トレーナーとして旅に出る始まりの一歩。
歩いていく速度はゆっくりと…でも少しだけ早く行きたいという気持ちを押さえて向かうのはオーキド研究所。
私は幼い頃から一緒だったリザードンとピチューがいるからポケモンは貰うことはできないけれど、オーキド博士にポケモン図鑑を渡される約束をしてもらっていたから旅の第一歩として向かっていた。
一歩一歩歩き、たまに立ち止まって小さなポケモンたちが私の前を通り過ぎるのを微笑ましく眺めながら…ようやくたどり着いたのは大きな建物の前。
その近くに立っていたのは、私にとって懐かしい姿。
「よぉヒナ!やっと来たか!」
「遅い」
「ヒビキにシルバー…?もうカント―地方に帰って来てたの!?」
「当たり前だろ!!前に約束したよな?次に会う時はトレーナーとしてだって!!」
「…ヒビキがそういって聞かなくてな。予定よりも早くマサラタウンに来たんだ」
「そっか…なんか待たせたみたいでごめんね」
ヒビキ達はカント―地方に来るのはもう少しだけ遅いという連絡を貰っていたから、まだ会えないと思っていた。最悪、来るとしたらジョウト地方に旅に出る時かなという気持ちもあったのだ。
だが、ヒビキとシルバーは四年前よりも少しだけ成長した姿で現れた。身長は伸びて私よりも上の位置だけれど、ヒビキは帽子とゴーグルをつけた姿は変わらず、そしてシルバーはその不機嫌そうな表情が変わらず…なんだか四年前のジョウト地方を思い出して私は笑ってしまった。
私が笑ったことにヒビキも思わずつられて笑っていて、シルバーは何も言わずに私たちを見ていた。
「ヒビキとシルバーはもう研究所に入ったの?」
「いやまだだ」
「どうせならヒナやシルバーと一緒に入ろうって思って待ってたんだ!早く行こうぜ!」
「え、ちょっと…」
「お邪魔しまーす!」
ヒビキが私やシルバーの腕を掴んでオーキド研究所の扉を開いた。オーキド研究所はいつもなら扉は閉まっていてインターホンを押さないといけないのだが、本日は旅に出るトレーナーが数多く集まると言うことで鍵はしまってはいない。
そしてそんな私たちを迎えてくれたのは、兄のポケモンではないフシギダネ達。
フシギダネ達はどうやら私たちがトレーナーとして自分を選ぶためにやって来たのだろうと思い込んでいるらしい。後ろからやって来たオーキド博士とケンジさんが困ったように苦笑していた。
『ダネ!』
『カゲェ!』
『ゼニゼニィ!』
「これこれ…彼女達はお前さんらを選ぶために来たわけじゃないぞ…」
「オーキド博士」
「ヒナ…それにヒビキ君にシルバー君か。もう君たちがトレーナーとなる日が来るとはのぅ…」
「オーキド博士…感慨深いのは分かりますが、早く図鑑を渡してあげないと可哀想ですよ」
「おお!そうじゃったな!」
オーキド博士がようやく思い出したかのような声を出して他の部屋に入っていく。それを見ながら私たちは未だにこちらに近づいてくるフシギダネ達と戯れた。彼らはおそらく次にやって来るであろう新人トレーナーに選ばれて旅に出る。ヒビキやシルバーがフシギダネ達を観察したり遊んだりする間に、次に向かう町はどうするのか話していた。
「次の町…やっぱりニビジムだろ?サトシさんが最初に挑戦したジムだし。トキワジムは最後に挑戦した方が良いっていう噂があるくらいだし…」
「噂っていうより…トキワジムはあまりジムとして機能してないみたいだから、やるんなら最後にした方が良いって聞いたことがあるよ?待っている時間が長いからその無駄な時間を過ごすよりも違うジムにいった方が良いって…」
「ならニビジムだ。今年行われるリーグは今までよりも開催時期が早まっているからな…バッチを集めるのはなるべく早い方が良い」
「よっしゃ!じゃあニビジムに決定だな!そこまでは一緒に行こうぜ!その後は別れて旅しよう!」
「俺はそれで構わないが…ヒビキ、貴様ちゃんとリーグ開催日までにジムバッチを集めろ。お前のことだから何か大切な時に間違ってドジをやらかすかもしれないからな」
「やらかさねえよ!やるとしたらお前だろアホシルバー!!」
「喧嘩はしない!!」
「「フグォッ!!」」
「ははっ…さ、サトシに似てきたねヒナちゃん…」
「そんなことないですよケンジさん。私は兄のようにはなれないです」
ヒビキとシルバーが懐からモンスターボールを取り出して室内でポケモンバトルをやりそうな雰囲気になったため、仲裁するために私は二人の頭上から拳を落とした。頭を殴られたことによってか、彼らは四年前と変わらずすぐに地面に倒れてしまったけれど、軽く殴ったからしばらくしたら起き上がるだろうと私はヒビキ達を放置して机に出されたお茶を飲む。
そんな私たちにケンジさんは頬を引き攣りながら声をかけてきたけれど、私は首を傾けてそんなことないと笑顔で言った。兄に似てきたとしたらそれはヒューマン型ポケモンとして有名になれるだろうから私は違うと思う。
フシギダネ達は私を見て何故か目を輝かせていたけれど、それはたぶん騒々しいヒビキ達を見て元気いっぱいのトレーナーに選ばれたいなという気持ちが強いからだろうと思い微笑んだ。
そんなことをしている間に、ヒビキ達は頭を押さえつつ起き上がりこちらを睨んできたため、私は師匠がいつもやっているように、にっこりと笑みを浮かべて喧嘩するなと注意しておく。そしたら何も言わなくなったから良かったと思った。
こんな大事な初日にトラブルを起こしたくはないのだから少しは落ち着いて待っていてほしい。願いが通じて良かったと思ったものだ。
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「すまん…待ったか!」
「いえ、大丈夫です」
「ポケモン図鑑…!」
「…………」
オーキド博士が3つのポケモン図鑑を持ってやって来た。そのポケモン図鑑は今まで兄が旅して遭遇したポケモンのデータが入っている最新版であり、新しいポケモンを探すための役割も持っている。
トレーナーとなった誰もが持つその図鑑を、私たちはオーキド博士から貰い受けることができた。
そしてポケモン図鑑と共に小さな箱も貰い…その中には6個のモンスターボールも入っていた。
「ポケモン図鑑とモンスターボールじゃ。気をつけて旅に挑むのじゃぞ」
「はい。ありがとうございますオーキド博士!」
「ありがとうございました!」
「大事に使わせていただきます…」
オーキド博士やケンジさんだけでなく、フシギダネ達も一緒に見送ってくれた。
図鑑を見てヒビキはわくわくしたように笑い。シルバーはこれからどう行こうかマップを見て確認している。2人とも性格が違っていて…これからどんな旅になるのだろうかとニビジム以降の彼らの旅路を想像しつつ、私はトキワの森へ向かって歩きだした。もちろんヒビキ達も一緒に歩き出す。
そんな私たちの頭上で、ホウオウが輝かしく空を飛びながら見送っているとも知らずに…。