TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー   作:(╹◡╹)

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26.報告

 現場では迂闊にも「頭撫でて欲しい」と口走ってしまったヘタレ撫で(いじめ)が加速していた。

 

「あ、あぅあぅ… そろそろ解放して欲しいのですが…」

「フフッ… 良かったですね、セレニィ」

 

 ルークらに後を任せて、少し離れたところから笑顔で見守るイオン。

 

 何一つ良くない。この光景を微笑ましいと思える導師の目は節穴、間違いない。

 ようやく解放された頃には、彼女の白銀の髪の毛はボサボサになっていた。

 

「ぜぇー…、はぁー… な、仲間に殺されるかと思った…」

 

「あー、楽しかった! 愛されてるよねー、あの子!」

「あの… アニス、実は頼みがあるのですけれど構いませんか?」

 

 散々セレニィをいじり倒して満足して戻ってきたアニスに、イオンが声をかける。

 

「あ、はーい。頼みってなんですかぁ? イオン様」

「先の件に関わることなのですが、エンゲーブでライガの食糧を用意する必要があります」

 

「なーるほど。そこでアニスちゃんが一足先に戻って、手配しとくってことですねー?」

「はい、お願いできますか?」

 

「……恐れながら申し上げます、イオン様」

 

 そこに別方向から待ったがかかる。我らが屑… もとい、セレニィである。

 手櫛で乱れた髪を整えながら、キリッとした表情を作りつつ会話に割って入る。

 

 ……手櫛を逃れた一房がピョコンと跳ねているのが、(いささ)か以上に間抜けだが。

 

「どうかしたのですか? 意見があるのでしたら遠慮なく申し出て下さい、セレニィ」

「はい、いくら可愛くてもか弱い少女。一人で村に走れとはあまりに無体ではないでしょうか」

 

「なるほど、確かに心配ね。やはり私たちと一緒に行動すべきじゃないかしら? 可愛いし」

 

 セレニィの言葉にティアが真顔で頷く。

 二人は互いの思惑を感じ取ると、心中で堅い握手を交わす。これからの共同戦線に向けて。

 

「ふむ、少し心配し過ぎではないでしょうか? 大した危険もないように感じますが…」

 

「ですが魔物も出ます。前衛のいる私たちと行動をした方が良いのではないでしょうか?」

「そうです。それに多少の怪我なら私が癒してあげられますし、万一の警戒は必要かと」

 

 セレニィは萌える美少女とお近付きになりたい。ティアは可愛い女の子と仲良くなりたい。

 台詞からも二人の下心と本音が透けて見えまくる、絶対に頷いてはいけない案件だが…

 イオンは「なるほど、確かにその通りですね」と頷いてしまった。純粋さは時に罪でもある。

 

 そのやり取りに納得がいかないのがアニスである。子供っぽく頬を膨らませて抗議をする。

 

「ちょっとー! 可愛いのは否定しないけど、これでも導師守護役として戦えるんですけど!」

「え、可愛いだけじゃなくて強いんですか? うわ、何その完璧(パーフェクト)美少女…」

 

「も、もー! いくら本当のことでも、そんなにおだてられちゃったら照れるじゃないのっ!」

 

 この若さで導師守護役となったアニスではあるが、それ故にやっかみを受けることも多い。

 預言に詠まれた配置なのだが、その結果、実力を軽視されコネ採用と白眼視されがちだ。

 そんなところに純粋な尊敬の眼差しを受けてはたまらない。アニスとて舞い上がってしまう。

 

 とはいえ、セレニィが純粋にアニスの凄さに驚くのも無理は無いと言えるだろう。

 ここから一人で村まで帰りなさい、とか言われたらセレニィなら死ぬ。完膚なきまでに死ぬ。

 もう「なんでもするから置いてかないでください!」と泣き喚いて縋り付くレベルで死ぬ。

 

「しょーがないなー! イオン様がいいって言ったからあなた達も守ってあげるよ!」

「お、おう…」

 

「フフッ、セレニィも可愛いけどこの子も可愛いわ…」

 

 ニコニコ照れ笑いを浮かべながら同行を快諾してくれたアニスには、感謝の気持ちで一杯だ。

 だが如何せんチョロい。将来が心配なレベルでチョロい。罪悪感覚えるレベルでチョロい。

 せめてティアさんからはなんとしても守り抜かねば… セレニィは密かに決意するのであった。

 

 変態と変態という負の方向にシナジーを発揮した歴史的タッグは、裏切りによって幕を閉じた。

 

 ……さて、ひとまず話はまとまった。セレニィは大きく伸びをして仲間たちに声をかける。

 

「それではそろそろ帰りましょうか。……ローズさんに報告もしないといけないですしね」

「だなー。はー… 疲れたぜ、ったく」

 

「ルーク、元々はあなたが言い出したことでしょう… 最後までシャンとしなさい」

「おや、貴方方は彼女に何か報告することでもあるのですか?」

 

「あ、はい。軍の方がお忙しいとの事でしたので、代わりに食料泥棒の調査を請け負ったんです」

「それはそれは… わざわざ申し訳ありませんでした」

 

「いえいえ、こちらこそ結果的にイオン様を連れ回すことになって申し訳ありませんでした」

 

 ジェイドは顎に手をやり暫し考える。

 

 本来ならば、逃さぬため少々難癖をつけてでも直接タルタロスに招くつもりではあったが…

 仮にも自国の村の問題の解決に手を貸してくれた者達にする態度ではないか、と考え直す。

 それも已むを得ないとはいえ、軍が手を振り払った案件についてフォローをしてくれた相手に。

 

 導師イオンも彼らを信頼しているようだ。あまり強硬な手段に出るのはかえってマイナスか。

 

「(後ほど正面から招待しましょうか。彼らにとっても文字通り『渡りに船』でしょうし)」

「……ジェイド・カーティス大佐?」

 

「おっと、失礼… むしろイオン様をお守りいただいて、私が礼を言うべき立場でしょうねぇ」

「そう言っていただけるとありがたいです。では、一旦エンゲーブへと帰りまぐえっ!」

 

「駄目ですの! 長老に報告するですの!」

 

 帰還の音頭を取ろうとしたセレニィの頭に飛び乗りつつ、ミュウが割り込む。

 分かっていてスルーしていたというのに覚えてたか。正直、ダメ人間的に面倒なんで帰りたい。

 セレニィはそう思いつつミュウを頭から取り外し、言葉を紡ぐ。

 

「ミュウさん、あなたが長に報告すればいいんですよ。きっと大丈夫、あなたなら出来る!」

 

「みゅう!? むちゃ振りですの! できるわけないですの、失敗したと思われるだけですの!」

「はぁ… しょうがないですねー。わかりました、いきましょうか」

 

 ちっ、流石に騙されてはくれなかったか。

 心中で舌打ちをしつつ、一行とともにチーグルの巣穴へと向かう。

 

 

 

 ――

 

 

 

「ミュウから事情は聞いた。上手く話をまとめてくれたそうじゃな」

「ちゃんとイオン様とこちらのマルクトの軍人さんに謝罪してください。私にはいいですけど」

 

「う、うむ… 元はといえばミュウがライガの住処を燃やしたこと。誠に申し訳なかった」

「いやいや、そっちよりも人間の食料盗んだことのほうが人間にとっちゃ問題ですよね」

 

 セレニィは、しれっとミュウだけのせいにしようとする長の言葉を手を左右に振って叩き切る。

 この長には命の危険を感じる交渉を押し付けられたのだ。しかもあれだけ苦労して無意味!

 イオンに全て持って行かれたのだ。長を恨まずにいられない。たとえ逆恨みと謗られようとも。

 

「私知りたいなー。群れとして人間の食料を盗むことを決定した長さんの責任の取り方ー」

 

「うわ… セレニィのヤツ、めちゃくちゃ怒ってね?」

「まー当然といえば当然じゃないですかー? 子供一人に責任押し付けるって感じ悪いですしー」

 

 ルークがつぶやくと、それを拾ったアニスが答える。内心思うところがあるようだ。

 

 セレニィはニコニコ微笑んでいる。長は「ぐぬぬ…」と呻いている。

 屑は弱者には強気である。そして屑ゆえに容赦もしない。屑と屑の鍔迫り合いである。

 

「あの、セレニィ…」

「イオン様、止めないで下さいね。私としても彼女の言葉に長がどう返すのか興味があります」

 

「あぁ、セレニィとチーグル… 私はどっちの味方をすればいいのかしら…」

 

 止めようとしたイオンをジェイドがそっと制する。……安定のティアさんは置いておこう。

 

「ぐ、ぐむむ…」

 

 そして、長の出した結論は…

 

 

 

 ――

 

 

 

「それじゃ、今後ともよろしくお願いしますね? ミュウさん」

「はいですの! セレニィさん!」

 

 新たな『仲間』となったミュウとの挨拶を交わす。

 

 ソーサラーリングと、それを操るミュウを一年間人間に貸し出す。

 それが長の出した結論であった。

 

 正直そう来るとは思わなかったが… 冷静に考えれば中々にありがたい申し出である。

 

 火打ち石に、食用可能な野草やキノコの発見に、とっさのシールドに、etc...

 多種多様の使い道が可能なミュウの利便性は計り知れない。正直、自分より役に立つのだ。

 

 絶対保身するマン的に手放せる人材ではない。

 ミュウには悪いが思わずふたつ返事で了承してしまった。

 

「では、手筈通りお願いしますね」

「はいですの! ……あっ、そこのキノコは美味しいですの!」

 

「早速ですか! 一つ残らず回収しますよ!」

 

 セレニィにとって予想外だったのが、ミュウがそれについて難色を示さなかったことだ。

 ルークもセレニィがいいならと文句をいうことはなかった。……ティアは喜んでいたが。

 

 群れからミュウを引き離してしまったことに若干の罪悪感を覚えつつ、屑は損得に生きる。

 

「……まぁ、仲良くやっていきましょうね? ミュウさん」

「はいですの!」

 

「おーい、オメーらー! 早くこねーと置いてくぞー!」

 

 遠くからルークの声が聞こえる。

 道草を摘んでいる… もとい、食っている間にだいぶ離されてしまったようだ。

 

「あばばばばばばば! ちょっ、ちょっと待って下さいー!?」

 

 セレニィは慌ててキノコを鞄にしまうと、仲間たちの背を追って駆け出した。

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