TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー   作:(╹◡╹)

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14.導師守護役

「連れを見かけませんでしたかぁ!?」

 

 宿に入ると、ピンク色の制服っぽいモノを着こなした少女が亭主に何事か話していた。

 どうやら人探しをしているようだが…

 

「私よりちょっと背の高いぼやーっとした男の子なんですけど…」

 

「なぁセレニィ。あれって、探してるの、さっき会ったイオンってヤツのことじゃね?」

「うーん… イオン様は無垢で可憐な天使ですし、きっと別の誰かのことですよ」

 

 セレニィにしてみれば、少女の語る特徴でイオンに合致するものは背の高さくらいだ。

 そして少女はセレニィ程ではないが小柄で、彼女より背が高い男の子は多いだろう。

 

 そんな曖昧で主観的な特徴を言うよりも、イオンを探すならば他に言いようがある。

 ヒラヒラした白いワンピースみたいな服をまとっているとか、若草色の髪の毛だとか。

 だから目前の少女の探す人物がイオンを指しているとはセレニィには思えなかった。

 

 そもそも…

 

「それにルークさん、あんな可愛い子が男の子のはずないじゃないですか」

「お、おう… そうだな」

 

「(あれ? 確か、導師イオンは男性だったような… いえ、よしましょう。私の勝手な考えを伝えてみんなを混乱させたくない)」

 

 キラキラ輝く瞳でそう言い切られてしまってはルークも黙るしかない。

 ティアも己の考えをそっと胸のうちにしまうのであった。

 

 そんなやり取りをしているうちに少女は亭主と話し終え店の出口、こちら側へとやってくる。

 

「あっ、可愛い子だ」

 

 その顔を見て、思わずといった具合にセレニィがつぶやく。萌える美少女には弱いのだ。

 

 黒髪をツインテールに結び、大きくクリクリした目はリスのような愛らしさを伝える。

 今はまだ全体的におしゃまな少女といった具合だが、顔立ちはかなり整っている。

 恐らくあと3,4年もすれば誰もが振り返る美少女になるだろう。セレニィはそう感じた。

 

「えへへ、ありがと。あなたもけっこー可愛いよ?」

「あ、あはは… どうも…」

 

「あなた、導師守護役(フォンマスターガーディアン)よね? 一体どうしてこんなところに…」

 

 つぶやきを拾われたのか、そう返してくる少女に対しセレニィは苦笑いしか出来ない。

 そんな会話の中に、少女の制服に見覚えのあったティアが入ってくる。

 

「え? そ、それはその… 当然イオン様に同行してて…」

 

「ふぉんますたーがーでぃあん?」

「あ、えっと… 若い女性で構成されている導師の護衛役で、その公務には必ず同行するの」

 

 言い淀む少女を尻目に、聞き慣れぬ単語についてティアに説明を求める。

 

 ……なるほど、理解した。

 

 導師の時点で美少女なのに護衛まで美少女なんて。美少女×美少女で世界が平和に見える。

 そんなんで公務とかで来られちゃったら、もう信仰してしまうしかないやん。ないやん。

 おのれ… 汚いぞ、ローレライ教団! こんなの預言(スコア)なんかなくても信仰しちゃうだろうが!

 

「(なんて、すばら… けしからん教団なんだ! 全力で貢がせていただきます!)」

 

 もはやセレニィの中でイオン様&導師守護役関連グッズの購入は決定事項となっている。

 うっとりした表情を浮かべつつ、口の端からほんのり涎が垂れている。ゴミ屑である。

 

 そんな残念過ぎるセレニィを余所に、ルークが不満気な表情を隠そうともせずに口を開く。

 

「てか、ホントに公務なのかよ? 俺、導師は行方不明だって師匠(せんせい)に聞いたぞ」

「え? あの、その… それは密命的なアレっていうか…」

 

「ルーク、あまり人の事情に踏み込むものじゃないわ」

「けっ! オメーはそればっかだな。セレニィとは大違いだ」

 

「……イオン様は村の奥のローズ夫人宅よ。導師守護役ならお傍に控えていたほうがいいわ」

 

 悪態をつくルークを横目で睨みながら、ティアは少女にイオンの場所を伝える。

 彼女が探す人物がイオンであろうとなかろうと、長い間イオンを一人にするのは好ましくない。

 

 少女はイオンの居場所を教えてくれたティアに礼を言うと、宿の出口へと駆けていく。

 

「あ… お仕事がんばってくださいね」

「ありがと! あなたもね!」

 

 そこに妄想世界から帰ってきたセレニィが声をかける。

 少女はそれに対して元気よく手を振ると、今度こそ勢い良く宿の外へと駆け出していった。

 

 

 

 ――

 

 

 

「ふぅ… お待たせしたな。さて、約束通りアンタらの宿泊料金は今夜はいただかないよ」

 

 少女を見送ると、宿のカウンターに立っていた宿の亭主ケリーが声をかけてくる。

 

「あ… それなんですが、男女別部屋でお願いできますか? ティアさんは女性ですから」

「おっと、そうだな… 大部屋を案内するところだったよ。いや、気が利かなくてすまんね」

 

 セレニィはケリーに男女別部屋をお願いすることにした。なんかたまにティア怖いし、と。

 いや、おまえも女性だよな? という視線をルークとティアから受けているのに気付かない。

 

 むしろ自分からティアと二人きりの密室を作り出している状況だが、それは置いておこう。

 

「いえ、そんな、こっちの我侭ですから… あ、必要なら当然追加料金をお支払いします」

「ハハッ、そんなのいらないよ。どうしてもってなら、次の機会にもご利用をよろしくな!」

 

「えぇ、その時は是非」

 

 日本人らしい愛想笑いを貼り付けたセレニィによるケリーとの話は和やかに進んでいる。

 あるいは、他の二人よりは軟化した態度を引き出しやすいのかもしれない。

 高慢な態度を表に出しやすいルークや、仏頂面が服を着て歩いているティアよりは恐らく。

 

「あ、それと一つお尋ねしたいのですが…」

「ん? なんだい。なんでも言ってくれ」

 

「この村で雑貨などを取り扱っているお店はありますか?」

「あぁ、それならここがそうだよ。村の生活雑貨から武器防具までなんでもござれさ」

 

「ほほう… 目録を見せていただいても?」

 

 ケリーに差し出された目録を眺めつつ、今後の動き方を瞬時に計算する。

 

 絶対保身するマンは、自らの生存とより快適な旅のためならば打てる布石は全て打つ。

 脳内でシナリオを描き終えたセレニィは、後ろを振り返るとティアに語りかける。

 

「ティアさん、今後の旅のことを考えるとここで装備を整えたいのですが…」

「えぇ。それは必要なことだと思うし、私も賛成するわよ?」

 

「ですが、ティアさんが大事な品まで手放して作ってくれたお金を使い込むのに抵抗が…」

 

 くすんくすん… と泣き真似をしてみせる。

 屑は自分が楽をするために他人を騙すことに微塵も躊躇を覚えない。

 

 加えて、ここらで利用価値を示しておかないといつ捨てられるかも分かったものじゃない。

 屑は性根が曲がっているので、ティアやルークからの好意には気付けないのだ。

 

「ありがとう、セレニィの気持ちは何より嬉しいわ。でも、使う時に使ってこそでしょう?」

「ごめんなさい。ティアさんだけじゃなく、ケリーさんたちの親切にも甘えているのに…」

 

「もう泣かないで。私たちは仲間でしょう? お金が足りなくなってもきっと助け合えるわ」

「そうだぜ! それに、家に帰ったら」

 

「ルークさん、ティアさん! ……ありがとうございます。私、よく考えてお買い物しますね」

 

 ルークの発言に被せる形でそう宣言する。当然、金持ちであることを匂わせないためだ。

 セレニィはルークをいいとこのお坊ちゃんと考えている。ここで口を挟まれては困るのだ。

 

 ティアはああ言っているが「金が無いのは首が無いのと同じ」とセレニィは考えている。

 流石に「金の切れ目が縁の切れ目」とまで言うつもりはないが、あるに越したことはない。

 

 こんな右も左も分からぬような状況下では特に。

 

「お騒がせしてすみません。あの… お買い物をさせていただけますか?」

 

 そしてケリーへと向き直る。

 

 もちろん、その際に出来るだけ無理して微笑んでいるような表情を作るのも忘れない。

 自分は健気な少女、自分は健気な少女… と、自己暗示まで試みる徹底ぶりである。

 

「泣かせるじゃねぇか… よし、俺も男だ! 2割… いや、3割引きで売ってやらぁ!」

「ケリーさん…! でも、そんな… お気持ちはありがたいのですが…」

 

「ガキが遠慮すんじゃねぇよ! それとも、なにか? ウチの商品はいらねぇってか?」

 

 威勢よく声を上げるケリーの侠気に感極まったのか、顔を俯かせるセレニィ。

 

「(くっくっくっ… コイツら、チョロい!)」

 

 そんな筈がなかった。屑は今日も平常運転である。

 

「ありがとうございます、ケリーさん。……では、2割引きでお買い物をさせて下さい」

「あん? 人の話を聞いてなかったのかい。ガキが遠慮」

 

「いえ、お世話になりっぱなしで私が心苦しいんです。ですから私を助けると思って… ね?」

「ちっ… ガキに気を遣わせるとは俺もまだまだか。んじゃ、2割引きで決まりだな!」

 

「はい!」

 

 セレニィの言葉に納得したケリーは苦笑いを浮かべながら引き下がる。

 無論、口にした通りの殊勝な理由などでは断じて無い。

 

「(商売はWin-Winであるべき… 一方のみの言い分を通しては必ず後に禍根を残す)」

 

 利益は欲しいが恨みは徹底的に避けて通る。絶対保身するマンの真骨頂である。

 好意に対する感謝は、態度で、口で示してこそ伝わる。さすればそれが真実となる。

 

 結果、ここに、双方の歩み寄りによる平和的な合意が為された。屑大勝利である。

 

「(……さて、狩り(オカイモノ)の時間を始めるとしよう)」

 

 屑の瞳が妖しく光った。

 

 ……やっていることはタイムセール品をより安く値切ろうとしている主婦と大差ないが。

 それも、雑魚ゆえ致し方なし。

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