私はただのマサラ人です!   作:若葉ノ茶

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足りないのはどちらの力か。






第十五話~Bブロック決勝戦~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、クリスさん」

「クリスでいい。それに敬語はやめろ」

「あ、うん。クリス…あの、それ止めない?」

「拒否する」

「そ、そう……」

 

 

ギリギリギリギリとポケモンバトル大会の参加賞であるピッピにんぎょうという名のぬいぐるみを小さな塊にしてやる勢いで握りしめるクリスにヒナは一歩だけ引きながら言う。クリスは嫌そうな表情でシルバーを睨み続け、苛立ちと八つ当たり気味にピッピにんぎょうを壊す勢いでぎゅっと握っていた。

もはや別ポケレベルにまで達している顔面崩壊のぬいぐるみにヒナは苦笑しつつ、観戦席からBブロックの戦いを見続けていた。

 

 

 

【勝者ァァシルバー選手ゥゥウ!!!】

 

 

 

「フン。この程度か」

『チルゥ』

 

 

 

「チッ、腹立つなあの顔は。だが実力があるのが現実…チッ!」

「アハハ…」

 

 

盛大に舌打ちするクリスはシルバーがチルタリスで勝利したバトルを見てついにピッピにんぎょうの中身の綿を飛びださせるほどの勢いで引きちぎってしまった。

それを見た周りの人やポケモンたちが悲鳴を上げてクリスから離れていく。Bブロックでシルバーが勝ちに行くごとに舌打ちや憤怒のオーラをにじませるので少々居心地が悪い。でもシルバーがこの試合で勝利したことで次がBブロックの決勝となるためちょっとだけ楽しみだ。

 

 

 

 

 

「ヒナ!応援するぞ!!ヒビキには是非とも勝ってもらわないとな!」

「そのボンボンどっから出したの?!!」

 

 

 

 

 

クリスがいつの間にか取り出した黄色のボンボンと鉢巻を私に渡してくる。クリス自身もボンボンと鉢巻を装着して応援する気満々だった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

【さあさあ始まりましたBブロック決勝戦ンンンッッ!!】

 

 

 

 

司会進行役の男性が喋るとともに、観客たちから歓声が聞こえてくる。もちろん勝ち進んでいくごとに試合を応援してくれたクリスやヒナがこちらを見ている。何故かボンボンや鉢巻を身につけていて全力で応援していくためにまず形から入ったのかは知らないが。

 

それらを一身に受けたヒビキはボールを手に持ち対戦相手であるシルバーを見た。

 

 

 

「フン。俺が勝つ」

「何言ってんだ!俺が勝つ!!」

 

 

 

【Bブロックもなかなか熱い試合になりそうだねェ!さぁさ!両者一斉にポケモンを出してバトル開始と行くよ!】

 

 

「優勝するぞアリゲイツ」

『アリゲェェイツ!』

 

 

「よし勝とうぜヒノアラシ!!」

『ヒ、ヒノ』

 

 

 

ボールから出されたシルバーのアリゲイツは気合十分で歯をがちがちと鳴らして小さく威嚇していた。威嚇されたヒビキのヒノアラシは身体を震えさせて怯えている。でもヒビキのために頑張ろうと試合放棄しようとはしない。頑張って勝つためにバトルフィールドで身体を震えさせながらも覚悟を決めていた。

両者が立って司会進行役の合図を待つ。一瞬の緊張感の後、それは放たれた。

 

 

【それではぁぁアリゲイツ対ヒノアラシの対戦を始めさせていただくぅぅうう!!!!】

 

 

 

「アリゲイツ、みずでっぽう」

『アリゲェェイ!!』

 

「ヒノアラシ避けろ!えんまくだ!!」

『ヒ、ヒノォォオ!!』

 

 

アリゲイツがみずでっぽうを放ったのと同時に、えんまくがヒノアラシの周辺に盛大に撒かれる。黒煙がヒノアラシの身体を隠し、周りがちゃんと見えなくなる。アリゲイツは周りが煙だらけになっても慌てずシルバーの指示を待つ。シルバーは何も言わず、ただ黒煙で見えなくなった場所をじっと見つめていた。

ヒビキが笑って口を開く。

 

 

 

「今だ!かえんぐるま!!」

『ヒノォォ!!』

 

 

 

誰かが息をのむ。熱いせいで観客席から一歩後ろに下がる。そんな観戦者たちがいた。

ヒノアラシのかえんぐるまは周りにも炎を放ち、バトルフィールドを火の海にしてしまうような勢いでアリゲイツに向かって直進している。怯えなんて見せず、凄まじい速度でアリゲイツの腹めがけて炎の塊としてぶつかろうとする。

それを見たシルバーがアリゲイツに指示を出す。

 

「止めろ」

『アァリゲェェイ!!』

 

『ヒノッ?!』

「なっ!!?」

 

 

ヒノアラシが炎の塊になろうともアリゲイツは何の問題もないと言うかのようにその身体を掴み、腹で受け止めた。

ズゥゥゥンという衝撃音がバトルフィールドに響き渡っても、アリゲイツが少しだけ後ろへ退くぐらいの威力があったとしても、アリゲイツは涼しげな顔だ。

それを見たヒノアラシは怯え、掴まれたアリゲイツから逃げようと身体を捩りもがき始める。

 

 

「逃げろヒノアラシ!!」

『ヒ…ヒノっ」

 

 

「無駄だ、みずでっぽう」

『アァリゲェェエィ!!!』

 

 

 

「ヒノアラシ!!」

『ヒノォォォオオ?!!!』

 

 

 

アリゲイツから近距離でみずでっぽうを食らわされ、ヒノアラシはヒビキの近くまで吹っ飛ばされ地面に横たわる。審判が倒れたかと判断しようと思った瞬間に、ヒノアラシはフラフラな身体を気丈にも立たせようとしていた。

それをみたヒビキが拳を握りしめて必死にヒノアラシに向かって叫ぶ。

 

 

 

「大丈夫だおまえならやれる!俺を信じろ!!」

『ヒノっ…ヒノォォオオオオ!!!』

 

 

 

「ほう。面白いな」

『アァリゲェェイ』

 

 

 

―――――ヒノアラシの身体が光り始める。

進化が始まったのだと分かった観客たちは一気に大きな声を出し、歓声が沸く。シルバーはアリゲイツを下げ大人しくその進化を見守った。

光りの中で見える影にいるヒノアラシは…身体が大きくなり、炎が広がり、そしてマグマラシへと進化を遂げていた。

大きなくりくりとした目がヒビキの方へ向けられる。にっこりと笑って背中の炎を燃やした。

 

 

「…マグ…マラシ」

『マァグ!』

「っよし!行くぞマグマラシ!!大きくひのこを放て!!」

『マァグゥゥ!!』

 

 

「進化したことに対しての賞賛はしよう。だがバトルは別だ!アリゲイツ、マグマラシに向かってみずでっぽう!!」

『アァリゲェェイツ!!!』

 

 

 

マグマラシが広範囲で炎を放つのに比べ、アリゲイツは一点集中でマグマラシに向かって水を放射した。

炎と水はぶつかり合い、水蒸気を生む。だが、先程こうかはいまひとつなかえんぐるまを腹に受けたアリゲイツとは違い、マグマラシは近距離でみずでっぽうを受けた。その衝撃はダメージとして残り、元気いっぱいなアリゲイツの攻撃と比べ、進化したがフラフラなマグマラシの攻撃はやがて水に圧されアリゲイツの攻撃にぶつかり地面へと転がってしまう。

 

 

「マグマラシ!!」

『マ…マァグゥゥ』

 

 

こうかはばつぐんなみずでっぽうによって、マグマラシは目を回し、倒れてしまった。

アリゲイツは一度だけガチンッと歯を鳴らし、勝利は決したとシルバーが審判を見た。審判はすぐ手を上げて大きな声で試合終了の合図を司会進行役に向けて行う。司会進行役の男は頷き、マイクに向かって声を出して言った。

 

 

 

 

【勝者はぁぁあシルバー選手だぁぁ!!!】

 

 

 

 

「よくやったなアリゲイツ」

『アァリゲェェイツ!』

 

 

 

 

「俺の力は……まだ足りねぇのか…」

『マァグ…』

「マグマラシのせいじゃねえよ。進化してまで頑張ってくれたんだ。俺の力がないせいでお前を負けさせちまった…ごめんな」

『マグッ!マァグ!!』

「ああ、今度は負けねえ!」

 

 

 

両者とも、ポケモンを労り合う。そしてヒビキとシルバーはお互い握手をして、Bブロックの決勝を終わらせたのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

ここは地下通路の端っこに位置する場所。ポケモンバトル大会が開かれている場所より少しだけ離れている。

そこで響き渡ったのは少女の怒声。

 

 

 

「きぃぃぃさまぁ!!!何故シルバーに負けたぁぁああ!!!!!!」

「うぉッ?!いやいや俺もマグマラシも頑張ったから!!!お前だってヒナに負けてるくせに文句言うなよ!!」

「くそ正論だが腹立つ!!チコリータ!!」

『チッコ!』

 

「痛っ!おいやめろ葉っぱで攻撃すんな!というかシルバーもクリスも似た者同士かよ?!」

「「どこがっ!?」」

 

 

 

仲良く声をそろえた事に対し、シルバーは少々面倒そうな顔でクリスを見て、クリスは苛立ったような顔でシルバーを見た。ヒナが慌てたように両者の間に立って喧嘩しないように忠告するが、シルバーが舌打ちをしたことでクリスがチコリータを突撃させた。だがシルバーがヒビキを壁として後ろに下がったことでチコリータの攻撃をまた受けてしまう。

 

 

「ぐふぁっ!お前等いい加減にしろ!!!」

「そうだよ!喧嘩はしないの!!」

 

「ヒナ、こいつを完膚なきまでに叩きのめせ!バトルで良いからプライドを折れ!」

「フン!望むところだ」

 

「あーあーもう!」

 

 

 

―――――――わぁぁああああっ!

 

 

 

 

「……何だ?」

 

 

ポケモンバトル大会の観客席から大きな歓声が湧き立つ。今まで以上の興奮した声が聞こえてくる。ここからだと観客たちが邪魔でバトルフィールドは見えないため、何が起きているのかは分からない。

だが声だけは聞こえてきた。

 

 

 

「なあ聞いたか?!ポケモンバトル大会の決勝戦!バトルする順番を変えるらしいぜ?!」

「ああ聞いたよ。確か最初にAブロックの優勝者とBブロックの優勝者が戦うんだろ?」

「ああ!その後にCブロックとの戦い!!Cブロックのトレーナーの中にすげえのがいるんだって!!!」

「すげえのってだれが?」

「Cブロックの優勝候補者!」

 

 

 

 

「…ほう、なら俺とヒナのバトルはすぐに始まるということになるな」

「なんか先行きがすっごく不安なんだけど……」

「よしヒナ!その不安を全部シルバーに向かってやれ!シルバーなんて目じゃないぞ!!」

「いちいちヒナをけしかけんなよ!」

「煩いぞ敗者」

「喧しい!敗者め!」

「うるせぇぇ!!誰が敗者だこの野郎!!!それにクリスお前も敗者だろうが!!!というか仲良いな?!」

「「誰がだ!!」」

 

 

「アハハ…はぁ」

 

 

 

ヒナはため息をついてCブロックの優勝者が出るまでクリスたちの喧嘩を止めることに専念し、これからのバトルに不安を感じているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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