私はただのマサラ人です!   作:若葉ノ茶

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第九話~水の少女~

 

 

 

「待ってたわよヒナちゃん!あの馬鹿どこ!?」

 

 

「えっと…お兄ちゃんならもう行っちゃいましたけど」

「畜生逃げやがったってことね!」

「逃げたって言えるのかな」

『ナゾ?』

 

 

 

 

ハナダシティに着いてポケモンセンターに向かおうと歩き出す私に向かって走ってきたハナダシティのジムリーダーことカスミさんが怒った表情で兄が何処かと叫ぶ。もちろんもう兄はいないのでカスミさんは物凄く激怒していた。たぶん悪党をジュンサーさんに捕まえてもらうという面倒な仕事を押し付けられたせいだろうと私は一歩カスミさんから離れた。

八つ当たりはしないと思うけれど、カスミさんが怒ると怖いのはタケシさんや兄を通じて分かっているからだ。

だから私は少しだけ苦笑しながらもカスミさんに質問してみた。

 

 

「あの悪党達は捕まりました?」

「ええ…ええ、そうね。捕まったわ。私があいつから意味不明の連絡をもらって直々にね!」

「ご、ごめんなさい」

「あら、ヒナちゃんは気にしなくていいのよ。ハナダの外れで見た空に上がる雷撃ってヒナちゃんのピチューのお陰でしょう?ありがとうね、すぐに見つけることができたわ」

「そう…ですか…」

 

 

カスミさんに怒られることはなかったけど、兄と同様に私もある意味悪党達を捕まえて縛りつけてから放置したままだったので微妙な心境だった。…ま、まあちゃんと捕まったのならいいかと気持ちを入れ替えた。

 

「あの、カスミさん」

「何、ヒナちゃん」

「バトル…してくれませんか?あの約束を果たすためにも」

「っ!…そっか、そういえばヒナちゃんはトレーナーになったのよね。分かったわ!受けて立つ!!」

「ありがとうございます!!」

『ナゾ!』

 

 

ナゾノクサは私たちが何故気合いを入れた顔で叫んだのか理解していないようで、ただ私を真似して鳴き声をあげていた。

懐のボールがゆらゆらと揺れるのを感じながら、私はカスミさんとハナダジムへ目指して歩いた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「あらぁヒナちゃんじゃない!久し振りねぇ!!」

「サクラ姉さん、審判お願い」

「ジム戦するの?もうそんなに時が過ぎてしまったのねぇ…」

 

「感慨深い顔してないで、審判してよ!」

「はいはい、カスミってばせっかちさんなんだから」

「そういうことじゃないでしょう!!」

 

「ハハハ…」

『ナッゾォ?』

 

 

サクラさんはとても綺麗な顔でそんなに時間が経つのが早いだなんてと独り言を言っていたが、カスミさんのお陰で審判をし始めてくれた。

サクラさんの声が、ジムにあるプールで響き渡る。

 

 

 

「それでは、ジムリーダーカスミと、挑戦者ヒナちゃんによるバトルを始めたいと思います!勝負は1対1―――」

「―――2対2よサクラ姉さん」

「あらあら…勝負は2対2で行います。挑戦者の使用ポケモンが戦闘不能になった時点で負け。それでは、ジムリーダーからポケモンを出してください」

 

「私はもう決めてるわ!いくのよマイステディ!!」

『シュワッッッ!!!』

 

「スターミーか…なら私は―――」

『――ナゾ!』

「え?」

『ナッゾォ!!』

 

 

プールでスターミーを見たナゾノクサが私の腕の中で激しく揺れ始め、降りたいといってきた。だから降ろしてあげたら、なんとプールの足場となる場所に飛び降りたのだ。

どういう心境の変化なんだろうと思った。ナゾノクサは水が苦手で、プールなんて絶対に飛び込みたいとは思わないはずなのに。

 

 

『ナゾナッゾ!』

「もしかして…リザードンやピチューのようにバトルしたいの?」

『ナゾ!』

「中は水だらけだよ?怖くないの?」

『ナッゾ!』

 

 

ナゾノクサがやる気充分で答えるから、この場はナゾノクサがやりたいようにやらせてみればいいかなと思った。

ポケモンがやりたいと叫ぶのならば、私は止められそうにないからだ。

サクラさん達もナゾノクサが出ると分かったらしい。審判としての手が上がる。

 

 

「えーそれでは、スターミー対ナゾノクサのバトルを始めたいと思います!試合開始!!」

 

 

「スターミー一気にいくわよ!ハイドロポンプ!!」

『ヘアッッッ!!!』

「ナゾノクサ、右の足場にジャンプ!」

『ナ、ナゾ!!』

 

ナゾノクサがスターミーによって大きく発射された水に慌てふためき、右の足場にジャンプしてなんとかかわすことに成功した。

それでもやっぱりレベル差やバトル経験不足からくる動きの拙さは見て分かるレベルだ。私はなるべくナゾノクサが水を怖がらないように、そしてトレーナーとして出来ることをしようと拳を握った。

 

 

「ナゾノクサ、落ち着いて足場を見て移動して!スターミーに近づく!」

『ナゾ!』

 

「どうしたのヒナちゃん?私に勝つっていうのならそんなのんびりしていいのかしら?スターミー、なみのりよ!!」

『ヘアッッッ!!!』

 

『ナァ…ナゾォ!!?』

「大丈夫よ落ち着いて!ナゾノクサ、そのまま足場で上に向かって大きく飛んで!!」

『ナッッゾオ!!』

 

 

ナゾノクサが足場から大きくジャンプしたことによって、すさまじい勢いでやってきた波に巻き込まれずにすんだ。でも空中にいるのは変わらないため、私は慌てずにカスミさんとスターミーを見る。

 

 

「空中なら隙だらけよ!スターミー、れいとうビーム!!」

『ヘアッッッ!!!』

 

「ナゾノクサ、身体を左側に捻って回転!」

『ナッゾォ!!』

 

「なっ!?」

『ヘアッッッ!?』

 

 

空中で慌てずに私の声を聞いたナゾノクサは、れいとうビームを避けることができた。しかもれいとうビームをかわしたことでできた冷たく凍っていく空への道を恐れずにナゾノクサはそれを足場にしてしまう。

あれ、ナゾノクサって何タイプだったっけ?

 

 

「悩むのはあとよねっ!ナゾノクサ、そのまま走ってスターミーにすいとる!!」

『ナゾ!』

 

 

ナゾノクサが勢いよく氷でできた道を走ってスターミーに【噛みついた】…あれ、すいとるって噛みつく技だったっけ?

 

カスミさんは微妙そうな顔でそれを見たようで、苦しんでいるスターミーといまだに噛みついているナゾノクサに舌打ちをした。

 

 

 

『ヘァァアッッッ!!?』

 

 

 

「…すいとるというより、まるで【きゅうけつ】ね。スターミーそのまま放電しちゃいなさい!10まんボルト!!」

『ヘァッッッ!!!』

 

 

 

『ナッッゾオ!?』

「ナゾノクサ!!!」

 

 

すいとるでなんで噛みつくのかとか疑問に思わない方がよかった。ジム戦なのだからしっかりとナゾノクサに指示をしなければならなかった。

10まんボルトを直に浴びたナゾノクサは耐えれるわけもなく、足場でふらついてそのまま倒れたのだった。

サクラさんの声が、プールで響く。

 

 

「ナゾノクサ戦闘不能!スターミーの勝ち!」

 

 

 

「ごめんねナゾノクサ…私のせいで痛い思いしちゃったね」

『ナゾ…ナゾォ』

「…ありがとう」

 

 

 

スターミーによって私のもとへ運ばれたナゾノクサにすぐ近寄り抱き上げる。ナゾノクサは文句を言わず、私の言った言葉を聞いて笑っていた。泣かずに笑っていたのだ。大丈夫だといっているようにも感じて、私もちょっとだけ笑ってオレンのみをナゾノクサに食べさせてからボールの中へ入れる。

もう一度だけ、ありがとうとお疲れさまを言ってから、プールを見た。

 

私は懐からボールを出す。

 

 

 

「やっぱりここは…ピチュー、お願い!」

『ピィッチュウ!!』

「来たわね、ピチュー」

『ヘアッッッ!!』

 

 

「それでは、スターミー対ピチューのバトルを始めたいと思います!試合開始!!」

 

 

試合開始の合図と共に、雷撃がプール内を駆け巡る。私のピチューの10まんボルトと、スターミーの10まんボルトが放ち合いになったからだ。

10まんボルトはそのまま爆発して、黒煙をプールに撒き散らす。

 

 

「ピチュー、ボルテッカー!」

『ピィッチュウ!!』

 

「スターミー、れいとうビーム!!」

『ヘアッッッ!!』

 

「かわしてからもう一度10まんボルト!」

『ピィチュ!』

 

 

 

ボルテッカーで近づくピチューに向かってれいとうビームが放たれることなくすぐさまかわされる。そして10まんボルトを放ったピチューに、スターミーもお返しと10まんボルトを放った。このままだと長期戦になると感じた私は、黒煙があがるのを見てこっそりとピチューに向かって指示をした。

 

 

「スターミー、ハイドロ――っな?いつの間に!?」

『ヘアッッッ?!』

 

 

ピチューが黒煙から飛び出して近づいたことに気づかなかったカスミさんとスターミーが驚きの声をあげる。

その隙を狙って、私は叫んだ。

 

 

「ピチュー、10まんボルト!」

『ピィッチュウ!!』

 

『ヘァァアッッッ!?』

「スターミー!!」

 

 

スターミーはピチューの10まんボルトを浴びてそのままプールに落ちていく。プールが雷撃によって黄色く光った後、浮かんできたのは己の中心を点滅させたスターミーの姿。

サクラさんの声がプールで響いた。

 

 

 

「スターミー戦闘不能!」

 

「ありがとうスターミー…ゆっくり休んで」

『ヘアッッッ』

 

「よしピチューありがとう!」

『ピィッチュ!!』

「ふふっ!なんだか四年前に戻ったみたいね…でもあの時のように負けるつもりはないわ!いくわよマイステディ!!」

 

カスミさんが出したボールからでできた相手に、私とピチューは冷や汗をかいた。

 

 

 

 

『コッパァ?』

 

 

なにもわからないですというようにとぼけた顔。ピチューと似た黄色いボディ。

その恐ろしさを、私とピチューはちゃんと理解していた。

 

 

 

「手強いのきちゃった…」

『ピチュ…』

 

このあとのバトルが苦戦するのは嫌にも分かるため、私は気合いを入れるために帽子を深くかぶり直した。

 

 

 

 

 

 

 

 


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