彼は部下だったんだろう

 

「……ああ」

 

ウェルキンが肯定する

 

「小屋の中に治療した跡があります」

 

小屋の中を調べていた帝国兵が状況を報告する

 

「……なぜ、敵国兵の命を助けようとした?」

 

当然に思う疑問を聞いてくる

 

「彼はうわごとで母の事を言っていた」

 

銃を構えたままのデュースが答えた

 

「僕達は敵同士かもしれないけど、同じように故郷には家族がいる家族がいる者として見捨てられなかったんだ」

 

本心の言葉をウェルキンは口にする

 

「フリッツは……母親思いのやつなんです。今度の休暇は旅行に連れて行くって……」

 

銃の構えを解いた帝国兵が指揮官に耳打ちする。構えを解いたことで、デュースとウェルキンも銃の構えを解いた

 

「……お前には家族がいるのか?」

 

指揮官がそう……訪ねてくる

 

「あぁ、妹がいる……それに……小隊の隊員達という大事な家族もいるよ」

 

相手の眼を見て、胸を張って堂々と答える

 

「そうか……俺にも妻と娘がいる。お前と同じようにこいつら隊員も家族のようなものだな」

 

緊迫した空気が解かれていく

 

「フリッツを……家族を葬ってくれて感謝する。彼もきっと礼を言っているはずだ」

 

この場にはガリア軍、帝国軍ではなく、家族として、一人の人間として礼を言った。すると砲弾が撃たれる音と、銃声が響いてきた

 

「次は戦場で会うことになるだろう」

 

その表情は家族としての顔ではなく、帝国軍指揮官としての顔だった

 

「お前達とは……ゆっくり話をしてみたかった」

 

そう名残惜しそうに言い

 

「それでは失礼する」

 

指揮官が踵を返し、帝国兵達もそれに続き去っていった

 

「よし、俺達も戻るぞ」

 

デュースが3人の方を見て言い、4人は部隊と合流を急いだ

 


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