「もしも…」
『ちょっとせんぱい!なんですぐ出てくれないんですか!』
一色からかかってきた電話に嫌々出るとあざとさMAXのいつもの声で俺の声を遮ってくる。
「食い気味にくんな。気が付かなかったんだよ。ホントだよ?」
『……ホントだよ?とかなんですかそれキモいです。』
「……」
ピッ
ふん。切ってやった。
なんで俺は急にかかってきた後輩からの電話でのっけからキモがられなくちゃなんねぇんだよ。
自分でもキモかったけどね。キモいんかい。
♪〜〜。
画面には☆いろは☆の文字。
まぁすぐかかってくるよね。
俺はベットから体を起こし胡座で再び電話に出た。
『なんで切っちゃうんですか!』
「だっていきなり罵倒されたら誰だって切るだろ」
『せんぱいが悪いんです、急に変な声でホントだよ?とか言うから。』
変な声だと?やめろよそういうの。
リアルなトーンで言うとか傷つくじゃねぇか。
「あーはいはい、悪うございました。で、何の用だよ。こんな時間に。」
『まぁ、いいです。許してあげます。』
一色の言葉に軽く密かに傷ついた俺がさっさと本題に入れや感を全開にして言うと一色は渋々許してくれた。
俺は早く続きを読みたいんだ。
『ですねせんぱい。今時間大丈夫ですか?』
「……そういうのはかける前にメールとかで聞くものじゃないですかね一色さん。」
『だってメール送ってもせんぱい無視するでしょ?』
「……そんなことスルワケナイダロ。」
ごめん、無視する自信しかない。
くそ、最近の俺の周りはなんなんだ。
俺のこと詳しすぎだろ。小町に至っては俺よりも俺に詳しいまである。
『で、大丈夫ですか?』
「……あー、今ちょっと忙し
『で、大丈夫ですか?』
「だからいそ
『大丈夫ですか?』
「はい。大丈夫です。」
ダメだこいつ。何言っても無駄じゃねぇか。選択肢ハイ。かYes。しかねぇじゃん。
無理ゲー。
『本当ですかー!ありがとうございますぅー!……まぁせんぱいが暇なのは最初に少し黙ってから……あー、って言った時点でわかりましたしね。』
「なんだよそれ。俺のこと詳しすぎだろ。」
マジでちょっと恐怖を覚えるレベル。
『っ!なっなななんですかそれ口説いてるんですか!お前はもう俺のことなんでも知ってるもんな俺もお前のことなんでも知ってるぜ?的な感じですか!ちょっとやばいですけどまだちょっと早いっていうかもうちょいっていうかとりあえずごめんなさい!』
「いや、どう聞いても口説いてないだろ………。」
だからなんで告ってもないのに毎回振られんだよ。今日に関して言えば朝と今ので二回振られてるし。しかも今回も後半早口すぎてよくわかんなかったし。
「で、早く要件言えよ。」
まだなんかブツブツ言ってるが気にせずに言う。
マジで何の用だよ。買い出しか?
『あ、はい、すいません。でですねせんぱい!やばいんですよ!』
「なにが?」
『イベント関係のメールが来たんです海浜の先輩から!』
ピッ
おっと悪寒がしてつい切ってしまった。
んー、今あいつ誰からって言った?
何浜からって言ったっけ。
よくキコエナカッタナ。
またかかってきたので電話に出る。
『もうほんと何なんですか。』
「いやすまんすまん。悪寒がしてつい切っちまったんだ。」
一色に海浜から連絡が来る。それすなわち生徒会関係。要するに奴と関係するということだ。
『せんぱいよりわたしの方が寒気しましたよ!』
「だよな、すまん。…で、なんて来たんだ。」
『なんかゴールデンウィークを使ってまた何かしないかって玉縄会長が言ってるって。全体の会議は入学式の準備が落ち着いたらでいいから春休みに何人かで集まって話し合おうって言ってる。とも書いてありました。』
やはり玉縄か……。
ていうか
「ゴールデンウィークって5月じゃねぇか。早すぎだろ。まだ3月にもなってねぇぞ。」
『なんかこのあいだのクリスマスイベントの時にせんぱいと雪ノ下先輩にボコボコにされたので今回は時間を十分に取ってリベンジしたいっぽいです。』
んだよそれ、もうほんと意識高い系って嫌になる。リベンジとかやめて!俺はともかく雪ノ下には多分またボコボコにされるぞ。クリスマスから時間そんなに空いてないからそんなに変わってないだろうし。
ていうか確か今日折本が玉縄がなんかまた企画してしつこく誘われてるとか言ってたな。
で俺、一色今度こそキレんじゃねぇか。とか思ったよな。
……フラグだったかぁーー。
ここは断らせよう。
「いいか一色。」
『はい?』
「今すぐ断れ。いいな、今すぐだ。」
『そりゃあ断りますよ!でも平塚先生に話いってるみたいなんで先生がなんて言うか……』
「あの人なら今回は大丈夫だと思うぞ。」
『ふぇ?なんでですか?』
ふぇ?とかいちいち言うなよあざといな。
え?でいいだろえ?で。
でも電話だとあざとさ半減だな。うん。
なぜかはわからんが。
「平塚先生だってクリスマスのことは知ってるだろうし流石に強制はさせないはずだ。クリスマスはあの仏の由比ヶ浜でさえ頭痛そうにしてたからな。」
『なるほど。納得です。では明日先生にも断りましたって言っておきます。』
「おし、この件は解決だな。もう終わりだな、切るぞ。」
『あ!ちょちょ!ちょっと待って下さい!』
「なんだよまだあんのか。」
『まだというかこっちが本題なんですけど……。』
なん……だと…。
今から本題だと!?
くそ、早く続き読みたいのに。
「…わかったから早くしろ。」
『はい…あ、あのですねせんぱい、今週の日曜空いてますか?空いてますよね?』
その比企谷八幡は日曜暇前提なんなの?
まぁ暇なんだけどさ、アニメ見たりラノベ読むだけだし。
「いや、その日は溜まってるアニメ見たりとか色々……」
『そういうの以外で予定ありませんよね!』
「……まぁ、それといって予定はないが。」
『本当ですか!やった!』
なにがやった!なんですかね。
そういうの勘違いしちゃうからやめてね。
ていうか、こいつ最近葉山のことどうしてんだよ。
『じゃあじゃあせんぱい!遊びに……備品の買い出し行きましょうよ!』
こいつ今遊びに行こうっていいかけたな。
……はぁーー、しゃーねぇ。ちょっと俺らしくないが。
「そんな建前いらねぇよ。買い出しはまだ早いし。遊びに行きたいんだろ?別に構わんぞ。」
『……えっ』
「なんだよ。」
『いや、ちょっと意外だったので……本当にいいんですか?』
「あぁ。どうせ雪ノ下達もいるんだろ?」
それなら俺に断る権利はない。そう、理由じゃなくて権利。ほんと、なんであいつらには俺の拒否権ないんでしょうかね。
『…………ハァーー、どうせそんなことだろうと思ってました。』
すると一色は急にテンションが下がったような声になった。
『ふ、二人でですよ二人で!私とせんぱいの二人で遊びに。』
すると今度は照れたような慌てたような声になった。忙しいやつだな。
ていうか………え?は?二人?
「……え?は?二人?」
思った言葉がそのまま出てしまった。
『はい。』
「いや。なんで?」
『……せんぱいと遊びいきたいなぁーって思ったからです。…ダメ…ですか?」
いやいや、そんな泣きそうな声で言われたら断りづらいじゃねぇか。
こいつは多分狙ってやってる。それはわかってる。でも断りづらい。だって俺も男だもの。
「いっいや、ダメとかではないが……お前そういうのは葉山にだな……」
そうこいつには葉山がいるはずなのだ。
いくら最近葉山の話をせず奉仕部の方へばかり顔を出していたとしてもそれだけは変わらない……はずだ。
『 …この際ですから言っておきます。葉山先輩はもう正直どうでもいいです。』
……は?え?嘘マジで?
「え、マジで?」
『はい、マジです。なんか最近は葉山先輩を見てるとイライラするというか…本音で話してくれてる気がしなくてですね。なーんか冷めちゃいました。』
なーんかって。
…まぁでもついに一色もわかってしまったか。
あいつの生き方は疲れるし、あんな仮面だらけの生活なんかわかる奴にはわかってしまう。
そしてわかってしまったらきっと二択に別れるだろう。一色のように冷めてしまったり嫌いになったりするか、それでもいいからこれまでの関係を続けていくかの二択。
まず気付くやつが少ないみたいだが。
これは葉山の生き方にとってはどうしても付いて回ってくるだろう。
俺と一色はそのうちの前者だったということだ。
『ですからせんぱい、もう葉山先輩はいいので気にしないで下さい。』
「……おう、わかった。」
いつになく真剣な声色。
俺にはわかる。こいつは本当に冷めてしまったのだろう。
葉山のことを話す一色の声からはいつものあざとさは消えていた。
だがそれとこれとは別なようで
『だからせんぱい!二人で遊びに行きましょう!』
すぐにあざとさは戻っていた。
「え、いやでも
『せんぱい構わんって言ったじゃないですか!」
「それはあいつらもいると思ったからでだな…」
『そんなのせんぱいが勝手に思ってただけじゃないですか。だからもう取り消せませーん!」
「いやおま
『異論反論抗議質問口ごたえ言い訳は一切聞きません!』
「…………はい、わかりました、もうそれでいいです。」
なんで俺年下に敬語なんだろ。
なんかよし!勝った!とか聞こえてるんですが。
いろはす聞こえてますよ。
『詳しくはまたメールしますね!ちゃんと見て返してくださいね!』
「わかったわかった。終わりか?終わりだな?てか終われ。」
『言われなくてもおわりですぅ。でわ!』
なんか敬礼してそうな「では!」だな。
流石。こんな小さなところまであざとい。
「おう、おやすみ。」
『はい、おやすみなさい。また明日ですせんぱい。』
一色が切るのを確認して俺もスマホを置く。
あー、長かった。誰かとこんなに長い間電話したのなんか初めてじゃないか?
さて、続きだ。
俺は少し伸びをしつつ胡座の態勢からうつ伏せになりラノベを開く。そして栞を挟んでいたページを開いた。
ラノベにキリのいいところで栞を挟み直し、時計を見るともう日付が変わってからしばらく経ったころだった。
もう寝よう、明日も学校だし。
ラノベを鞄にしまい電気を消す。
そのまま布団に入り目を瞑る。
俺の耳には置き時計の秒針の音だけが届いているはずなのに、あざとい後輩の声が残っているような気がした。
◆
「はぁーーー、言っちゃったなぁー」
わたしは今ベッドの上で枕をこれでもかと抱きしめている。
さっきまでずっと耳に当てていた自分のスマホを眺める。
わたしは言ってしまった。葉山先輩にもう興味がないこと。なんの建前もなくせんぱいと遊びたいという純粋な気持ちを。
奉仕部の二人には悪いけどちょっとだけ抜け駆け。だってあの二人全然動かないんだもん。
でもほんと、断られそうになった時は泣きそうになった。声震えてたし。
どうせせんぱいはわざととか思ってるんだろうけど。
あの時はせんぱいを言い負かすので必死で訳わかんなかったけど冷静になるとこれって……。
「あーーーー!ヤバいヤバいヤバい!恥ずかしいよぉ!!」
多分あたし今顔真っ赤だぁ…。
今までどんな男子相手にもこんなに恥ずかしくなったことはない。
電話だってかけるのに一時間くらい悩んじゃったし、お風呂でも最初どんなこと言おうとか考えてたのにせんぱい全然でてくれないんだもん。でも声聞いたらどうでもよくなった。
ほんとあたし、どうなっちゃったんだろ……。
こんなのせんぱいのせいだ。
責任取ってもらわないとね!
わたしはベッドでドタバタと悶えた。
結果お母さんに怒られました。
寝よう。
日曜楽しみすぎて眠れないとかないよね?
end
いかがだったでしょうか。
海浜とのイベント回も考えたんですが自分に玉縄の扱いは無理です。笑
今回いろはす視点加えるか悩みました。
別視点は初めてなので不安です。
読んでくださりありがとうございました。
なにかありましたら教えて下さい。
ではまた次回