私はただのマサラ人です!   作:若葉ノ茶

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やっぱりおかしい。






第十一話~少女はただ驚愕する~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポケモンセンターにて人が来なさそうなバトルフィールドを借り、懐にあるボールから3体の元気いっぱいなポケモンを出した。もちろんそれは、誰か相手のトレーナーがいてバトルをするというためではない。

 

 

「ナゾノクサができる技と弱点について知っておかないとね…」

 

 

ここはポケモンセンターだから多少の無茶は大丈夫だし、何かあればすぐに中止することもできる。

とりあえずやるべきことは、ナゾノクサの弱点について知ることと、どのような技を使うのかについてトレーナーである私が理解しなければいけないということだ。

ポケモン図鑑に表記されていた技は【すいとる】と【じたばた】と【くすぐる】という一般的なもの。でもジム戦ではすいとるが何故か【きゅうけつ】のような行動にでたため、動揺してしまった。だからこそ、ナゾノクサを傷つけないためにも知らなければならないと思ったのだ。

 

 

リザードンにはナゾノクサの相手をしてもらって。ピチューにはすぐ危険だと分かれば突入し、怪我を治せるようにと私の持ってるリュックごとありったけのきのみやきずぐすりを渡しておいた。必要になったらすぐにバトルフィールドに飛び出してもらって治療するためだ。

 

 

 

 

「よしやるよナゾノクサ!」

『ナッゾォ!』

 

 

 

ナゾノクサは笑って気合十分にジャンプしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

まずは炎が大好きだというナゾノクサに、本当に身体にも影響はないのか確かめてみる。水についても、今はできないが克服できるのかについて挑戦しなければならないだろう。カスミさんとのジム戦はナゾノクサがやりたいと言っていたからやったが、あの時は本当に怖かった。水嫌いなのにプールの足場に飛び込んだ度胸は凄いと感心したけれど。でも度胸だけで勝つことはできない。

 

 

ナゾノクサは何が楽しいのか、時々ジャンプをしたりリザードンの周りをうろちょろしたりして遊んでいる。リザードンは炎の尻尾がナゾノクサに当たらないよう注意しているが、怒ったりはしない。むしろ慈愛に満ちた表情でナゾノクサを見ていた。

このまま眺めていたい気持ちにはなるけれど、早く終わらせてハナダシティから出発しなければいけない。

 

 

 

「リザードン、ナゾノクサに向かって小さく炎を吐いて」

『グォォ!?』

「大丈夫よ!危険だと分かったらすぐに止めていいから」

『……グォオ』

 

『ナッゾナッゾ!』

 

 

リザードンは私の言葉を聞いてナゾノクサに向かってひのこよりも威力が弱そうな炎を吐いた。おそらくひのこや尻尾の炎と比べれば物凄く小さな火だとは思うのだけれど、それでもナゾノクサが炎に耐えられるか見るためには充分の出来。

リザードンはナゾノクサが傷つくのを恐れているみたいだけれど、本当に弱点が水なのか試さないとこの先のバトルが不安になるから仕方ないこと。私だってナゾノクサを傷つけるのは嫌だけれど、トレーナーとして水と炎の弱点が逆なのかどうか試さないといけないのだから。

そしてナゾノクサはそんな私たちの思いは知らずに、放たれた炎に自ら飛び込んでいった。

 

 

「無傷なだけじゃなくご機嫌?」

『ピッチュ?』

『グォォ…』

 

 

『ナッゾォ!!』

 

 

ナゾノクサは炎の周りでヒャッハーしているように見えるぐらいご機嫌だ。しかも火傷を負わず炎のダメージを負わず、むしろ絶好調といっていいかもしれない。リザードンは複雑な表情を浮かべていて、ピチューは怪我がないことに首を傾けている。

やっぱりちょっとおかしいけど、バトルの時には有利に働きそうだと思えた。この調子だとやっぱりナゾノクサは水が弱点になるのだろう。でもバトルする際相手のトレーナーは皆ナゾノクサの弱点が炎だと認識するだろうから弱点なしに見させることができるかもしれない。

まあバトルについては今後の課題として考えていこうかな。

 

 

 

「よしありがとうリザードン!次はナゾノクサの技について見ていかないとね」

『グォォ』

『ピッチュ』

『ナゾォ?』

 

 

ナゾノクサは放たれなくなった炎に、もうやめちゃうの?というようなつぶらな瞳でこちらを見たがすぐにリザードンの尻尾の炎に突撃して行ったため問題ないと思いたい。リザードンは嫌そうな顔もせずナゾノクサの好きにさせてるし――――うん大丈夫。

 

 

 

 

「まだ最初だからリザードンは技の回避。ナゾノクサ、リザードンに向かってすいとる」

『グォォォ』

『ナッゾォ!』

 

 

リザードンは翼を広げて飛び、尻尾の炎を浴びるナゾノクサから離れた。ナゾノクサは私の指示を聞いて、小さな口を大きく開けてリザードンに向かって走って行く。その様子はやっぱりジム戦で見た時と同じような【きゅうけつ】に似た行動。もういいよというまでナゾノクサは飛んでいるリザードンにジャンプして噛みつこうとしていた。

つまり、ナゾノクサのすいとるは噛みつかなければできない行動だと知ることができた。

 

 

「よし!じゃあ次はリザードンは避けちゃ駄目だよ。ナゾノクサ、くすぐる」

『ナゾ!』

『グォォオ…!』

 

 

リザードンが地面に降り立ったのを見てナゾノクサは意気揚々とくすぐりに向かった。くすぐるは相手の攻撃や防御を一段階下げるというもの。攻撃技ではないからリザードンも傷つかないため、わざと当たってもらったのだ。そしてナゾノクサがやったのは、頭の草を使ってリザードンをくすぐらせるやり方。これはくすぐると同じような感じがするから大丈夫かな。リザードンも笑いそうになってるし。

 

 

 

「よしオッケー!じゃあ次は―――――」

 

 

 

 

 

「―――――おい見ろ!リザードンがいるぞ!!」

「うわすっげぇ!!」

「始めて見た!!色違いのリザードン!!!」

「トレーナーってあんたか?!」

 

 

ポケモンセンターから走ってくる声が聞こえる。トレーナーが遠慮なくバトルフィールドに入るのが見える。

マサラタウンでたまに見かける光景が広がったことに、私とリザードンとピチューはため息をついた。ナゾノクサは何が起きたのか分からず身体を傾けていたけれど。

 

 

「来ちゃったかぁぁ」

『グォォォ…』

『ピチュゥ…』

『ナゾ?』

 

 

 

こんな状況になるかもしれないと思って、ポケモンセンターで人が来なさそうなバトルフィールドをわざわざ借りたと言うのに、面倒なことになった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

―――――色違いのポケモンとは、その名の通り通常のポケモンよりも色が違うのが特徴。あるトレーナーはそんなの気にすることはないと言い、ある人間は一種の個性だねと笑い、そしてある悪党どもにとっては金儲けとして利用されてしまうポケモン。

金儲けとして考えたりするだけでなく、大抵のトレーナーは色違いを見ればそれを欲してしまうのが特徴。ポケモン自身が弱いだの強いだのは関係なく、まず色の違う見た目が素晴らしいと叫ぶトレーナー達が多いのだ。

もちろんマサラタウンにいた時、誰かに守ってもらった時もそうだった。色違いだからという理由で狙う連中が多くいることに私たちは知っていたし、そんな奴等根絶やしにしてやろうかと思えるぐらい苛立っているのも現状。

 

 

 

「なあ俺のポケモンと交換してくれよ!」

「何ってんのよ!ほら私のニョロトノと交換して!」

「狡いよ君たちっ!!僕が先だったんだからね!!!」

「それよりもこっちだろ!」

「リザードンの色が黒いだなんて始めて見た!しゃ、写真撮らないと!!」

「触り心地はリザードンと変わらないのね」

「黒いリザードンってとっても素敵!ねえ交換しましょう!!」

「待て待て待て!俺が先だって言ってるだろ!!」

「ほら交換!ちょっと聞いてるの!?」

 

 

 

 

 

「自分のポケモンを安易に交換に出すってやつらはまずシルバーのチルタリスのはかいこうせん受けろ」

『ピチュゥ』

『グォオ』

『……ナゾォ』

 

 

色違いのリザードンを見ただけで今まで仲間として育ててきたポケモンを交換に出す連中は許さないと思えるのはこういった連中がいるせいだ。

いや、交換に出すことを嫌っているわけじゃない。兄のブイゼルのようにポケモン自身がそうしたいと思えるのならば交換に出しても構わないし、その方がポケモン自身の幸せになるのならば是非ともやってほしいと思う。

 

でも今やっていることはただリザードンの身体の色が通常とは違って真っ黒だという理由でポケモンたちを交換しようとする連中がいること。たぶんヒビキやシルバーもこのトレーナー達の反応を見れば嫌そうな顔で見るんじゃないかな。最悪自ら殴りかかったりするかもしれない。そのぐらいのことを、トレーナー達はやっている。

リザードンはトレーナー達に遠慮なく触られていて不機嫌になっていた。炎を吐いて触るなと言いたいのだろうけど、自分のポケモンを色違いと交換したいというトレーナーたちなのだからたぶん怪我をさせたらいろいろと面倒なことになるということも分かっていた。だからピチューがリザードンの頭の上に乗っていて、落ち着いてと慰めている。

私の周りにも交換してくれというトレーナー達が集まっていて、このままじゃいけないと理解していた。

 

 

 

 

 

 

 

『ナゾ…ナッゾォ!!』

 

 

 

そんな時に聞こえてきたのは地響きとナゾノクサの怒ったような声。トレーナー達の悲鳴も聞こえてきて、まさかナゾノクサに危害を加えているのではと振り向いてみた。

見えてきたのは、ナゾノクサの足元が何か物凄い威力で割れたかのようにぐるりと円を描いてへこんでいる。そしてナゾノクサが足踏みをしているごとに円は深く、大きく広がっていった。まだ指示していなかった【じたばた】だと私は気づいてしまった。おそらくナゾノクサはトレーナー達が気に入らないのだろう。そして私たちに危害を加えそうになっているトレーナー達を見て、怒っているのだ。それが、地面の割れた現状に繋がった。

 

だから、思わず叫んだのは仕方ないこと。

 

 

 

 

「タケシさんとこのハピナスかッ!?」

 

 

 

タケシさんの手持ちであるハピナス。通称【怪力の申し子】

誰が名前つけたのか知らないけど、怪力に関しては納得できる。ピンプク時代からの怪力を自由に使い、ある時は一人では持ちきれない大木を軽々と抱え、ある時は自分よりも大きなポケモンを振り回して投げ飛ばし、またある時はカビゴンの背中が見たいと言うタケシさんの言葉を聞いて転がしたことのあるポケモン。ハッピーの時も凄かったけれど、ハピナスになったことで怪力はより力強くなったと聞いた。

え、もしかしてこのナゾノクサってそのハピナスに似たポケモン?怪力使えたりする?

 

 

 

「な、何だあのナゾノクサ!?」

「おいそこ行くな危ねえぞ!!!」

「くそ、ナゾノクサの近くにリザードンがいるから近づけねえ…!!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

そうだ。これはチャンスだ。今トレーナー達は皆ナゾノクサに集中している。だから私はピチューとリザードンに合図してすぐさま行動を開始した。ピチューはリュックを手に取り、リザードンはリュックを持ったピチューごと背中にのせる。そして私は不機嫌なナゾノクサを抱き上げてリザードンの背中に乗った。

誰がが待て!と叫ぶのが聞こえる。トレーナー達が手を伸ばすのが見える。でもそんなの構ってられない。

 

 

 

「飛んで!」

『グォォオ!!』

 

 

 

リザードンは翼を広げて空へ飛び立ってくれたおかげで、無事に脱出することができた。でもここで降りても意味がないような気がする。おそらく、色違いを交換してくれと叫んだトレーナー達が追ってくる可能性があるだろうからちょっと遠くまで行こうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 


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