Fate/after Silent Noise (フェイト/アフター サイレント・ノイズ)   作:どっこちゃん

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一章 過加速「ディーン・ドライブ」-7

 姿は見えない。しかし、彼らがそこにいたという痕跡はたしかに刻み込まれていた。

 

 それは「音」であった。何かが高速でアスファルトと大気とを切り裂いていく音。時折高らかに鳴り響く硬く、澄んだ靴の音。そして密やかに沸き起こる泡沫の喧騒と笑い声。

 

 安眠を貪り続ける住人の弛緩した耳の片隅にだけその痕跡を刻みつけながら、それらの音色は疾く深山町を縦断していった。

 

 しかしたとえ今が白昼であり、住人たちが両の眼を確かに見開いていたとしても、それらの駆動を知覚し得るはやはり耳だけであったかもしれない。

 

 二つの影は月光の下、冷えきった道程をめまぐるしく行き交い、駆け比べでもするかのように真夜中の追走劇を演じていた。

 

 それらはさらに高速の狂想曲を加速していく。その挙動の迅速さはもはや常人の目には捉えられぬほどの速度であった。

 

 凸鏡の仮面の男は疾風以上の速度で地を駆け抜けていく。 

 

 それは、かの中国四大奇書のひとつ『水滸伝』において語られる『神行の術』を思わせるような人知を超えた走行法であった。

 

 これはまたの名を神行法とも呼ばれ、『神行太保』の異名を持つ梁山泊百八人の好漢の一人、戴宗が使用したと伝えられる神術である。彼の(あざな)の太保とは「(かんなぎ)」つまりは神術を使う行者のことを表している。

 

 しかし、それほどの神脚を駆使するモザイク柄の男の顔には消しきれぬ驚愕の相が刻み込まれていた。たとえ仮面の上からでも、その狼狽にも似た苦悶は見て取れたであろう。

 

 さもありなん。それほどの秘術を駆使してもなお、彼は眼前の老紳士に追いつくことが出来なかったのだ。先ほど目と鼻の先まで詰め寄ったはずの老紳士は、次の瞬間には再び十メートルほどの距離を開けて優雅に佇んでいるのだ。

 

 男は訝るより先に再度加速する。

 

 しかし、届かない。追いつかない。

 

 怪異であった。男にも、敵の『加速』が理解できない。いや、その優雅すぎる居住まいは最初から加速などしていないとでも言わんばかりだ。

 

 この仮面の男が人知を越えた速度で加速し、蹂躙するかのようにアスファルトを穿ちながら地を蹴るのに対し、この老魔術師のしたことは畏怖さえ覚えるほどに軽やかであり静的であった。

 

 老紳士は素早く九字を唱えると共に澄んだ靴の音を打ち鳴らし、九足の歩法(ステップ)を刻んだ。

 

 その優雅な音色は足裏のアスファルトを伝い地の底にまで深く、深く浸透していく。

 するとどうしたことであろうか、老紳士が優雅に歩行するだけで神速の怪人はいっこうに追いつくさえ出来なくなるのだ。

 

 これは反閇(へんばい)と呼ばれる行為であった。古来陰陽師達の間で使用された呪的歩方術の一種である。己が出行する方位の土を清め、悪しきものを打ち破ると言う呪禁の方術であり、一般に知られるところでは力士の行う四股もこの行為にその源流を求めることが出来るという。

 

 老紳士は、これを魔術の発動呪文の代用として使用しているのであった。

 

 ひとえに、この老魔術師が先ほどから幾多の秘蹟を織り交ぜて駆使する秘術とは、おそらく『縮地法』と呼ばれる遁甲術であると見受けられた。

 

 これも、古くは中国の伝承に語られる恐るべき東洋魔術(オリエンタル・マジック)のひとつであった。

 

 だがこの老獪なる魔術師の真に恐るべきところは、東洋の魔術を再現するために己が生来から有する西洋魔術のエッセンスを大いに活用しているところであった。

 

 この老魔術師は地中に放った地妖精、精靴職人(レプラコーン)の加護によって大地に奔る地脈を操作し、まるで千里もの距離をたった一歩の距離にまで縮尺しているのだった。

 

 西洋魔術の大家に生を受けた彼が、元来は畑違いであるはずの東洋の地相占術を貪欲に学び、その上ただそのまま模倣するのではなく、それを己の持てる専門的技術とすり合わせることによって、より効率的で実用的な秘術として己のものとしているところから、この老練の魔術師がどれほど破格の才覚を持ち、それを練磨し続ける半生を送ってきたのかが窺い知れるのであった。

 

 この予想だにしなかった展開に、モザイク柄の怪人は仮面の奥で歯噛みせざるを得ない。己の加速性能を持ってすれば逃げきることは造作もないと考えていた甘すぎる見通しは、無様にも月光の下に露呈し、かの老魔術師の秘術の前に、まるで雲霞の如く掻き消されることと相成ったのだ。

 

 しかし、だからといってこの男がその失意によって戦意を挫かれることはなかった。対峙する魔術師に対して、加速によって優位に立つことが不可能だと悟った時点で男は怪異の究明を保留し、足を止めていた。

 

「なんじゃ、もう徒競走は終わりか?」

 

 同じく歩行(・・)をやめ、人を食った言葉を掛けてくる敵を黙殺したまま、男は腰のホルダーから抜いた短機関銃(スコーピオン)の銃口を向け、かまわず発砲した。

 

 卓越した魔術師と戦闘になった場合、後手に回ることは高確率でこちらの死期を早めることになるだけだ。最良の選択は敵が何らかの対策をとる前に殺すこと。 

 

 撒き散らされる薬莢と乾いた破裂音。しかし、射撃手の意に反して弾丸は敵に届かなかった。

 

 それは、いい。

 

 もとよりこんなものが真っ当な魔術師を相手に何らかの効果をもたらすとは考えていない。よほどの三流でもない限り、こんなもので魔術師を仕留めることなど出来はしない。

 

 それは経験上、充分に承知している。今の正射はあくまで牽制と自分のペースを作るためのものだった。しかし――。

 

「……五月蝿いぞ。そんなものはやかましいだけで何の効果もないわ。周りに迷惑なだけだから止めておけ」

 

 向けられた銃口を何の痛痒でもないように静かに一瞥した老紳士は、不動の直立を崩さぬまま胡乱げに告げた。

 

 怪人が引き金を引き絞るより先に、この老紳士は先手を取っていたのだ。

 

 彼は敵を嘲るような声を上げながら、同時に優雅な仕草で両の手から白手袋を脱ぎさり、虚空に向けて放っていた。

 

 それは先の怪人の疾駆により抉られたアスファルトから、剥き出しになっていた地表の上へ舞い降りた。

 

 その灰銀色に輝く白布の掌の部分には、なにやら複雑な文様が刻み込まれている。それらは主の手から離れ夜の虚空で白亜の蝶を思わせるように揺らめいた。

 

 その奇妙な文様の形態は、左右で微妙に異なっていた。

 

 文様の根幹を成す中央の図形の形が違っているのだ。右手には五芒星(ペンタグラム)が、左には六芒星(ヘキサグラム)がそれぞれ、中央に設えられている。

 

 それぞれが地に落ちて土に呑まれ、そこから沸き起こった小石の群れが中空に舞い上がり、バラ撒かれた銃弾の直進を阻害したのだ。土くれはさらに溢れ出し、そこから主を守護するように唸りを上げる二匹の獣が出現した!

 

 五芒星からは数秘学的に中央数、即ち〈最高〉の魔力をあらわす龍蛇の如き使い魔が。

 

 六芒星からは数秘術的に完全数、即ち〈万能〉の魔力をあらわす合成獣(キメラ)の如き使い魔が、それぞれに現れた。

 

 五芒星は魔除けとして東西の洋を問わず使用される。ソロモンの封印としても知られ、日本では清明紋もしくは五行の紋とされる。その起源は古代インドやメソポタミヤの五大説にあると考えられている。

 

 対して六芒星は錬金術における賢者の石のシンボルであるとされ、ダビデの星として広く知られる他、日本では篭目紋とも呼ばれ、魔除けとしても古くから利用されてきた。

 

 駆け引きの機を逃し、警戒していたはずの後手に廻らされた男を中心に挟み込むようにして取り囲んだ二匹の使い魔たちは、一斉に牙を剥いて男に踊りかかった。

 

 しかし次の瞬間、唱和する様に響いていた獣の唸り声は止んでいた。いざとなれば銃弾にすら先んじるはずの猟犬たちはその挙動を止めていた。なぜならそれらはあろうことか目前の標的の姿を見失っていたのだ。

 

 色の無い男は距離を置いた攻撃が無効と判じるや否や、信じがたい速度で再び魔術師との間合いを詰めていたのだ。

 

 その速度の緩急たるや獣の反射神経すら置き去りにするほどであった。全くの静止状態からの残像も残さぬほどの急加速。単なる体術どころか魔術による身体強化をもってしてもこれほどの離れ業は不可能であろう、まさしく異能と呼ぶに相応しい。

 

 男の初動に遅れて事態を知った二匹の式神たちは、牙をむいて主の下に馳せ参じる。そこで弾丸そのものだった男の動きが突如として鈍重なものに切り替わった。

 

 それまでの挙動が嘘のような足どりに、獣たちはこれ幸いと背後から男に襲いかかる。——が、次なる刹那、六本もの金属製の棒のようなものが、その光沢を弧の筋として虚空に引きながら土塊の獣を貫いた。

 

 次の瞬間には獣たちは最後まで消えた男の居所を知ることなく、戸板ほどの手応えも無く粉砕され、半実体の身体を四散させられたのだった。

 

 冷えた路上には、脆くも崩れ去った土塊と切り裂かれた白亜の布辺だけが散らばった。瞬きほどの刹那に行われた攻防であった。男が見せた凄まじいまでの緩急の旋回性能は式神たちにその擬似的な死すら認識させなったことだろう。

 

 とても常人に出来る芸当ではない。しかし、今の攻防を観察していた老紳士にはそれが魔術によるものではないことが分かっていた。

 

 人知を超えて加速する男の駆動からは、しかし生来有する筈の魔術回路の励起がほとんど感じられなかったのだ。しかしミスリルとヒヒロイカネの無重力合金を縫い込んだ魔術礼装を続けざまに切り裂いたのだ。もはやただの体術とも思えぬが……。

 

 しかし老紳士はそこで敵の戦力分析を切り上げねばならなかった。ゆっくりと思案にふける暇などは残ってはいなかったからだ。

 

 男はそのまま加速した速度を落とさずに夜の車道を縦横無尽に動き回り、目前の魔術師に詰め寄る。その速さは異常だった。先ほどの比ではない。もはや獣にも追いすがること敵わぬ砲弾の如き激走。

 

 老魔術師の戦略は悪手だったのだ。使い魔など呼び出さず、彼我の間合いを維持しながら時間をかけて敵の体力を削っていくべきだったのだ。

 

 今度こそ逃しはしない――そう宣言するかのように、男が手にしていた銀色の棒状のものが老体に迫る。

 

 それは所謂特殊警棒であった。民間で手に入るような護身用の物ではなく、真剣ですら受け止められそうな肉厚の特別製と見て取れた。

 

 それがこの怪人の持つ埒外の異能によって「加速」されると、やおらその滑らかな円筒の曲面は確かな「切れ味」を帯びるようになるのだ。

 

「――――ッ!」

 

 しかし振り上げられた銀刃の円柱は――またもや空を切った。否、それは矢庭に虚空で停滞し、そのまま停止した。

 

「なんとも、気忙しいやつよな……」

 

 それまで距離を取ることに専念していた紳士が一転して動きを止めたのには理由があったのだ。それは逃げる必要がなくなったことを意味すると同時に、必勝を確信したからに他ならない。

 

 なぜならば、男の疾走もまた同じように止まっていた。――否、止められていたからだ。

 

沸き立て(greater of) 大いなる(preservation) 禁猟区(boil over)

 

 厳かにして簡潔な詠唱が、周囲に響き渡った。

 

 蹂躙され尽くしていたアスファルトの上には、今や幾つかの淡い光源が明滅を繰り返している。

 

 移動しながら刻みつけた印章(シール)、同時に散開した靴職人(レプラコーン)達が配置した秘石、そして今もオーク製の杖の洞から繁茂し伸長していくヤドリギは矢に変じて地に投射され、地表に光点を穿つ。

 

 魔音が響く。打ち鳴らされた靴底を起点として寂寥たる闇間に暴き出された二七の光芒は、中継ターミナルとなって魔力を相互循環させ、今、ここに広大なる三層の境界線を築き上げる。

 

 それは自衛のための「守り」に有らず、敵を逃さぬために張り巡らされた「檻」であった。三重のサークルから成る複合捕縛結界。もはや、モザイクの男には身じろぎのひとつも許されない。

 

「――ぬ、う!」

 

 迂闊であった。男が仮面の下から切歯して苦悶の声を漏らす。あれほどの高速の攻防の中で、よもやこのような策を講じる暇があろうとは!

 

 動けぬ敵を前に老紳士は歩を進める。地脈を歪め、瞬間的に長大な距離を跳ぶような動きではなく、ただゆっくりと厳かに靴の音を打ち鳴らす優雅な歩みで。

 

 しかし止めを刺そうとしたそのとき、彼は気付いたのだ。この刹那の攻防の隙に何者かが介入を果たしていた事実に。

 

 気が付けば、辺り一面は既に朝焼けを待たずして茜色に染まっているではないか。――火事か?

 

 彼らの周囲にはいつの間にか空を照らすほどの火の手が上がっていたのだ。

 

「いかんッ――――!?」

 

 急いで止めを刺そうとする老魔術師であったが、そこであるものに眼を奪われた。――そこに、何か白い幽鬼のようなものがいた。やにわに実体化したそれは白い女の姿をしていた。

 

 まるで燃え尽きた灰のような、生気のない肌が、燃え盛る炎の赤に照らされて艶かしく動いている。女は火の中で嬉しそうに奇怪な舞を演じていた。

 

 それに気を取られた瞬間。それまで十全に機能していたはずの結界からモザイク柄の怪人が飛び出した。

 

 燃え盛る炎がヤドリギを焼き焦がし、相互結界の末端を僅かに(ほつ)れさせていたのだろうか?

 

 確かに、相手が真っ当な魔術師ならば簡単には解呪出来ぬであろう三重相互式複合結界は、さすがは老練たる一流魔術師の必勝の策であったと言えた。

 

 たとえ、多少解れたところで簡単に突破することなど叶わぬ筈なのだ。

 

 しかしそれがいかなる奇跡によってか、モザイクの男はそれを突破した。

 

 いざ刮目してその姿を見れば、全身のうろこ状のものがそれぞれに剥がれ落ち、砕け、燃え尽きているものもある。老魔術師は初見でそれを見抜けなかったことを痛恨の失策と受け止めた。

 

 あのスケイルはその全てが加工された東西・文明・時代・宗教を問わぬ各種の魔除けの護符(アミュレット)なのである。

 

 一つ一つの対魔力が弱かろうともあれだけの量を身に纏えばかなりの魔力抵抗値を期待できる。まっとうな魔術師ならばまずやらない無粋極まりない手段であった。量より質を取るのが常道の魔術師の思考だからだ。しかし、それゆえに気付けなかった。

 

 檻から逃れた獣は影さえも置き去りにせんばかりの速度で逃走をはかる。否、これは明らかな敗走であった。故に、手負いの獣の疾走はより一層にけたたましく、形振り構わぬものとなる。瞬きの終わらぬうちに距離は開いていく。

 

「逃がさん!!」

 

 手に執るオーク製の杖の洞からは、また新しいヤドリギが急速に繁茂して顔を覗かせている。

 

 歴代を重ねてきたワーロック家伝来の魔術刻印はその魔術起動に一言の呪文すら必要とさせず、コンマ数秒で自動術式を励起させ、そのヤドリギを巨石をも穿ち抜く破壊の矢へと変えて撃ち放ったのだ。

 

 同時に打ちつけられ、鳴り響く秘石の踵。

 

 何の狙いもつけず、ただ敵の破壊だけを目論む力任せの術式によって、虚空へと放たれた三条の矢は一時こそ的外れな弧状の軌道を描いたかと思えたが、とたんに進路を揃え自ら狙いを定めるように怨敵を追走し始めた。

 

 盟主の命により地中を駆ける地妖精、靴職人達(レプラコーン)が出鱈目に打ち放たれた破壊の矢を先導し、どこまでも獲物を追い立ててくびり殺す猟犬へと変貌させたのだ。

 

 多少なりとも魔道を知るものならば、地脈に遁行する地精との駆け比べなど冗談にもならないことを知っていよう。いかに高速で移動しようとも逃げられる道理は―――。

 

「むう?」

 

 かくして必勝を期した自動追尾弾は敵影を捕らえるにいたったが、着弾の寸前に男の体はまるで熱砂の蜃気楼のごとく二重、三重にぶれた。魔弾は引き寄せられるように男の広い背中に着弾し、それらをまとめて四散させたが――案の定、男の体は跡形もない。

 

「寄せ餌、か……」

 

 敵もさるものであった。奴は逃走と同時に囮としてデコイをばら撒いていったのだ。

 

 そして見渡してみれば、あの幽鬼のような女は彼らには何の興味もないらしく、未だに炎のなかで、まるで灰でも浴びるようにして何かを貪り、狂態をさらし続けている。見るからに狂人の相である。

 

「……死人の魂を食らうか。魂とは第二要素。霊体、すなわちサーヴァントの食性の餌食というわけか。……しかしこうも大っぴらにとは。なっとらんな、サンガールの小童どもめ」

 

 老魔術師は溜息交じりに呟きつつ、踵を鳴らす。

 

 では、あれもサーヴァントなのであろうか? ——たしかに、サーヴァントの中には狂気を纏う獣の如きクラスがあったと聞く。しかし、それにしてはあの女の気配は脆弱すぎ、また存在感は希薄すぎるように感じられる。むしろ、ただの亡霊のように見えなくもないのだが……。

 

 兎角、こちらから手を出さなければ被害をこうむることはないであろう。と、老魔術師は判断した。その気ならとっくに戦闘になっているはずだ。

 

 どの道、これ以上の追撃は無駄に終わるだろう。すでに周囲一帯には「警戒」の魔術を施した。火の手がいかに広がろうと、住民たちはその前に寝耳に水とばかりに飛び起きる寸法である。もはや人目を避ける術はない。

 

 老練の魔術師の胸中には忸怩たるものが沸き起こっていた。千載一遇の機会を生かせなかった以上、あの男との次の戦いはさらに苛烈さを増すに違いない。そう、ならざるを得ない縁が、必然が両者の間には在るのだ。

 

 舞い戻った靴職人達(レプラコーン)を引き連れ、これより始まる激闘の予感を燃え殻の臭いと共にその肺腑の内に感じながら、老紳士は踵を返した。

 

 だいぶ時間をくってしまったが、本来の目的地に向かわなければならない。古き盟友の家門へ、久方の友好を暖めに行くとしよう。

 

 


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