私はただのマサラ人です!   作:若葉ノ茶

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みんな、最初はそうだった。





第二十三話~未来への筋道~

 

 

 

 

 

 

「いやぁ…弁償事にならなくて良かったよねぇ…」

『ピィッチュ…』

「トレーナー資格剥奪だなんていう最悪の事態も防げたし万々歳だな…」

『ピッジョォォ』

『ガァァ』

 

 

「「それで何か言うことはないかな?シルバーくん?」」

 

「ひとつも見当たらないと思うのだが…?」

『チルルゥ?』

 

「だぁぁ!お前らがそんなんだからはかいこうせんが破壊光線になるんだよ!!」

「ちゃんと自覚すること!そしてちゃんと最悪の事態を考えておくこと!それが今回の反省点です!!」

 

 

ホール内の天井を見上げれば見えてくるのは清々しい夕日空。カウンターシールドによって、止めたはずのはかいこうせんが天井に突き刺さり、全てを破壊しつつ空に閃光が向かった証拠のあとだ。

 

船の人にやりすぎだとシルバーが怒鳴られた。けれどきっかけを作ったとはいえ、犯罪者たちを捕まえてくれたことに免じて処罰の対象にはならなかった。

ヒビキは冷や汗をかき、私もひやひやして――シルバーはもっと痛めつけてやりたかったと不服だった。

 

つまり、反省していないので説教が必要ということです。

 

「……チッ」

『チルゥ』

 

「ちゃんと反省するまでバトル禁止にするぞあほシルバーめ!」

「ちょっとやり過ぎてるし周りのこと見てない部分があるからちゃんと考えて行動してね?」

「……」

「…シルバー?」

「おいシルバー!」

 

「…分かった。つまり一点集中型を極めればいいんだな?」

 

「「そういう問題か!!?」」

 

 

この調子だと、恐らくシルバーは普通にまた何かやらかすかもしれない。そこは本当に兄に似ていてかなり不安だ。だから、はかいこうせん禁止を考えておかないと後が怖くなると思う。

 

でも、シルバーが理解しないとこの問題は解決しないんだよね。実際に危害を加えたのは――まあ、四年前の船とニビジムとこの聖・アンヌ号なんだけれども。

 

…やっぱり多いか。ちゃんと反省してもらわなきゃ。

 

 

「とにかく!シルバーのチルタリスによる影響を抑える方法をちゃんと考えないと駄目だからね!」

「はかいこうせんは一撃必殺として使っているからな…無理に決まっているだろう」

「だぁから!そんな硬いこと言ってるからいつまで経ってもチルタリスの攻撃による壊滅的被害が起きるんだろ!自覚しろよ!」

「シルバーのお父さんが困るかもしれないよ?だからちゃんと考えてね?」

 

「父上が…っ…分かった」

 

「え、マジで!?」

「本当に?本当に考えてるのよね」

「ああ。これからチルタリスのはかいこうせんをどうするかちゃんと考えておく」

『チルゥ?』

「チルタリス、これも修行だ」

『チ、チルッ!』

 

 

シルバーの父上に対する威力が半端ない。チルタリスは首を傾けて本当に我ははかいこうせんを極めなくて良いのだろうか?というような顔をしてきたけれどね。シルバーを説得できたなら大丈夫なはず。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

そんなこんなで、進化の石もマスターボールも大会ごとなくなってしまった。石くらいは欲しかったからちょっと惜しいなと思いつつ、ナゾノクサと散歩にでも行こうと決心した。

 

船の中はあまり揺れることなく、ポケモン専用のきのみを貰ってあとでリザードンやピチュー、ナゾノクサと一緒に食べようと思いながら歩いていく。ホールではない場所。客室の廊下から、展望デッキへ。

 

 

『ナゾナゾ~』

「ナゾノクサ、気持ちいい?」

『ナッゾー!』

 

 

ナゾノクサが頭の上にある草を揺らしながら私に向かって笑いかけてくれた。私も微笑みながら、夕日を眺める。

 

――――ふと、下を見てみた。

 

「――――っ!」

 

「あれ…クリス?」

『ナッゾォ?』

 

 

展望デッキは二階部分らしく、その下に見える外のバトルフィールドで戦っているらしいクリスと知らないトレーナーの姿。クリスはチコリータで戦っていて、知らないトレーナーはストライクでやっている。

ナゾノクサもそのようすを観戦し、もっと近くで見てみたいとばかりにジャンプして促してきた。だから、展望デッキから階段を下って、バトルフィールドを近くで観戦する。

 

「チコリータ!つるのムチ!」

『チィィッコ!』

 

「ぐっ!?ストライク、切り裂け!」

『ストラァァイク!!』

 

『チッコォッ!?』

「大丈夫だチコリータ!お前ならやれる!もう一度つるのムチ!」

『チコ…チコリッッ!!』

 

『ストラァァイッ!!?』

「あぁ!?ストライクぅぅ!!」

 

つるのムチによって壁に叩きつけられたストライクが目を回して倒れる。そしてトレーナーがストライクの側に近寄り、そこでバトルは終了となった。

チコリータは葉っぱをぶんぶん振り回して勝利を歓び、クリスはそんなチコリータの頭を撫でる。ポケモンと人間の絆が現れているとても気分のいいバトルだ。

 

『ナッゾォ!』

 

「あ、ナゾノクサ!」

 

「む、ナゾノクサ?…ああ、いたのかヒナ」

『チィコ?』

「うんごめんね。なんか覗き見してて」

「いや、ポケモンバトルとはそういうものだ…だが、ちょうどいいな…」

「へ?」

「ヒナ、私とバトルしろ。それもあの色違いのリザードンとだ」

「……何で?」

『ナゾォ?』

 

私が首を傾けると、近くにいたナゾノクサも同じ動作をして草を揺らす。リザードンを皆が見ているここで出して騒ぎにならなければいいのだが、それをクリスは分かっているのだろうか?

 

「ここでリザードンを出す意味は?この船の…私の部屋に行けばリザードンを出してあげることができるし、バトルだって無理にしなくても…」

「お前の相棒だとヒビキから聞いた。だから戦いたい」

 

拍子抜けした。そうだ、クリスは色違いについて何も反応しなかったではないか。ポケモンにペンキでも塗って色違いにすればいいと怒っていたじゃないか。

 

少しだけ、色違いについてのトレーナーの反応を怖がってしまった自分を恥じた。そんな私にナゾノクサが元気出せとばかりに足元にすり寄り、懐にある二つのボールがゆらゆらと揺れる。リザードンのボールは出てきて騒ぎになっても大丈夫よ、と言うかのように大きく揺れていた。

 

クリスの目は本気だ。だから、全力を出さなければならない。私は頷いた。

 

「バトルとなったら…全力を出して戦うからね」

「もちろんだ!」

 

私とクリスがバトルフィールドの両側に立つ。私はボールを手に取り、クリスは側にいたチコリータをフィールド内へと行くように指差す。

 

「行っておいで!リザードン!!」

『グォォォォッ!』

「全てを出して戦うぞ、チコリータ!」

『チッコォォォ!』

 

漆黒の翼と、緑の葉っぱが揺れる。ナゾノクサがリザードンの炎の尻尾を見て近づこうとしたから慌てて抱き上げつつ、両者が睨み合う。これから熱いバトルが始まるかもしれない。

 

だが、バトルの熱気を冷ますのは、それを見た観戦者が大きく騒ぎとなって聞こえてきたせいだ。

 

 

「おい見ろよ!あのリザードン色違いだぞ!」

「うわぁすっげー!格好良い!」

「交換してくれないのかな…?」

「ポケモン交換所まで連れていったら交換してくれるぜたぶん!」

「絶対に交換してもらう!あのリザードン欲しい!」

 

 

本当に、これらの声が苛立つ。色違いだから価値があると思ってる馬鹿が多すぎてムカつく。

 

私とリザードンが嫌そうな顔をして、クリスとチコリータが攻撃でもするかの勢いで怒鳴ろうと――したときだった。

 

「あぁー!あっちに色違いのギャラドスが大発生してるぜ!!」

『グァァァ』

 

「え!?何々!」

「本当だ!海にギャラドスの色違いがいるぞ!」

「どいて!私が捕まえるんだから!」

「いや俺だ!」

「こんなところにいたら捕まえられない!早くいかないと!!」

 

急にドタドタと忙しい音を振り乱しながら走り去っていく観戦者のトレーナー達を見て呆気に取られる。周りを見ても色違いのギャラドスは見つからない。でも誰の仕業かはすぐに分かった。だから、バトルに集中できるはずだ。

 

「ありがとうヒビキ!」

『グォォッ』

「ふん、礼は言わないからな!」

『チコリッ!』

「いいからさっさとバトルしろよー?ゾロアークのイリュージョンが長く持つか分からないんだからな!」

『グァァァ』

 

「分かった…じゃあ、いくよ!」

「ああ!望むところだ!」

 

 

二人が睨み合う姿から、お互いが口を開き、指を指すことでバトルに変わっていく。

 

 

「リザードン、かえんほうしゃ!!」

『グォォォォッ!!』

 

「チコリータ!かわしてからはっぱカッター!」

『チィィッコォ!!』

 

 

「リザードンっ…リザードン?」

『グォォッ!』

「そっか、分かった」

 

 

炎を素早くかわしたチコリータが葉っぱを大量に出して、リザードンを切り裂こうと動く。でもリザードンはそれを避けようとはしない。あえて受け止めようとしていることに、私は気づいた。

 

 

「なっ!?…くそ、ダメージなしか!」

『チコリッ!チコチコ!!』

「…ああ、そうだな!悲嘆にくれている暇はない!全力でやってやる!チコリータ、つるのムチだ!」

『チィッコォ!!』

 

「…リザードン、かえんほうしゃ!」

『グォォォォッ!!』

 

つるのムチごと、リザードンの火炎がチコリータを焼ききる。そして爆風と炎が消えたあと、見えてくるのは倒れているチコリータと、まだまだ力を温存するリザードンの姿だ。

 

笑えないほどの力のごり押し。このままでいてはいけないバトルスタイル。でも、ここで全力を出すのなら…今の私にはそれが一番似合っていた。

 

「くそ、くそっ!」

『チコ…リ…』

「ああ、すまない…私のせいだな」

 

「あの…クリス?」

「…私はまだまだ力が足りない。ヒナとリザードンのような強固な絆も、バトルに勝つための戦略もまだ何も見つからない。これでは、シルバーにいつまで経っても勝つことはできない!」

 

 

 

そういってきたクリスの瞳には、強い後悔と希望があった。吐き出してくれた言葉を聞いて、私はあの時の事件でのクリスのことを思い出す。クリスは何もしていなかった。シルバーは犯罪者たちをいろんな意味で止めてしまい、私とヒビキは船の崩壊を微妙に止めた。クリスはただ見ているだけだった。見ていることしかできなかった。

彼女のポケモンであるチコリータとプリンはまだ育成途中でチルタリスより劣る部分があるから、だからまだ勝つことはできないのだと叫ぶ。

事件を見て思い知らされたのだと、そう語ってくれた。

 

 

 

―――でも

 

 

 

 

 

「んなわけねーんじゃねーの?」

 

 

悲鳴のような声で叫ぶクリスに向かって話しかけたのは先程までバトルを観戦していたヒビキだ。ヒビキが私とリザードン、そして抱きしめているナゾノクサに近づいて、ある種の境界線を主張する。

 

「お前はまだ弱いけど、それは俺も同じだった…弱すぎて、ヒナのリザードンに吹っ飛ばされたこともあった。でも、ヒナやリザードンも負けたことがあるんだ。誰もがみんな、強いってわけじゃないんだよ!」

『グァァァッ!』

 

「ヒビキ…」

『グォォ…』

 

思い出すのはマサラタウンでのあの喧嘩。イッシュ地方のあと、すぐにヒビキ達に苛められつつジムバッチを求めにいったあの旅路だ。

 

そう、誰もが強い訳じゃない。お兄ちゃんはどうなのか知らないけれど…うん、兄は例外としても、それでもみんな最初は弱かった。弱かったんだ。

 

ヒビキはそれを知っていた。あの喧嘩を、あのバトルを見て心に刻んでいた。強くなるために必死になって抗ったんだ。

 

「クリス…私たちは四年以上も前からポケモン達と関わっているんだ。だから、まだまだ始まったばかりのクリスとチコリータなら、すぐに強くなるはずだよ」

『グォォォッ!』

「そうだぜ!ヒナの言う通りだ!だから慌てて強くなろうとすんな!慌てたら意味なんてない。強さっていうのはポケモンと一緒に築いていくもんだぜ!」

『グァァァ!』

 

私たちの言葉を聞いて、クリスはチコリータを見た。チコリータは力強い目で頷いていた。

 

「…そうだな。私たちはまだ始まったばかり……なら、やるべきことをしてみよう。まだ弱いのなら、強くなれば良い!限界を感じない今なら、もっともっと強くなれる!」

『チイッコォォ!!』

 

「おう!その粋だ!」

『ガァァ!』

 

『ナゾナゾ?』

「…ナゾノクサも、もっと強くなろうね」

『ナッゾォォ!』

『グォォォォォッ!』

 

夕日の中、私たちは微笑みあった。笑いながら、この先の未来を夢見た。――マチスさんとの戦いで絶対に負けたくない。リーグ戦で絶対に負けたくない。

 

そう闘志を燃やすのは心のうち。

他の二人は何も知らず、ヒビキはゾロアークに笑いかけながら。クリスは私たちに微笑みながら口を開いた。

 

 

 

「…ヒナ、ヒビキ…ありがとう」

『チコチコ!』

 

 

夕日のせいか、クリスの頬が赤く染まっていたのだった。

 

 

 

 






「ははは!やっぱりアタリやわ!」
『……』
「なぁ、そう思わへん?」
『…ブイブイ』






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