TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー   作:(╹◡╹)

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88.克服者

 話が一段落したところでルークが立ち上がり、その場にいる全員に声を掛ける。

 

「んじゃ、方針も纏まったことだしそろそろ行こうぜ」

「そうですね。ここにいると時間の感覚がおかしくなりますが、日暮れ前でしょうしね」

 

「おや、ひょっとしてもうユリアロードとやらで戻るので? 構いませんが急ですね」

 

 その言葉にジェイドも同意をする。

 それらを見てセレニィもすわ旅立ちかと慌てるが、ガイが苦笑いを浮かべつつ説明する。

 

「いや、違う違う… 流石に今日の今日で出発はしないさ。するのは準備さ」

「準備って言うと、買い物とかそういうのですかね? いつの間に…」

 

「さっき相談してただろ? 本当に、食べるのに夢中になってて耳に入ってなかったんだなぁ」

「うぐっ… お、お恥ずかしい…」

 

「大丈夫よ、セレニィ。セレニィに夢中になってた私も耳に入ってなかったから安心して」

「まぁ、それはそれとして… それじゃ一緒に行きましょうか? ミュウさん」

 

「はーい! 一緒ですのー!」

 

 ティアの戯言を華麗にスルーしつつ、セレニィも立ち上がる。

 しかしそんな彼女の視界に、妙に気合いを入れているナタリアの姿が目に入る。

 

 怪訝な表情を浮かべたセレニィの内心を察したのか、トニーが耳打ちをする。

 

「ははは… まぁ、ナタリア殿下も旅装束をお揃えになりたいと仰られて…」

「……あぁ、なるほど。それはお姫様には滅多にない楽しみでしょうねぇ」

 

「なんでもランバルディア流アーチェリーのマスターランクなので、弓も欲しいとか…」

「ほへー… 文武両道ですか。私みたいな雑魚には眩しいばかりですねー」

 

「フフッ、ご謙遜を。セレニィの旅の道中の動きもそう悪いものではありませんでしたよ?」

「そ、そうですかね… えへへ…」

 

「えぇ。自分なんかが言うのもなんですが、素人として考えれば充分過ぎるでしょう」

 

 し、素人としてか… トニーが善意で言っているのが分かるだけに、内心で凹むセレニィ。

 とはいえ、別に戦闘スキルを高めて無双したいわけでもない。生き延びられれば充分だろう。

 

 そう気を取り直すと、他の面々が呼ぶ声が聞こえた。

 

「おーい、何二人でコソコソ話してんだよー。早く行こうぜー!」

「ほらほら、お二人さん。ルークが妬いてるぜ?」

 

「なっ! バカ野郎、ガイ。テメー、しつけーんだよ!」

「あはは… トニーさんはお返ししますから、あまり怒らないでくださいね? ルークさん」

 

「お、おう…」

 

 そんな二人のやり取りに苦笑いを浮かべつつ、トニーは後を追うのであった。

 かくして面々は旅の準備を整えるために、ユリアシティへと繰り出した。

 

 

 

 ――

 

 

 

「(どうしてこうなった… どうしてこうなった…)」

 

 ユリアシティで散見できる、障気同士のぶつかり合いで発生する静電気の光。

 それらに目を奪われていたのが、遠い昔の出来事に思えてくる。

 

 こんなことになるなら、買い物になんかついてこなければよかった。

 ニートよろしく引き篭もっていればよかったのだ… そう思うも後の祭りである。

 

 セレニィは、死んだ魚のような虚ろな目をしながら薄笑いを浮かべている。

 

「ねぇ、セレニィ! 次はこれ! これを着て!」

「ほら、笑ってくださいまし。ね? セレニィ」

 

「うへ… ふへへへへ…」

「うわぁ、気の毒に…」

 

「どうしたの、セレニィ? 着替え方がわからない? 手伝ってあげましょうか?」

「ひっ! だ、大丈夫ですから…」

 

「はっはっはっ… いやぁ、ティアもナタリア殿下も楽しそうですねぇ」

 

 今彼女は、洋服屋で着せ替え人形よろしく様々な服を着せられていた。

 ……ティアとナタリアの二人によって。

 

 セレニィ自身、少しおかしいとは思っていたのだ。

 アイテムショップや武具取扱店のみならず、洋服屋にまで向かうことに不審を覚えていた。

 

 しかし、脱出しようにもティアとナタリアにガッチリ両脇を固められていたのだ。

 逃げ出そうと儚い抵抗をしてみせたが、自分の無力さを思い知るにとどまった。

 

 人間程度の腕力では、ゴリラやら弓のマスターランクの人の腕力やらには敵わないのだ。

 それを思い知った。あっという間の事件だった。か細い声で助けを求めるのが精一杯だった。

 

 ……誰も助けてくれなかったけど。誰も助けてくれなかったけど。

 とても大事なことなので二回言いました。やはり人生はクソゲーだとセレニィは確信した。

 

 気の毒そうに見詰めているアニスなどはまだ良い方で、ドSは楽しそうに笑っている。

 他の面々も品評会よろしく「おー…」とか「ほー…」とか言いながら眺めている。

 

「(この場には敵と傍観者しかいない…)」

 

 今着せられている衣装は、レースをあしらったフリル付きのワンピース。

 およそ実用向きでない衣装を着せられながら彼女は思った。……泣きたい、と。

 

 神託の盾(オラクル)騎士団女性用制服(子供用)でも辛かったのだ。仕方ないから着てたけど。

 それがこんな少女趣味全開の服を着せられて喜べるはずがない。

 

 いや、まだだ。まだ諦めてはダメだ。セレニィの瞳に力が戻った。

 さっきはドSですらも丸め込んだのだ。自慢の口車の切れ味は戻っているはずだ。

 

 そうとも、人生がクソゲーだなんてこの世界に来てから何度も実感してたことじゃないか。

 だからこそ、自分の運命は自分で切り開いてみせる!

 

 確固たる決意を持って彼女は口を開いた。

 

「しかしですね、ナタリア様…」

「まぁ、『様』付けなんて他人行儀な! どうぞわたくしのことは呼び捨てになさって?」

 

「あっはい… えっと、ナタリアさん?」

「『さん』… まぁ、今はそれでよろしくってよ。それで、どうなさいましたの?」

 

「えっと、こんな高そうな服を買うなんてお金の無駄… ゲフゲフ、申し訳ないですよ」

「まぁ、セレニィは慎み深いのね! ますます感心しましたわ!」

 

「あ、いえ、そんな… えへへ…」

「ですが心配なさらなくとも大丈夫ですわ。お金は幾らでもありますもの… ね、ルーク?」

 

「ん? おう、そんなに高いモンじゃねーしな。……服くらいならいいんじゃねーか」

 

 セレニィ、轟沈。

 札束の力で横っ面を叩いていくブルジョワジーどもの前に、金銭面での訴えは退けられた。

 

 値札見てみると充分高いじゃねーか! ここにある服だけで辻馬車何往復分だよ!

 内心の激情のままに、思わず身分の差も忘れてセレニィは怒声を上げる。

 

「謝れ! 辻馬車乗るためだけに、大事そうなペンダントを手放したティアさんに謝れぇ!」

「………」

 

「はわっ!?(や、やっちまったー! あの時の24,000ガルドが忘れられなくてつい…)」

 

 言い終えて落ち着いてから前を向くと、ポカンと呆気にとられた表情のナタリアがいた。

 そして自分のやってしまったことを振り返ると、顔を青褪めさせた。

 

 全力で身分制度に喧嘩を売ってしまった。罰は打首だろうか、獄門だろうか、磔だろうか。

 慌ててフォローを試みるも舌が回らぬセレニィを余所に、ナタリアは笑顔を浮かべた。

 

 これは笑顔で「この暴言、許すまじ。処刑じゃ」とかされるフラグ。思わず身を竦める。

 

「ありがとうございます、セレニィ」

「ひっ! も、申し訳… はい?」

 

「わたくしの友人であるティアのために怒ってくれて、わたくしを諌めてくれて…」

「………(ただのツッコミに何を仰っているのでせうか? この美人さんは)」

 

「物の価値を軽んじることは人の価値を軽んじることでもありましたのね。恥ずかしいですわ」

「えっと、まぁ… 多分、そんな感じなんじゃないかなぁと思ったりしますね。はい」

 

 なんかよく分からないけれど、いい感じにナタリア様が頷いたので乗っかっておこう。

 基本的に深く考えることを面倒くさいと思うダメ人間故、セレニィはそう片付けた。

 

 このままもうちょっとマシな服を買う流れに持って行けないだろうか? そう考えていると…

 

「セレニィ!」

「ぐぇ!?」

 

 ゴリラに抱き付かれた。肺が潰れそうになった。

 そのまますごい勢いで頬擦りされる。

 

「ありがとう、セレニィ! 私の気持ちを第一に考えてくれるなんて…」

「ぎゃああああああああああああああああ!? 死ぬ死ぬ死ぬぅ!?」

 

「でも気にしないで。ナタリアとはお互い友達だもの… こんなことで喧嘩はしないわ」

「その前に、私のほっぺたが擦り切れないか気にしてください! ……聞けよ!?」

 

 痛い痛い痛い… 熱い熱い熱い。摩擦熱で凄いことになっている。

 美少女からの頬擦りなのにちっとも嬉しくない不具合を感じる。

 

 むしろティアの方は痛くないのだろうか? 身体のパーツの強度もゴリラ並なのだろうか。

 

「あのペンダント、そんなに大事なもんだったのか? 悪かったよ、ティア」

「ルーク… 私の判断で必要だと思ったから手放したの。だから謝る必要はないわ」

 

「ル、ルークさ… たすけ…」

「ところでティア、その… セレニィがしんどそうなんだけど…」

 

「気にしないで、ルーク。これはただの愛情表現よ。セレニィもきっと照れてるだけよ」

「そ、そうかなぁ…」

 

「ひぎゃあああああああ!?」

 

 セレニィは散々玩具にされた後、痛む頬を抑えながら再度服を選び直した。

 結局選んだ服は、黒のジャケットに白地のシャツ。ベージュのハーフパンツとなった。

 

 それから靴も、思い切ってスニーカー風のシューズに新調した。

 丈夫さを優先したものの、値段は着せ替え人形の時のものよりもうんと安く付いた。

 

「うん… 神託の盾(オラクル)騎士団の制服よりもずっと楽で動き易いですね」

「ティアさん、しょんぼりしてるですのー」

 

「フン、放っておけばいいんですよ。あの人は」

 

 戦闘はいつ起こるかわからない。動き難いよりは動き易い方がずっと良い。

 

 しかし、この装いに最後まで反対したのがティアとナタリアであった。

 真っ赤に腫れた頬を見せつつ絶対零度の視線を送れば尻すぼみになって沈黙したが。

 

 これぞ怪我の功名か。着せ替え人形にさせられ頬を擦り減らされるという苦行は経験した。

 とはいえ、最終的には満足行く買い物となったのだ。悪くない結果に落ち着いただろう。

 

 セレニィは満足気な笑顔を浮かべて、市庁舎に戻るのであった。

 

 

 

 ――

 

 

 

 各種買い物を終えて市庁舎に戻り、一同は食堂で思い思いに一息をついていた。

 

「さっきのフリルの似合ってたじゃん。どうして買ってもらわなかったのー?」

「アニスさんこそ、似合いそうな可愛らしい服一杯ありましたよ?」

 

「アタシはホラ、導師守護役としての制服を気軽に脱ぐわけにはいかないしねー」

「ぐぬぬ…」

 

「ふふーん(……反応面白いし、当面はこのネタでからかえそうだなぁ)」

 

 ……着せ替え人形にされていたセレニィが、からかわれることが多かったが。

 かようにそれぞれがまったり過ごしていると、ティアとナタリアがルークに声を掛けた。

 

「ルーク、そろそろはじめますわよ?」

「さっさと終わらせましょう」

 

「はー… やれやれ、勉強の時間かよー…」

 

 それらの言葉に、憂鬱そうな表情でルークは溜息を吐く。

 当然面白くないのが声を掛けた二人だ。腰に手を当ててナタリアが怒り出す。

 

「なんですの、その態度は! ルークの方から頼んできましたのに!」

「全くね… 私はどちらでもいいのよ。セレニィと遊んでいたいし」

 

「いえいえ。私はティアさんと遊びたくないので、どうぞルークさんが引き取ってください」

「凄く頷きたくねーけど… 了解」

 

「……くすん。この扱いは納得しかねるものがあるわ」

 

 肩を落としたティアをナタリアが慰めつつ、ルークたち三人が食堂を去っていった。

 はてさて、彼らは一体何をしているのだろうか? 疑問が思わず口をついて出る。

 

「勉強って言ってましたけど… なんなんでしょうかねぇ」

「譜術の扱いについてですよ」

 

「おや、でしたらあなたが教師役に一番適任なのでは? ジェイドさん。色々えげつないですし」

「はっはっはっ… そんなに私の『えげつなさ』を身を以て体験したいのですか?」

 

「やめてください死んでしまいます」

 

 声と身体を震わせて言ったセレニィに呆れた様子で溜息を吐くジェイド。

 全く学習しないものだ。まぁ、変わらぬ良さというものもあるかもしれないが。

 

 そんなことを考えながら、言葉を続ける。

 

「私では教えられない分野ですからねぇ… 第七音素(セブンスフォニム)の扱いに関しては」

第七音素(セブンスフォニム)? 確か回復とか出来る音素(フォニム)でしたっけ…」

 

「そうですね。加えて第七音譜術士(セブンスフォニマー)同士が衝突すれば擬似超振動も発生しやすくなります」

「あー… そういえばナントカ渓谷に飛んだのも、それがきっかけでしたっけ」

 

「タタル渓谷ですよ、まったく」

 

 しょうがないとでも言いたげに溜息を吐いたジェイドに、苦笑いを浮かべて誤魔化す。

 そして浮かんだ疑問をそのまま口にする。

 

「ティアさんがそれだということは知ってましたけど、ナタリア様も…?」

「えぇ、優秀な第七音譜術士(セブンスフォニマー)だそうですよ」

 

「ほへー… 才色兼備で文武両道、しかもお姫様ですか。いやはや、とんでもない生物ですね」

「はっはっはっ… まぁ、才能の壁ばかりは羨むしかありませんねぇ」

 

「いや、アンタが言っても嫌味にしかなんねーですからね?」

 

 軽口を叩きながら紅茶を飲む。そこにジェイドが重ねて説明を行う。

 

「まぁ、ルークも第七音譜術士(セブンスフォニマー)の才能があるようで… 二人に学んでいるのですよ」

「へぇ… ルーク様、ますます完璧超人になるんですか。誰の発案ですか?」

 

「ヴァン謡将ですね」

「あの髭かー… それなら見立ては確かなんでしょうね」

 

「……セレニィはあまりヴァン謡将が好きではないようですね。何か理由でもおありで?」

「あー… いや、裏切りそうとかそういうんじゃないですよ(理由ありゃ裏切るタイプだけど)」

 

「では、何故?」

「なんででしょうねー… あははー… なんでだと思います?」

 

「やれやれ、聞いているのは私なんですがねぇ…」

 

 実際は単なる同属嫌悪にすぎない。

 しかしそれに気付いてないセレニィとしては、言葉では説明しにくい感情なのである。

 

 曖昧に濁すような笑みを浮かべる。

 ジェイドも溜息を吐きはするが、それ以上追求はしない。代わりに別の話題を出す。

 

「ところで貴女は重度の障気蝕害(インテルナルオーガン)だったのですが…」

「はいはい、障気蝕害(インテルナルオーガン)ね… え? マジですか?」

 

「マジです。だからこそ貴女の回復が不思議だったのですが… 何か心当たりは?」

「そりゃまぁ、アクゼリュスで作業をしていたらある程度は障気を吸い込むでしょうが…」

 

「……まぁ、それはそうでしょうが」

「軽度のそれならまだしも、たかだか数日で重度にまでなるわけないじゃないですか」

 

「ふむ…」

 

 全く以てセレニィの言うとおりである。だからこそ不思議なのだが。

 考え込むジェイドにセレニィは言葉を続ける。

 

「ただの誤診だったんじゃないですか?」

「………」

 

「私はあまり身体が強くないから、ちょっと症状が大袈裟に出てしまったとか…」

「……まぁ、普通に考えればそうでしょうね」

 

「ですよー。あんまり驚かさないでくださいよー、やだなー」

 

 おっかなびっくりの表情を浮かべて空笑いをしているセレニィを見て、ジェイドは思う。

 彼女にも心当たりがないのだろう。……せめて彼女に記憶があれば違ったかもしれないが。

 

 普通に考えれば彼女の言うとおり、『ただの誤診』なのだろう。

 そう… ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()『ただの誤診』をしたのであれば。

 

「はっはっはっ… すみませんねぇ。貴女の反応が面白くて、つい」

「んだとゴルァ! 泣かすぞ、ドS!」

 

「……ほう?」

「って、ガイさんが言ってた気がします。まったく酷いですよね、あのピチピチズボン野郎は」

 

「言ってねぇ! ていうか、その呼び名はなんだよ! あんまりだろうが!?」

 

 ちょうど近くにいたガイを指差し、責任逃れをするセレニィ。卑劣である。

 悲鳴を上げるガイを苦笑気味に見守るトニー。

 

 ジェイドは眼鏡を光らせつつ、ガイに向かって笑みを浮かべる。

 

「なるほど… トニー、ガイを連れてこちらへ」

「へ? な、なんでだ…」

 

「なに… ちょっと内密の話をしようというだけですよ。……内密の、ね」

「すみません、ガイ」

 

「ちょ、待て… 俺が何をしたって、いやだぁああああああああ!?」

 

 ジェイドと、それについていくトニーに引きずられていくガイ…

 その三人を見送りながらセレニィは合掌し、紅茶に添えられたプリンを頬張るのであった。

 

 まこと卑劣である。

 

 

 

 ――

 

 

 

「で、こんなところに連れ出して一体何の用だ? ジェイドの旦那よ」

 

 人目につかない場所に連れてこられて解放されたガイは、振り向きざまにそう言った。

 ジェイドは苦笑いを浮かべながら、申し訳無さそうに語り始める。

 

「いやぁ、申し訳ありませんねぇ… こんな形で連れ出して」

「察するに… 先ほどの話の件でしょうか? ジェイド」

 

「えぇ、トニー。彼女自身も理解していない問題… 触れ回るにはリスクが大き過ぎます」

「同意だな… 障気蝕害(インテルナルオーガン)を克服したなんて話が広がれば、どんな騒ぎになるやら」

 

「イオン様やルークのように、素直に彼女の生還を喜ぶ人ばかりでもないでしょうから」

 

 三人は同時に暗い顔を浮かべる。しかし沈黙していては始まらない。

 トニーが疑問を口にする。

 

「先ほどアニスの手によって気絶した時、検査をしたのですよね? どうでしたか」

「体内の障気はほとんどなくなっていました。健康体と言って差し支え無いでしょう」

 

「本来なら手放しで喜びたいところなんだけどな… あの子は頑張ってきたから」

「今回の旅、戦争を止めることは勿論ですが… 彼女のルーツも探ってみたいと思います」

 

「分かりました。自分としても異論はありません」

「分かったよ。じゃあ仲間内で下手な話題にならないように気を配ればいいんだな?」

 

「えぇ、申し訳ありませんが頼みましたよ二人とも。私はどうもこの手のことが苦手で」

 

 そう言って眼鏡を直すジェイドに向けて、二人は「知ってる」と言いたげな苦笑いで頷いた。

 

 

 

 ――

 

 

 

 その頃セレニィは…

 

「見て見てー! イオン様、アニスさん!」

 

 市庁舎の広い廊下でキュッキュッキュッと、新しい靴で反復横跳びを披露していた。

 幸いにして人通りはないが、もし人がいたら大迷惑まちがいなしである。

 

「フフッ… 楽しそうですね、セレニィ」

「すごいですのー! なんか早いですのー!」

 

「あのさ… 何してるの?」

 

 イオンとミュウは喜んでいるが、アニスは冷めた視線を送るばかり。

 

「反復横跳びです! 早く足を靴に馴染ませようと思って…」

「うん、あのさ… ちょっといいかな?」

 

「はい、なんでしょうか!」

「凄くバカみたいだからさ… やめよう?」

 

「なん… だと…」

 

 障気蝕害(インテルナルオーガン)を克服したという世界(オールドラント)の常識を覆しかねない不思議な生命体、セレニィ。

 彼女はしょうもないことをやってアニスにツッコミを受けて、市庁舎廊下に手を付いていた。

 

 比較的アホの子だという本質はハッキリしているが、その正体が明かされる日はまだ遠い。

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