それは、突然だった。
建物内にて聞こえてくるのは、赤く点滅するサイレンと緊急事態発生のアナウンス。
何かが起きたのかは分からない。気づいたらサイレンが鳴っていた。監視カメラにはなにも写っていなかったというのにだ。
「何が起きている!?」
「侵入者がいること以外分かりません!」
「馬鹿者!それぐらい今起きている警報で分かる!それよりも肝心の侵入者を捕らえることを考えろ!!!」
「は…ハッ!了解しました!!」
男の言葉に駆け出していく部下の一人。慌てたように動き出す不甲斐なさに思わず舌打ちを一つ溢した。
監視カメラを写し出すはずのテレビ画面にはノイズしかない。それはつまり、侵入した奴が何処の誰なのか分からないという事実。何が目的なのだろうか。もしも目的が金ならばいくらでも出してやろう。それぐらいの儲けはあるのだから。
だが――――
「あれだけはなんとしても守らないと駄目だ!」
拳を握りしめ、カメラの復旧を急がせる男の顔には焦りが浮かんでいた。
彼が見つめる視線の先にある机の上にばらまかれた書類には、世界で今起きている異常事態が記されていた。その紙の上には一枚の写真がある。
「くそ!…こんなものがなければっ…」
写真に写し出されているものは、色とりどりに光り輝く、宝石のように綺麗で大きな石の塔であった。
その造形や色彩は、ヒナがサトシに連れられてハナダシティの近くで一度見た物に酷似していることを、唇を噛む男は知らない。
・・・・・・・・
「ピカチュウ、10まんボルト」
『ピッカ!!』
目の前にある閉ざされたシャッターが雷鳴によって叩き壊され、道が開く。
やるべきことはさっさと終えて次にいかなければいけない。そうしないと彼女だけじゃなく、皆を守れないことぐらいわかっているつもりなのだから。
「シルフカンパニーを襲っているのがポケモンマスターだなんて大ニュースになるよな、ピカチュウ」
『ピィカッチュウ…』
いや、ニュースどころか歴史に刻まれるかもしれない大事件だろうとサトシは考えた。なんせポケモンマスターはトレーナーの象徴。皆の代表として選ばれる存在が事件を起こしたなんて世間に知られれば大混乱に陥るかもしれない。
でもシルフカンパニーに襲撃者が来るかもしれないと言ったというのに、奴らが頑なに受け入れ拒否したのが悪い。最後の最後まで見守っていたが結局は襲撃を受けた。だから守らなければいけない機械のために、犯罪まがいのことをしても仕方ないとサトシは諦めている。もちろんピカチュウも、セキュリティは万全だから大丈夫だと嘲笑った社員たちに怒りを覚えつつ、反対する気にはならなかった。
「さて、そろそろか?」
『ピカァ?』
警報が鳴り止むことはない。シルフカンパニーが侵入者を阻もうとしても、内部に入ればこちらのもの。奥への行き方くらいは分かっている。だから最奥のこの場所へ難なく来れた。恐らく奴らもそうだろう。
「新たなる発明は次なる最悪を呼び起こす。それはつまり、世界崩壊の幕開けでもある」
『ピッカ』
「それに比べて、俺達が巻き込まれたトラブルなんてまだまだ軽いもんだよなぁ?拳一つで解決できるんだからさ」
『ピィカ?』
それはどうなんだろう?、と言うかのようにピカチュウの顔が引きつったけど、実際そうなのだから仕方ない。なお、アクロマの件は世界崩壊の危機とは別物として処理しているため、何の問題もないはず。
とりあえずアクロマはうっかり電気を浴びてコイキングの【はねる】で死ねばいい。そう、サトシは心から考えていた。
『っ…ピカピ』
「ああ。分かってる」
タッタッタ――と、足音が何重も聞こえてくる。おそらく複数の人間がここへ来ようとしているのだろう。
サトシがいる部屋のなかには閉ざされた扉が一つと、奥に置いてある大きな機械が一つ。カメラもあるが、どうやら機能していないようだ。おそらく奴らの攻撃によって壊されたか何か異変が起きたのか。
扉前にて足音が消える。そして数秒のち。
バタンッ
「よぉ、待ってたぜ悪党ども」
『ピィカァ』
どちらかと言うとサトシの顔の方が悪人面になっていたのだけれど、誰かがそれを言う空気にはならなかった。
サトシとピカチュウの目の前にいる男達は、部屋の中にポケモンマスターがいる現実に驚いていた。一瞬逃げ道を確認するため視線が別の方向を向いたことを理解し、口を開く。
「何で俺がここにいるのか、お前らは分かっているか?」
「……いや」
「なら一つ聞こう。何でこの機械を狙ったんだ?」
サトシとピカチュウが守るようにして立っている機械は、シトロンの発明品の一つであった。否、シトロンの発想とどう使うのかをシルフカンパニー等の会社が共同で開発した試作品にすぎないもの。
試作品だとしても、巨大な力になることをサトシ達は知っていた。
「ポケモン技の増幅装置…下手をすれば関係のない人間やポケモンにまで影響を受ける恐ろしい機械だ。てめえらはこれが狙いなんだろう?」
「……」
「沈黙は肯定と見ておくぜ」
『ピカピカ』
この機械が悪人の手に渡り、自由に使えたとしたら。
例えば、機械が発動中に【さいみんじゅつ】で眠らされたポケモンは、眠気覚ましを飲まされても起きることがない。ポケモンセンターにいって、専用の薬を飲まされ、一週間で起きることが可能となる。普通なら一日で回復するはずの技だと言うのに。
例えば、機械が発動中に【みらいよち】をしたとしたらどうなるのだろうか。もう結果は決まったも同じだ。技を避けることなんてあり得ない。必ず当たるように攻撃をするその行為はもはや予知を越えた何かになる。
そして、例えば、機械が発動中に【ほろびのうた】を歌われたら――もう分かるだろう、最悪の結末と言うものが。
それらを避けるためにサトシはここにいる。人やポケモンを救うために使う機械が悪用されないよう、守っている。
「お前らを捕まえるのは確定だ。逃げようとすんなよ。痛い目には遭いたくないだろう?」
『ピィカァ』
「…チッ。いいだろう。降参するよ」
「リーダー!?」
「アポロ様が言っていただろう。何かに阻まれ、逃げられないと分かれば諦めるしかないとな」
「そうですが…」
「まあそれにしてもだ。よく俺達がここを襲うと分かったな?」
新生ロケット団のリーダーと呼ばれた男が探るようにサトシを見る。サトシはその視線を真正面から受けとめ、にっこりと笑った。
「お前らなら分かっているんだろ?」
「ああクソ…分かっているよ…やっぱあれか」
ロケット団の男は何かを思い出すかのように苦い顔で天井を見上げる。
アレはサトシ達に密かに送ってくれた内容。新生ロケット団がこれから何をするのかが書かれた密書。彼女が一人でやってくれたから、サトシは新生ロケット団がこの機械を狙うことを知り、事前に動くことが出来た。
「知っているなら答えろ。彼女は何処だ?」
「…さあな、捕まってるんじゃねえのか」
床にあぐらをかいて座る男は不貞腐れた顔で答える。捕まったのなら、助けなければいけない。
世界に異常を起こすかもしれないと考えた彼女の独断で行動したことは自業自得と捉えても良いけれど、潜入捜査としては充分に活動してくれた。だから説教はしない。普通に救い出してやるだけの話だ。
電話を使い、アタッシュケースを追うセレナへかける。数コールの後、聞こえてきたのはセレナの元気な声だ。
「セレナ、アタッシュケースを奪ったら次の準備を頼む。カガリを救い出すぞ」
「分かったわ!」
「ああそれと…あの頑固眼鏡を動かさなきゃな…」
――お気に入りの部下であるカガリが捕まったんなら、あのマツブサの野郎も行動を開始するだろうよ。
・・・・・・・・
誰もいない静かなカフェにて、コーヒーを飲む一人の青年と、ジュースを飲む訝しげな少年がいた。
「いくつか、あなたの魅力をお教えしましょう」
「はぁ…」
少年――ヒビキは目の前にいる男に警戒をしていた。いきなり呼び止められて近くのカフェで話でもしようか、ああこちらの奢りだから好きなものを選ぶといい。そう言われるほどの何かをした覚えはヒビキにはなかった。
もしかしたら、奢る代わりに何か高いものを売ろうとする悪いやつなのだろうか。前に金色のペンキで塗られたコイキングが500円で売られていたという話を聞いたことがあるが、それに似た話をするつもりか。もしものことがあればジュンサーさんにでも話をしよう。そうヒビキは考えていたのだ。
目の前にいる男はヒビキに警戒されていることを気にせず、ニコニコと笑顔を絶やさず声を出す。
「まだまだ新人トレーナーであるあなたのことを私たちは気にしていました。もちろんあなたの友人であるヒナさんやシルバーさんもですよ」
「はぁ…」
知られていることに驚きはしない。トレーナーとなって旅をし、バトルをすれば有名になることが当たり前だからだ。
でも一番解せないのは、自分のことを詳しく知りすぎている男。ファンなら分かるが、ヒビキ自身はまだ新人。何の戦歴もないひよっ子にすぎない。
だから、トレーナーとしてバトルするわけでもなく話をする意味はあるのか?
「あなたの一番の魅力は、そのゾロアークにあります」
「それは、どういう意味だ?」
「あなたのゾロアークは通常の個体よりもイリュージョンの質が高い。ちょっとしたショックでその幻影が解かれるのは欠点ですが、磨けば強くなる」
「はぁ…」
つまりはなんだ。ゾロアークを交換してほしいということか?
「あの俺…ゾロアークを手放す気はないっすよ」
「ああいや、ゾロアークを譲り渡して欲しいわけではありませんよ」
「えっと」
「もちろん、交換してほしいわけでもありません」
微笑む彼は言った。
「あなたに少々協力をしてほしいだけの話ですよ。あなたのゾロアークの偉大なイリュージョンを使ってね」
「はい?ええっと…協力って何すか」
「なぁに、ちょっとしたサプライズの話です」
パチンっと指をならした男の背後から、複数の影が飛び出してきた。
・・・・・・・
ポッポの群れが移動した先に、何やら大きな建物がありました。
「天空の…城みたいな?」
『ガゥゥ』
『ピチュゥ?』
『ナゾナゾ!』
『キュゥゥ!!』
「いたたたたっ…落ち着いてミニルギア!」
興奮して私の耳を引っ張るルギアを制止し、ポッポの行く先を見た。
そこに広がるのは、古代の城かと思えるものが雲に隠れつつ浮かんでいる光景。ポッポの群れは違和感のありすぎる城の中庭に入っていき、土の上に降りて羽を休め始めた。
ポッポの群れにつられながら、私はリザードンに指示をして中庭へ向かう。
ポッポたちは私達が来ても何の反応もなく驚くこともない。むしろ来るのが当たり前というかのように、こちらをじっと見つめていた。でも、マサラタウンでよく見ていたポッポ達とは違って何の反応もないのだ。人形かと思えるような表情で見つめているだけのポッポたちに何故か寒気がした。
庭は花や草木が生い茂って、よく整えられている。まるでマサラタウンのポケモン研究所にある花畑のようにも見えた。
「何だろうここ…よし皆、ボールに戻って。リザードンはお疲れ様!」
『グォォ!』
『ピチュゥ!』
『ナゾナ!』
『キュゥゥ』
「君は…ああうん、そのまま外にいるんだね分かったわ」
まあ、ルギアはボールに入っていたからといって自分の手持ちとは呼べないし、命令もできないためここが危険かどうかさえ分からないから念のためにボールに入ってと言っても意味はない。
とりあえず、今はこの場所が何なのか調べてみようかな。
「カントー地方の上空にこんな城が浮いているだなんてお兄ちゃんが知ったらどんな顔するんだろ…」
『キュゥゥ?』
「ううん、何でもないよミニルギア」
中庭の左通路に大きな扉がある。中に入ることが出来るみたいなので、遠慮なく建物内部へ。
ドスッ――。
「いったぁ…!」
誰かに押し倒されたような鈍痛が身体に衝撃を与え、思わず目を閉じてしまう。
「……誰」
「いや、あなたこそ誰!?」
ゆっくりと目を開けて見えたのは、美少女だった。
「…ァハハ…まあいいや」
「へ?」
「…手伝え」
「はいぃ!?」
何を言っているのだろうか目の前にいる美少女は。何故か傷だらけの身体を隠すように、赤ずきんかと思えるフードをかぶって、アハハ、ウフフと笑っている。
小さいし可愛いから、私を押さえつけているつもりでも、逃げようと思えば逃げれる程度には力がない。だから警戒するほどの人間には見えないけど、普通の少女かと問われたら疑問に思う。ちょっとだけ、個性的な美少女というべきか。
彼女はこの城の関係者なのだろうか?
「はぁはぁ…んふふ…」
彼女が私の手を掴んで、口を開いた。
「…ボクには使命がある…やらないと……んっ…はぁ」
「使命があるって何?」
「……黙って、手伝え…拒否権はァ…ないよ!」
「う、うん…?」
『キュゥゥ?』
現状を理解していない小さなルギアが押し倒される私と美少女の胸に挟まれつつ、首を傾けたのだった。
細かな視点変更ってやめた方がいいかなぁ…(´・ω・`)
とりあえず簡単に説明
サトシ&セレナ
・シルフカンパニーにてアタッシュケースを奪うことと機械強奪の阻止のため、ヤマブキシティにいる。今回さっさと終わらせたが、本当ならミッションインポッシ(ry のような長時間映画な状況になっていた可能性もある。
ピンクセレビィ
・異世界から来たセレビィ。ジュプトルを探してシロガネ山に来たのに説教受けられて不機嫌中である。現在シロガネ山にいてクリスの様子を窺っている。
ミュウツー
・説教受けて一時的に瀕死状態。現在は怒りでレックウザ達に喧嘩売ってる。後でフシギダネにぶっ飛ばされる運命。
英雄ジュプトル
・どっかにいる。
クリス
・一人山登りinシロガネ山を開催中。ナイフ一本で山登りさせられてるさすが師匠マジ鬼畜。ポケモンたちも過酷な修行中。あとで上空に放たれるソーラービームを見て現実逃避する。
シルバー
・ポケモンを捕まえるためゴースト襲撃中。はかいこうせん禁止令を受けている。
ヒナ
・天空の城のラ○ュタみたいな状況。美少女に押し倒されてる。
美少女
・天空の城にてヒナを押し倒してる笑い上戸な赤ずきん。
ミニルギア
・何故かヒナのボールの中にいた小さいルギア。現在ヒナと美少女の胸に挟まれて息が苦しい状態。
ヒビキ
・どっかのカフェにて異変がががガガがガggggg