私はただのマサラ人です!   作:若葉ノ茶

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第四十四話~その頃、ある悪党たちは~

 

 

 

 

カツンカツン、と音が鳴り響く。

 

その音は、奇妙なほど静かな廊下から部屋に入ってきたために鳴り止んだ。

 

 

 

「おやおや。生気のない顔をして今にも死にそうですねぇ」

 

「……誰だ」

 

「ああ、失敬…私はただの研究者ですよ。そしてしがない評論家でもあります」

 

「…んで、俺はその助手ってわけだ」

 

 

 

助手には見覚えがあった。見覚えというよりも、自身の夢を叩き潰し、あの伝説ポケモンと呼ばれたギラティナによって作り上げようとしていた宇宙をかき消されたのだから。

そんな憎っくきポケモンマスターに似た顔でこちらに手を振る姿に思わず眉がひそめられる。だが研究者と名乗った男が口を開いた。

 

 

 

 

「ああ、彼はあのサトシくんに似ていますが、ただの助手でありそっくりさんなだけですから気にしないでください。まあ、置物と思えば結構ですよ」

 

「うわ、ひっでぇ!」

 

 

 

「……それで、何の用だ」

 

 

 

見覚えのない姿と、あの新生ロケット団が本来着ていなければならない服を着ていない様子から、彼らは連中の客か、不法侵入かのどちらかだと推測した。

だが、廊下からこちらの部屋に入って来る際に見えた廊下の光景は、ロケット団の下っ端たちが眠らされ倒れている光景だったため、彼らは不法侵入で間違いないだろうとも思う。そんな連中がわざわざこちらに来たんだ。何が目的だ。

 

そう思っていると、眼鏡をかけた男がにこりと愛想笑いを浮かべた。

 

 

 

「あなたは宇宙を創りだしたかったんでしょう?それも、新世界を」

 

「………」

 

「ですが、このシロガネ山にはあなたが望んでいた伝説ポケモンであるディアルガとパルキアはいなかった。もちろん、ギラティナとアルセウスも…ですが…」

 

 

 

確かに望んではいた。

一応はやるべき目的は果たしたが、何も新生ロケット団の連中に良いように使われるつもりはなかったのだ。だからこそ、虎視眈々と狙ってはいたが、目的のポケモンを捕まえ、もう一度自身の夢に挑戦すると言う目的は果たされることがなかった。その理由を、この男は知っていた。それに警戒の色を示す。

 

 

 

「私たちと手を組みませんか?」

 

「何…?」

 

 

急な問いかけに驚くが、男は想定通りだと眼鏡をかけ直した。

 

 

 

「カントー地方を制圧し、次にジョウト地方を全てこの手に収めてやろうという底深い欲望はとても心地が良い。ですが、そのやり方は優れませんね。たかが洗脳でポケモンと人間との絆が失われるわけはないと言うのに…」

 

「……」

 

「洗脳というのは、欲望だけで成功させるものじゃないですよ。ちゃんとその者がなりたいと思える自我を解放させて、私たちのやりたいことと洗脳される側のやりたいことの方向を一致させないとね」

 

「んー?それって難しくねーか?」

 

「君は黙ってなさい」

 

「うぇー…はいはい…」

 

 

サトシに似た少年が嫌そうな顔で舌を出して、男からプイッと顔を背ける。そして男は再び問いかけた。

 

 

「私は、サトシ君の限界というものを知りたい。彼に負けがあるのかどうかをちゃんと見てみたい。調べてみたいんですよ。あなたは…新世界を望むのでしょう?」

 

「…ああ」

 

「ならば、手を組みましょうか。あなたが望むのは新世界…ならば、新世界を作り出す可能性の高いサトシ君に関わりたい私と共に―――――新生ロケット団に新しい脚本を書き換えてやりましょう」

 

 

その言葉は虚言に等しいものだと思えたが。男は本当にそれを叶えてやろうという意思があった。

それに、確かにあのサトシを使って新世界が開けると言う可能性は十分あると納得できた。伝説ポケモンであるディアルガやパルキアに対して拳ひとつで黙らせたあの男なら―――――あのサトシを使って、新世界が築けるというのなら。

 

 

 

「……夢が、叶うのなら…手を貸そう」

 

 

 

新生ロケット団への信頼というのは元からない。もちろん、この男に対してもない。

だが、目の前にいる男もこちらに対して同じ思いを抱いているのだろう。利用し利用される関係だが、野望が叶うのなら悪くはない。だが、素直に利用されるつもりはない。

 

男は微笑み、そして優雅に口を開く。

 

 

 

 

「ああ、ちゃんとした自己紹介がまだでしたね。私はアクロマ…そしてこっちの助手はクロですよ」

 

「…そうか。私はアカギだ」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりです。ロケット団…いえ、ロケット・コンツェルンの会長、サカキ様」

 

 

イッシュ地方のとある場所にて、黒服軍団に囲まれている一人の男がいた。本来ならば男…つまり、サカキには数人の部下と共にイッシュ地方で商談をし終え、カントー地方へ戻るはずだった。だが戻る途中車を走らせていたのだが、その車にぶつかる形でゴローニャが複数襲いかかり、また車を止めて何があったのかと部下たちが出て行けば、突如現れた黒服の男たちによって昏倒され、ゴルバットやラッタで逃げようとしたら襲うとでも言いたげにこちらを脅していたのだ。野次馬もいない静かな道に車を走らせたのが悪かったのか、それともそれらも全て連中の計算通りなのか。

 

サカキは連中に向かって静かに威嚇している自身の手持ちであるペルシアンを落ち着かせながらも、帽子を脱いで目の前にいる以前の部下――――アポロを見た。

 

 

「何の用だ」

 

『ニャッ』

 

 

「つれないですね。これでも…あなたのことをまだ、尊敬していると言うのに…」

 

 

アポロが指をパチンッと鳴らすと、どこからともなく出てきたポケモンが両手にある大きなリングを解放し、扉を作り上げた。

そのポケモンをよく見れば、ある種の珍しいポケモンと呼ばれているフーパだと理解する。

 

アポロが解放された扉を指差し、にっこりと笑った。

 

 

「さあ、行きましょうか」

 

 

こちらには拒否権なんて何もない。それを理解したサカキがペルシアンを従えて扉の先へ潜り抜けた。

 

―――――そこにあったのは、ある意味想像していない光景だった。

 

 

「どうですか?いい光景でしょう!?」

 

 

「………」

 

『ニャァ…』

 

 

 

伝説と呼ばれているポケモンたちが、何かの大きなカプセルに入れられ眠りについている。その頭には機械がつけられており、近くにあるパソコンからデータが記載されていく。

その中央には、以前あのサトシと出会う前に行った実験で出会った、ミュウツーがいた。

 

 

「ふふふ…ここには、あなたが築いた悪しき遺産が眠っている!ですが、あなたが従えきれなかったミュウツーを私が洗脳することに成功をした!他の伝説ポケモンも、そして熟練たるトレーナーやポケモンたちでさえ、操ることに成功しましたよ!」

 

 

あははははっ!、と両腕を広げて笑い声を上げるアポロに、ペルシアンの毛が逆立つ。

これが、私の残してしまった悪しき遺産。アポロを含めて、自分が築き上げた悪を取り払い、なかったことにした結果がこれなのか。

サカキは心の中で苛立ちと自己嫌悪をもってアポロを見つめていた。表面は無表情かつ何も感情を見せようとしないほど冷静であったが、心の中は燃え上がっていた。

 

 

「どうですか?あなたが出来なかった悪を、私たちはやり遂げた。これを全て、あなたに見せたかった」

 

「…ほぉ」

 

「カントー地方は、もはやこの手にあると言っていい!どんな悪事をしても、もう許されるよう洗脳を施したんですよ!?……だから、もう一度一緒にやり直しませんか、ボス」

 

 

手を伸ばし、まるで迷子の子供かというかのようにこちらを泣きそうな目でじっと見つめるアポロ。

サカキはその手を振り払った。

 

 

「断る」

 

「なっ……何故ですか!?今や新生ロケット団には…カントー地方を制圧したと言っていいほどこちらの手の内にあります。そして伝説のポケモンでさえ、私たちのものだというのに…!!」

 

「サトシはどうした?」

 

「え」

 

「あのポケモンマスターを洗脳下に置かなければ、私は動くことはない。…いや、ポケモンマスターが洗脳されたとしても、今の私は動くことなんてするわけないだろうな」

 

「な、何故っ!!?」

 

 

 

ギョッとし、目を向いたアポロに対して、サカキは冷静に話し始める。

 

 

 

「あのポケモンマスターを甘く見るな。例え世界の全てを洗脳下に置いたとしても、ポケモンマスターがいる限りお前たちに牙を向き、襲いかかって来るに違いない。もし洗脳に成功したとしても…奴の上に立つ限り、攻撃をするだろう。あいつはそういう奴だ」

 

「……ふん。ですが!こっちにはもうシロガネ山という拠点をも洗脳下に置いたんですよ!?あのポケモンマスターの…手持ちのポケモンたちでさえ、洗脳することに成功した!あのポケモンたちとポケモンマスターをぶつけ合えば…」

 

「そういうことをほざいている時点で、もはや貴様らは敗北に等しいと言うものだ」

 

「なっ?!」

 

「それほどまでにも、あのサトシに勝つことは難しい。あいつは、常に上に立ち続けるか…上にいる奴らに挑戦し、勝ってみせようとするチャレンジャーな性格をしているからな」

 

 

 

サカキはため息をついて、そして自身の思いを打ち明けた。

 

 

 

「私はポケモンを金儲けの道具として扱ってきた過去がある。貴重なポケモン。貴重な物…すべてを金に換えてきた。だがそれだけならば誰にでもできるつまらないモノだろう?それを全てあのポケモンマスターが…サトシが変えてくれた」

 

「……ど、どういう…?」

 

 

「型に当てはめられるのがポケモンというわけでない。そして、洗脳ですべてを押し付けるものでもない。世界というのはまさしく幅広く、無限大に可能性が広がっているものだ。たかが貴重なポケモン、たかが貴重な物…そんなもの、別地方に行けば普通のポケモンや物と変わらない。だからこそ、今までの常識を塗り替えてできたものこそ新しい価値がある。ポケモンに可能性があると証明されている今、金儲けというのは、やり方次第で工夫できるものだ」

 

 

 

サカキの言っている言葉はまさしく今までと変わらないもの。だが、その方向性を別に変えて行動していると言うもの。サトシに出会って、世界の広さを知った。

もはや人の親という立場に立ってなお、世界にはまだまだ可能性があるのだということを知った。

 

だからこそ、サカキは狭っ苦しい世の中で生きていくつもりはなかった。型のはまらないトレーナーであるサトシに出会ったからこそ、可能性の幅を見出し、新しいモノの価値というものを知ることができた。その上で、今のサカキがいる。

 

それを、アポロは苦い顔で見つめていた。

 

 

 

「……ふん。やはり…変わりましたねあなたは…本当に、失望しました」

 

「何とでも言うがいい。私は世界の広さをこの目で見てきた。だからこそ、変われたのだ」

 

『ニャウ!』

 

 

ペルシアンが誇らしげな顔でサカキの足もとにすり寄ってきた。そんなペルシアンの頭を撫でながらも、アポロを見つめる。

 

 

 

「…サトシがいる限り、貴様らが負けることは確実だろう。以前の私の部下として忠告しておくぞ。…これ以上の悪事は、やめておけ」

 

「……無駄ですよ。私達に何を言っても止まれない!もう、取り返しのつかない位置まできているんですからね…!」

 

 

両手を広げたアポロが、泣きそうな顔で微笑んだ。

 

 

 

 

 

「サカキ様…いえ、サカキ。あなたには我々の野望を見届けてもらいます。私と同じ目線で、すべてを見てもらう!!」

 

 

 

 

反論は聞かないとばかりに、サカキとペルシアンが黒服の男たちに取り押さえられる。

ペルシアンはその襲撃に何度か抵抗するが――――対してサカキはただ流れるがままに目を瞑り、自身の息子の身を案じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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