旅の始まりはいつもトラブルがつきもの。
「よっしニビジムに挑戦してバッチゲットしたし…おいシルバー!ポケモンバトルするぞ!!」
「ここではできるわけないだろうが馬鹿が…ポケモンセンターへ行くぞ」
「うるせえ分かってるよアホシルバー!さっさと行くぞこの野郎!!」
「アハハ…ありがとうございましたジロウさんにサブロウさん」
「いや、気にしなくていいよヒナちゃん」
「妹達が会いたがっていたけど…またこっちに戻ってくるんだろう?」
「はいもちろんです!それじゃあまた――――」
「―――――あ、ちょっと待って!」
ニビジムから駆け出し、ポケモンセンターへ向かって競い合うように走って行くシルバーとヒビキに苦笑して後を追いかけようとするヒナだったが、ジロウは小さく声をかけて引きとめた。
「ヒナちゃん、タケシ兄ちゃんの事なんだが…今ニビシティには留守でいないけど、今度おこなわれるリーグ戦にはポケモンドクターとして仕事で行くのが決定してるって話を聞いたんだ。タケシ兄ちゃんからの伝言だよ。【ポケモンリーグで待ってる】だって…」
「そう…ですか…分かりました!【リーグ戦に必ず出てみせます!】ってタケシさんに伝えてください!」
「ああ、分かった」
もう一度礼を言って、ヒナはポケモンセンターは向かってしまったヒビキ達の後を追って走り出す。その後ろ姿をジロウ達は懐かしそうに見つめていたのだった。
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ヒナがジロウ達と話をしている間に、ヒビキ達はとっくにポケモンセンターへ向かって行ったらしく、走っていった後ろ姿は歩き出したヒナからは見えない。
だからヒナはヒビキ達が暴れていないことを願って急いでポケモンセンターへ向かったのだが、その出入り口にヒビキとシルバーが不機嫌そうな表情で立ち止まっていたため何かあったのかと首を傾けたのだった。
「どうしたの?」
「バトルフィールドがついさっき来たトレーナー達のバトルでぶっ壊されてて使用禁止だってよ」
「ニビシティで使用できるバトルフィールドはここしかないからな…わざわざ他の場所でやるぐらいならここで何もせず別れた方が良いだろうということにした」
「シルバーがな!」
「ヒビキは不満そうだが…ヒナはそれでいいか?」
「まあ私はどっちでもいいけど…ヒビキは大丈夫なの?」
「まあ俺が不満なのってどっちかっていうとシルバーが勝手に決めたことだし…それに、もっと強くなってからヒナやシルバーと戦いたいから別にいい」
シルバーはバトルできないことに関して不満そうだったが、わざわざ町はずれに行ってバトルを行うよりはこのまま別れて次に会った時にすればいいと話す。その声にヒビキは勝手に決めるなと少々不機嫌になっていたが、それでもシルバーの考えには同意していて、ヒナを待っていたのだ。
このまま三人で別れて、旅をしようということを――――。
ヒナは少しだけ寂しそうにしながらも、分かったと頷いてヒビキ達を見た。
「そっか…じゃあここでお別れだね」
「おう!次会ったときはバトルしようぜ!!」
「その前にバッチは集めておけ。リーグ戦の時期が大幅に短縮しているからな」
「分かってるよアホシルバー!」
「アホは貴様だろうこの馬鹿が」
「はいはい喧嘩しない!…じゃあ、またね」
「おう!またな!」
「…フン」
シルバーたちはそれぞれ行きたい方へと歩き出した。どのみち三人とも次の町であるハナダシティに向けておつきみやまには行かなければならないが、それでもヒナ達にはヒナ達のペースというものがある。
シルバーはニビシティで物資を調達してからチルタリスによって動くか…おつきみやまで修行をするかしたり、ヒビキはそのままおつきみやまに行くためゾロアークのイリュージョンによってウィンディに変化した姿の背に乗って超特急で向かったり…そしてヒナはというと、自分のペースでゆっくりとおつきみやまに登っていたのだった。
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「トレーナー初の野宿って感じかな?」
『ピチュゥ!』
『ガゥゥ…』
おつきみやまの中間地点まで登ったヒナたちはそろそろ夜になるため、これ以上進むのは危険だと判断し、キャンプをするためそれぞれが動いていた。リザードンは火元を準備して小枝を集めて薪にしたり、ピチューはきのみや果物を集めてヒナに渡したり、そしてヒナは母直伝の料理やポケモンフーズを家でリュックにいれて準備した簡易調理器で作ってリザードン達と一緒に食べていた。そんな彼女たちに近づくのは、食べ物の良い匂いに釣られてやって来た野生のポケモン達。
お腹空いたーと警戒なくこちらに近づいて頂戴!とねだるその姿にヒナは苦笑しつつ、リザードンとピチューに頼んで葉っぱで作ったお皿でごはんを渡していた。
そのうち野生ポケモンたちがヒナの周りに増え、お腹がいっぱいになったピチューは通常よりも小さなサンドたちと一緒に遊んでいた。
『ピッチュゥ!』
『ギュウゥ』
「ピチュー!あんまり遠くに行っちゃ駄目だよ!」
『グォォオオ!!』
『ピチュゥウ!』
『ガゥガゥ!』
『ギュゥゥ!』
『ピィ!』
『ピッピィ!』
『ゴルバッ!』
「はいはい、おかわりできるほどの分はないけど焦らなくても大丈夫だよ」
『ピィ…ッ!』
「文句は言わないの。ピィはもうご飯食べたでしょう?…そんなに食べたいんならきのみ集めたら作るけど?」
『ピィィ!』
『ピッピィ!』
『バンギャァ!』
「え、ちょっと待った野生のバンギラスっておつきみやまにいたっけっ!!?」
『バンギィ?』
『グォォ…』
野生のポケモンたちがヒナが言った言葉に反応してきのみを集めに向かう。その喜んだ姿の中には何故かおつきみやまには生息していないはずのバンギラスまでいてヒナは驚愕していたのだった。
リザードンはため息をついて見たことのあるバンギラスに頭を抱えた。ここで野生化しちゃったのねと呟く声は、ヒナには届かない。そんななかヒナはきのみを持ってきたピィたちの要望を聞くためにもバンギラスがこのおつきみやまにいるという事実を驚くのを止めて料理を作ることを決める。
「ご飯だけじゃなくってどうせならお菓子もいいよね」
『グォォ』
『ピィ?』
「ピィは食べたことないかな。いろんな味ができる美味しいお菓子。…ポフレの方が良いかな……ちょっと待っててね」
『ピィィ!』
『ピッピィ!』
『ゴルバァァ!!』
『バンギャァァア!!!』
「ねえリザードン…バンギラスが小さいピィたちと一緒にいても違和感がないっていうのおかしいかな?」
『グォォオ…』
「うんそうだね。考えるのはやめておこう…」
お菓子を作りながらも後ろで楽しそうに待つバンギラスたちの姿にヒナは隣にいるリザードンに向かって声をかけた。
バンギラスの頭に乗ったピィが楽しそうにまだかなと真下の頭を叩いて待っているのだ。そのピィの行動にバンギラスは怒ることなくむしろ一緒に楽しげに笑っている。そしてそんな彼の近くには他のピィたちやピッピ達…そして尻尾の先にはゴルバットやズバットが仲良く座っているかのように翼を折りたたんでいるのが見える。
強暴だと恐れられることがあるバンギラスが小さいピィたちと一緒にいる光景は違和感がなく…それどころかむしろ可愛いとさえ感じる姿にヒナは遠い目をして思わずリザードンに声をかけてしまったのだった。
リザードンは静かに首を横に振ってから小さく鳴き声を上げる。相棒の声を聞いたヒナは分かったと声を出し、すぐに思考を料理やお菓子作りに移したのだった。
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集まってきていたポケモンたちのお腹が十分満足し、ヒナたちの周りで眠ろうとしていた状態の中、数体のポケモンたちがヒナ達に向かって帰って来たのだった。
「ピチュー遅かったね。もうちょっとしたら迎えに行こうと思ってたよ」
『グォォ』
『ピチュゥ…』
『ガゥガゥ…』
『ギュゥゥ…』
「どうしたの?」
『グォォオ?』
『ピィ?』
『ピッピィ?』
『ギャゥウ?』
ピチュー達の様子がおかしいことに気づいたヒナとリザードンはお互いの顔を見合わせてから優しく彼らに向かって声をかけた。ご飯を食べて眠そうにしていた他の野生のポケモンたちもどうかしたのかと声をかける。するとピチューは決心したかのようにヒナに近づいた。
暗闇の中で見えたのはピチューの尻尾だけだった。波動や気配でピチュー達が帰ってきたのを知ったヒナ達が見えたのはピチュー達の声のみ。だからこそ、気まずげにいう鳴き声にヒナたちは大丈夫だよと声をかけて…怪我をしていたらすぐに治療しようかとリュックを開いて待っていたのだ。
そして決心したかのようにようやく姿を見せたピチューに、ヒナたちは火の明かりによって何故こちらに近づいてこなかったのかを理解した。
『ピチュゥ…』
「……えっと…たまご?え、ポケモンのたまご!?」
『グォォオオ!?』
ピチューが持っていたたまごは、ピチューよりも少しだけ小さくて、それでも元気そうにゆらゆらと動くポケモンのたまごだった。
ゆらゆらゆらゆら
―――――やさしいこえがきこえる
ゆらゆら
――――――よんでるこえがきこえる
ゆらゆらゆらゆら…とたまごは動く。